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Quest26

「失礼します。パーティー【蒼の羽根】の方々と青銅級冒険者ヒメガミさんですね?リューク様より2階の第2会議室へ来てほしいとのことです」


ギルド内のソファで談笑していた澪夜達へ受付嬢がそう伝えた。


「リュークが?なんでまた」

「私共は詳しいことは何も聞いておりません」

「そうか。しかしレイヤもか?」

「はい」

「わかった。助かった、ありがとう」


訝しげにダンケが口を開く。

基本的にこのパーティーでは重要な話はリュークとミュウの2人が聞き取りその後にパーティー内で共有する。

しかし、その話の共有というのは今まで通りならどこかの酒場や食堂、それか宿の部屋で行っていた。それが突然ギルドの第2会議室に来いなんてなにかあったのだろうか、とダンケが思うのも無理は無いだろう。まして、新人育成を受け持っているレイヤも一緒になど。


ただ行かないことにはなにも始まらないのは事実だ。

ダンケは立ち上がり階段へと向かった。澪夜もそれに倣い、席を立った。









◇◆◇◆◇


「金級!?」


ダンケの叫び声が部屋に響いた。


「うるさい」

「す、すまん。にしても金級か……」


シリルに叱られたダンケは感慨深そうに金級、金級と呟いた。

金級というのは上級冒険者……一流と呼ばれる存在であり、冒険者の憧れだ。

冒険者というのは自分の命を担保にして金銭を得る職業だ。当然兵士や騎士といった国に雇われる正規兵ではないために、戦わずして大きな金銭を得ることはできない。

そんな冒険者達の中でも数パーセントしかいない上級冒険者というのは例え自分自身がなったわけではなくとも同じパーティーのメンバーがなるというのは嬉しいものなのだ。


「けど、私達はまだ銀よ、銀」

「まあ、そりゃしゃーねーだろ!俺達が怪我してる間も2人は依頼を熟してたわけだしな」


パーティーを組んでいてもまったく同じように等級が上がるかといえばそういうわけでもない。

ダンケが言ったように怪我などによる離脱も考えられるが、同じクエストを受けても同じようには上がらない。それは普段の態度なんかも関係するし、戦闘における貢献度や技量も関係する。

ギルドはランクアップに関することは秘匿しているが、それでもこのくらいは予想が付くことだ。

今回に関してはリュークとミュウだけだったが、近いうちにダンケ達もランクが上がるというのは容易に予想できるだろう。


「せっかくだし盛大に祝わないとな、リューク!……おい、どうした?」

「ダンケ、今はそれより先に聞いてほしいことがある」

「なんだ?」

「現在オークの動きが活発になっているらしい。ギルドの予想ではもしかしたらオークによる大規模侵攻があるかもしれないらしい。もし、そうなった場合、僕達はギルドから指揮権を託されることになるそうだ」


オークによる大規模な侵攻と聞いて、ダンケたちは息を飲んだ。

この国においてオークの大規模な侵攻というのは大変有名なものだ。かつて、今から凡そ200年程前クラウディス王国の南部でオークの大規模侵攻が発生した際、南部地域の一部は完全にオークの手に落ちた。それを奪還するのにおよそ3年という月日が掛かり、大量の兵を失うことになった。最終的には剣聖率いる白翼騎士団によって終結したが、南部地域の一部を占領されるという屈辱をクラウディス王国は味わった。

それ以降、オークの大規模侵攻についてはこの国の人間なら誰しもが親から子へと伝えられている。


「よって、今から僕達は王都内での待機を命じられている。だから各々必要なものを揃えておいてくれ」

「それはいいんだけど、リューク。私達が指揮パーティーになるってことはギルドからなにかしらあるわけよね?」

「もちろんです」


シリルの問いにはルーシアが返事をした。


「なにを頼む気なの?」

「一つは決まってるんだけど、後は皆と相談して決めようと思ってる」

「決まってる?なにを頼むつもり?」

「うん、それはね」


リュークは視線をシリルから部屋の隅に、正確には隅に居る澪夜に移した。


「……?」

「レイヤ君の新人育成の終了と赤銅級へのランクアップ。それと、ウチへの臨時加入の申し入れ」

「は?」

「一回やると言ったからには最後までやるのが筋だろ?けど、僕らは王都内で待機してなきゃならない。だったらいっそのこと金級の特権を使おうと思ってね」

「新人育成のメニューは最終日に何らかの依頼をこなすけど、それを夜の戦闘で終わらせたことにする」

「理屈はわかったけど、それって大丈夫なのか?」

「本来なら不可能です。しかし、ギルドマスターに確認し、特例で認めて頂きました」


ダンケの疑問にルーシアが答える。


「さて、というわけなんだけど、レイヤくん。期間は問わない。けど、今回の件が片付くまで、僕達と一緒にこないかい?」


リュークの提案に乗るか。澪夜は考える。

メリットとしてはすぐにランクが上がるというものだ。ランクというのは高ければ高いほどに社会的地位も上がるというのは察している。少なくとも一般的な……一人前とされる鉄級相当にはなっておきたいというのは澪夜のなかにある。

それを考えればリュークの提案に乗るというのは悪くない選択肢だ。

しかし、反対にデメリットを考えてみよう。

澪夜は簡単に言えばこの世界における異物だ。低いレベル──現在は違うが──で、高すぎるステータス。話から察したところによるとこの世界の人間は一つしかクラスを持たないにも関わらず、澪夜はいくつものクラスを持っている。

現在、澪夜は力を隠すということに関してはまったく考えていない。しかし、強大過ぎる力を持てば周囲から敵視されることがあるとも考えている。そう考えると、パーティーを組むというのは力を曝け出すため、自分をある種の危険に晒すことにも繋がるのではないか。


メリットは社会的地位を多少早く得られる。

デメリットは自分を危険に晒す可能性がある。


この他にもいくつか懸念はある。

彼らをどこまで信用していいのか。

澪夜は会って数日の人間をすぐに信用することなどできないと思っている。

リューク達がギルドからの信用が篤いというのは感じ取れてはいる。でなければ、新人の育成など任されないだろうし、指揮権を与られることもないだろう。

だが、この世界はゲームではなくリアルで死んだら終わり(不死の護石で生き返れるがそれは一度きりで襲われて殺されたら装備しなおす時間があるとは限らない)だ。

慎重になる必要がある。それが、戦闘中に背中を預けるのならなおのことだ。

最低でも本当の(・・・)クラスくらいは知っておく必要がある。


そう考えた澪夜は、条件としてそのことを伝えた。


「それならアンタも私達にそうするべきなんじゃないの?」


それに対してこんな答えを返してきたのはシリルだ。


「あの戦闘で有耶無耶になったけど、サムライの他にクラスを持ってるか、それか何か特殊なクラス持ちなのは確定よね?少なくとも前者なら【サムライ】の他に一つ、ううん、あのルーン?ってやつが刻印魔術なんだったらさらに一つ。最低でも3つのクラス持ちのはずよ」


シリルは一応問い掛けるような口調だが、その心中では澪夜が複数のクラス持ちというのは確定しているのだろう。いくつかは分かっていないが少なくともダブルなのは確定だと。


実際、シリルの予想は殆どが当たっている。

澪夜の使った【ルーン魔術】は、【魔術師系統】クラスの【刻印術師】が獲得できるスキルだ。これは他の魔術師系統クラスでは使えない(といっても魔術師系統最上位クラスである【大賢者】なら使える場合もある)。

そして、《灯火》の魔法。これは火属性魔法に分類されるもので、一般的な【魔術師】または火属性に特化した【火術師】と呼ばれる者達しか使えない。さらに、《雷槍》これに関しても火か雷かの違いなだけだ。

つまり、昨夜の戦闘で澪夜が見せた一連の動きはシリルの予想を裏付けるには十分なものだったのだ。


「……わかりました。確かにシリルさんの言う通り、俺は複数のクラスについています」


少し迷った末に澪夜は口を開いた。


「俺が就いているのは【剣豪】【魔導師】【印術師】といったクラスです」


剣豪、魔導師、印術師。

どれもエリュシオン・オンライン時代であれば三次職くらいで、クラスランク3といったところのものだ。といっても、どれも取得難易度は高い方なので、普通の三次職に比べれば強力だ。

そして、澪夜がかつて就いていたクラスでもある。

一応、嘘ではない答えだ。ただ、本当でもないが。

教えても問題のないクラス。奥の手とはなり得ないクラスを澪夜は教える。

エリュシオン・オンラインでは、特定のクラスに就くことによってしか取得できないクラススキルというものが存在した。そういったものの中には強力なそれこそ切り札となるようなものも存在している。

例えば、侍系統においての【剣豪】ならば、クラススキル【剣豪(刀)】という刀装備時の攻撃力が1.25倍になるスキルを得られる。しかし、それは奥の手となりえるかと言われたらそうはならない。

もし、同じ侍系統の三次職で奥の手となりえるスキルを得られるクラスを言うとするならば【桃太郎】などだろう。ネタのような名前だが、実際は相当に強力なクラスで獲得できるクラススキル【吉備の英傑】は鬼種に大してダメージ1.65倍、刀装備時にはダメージ1.25倍という効果を始め、刀術アビリティも得ることができた。



「トリプルか……優秀なんだね、レイヤくん」


リュークは驚きを押し殺しながら言った。

トリプル……クラスを3つ得ることのできる者はそう存在しない。ダブルですら、小国に10人、この国のような大国ですら30人居れば最高というレベルなのだ。しかも、クラスというのはそう簡単に得られるものではなく、澪夜くらいの歳で3つのクラスを揃えるというのは割と異常なことである。


「うん、レイヤくんが教えてくれたんだ。僕らもクラスを明かさないとね」


そう言ってリュークが口にしたクラスは【双剣士】。

エリュシオン・オンラインでも人気の高かった攻撃力とスピードに秀でたクラスだった。

それを聞き、澪夜は合点がいく。

戦闘の時に感じた違和感はそれでか、と。

澪夜がリュークの戦闘を見たのは森で一度きり。その時リュークはひと振りの剣で戦っていた。だが、その戦闘の端々で左手を振りそうになっているリュークに澪夜は違和感を覚え、彼が自分に本当のクラスを教えていないのではないかと考えたのだ。


次にダンケ。

彼のクラスは【フォートレスナイト】。

俗に言う盾職の中でも特に優秀と言われるもので、このクラスを経ることでしか手に入らないクラススキル【フォートレス】はエリュシオン・オンラインの上位プレイヤーも重宝していた。中には、盾職のクラン加入に【フォートレス】のスキルを所持していることという条件を付けていたところもあった。


次にエリル。

シリルの妹である彼女のクラスは聞いていた通りの【白魔道士】。【付与魔術師(エンチャンター)】ほどではないが、初歩的な付与魔術を使える回復職だ。光属性以外の適性をほとんど失う代わりに、光属性魔法の効果、回復魔法の効果が上昇するという特長を持っている。エリュシオン・オンラインでは、最初期、回復職(ヒーラー)付与魔術師(エンチャンター)などのサポーターをわざわざ分けてパーティーに組み込めないような場合──攻防ともに強力なボスとの戦いなど──に重宝されていたクラスだ。しかし、時が経つにつれ複数のクラスを習熟させるのが容易になってきたことにより、上位層では殆ど見られなくなってきていた。


次にシリル。

予め聞いていたクラスは【弓士】だったが、実際には【猟兵スカウトハンター】。簡単な偵察と狙撃を行うクラスだ。

エリュシオン・オンライン内でも存在はしていたものの、好んで就いていたものは相当少なかったクラスだ。なぜ少なかったのか。理由は単純で、取得難易度に見合わない強さだったからだ。エリュシオン・オンラインで【猟兵】は弓士系統クラスの三次職だ。しかし、三次職までクラスを上げられるくらいになるころにはクラススロットもかなり開放されている。そうなれば、わざわざ【猟兵】を取らずとも、同じ弓士系統クラス三次職【射手シューター】と探索者系統などのクラスを取ったほうが攻撃力も偵察能力も上のため、賢い選択と言える。

だが、恐らく一つしかクラスに就けないこの世界なら優秀とされるのだろうと澪夜は予想した。


最後にミュウ。

エルフで魔術師ということは聞いていたが、クラスとしては【大魔術師(アークウィザード)】らしい。

エリュシオン・オンラインなら魔法を使う魔術師系統のクラスランク3の四次職であり、【賢者系】のクラスを得るために必須だったクラスだ。また、クラススキル【魔術の智慧】は3つまで設定した魔法のMP消費を5%減少させるという性能を持つものだった。たかが5%、されど5%。ボス相手のレイド戦だけでなくPvPでも重宝されていたものだ。尤も、上位プレイヤーになってしまうと賢者系クラスのスキルの方が優秀なだけに見ることはなくなってしまったのだが。



ここまで聞いた澪夜は、少し考え込む。

バランスの取れたパーティーであるだけにもし仮に敵対したならば相手取るのは少し手間だろう。ただ、一対多の戦いをしたことが無いわけではないし、なにより昨夜になにも無かった点を考慮すれば信頼はできるのだろう。


そこまでくれば、澪夜の考えはもう纏まった。



数秒後、澪夜はリュークに右手を差し出した。

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