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Quest24 

【真なる異世界を貴方へ】


それがエリュシオン・オンラインの宣伝文句だった。

発売の二年前から大々的に宣伝の行われてきたエリュシオン・オンラインは発売と同時に完売。その期待度は世界初のVRMMORPGということもあり、かなりのものだった。


そして、エリュシオン・オンラインはその期待を遙かに上回る完成度をもって、その名を全世界へと轟かせた。


【真なる異世界を貴方へ】


その言葉通り、エリュシオン・オンラインはまさに異世界だった。

いくつもの国家が乱立し、最新のAIによるまるで人間のようなNPC、プレイヤーの行動によって一部のエリアを占領し国とすることもできる。

国に所属するのも自由。

武器やアイテムの作成も自由。


本物の異世界がそこにあるかのようなゲーム。

それがエリュシオン・オンラインだったのだ。







一年後。

賞金総額1億円という大規模な大会がエリュシオン・オンラインの運営である【アンリアルソフト】によって開かれた。

参加資格は無し。

ルールは指定されたもの以外のアイテムの使用は禁止、スキル使用は制限無し、転生回数8のレベル200で固定した状態での1vs1という単純なものだった。


出場した者の中には有名ギルドの中でもトップクラスのプレイヤー、大手実況者といった有名所も集まっていた。

その中には当時のエリュシオン・オンラインにおける最高難度ダンジョンをソロで攻略していた澪夜も含まれていた。




          

◇◆◇◆◇



妙な音が聞こえた気がして澪夜は目を覚ました。


「どうしたの?」


そんな澪夜に声を掛けたのは弓士のシリルだ。

今の時間は深夜1時といったところ。日本なら兎も角この世界ならほとんどの人間が寝ている時間帯で、彼女が起きているのは夜警をしているからに他ならない。

その証拠に、彼女は剣や盾、杖を外しているリューク達とは違い、その手に相棒である『銀月の弓』を携えている。


「なんか……変な音が聞こえませんでしたか?」

「風の音とかじゃない?」

「いや、なんか他にも唸り声とかも」

「気のせいでしょ」

「そう……ですかね。一応探ってみますか」


そう言い、澪夜は焚き火をするために持ってきた石のあまりを手に取るとナイフで一部の人間なら見慣れている文字を書き始めた。

それを眺めているシリルはそれがなんなのか分からなそうな顔をしているが、もし澪夜の同郷の中学生あたりで掛かる病に現在進行形で侵されている人間が居ればこう言っただろう。


「ルーン文字」と。


澪夜が石に刻んだのはRによく似たルーンであるrad。

そして、Mに似たmann。

radは主に車輪。mannは意識という意味を持つ。


その二つを合わせて行使できるのが偵察用の魔術【センスサークル】。


エリュシオン・オンラインに於ける刻印魔術師のスキルの一つ【ルーン魔術】によって行使できる魔術である。


澪夜がルーンを刻んだ石【ルーン石】を地面に投げつけるとルーン石が地面に着いた瞬間、それを中心として青色の輪が放たれた。


「これは……」

「……囲まれてますね。数は凡そ40。大きさ的にオークとコボルトといったところでしょうか」

「ねぇ、今のは?いや、それよりオークとかって」

「今のはルーン魔術。その中でも手軽な索敵用の魔術です。範囲は起点となる物を中心に半径200メートル。細かな数などはわかりませんが、反応の大きさなどから大凡の敵種族や数は予想が着きます」

「いや、魔術って……貴方剣士よね?いや、確かその剣を使う人間はサムライとか言ったかしら?」


シリルの言っているのはクラスの話だ。

基本的に、クラスというのは一つしか就けないものだ。稀にダブルという二つのクラスに就けるものがいるが、澪夜はこのパーティーと行動するにあたって最初に剣士と名乗っていた。

剣士なのに魔術が使えるなどというのは随分とおかしな話なので、シリルはそこを疑問に思ったのだろう。

しかももし仮にダブルだったとしてもそれを隠す人間は殆ど居ないのが普通だ。剣士にして魔術師。そんな万能なものが居たとすればどれだけ引く手あまたかなんて考えるまでもない。

それだけに、澪夜の発言が引っ掛ったのだろう。


だが、言ってしまえば澪夜のクラスはダブルなんて次元ではなくエリュシオン・オンラインでのクラスを殆ど網羅しているようなレベルだ。


「そんなのは今はどうでもいいでしょう。シリルさん、迎撃の準備を」


澪夜はシリルの言葉を切り捨てると、インベントリから愛刀【禍津姫】を取り出した。


「大勢で突然夜這いに来た不埒者にお帰り願いましょうか!」









澪夜に促されたシリルによって叩き起こされたリューク達は一分もしない内に準備を終えた。

なにがあっても良いように鎧を着込んだままだったというのもあるのだろうが、それだけの速さで目を覚まし準備を終えたというところで彼らの優秀さが窺い知れる。


「……来たっ!」


弓士故に目がよく、夜目も効くシリルが敵を発見する。

それを聞き、澪夜は無詠唱にて魔法を発動させる。


「《灯火》」


本来なら周囲を照らす程度の魔法だが、魔力が大量に込められたそれは小さな太陽のような明るさをもって周囲だけでなく森の一部を昼間のように明るく照らし出した。


「多いね……けど、この程度なら今までもあった。皆、行こう!」


「《敏捷上昇アジリティブースト》、《筋力上昇パワーブースト》」

「『闇を照らす一条の光あれ 《光矢》」


白魔術師であるエリルがリュークにバフを掛け、エルフの魔術師であるミュウがオークの眉間に光の矢を放つ。

その間にシリルは木の上に登り、ダンケは皆の前に出て、スキル《挑発》を使って敵を集める。


なるほどアタッカー、タンク、ヒーラー、サポーターなどバランスの取れたパーティーだと澪夜は思う。

欲を言えばダンジョン探索なんかをするために探索者シーカーなんかが欲しいところだが、そんなことは今はどうでもいいだろう。


リューク達に加勢するべく澪夜は刀を抜き、戦場へその身を躍らせた。










澪夜の戦術は剣と魔法の両方を駆使したものだ。

基本としてはヒット&アウェイを主とした立ち回りをするが、ソロという特殊さ故の魔法攻撃を行うのが澪夜の戦いだ。

エリュシオン・オンラインというゲームでは攻撃は敵味方関係無く(大小はあれど)ダメージを与える。つまり、同じゲームで例えればFPS界隈でいうフレンドリーファイアが発生するわけだ。

しかしながら、自分の攻撃によってダメージを受ける事は無い。つまり、自分を巻き込んだ範囲攻撃をしたとしても自分にはダメージが入らないわけだ。

それを利用したのが澪夜の得意とする戦術の一つ。

予め魔法を撃ち着弾と同時に敵を切り刻むというものだ。

強力な攻撃を受けると敵は一瞬だけ特殊なスタン状態になる。その瞬間に攻撃をすれば避けられることも防御されることもなく、無防備な敵に攻撃を叩き込める。

だが、これはFFを受けてしまう仲間が居てはそうそうできない戦法だ。


それ故に。

澪夜はこの攻撃をこの攻防では使用できない。



なんてことはなく。



「《雷槍》」


比較的小規模な魔法に魔力を込めることで威力をそのままに範囲を狭めて攻撃をした。


「あれっ?」


のだが、本命の攻撃をする前にその魔法だけで狙ったオークは頭を消し飛ばされ絶命していた。

その様子に澪夜は思わず間抜けな声を出してしまう。

同時にオークたちも動きを止め、リューク達も口を大きく開けて澪夜を見つめた。


いや、普通に考えればわかることなのだ。

ただでさえ高いINTを持つ澪夜がいくら中級クラスの魔法といえども魔力を通常以上に込めたらこうなることくらい。

むしろ、初級の魔法ですらオーバーキルになる。

インフレを極めたらこうなるのは必然ではあるのだが、なにせエリュシオン・オンラインはゲームだ。自由度が高いとは言っても使用するMP量は魔法自体を改良することでしか変えられないし、魔法によって地形が変わるなんてことはなかった。


ここはゲームではなく現実。

それを今一度しっかりと理解するためにはこの出来事は丁度よかったとも言えるのではないだろうか。




「ま、まあ気を取り直して!」


小さく気合を入れ直すと今度は先程の一撃を目の当たりにして動きが止まっていたオークに紅い閃光を纏い突撃する。


大和一刀流刀技【鬼突きつつき】。

刀術スキルの中にある流派スキル【大和一刀流】の刀術アビリティだ。

刀を突き出した状態の突進技で基本的には大型モンスターへの攻撃に使われるものだが、その当たり判定の広さと攻撃力の高さ、突破力故に対軍攻撃としても使用されることの多い技だ。

そして、この技はその名の通り【鬼種】に対して高いダメージを与える。

つまり、オークやコボルトといったモンスターに関しては大ダメージが期待できるということだ。


その証拠に、敵右翼……澪夜たちから見て左側のオークとコボルトがミンチになっている。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


それを見たリューク達も言葉を失っている。



一言で言えば。

澪夜はやり過ぎたのだ。

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