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Quest22 初日

翌日。

異世界生活4日目。

時刻は朝5時30分。薄っすらと明るくなってきた空の下、澪夜は宿の裏手の庭で木刀(世界樹製)を振っていた。

しっかりとひとつひとつの動きを丁寧に正確に、尚且つ素早く熟していく。

想定しているのは自分を取り囲む50人の敵。

得物はロングソード。

おそらく、こちらの世界で一番ポピュラーなものだろう。





「ふぅ……」


最後の1人。

その首を落としたところで、澪夜は息を吐き出した。

全身から吹き出している汗をタオルで拭き、頭の上に水を生み出し、それを頭から被る。

本当なら風呂にでも入りたいところだったが、それは叶わなかった。最悪、外に出て即席の風呂を作るしかないだろう。


そんなことを考えながら、上着を一枚羽織り、澪夜は部屋へと戻っていった。

時刻は6時を過ぎた頃。

厨房の方からはいいニオイがしている。昨夜の夕食は中々に美味いものだったため、朝食も楽しみにしつつ澪夜は階段を降り、空いているテーブルに着く。……といっても、まだ人はそれほど居ない。その為、呼ぶまでもなく昨日会った少女……この宿の看板娘であるところのミーシャが近寄ってきた。


「おはようございます!レイヤさん!よく眠れましたか?」

「おはようございます、ミーシャさん。よく眠れました」

「よかったです。朝食ですよね?今持ってきますね!それと、ミーシャで良いですよ、私のほうが年下なんだし」


にこやかにそう言いながらミーシャは厨房の方へ歩いて行った。

なるほど……確かに看板娘だ。早朝から大変だろうに、元気に働き、なおかつこちらまで元気になるようだ。

澪夜はそんなことを思いながら朝食を待った。


数分後。

トレーに2つの木皿を乗せたミーシャがやってきた。


「おまたせしました!」

「ありがとう、ミーシャさん」


澪夜は皿とスプーン、フォーク、ナイフを受け取ると手を合わせた。


「いただきます」


一言。

呟いてからソーセージにナイフを入れる。

少し黒い見た目からわかっていたことだが、これはブラッドソーセージ。血を原料とするため、鉄分などが豊富な食材だ。

しかし、血が原料なため独特な風味があるものだが……意外と美味いと、澪夜は感じた。

次にパンに手を伸ばす。

が、これが少し硬く塩気が多い。恐らく、長く保たせるために表面を硬く焼き、塩を多く使っているのだろう。夕食時はそれほどでも無かったことから、この時間帯に焼き立てのパンを得るのが難しいためと推測される。

次にスープ。

コンソメベースの野菜スープだ。こちらでコンソメという名前が通用するかはわからないが、味は慣れ親しんだコンソメスープのそれだった。



それなりの量があった朝食に満足し、澪夜は部屋へと戻った。

シャツはそのままに、その上に胸と胴の一部を覆う金属のようなモンスターの甲殻と特殊金属、革を用いた鎧を着ける。

伸縮性のある糸を使い、様々な加工の施されたズボンを穿き、黒い革製のブーツを履く。

ポーションポーチをベルトを着け、剣帯に愛刀を差し、上にコートを羽織る。

嘗て、世界一の称号と多額の賞金を得た男の姿がそこにあった。


そして、澪夜は部屋を出てミーシャに鍵を預け、ギルドへ向かった。




◇◆◇◆◇


冒険者ギルド。

午前6時45分においてこの場所は実に空いていた。

冒険者と思わしき人間は昨日見た青年たちのみ。その青年たちは熱心に銀級依頼を見ていた。チラリと首から下がる銀色のプレートが確認できたことから彼らは銀級冒険者ということになるのだろう。


澪夜も彼らにならって依頼の貼られたボードを確認する。


▼青銅級

○孤児院の手伝い

○屋根工事の手伝い



……冒険者というには随分とアレな依頼が貼られている。


「戦闘系って無いのかな……」


○薬草採取【常駐】

○はちみつ採集


「……」


簡単な依頼ばかりでどうやら戦闘系の依頼は青銅級には無いようだ。

どれも街中での依頼か、ちょっと森に入って採ってくる程度のものばかりで唯一危険そうな蜂蜜採集という依頼がある程度。

どうするべきか悩みどころだ。


「どうかしたかい?」


顎に手を当て考えていると依頼を見ていた銀級青年の1人が話し掛けてきた。

どうやら澪夜がいい依頼を見付けられずに困っているように見えたらしい。


「あ、いえ。戦闘系の依頼って無いものかなぁと」

「戦闘系か……ふむ、君のランクは?」

「昨日なったばかりなので青銅ですが……」

「青銅級か……そうだね、戦闘系の依頼っていうのは無いだろうね。せいぜい薬草採取とかでゴブリンとかと鉢合わせて戦う程度だろう。……君はモンスターと戦いたいのかい?」


そう聞かれると困ってしまう。

別にモンスターと戦いたいというわけでは……無いと言い切れるのだろうか?

澪夜は途中まで否定して、そう思ってしまった。

実はなんだかんだ言ってどこまでやれるか試したいと思っていないか?と。


「……まあ、報酬もいいですし」


結局はそんな当たり障りの無い答えを返す。


「まあ、たしかに。

ふむ……手っ取り早くモンスターの討伐依頼を受けたいなら、ギルドの新人育成を受けたらどうかな?」

「新人育成……というと?」

「簡単に戦闘などの冒険者の必須技能を教えてもらえるものさ。

これである程度実力を認められれば赤銅級の冒険者になれる。けど受ける人は少ないかな」

「何故です?それだけでランクが上がるなら皆うけると思うんですが」

「まあ……内容のせいかな。

戦闘訓練っていうのは良いんだけど、他に座学があるから。読み書きや簡単な計算なら皆必要だと思って受けるだろうけど、他にモンスターの生態や地理とか、そういうものがあるからさ。

ほら、冒険者ってどちらかと言うと荒くれ者が多いだろ?」


その説明に澪夜は納得する。

要するに、退屈な座学を受けるのならその時間を使って依頼を熟し、金と共にランクを上げたほうがいいと、考えるものが多いということだろう。

なにより、荒くれ者が座学なんかを大人しく受けられるとは思えない。


「基本的に青銅級から赤銅級まで上がるのに殆ど苦労は無いんだ。

依頼を……それこそ薬草採取でも7日程熟せば上がれる。新人育成は4日で終わるけど……さっき言ったとおりさ。それに、真面目に受けなければ昇級はさせてもらえないしね」

「なるほど、よくわかりました。ありがとうございます」

「いいよ、これくらい。僕も昔先輩にこうやって教えてもらったから。それに今のパーティーメンバーは新人育成からの仲間なんだ。君も良き出会いがあるといいね。それじゃあね!新人育成は受付で受けられるから」

「はい、さようなら」


パーティーメンバーの元へ帰っていった青年に軽く頭を下げて、澪夜は受付の方へと向かった。それも、昨日会ったばかりのルーシアの元へ。





「おはようございます、ルーシアさん」

「おはようございます、レイヤさん。おはやいですね。宿はどうでしたか?」

「ご飯も美味しかったしよかったです。ありがとうございました」

「いえいえ。それでどのようなご用件ですか?」

「えーと、新人育成っていうのを受けたいんですけど」


澪夜がそう言うとルーシアの目が少し見開いた。


「新人育成……を、ですか?」

「はい」

「珍しいですね……新人育成なんて殆ど受ける人は居ないのに。それに、ボードの方にはもう案内を貼ってないですし」

「そうみたいですね」

「誰かに勧められたんですか?」

「さっきまでそこに居た銀級の人達に」

「ああ、リュークさんたちですか。そういえば昔新人育成を受けてたって聞きましたね」

「それで……新人育成って受けられるんですか?」

「はい、大丈夫ですよ。ただ、注意事項として、育成期間中他の依頼は受けられないことになりますけど」

「大丈夫です。多少なら蓄えもありますし」


現在、澪夜の所持金は宿泊費と昨夜の夕食代を引いて54425シルである。それに、最悪の場合ポーションでも売れば良いだろう。


「わかりました。新人育成を受理します。

それで……今日から始めますか?」

「はい、お願いします」

「わかりました。それなら、今のうちに説明を行いますね」


ルーシアは口を開いた。


「まず、新人育成の期間は4日間で、費用に関しては掛かりません。

初日は午前8時から昼食を挟んで午後3時までギルドの訓練場で武器の選択と戦闘訓練を行います。その後、ギルドの資料室で午後7時までモンスターの生態及び野草等についての学習を行います。

二日目は、午前8時から午後12時までギルドの資料室で学習、その後王都の外へ出てそこで戦闘訓練と野営訓練を行います。

三日目は朝王都へ帰還し、初日と同じメニューを熟してもらいます。

最終日である4日目はギルドの監視員の監視のもと簡単な依頼を熟してもらいます。

そして、査定を行い合格すれば赤銅級へ昇級となります。何か質問はありますか?」

「……座学のテストとかは無いんですか?」

「いえ、毎日座学の最後に確認を行います」

「わかりました」


澪夜は了解の意を伝える。

ルーシアも澪夜の様子を見て満足げだ。


「それにしても、本当に珍しいです」

「さっきも言ってましたね、それ」

「はい。でも本当に珍しいことなんですよ。過去五年は誰も受けてなかったはずです」

「そうなんですか?すごく役立つと思うんですが……モンスターの生態とか特徴とか、そういうのだって……」


レベリングを行う効率のいい狩場がわかる。


という言葉は口にはできなかった。

同時に澪夜は自分を戒める。先の言葉はゲームでの話だ。これは現実リアルで、ゲームとは違いモンスターによって被害を受けている人間は実際に存在するのだし、自分が死ぬことだってありえるのだ。あれだけ入念に死なないために準備をしたにもかかわらず、それを忘れるなどあってはならない。



「……生存率を上げるのに役立ちますよね」

「そうですね。どの辺りにどんなモンスターが出現しやすいとかそういうのが分かっていればもう少し生存率は上がると思います。でも……やはり、皆さん自分の力に自信を持っていてそういうのを気にしないんですよね……」


ルーシアは悲しそうに話す。

やはり、何人か……いや、何十人かもしれないが帰ってこない冒険者を見てきたのだろう。いくら、ここが王都で周辺は比較的平和とは言っても少し離れれば小さな森程度はあるし、街道から逸れればモンスターも出る。ゲームなんかとは違って、そこまで極端では無いだろうがモンスターのレベルも変化するだろう。

しかし、そうであっても弱点を知っていたり生息域を知っていたりすれば少しは生存できたかもしれないのだ。


願わくばこの青年も、そうならないようにと。

ルーシアは思わざるを得なかった。


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