Quest21 宿と準備
宿屋【黄金の夢】
ルーシアに勧められた宿は東地区の大通りに面し、冒険者ギルドから少し離れた場所にあった。
聞いたところによるとそこそこ大きな宿で、商人から冒険者──それも幅広いランクに渡って泊まる人間が多いそうだ。その理由は安くて美味いと評判の料理とのことだ。
「こんにちはー。部屋は空いてますか?」
澪夜は両開きの扉を開き、中に入ると奥のカウンターに居た同い年くらいの少女に声を掛けた。
「こんに……ち……わ……」
「?どうかしました?」
その声に反応し、少女は挨拶を返し澪夜の顔を見て……その動きを止めた。造形が良い……どころの騒ぎではない。教会の美の男神の像?劇場の俳優?そんなモノ、ゴミ以下だ。そんな風に思ってしまうような人間が目の前に居た。
そんなことを少女が思っているとも知らず、澪夜は怪訝な表情を浮かべた。
もしかして、宿の関係者じゃなかったのだろうかと。
カウンターの中に居たからてっきりそうだと思ったのだが違うのだろうかと。
「……あ、いえいえ!なんでも無いですよ!えーと…………部屋ですよね!空いてますよ、はい!個室と相部屋……どちらにしますか?」
「あ、じゃあ個室で……」
「値段によって設備が変わってきますが……どうしますか?……って言いたいところなんですが、今は3等室しか空いてないんです。大丈夫ですか?」
「えーと……」
「あ、ウチの宿の個室は1から4等室まであって……1等室は2等室2個分、2等室は3等室1.5個分、3等室は4等室1.5個分になってます!値段は、1等室が一泊で3500シル、2等室は1500シル、3等室は750シル、4等室は500シル。因みに、相部屋は300シル。それで、3等室までは朝食付き。夕食は一品だけ付くけど、他は下の食堂……ここで別料金で食べるか、他のところで食べてくるか。
5連泊以上してくれると、部屋代は1割引になります」
「なるほど」
つまり……日本円にすれば一泊7500円で朝食付き。……普通だろうか。
現在、澪夜の所持金は……入都税を払ったため58000シル。単純計算77泊できる。ただ、夕食は一品付いてくるのみ。それで足りるかと言われれば……まあ、無理だろう。
「なら……とりあえず5泊」
澪夜は一先ず5泊することを決めた。
「わかりました!えーと……代金は」
「3375シル」
「ですです!」
750✕5=3750
3750✕1/10=375
3750−375=3375
といった簡単な計算だが、少女には些か難しかったようだ。
大銀貨を4枚渡し、お釣りと部屋の鍵を貰ったところで澪夜はあることに思い当たる。
「ところで風呂とかってあるんですか?」
「お風呂……ですか?そんなモノお金持ちの家にしか有りませんよ~。皆、無属性魔法の【洗浄】で済ませますし……まあ、お湯とタオルで体を拭いたり、水浴びをしたりはしますけど。お湯とタオルが必要なら10シルで部屋に持っていきますよ」
「!?……そうですか。大丈夫です」
「わかりました。それと、朝食は明日の6時の鐘から9時の鐘までに食べに来てください」
少女の説明を聞き、澪夜は階段を登り、3階の部屋へ向かった。
◇◆◇◆◇
部屋は6畳ほどの広さでベッドと、小さなテーブル、椅子が置いてあった。
窓を開ければ通ってきた大通りが見下ろせ、少し身を乗り出し、左を向けば王城が見えた。
「ふぅ……」
元の世界のものより粗末なベッドに横になり、澪夜は深く息を吐いた。
異世界生活三日目にしてようやくこの世界での生活の目途がたった。暫く澪夜は天井を眺めてから、体を起こすとメニュー画面を呼び出した。
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♦Main Menu♦
◇1029-3_5/15_13:12
■Status
■Equipment
■Item
■Map
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そして、Item欄をタップし、所持しているアイテムを確認する。
「……やっぱり」
澪夜は小さく呟いた。
おかしいのだ。インベントリに入っているアイテムが。
エリュシオン・オンラインではインベントリに入れられるアイテム量が決まっている。アイテムの種類は関係なく、各アイテムの所持数だけが99個と決まっていた。それ以上はマイホームか集会場にある倉庫に仕舞うしか無かったし、素材アイテムなんかは皆、基本的に倉庫にぶち込んでいた。無論、澪夜もそうしていた。
にも関わらず。
インベントリにはアイテムが所持限界を超えて入っていた。【調薬】スキルのレベル上げのために作りまくったエリクサーなんて億単位で入っていた。もし、ムラマサが知ればどうなることか。
まあ、それも気にするのは今だけ。
澪夜はインベントリからいくつかのアイテムを取り出した。
【叡智の小瓶】5本
【治癒薬】50本
【下位回復薬】50本
【下位魔力回復薬】50本
【神酒薬ソーマ】50本
【医神の薬帯】
【不死の護石】一つ
【叡智の小瓶】は一つにつき一種類のポーションを登録でき、50本分を蓄えることができるというアイテムだ。ポーションポーチは一々インベントリから取り出すよりも早いがその内容量は少ない。そのデメリットを無くすアイテムがこれだ。しかし、使用するにはポーションポーチの等級がこのアイテムと同等以上という制限がある。
次に【治癒薬】。【下位回復薬】よりも回復する量が少ないものだが、この世界では【下位回復薬】とされている。
【下位回復薬】も同じだ。
次に【下位魔力回復薬】。
こちらは魔力を回復するものだ。こちらでは【中位魔力回復薬】とされている。
そして、【神酒薬ソーマ】。
澪夜達インフレイヤー達もよく使う──しかも中位回復薬気分で──ありふれた(インフレイヤーたちにおいては)ポーションだ。その名の通り、高い醸造スキルを使うことによって作れる【神酒ソーマ】というアイテムとその他の素材アイテムを使うことによって作成できるものだ。HPの全回復の他に数秒の無敵状態や、数分間のバフなど様々な効果をもっている。が、傍から見たらただの水である。
次は【医神の薬帯】。
小瓶五本が入るポーションポーチだ。元の色は茶色なのだが、澪夜は黒の染料で染め上げている。さらに、蓋の部分には蛇杖があしらわれている。
効果として、このポーチに入れられた……登録したポーション類の効果を2割増しにするというものがある。昔、澪夜が1から作製し、フレンドのクラマスにプレゼントした一品でもある。
最後に【不死の護石】。
アイテム【賢者の石】や【不死鳥の涙】【不死鳥の心臓】などを使ったアイテムで、一度だけその場または予め定めた場所で生き返ることができるというものだ。
澪夜はそれらを準備すると、インベントリへしまった。
ちなみに、わざわざ等級の低いポーション類を主として準備した理由は、あまり良いものだと(澪夜からすれば大したことないが)面倒そうだからだ。しかし、なにかあったら嫌なのは当たり前だ。だから、見た目ただの水である【神酒薬ソーマ】を準備し、【不死の護石】を【滅神の首飾り】のスロットを一つ空け、そこに嵌め込んだ。
そして最後に、街を出歩く時用の護身具……いや、一種の暗器を準備した。




