Quest20 冒険者ギルドへ
「ほ~」
澪夜は門から続く大通りをあちこち並べながらそんな声を出した。
予想していたより綺麗な街並み、偽物ではなく本物の耳や尻尾を生やした獣人族などの様々な種族。
エリュシオン・オンラインで似た光景を見続けてきた澪夜も思わず声が出てしまった。
ただ……やはりというべきか、エリュシオン・オンラインと比べてしまうと街自体の設備のレベルは落ちてしまうようだ。かのゲームではかなり短い間隔で設置されていた街灯も、いくら王都であるこの街でもそれほど多くは無いし、街を守る結界装置もエリュシオン・オンライン内でのかなり小規模の町より少しマシ程度のものだった。それに見た所、井戸なんてものがあるあたり水道なんてものは無いのだろう。まあ……魔法なんかで水を生み出せるのだ。力量や魔力量にもよるだろうが、そんなものは大して重要視されていないのだろう。
さて。
この王都【クラウディリア】はこの世界ではポピュラーな円形に、小さな半楕円形に突き出た防壁を持つ城郭都市だ。
王族の住む城であるセント・デュラム城(初代国王の名を着けられた)を中心にそれを取り囲むように貴族や富豪の住む中央区があり、東西南北の門より王城へ向けて大通りが通っている。
また、南西部は比較的裕福な市民が住み、北西部は鍛冶などを生業にするものが多いなど地区ごとにちょっとした特色がある。
さらに、半楕円形に突き出た場所……特区と呼ばれる場所では、決して多くはないが家畜の生産や野菜の栽培が行われている。
そんな王都ではあるが、冒険者ギルドが有るのは東の門から続き、東地区を通る東の大通り……【大戦士通り】と呼ばれる場所だ。
大通りであるため、冒険者ギルドのある周辺は極めて治安が悪いというわけではないが、東地区としては北東部へ行くと俗に言う貧民街が存在し、偶に強盗の被害が出るなど王都の中での治安は悪い方である。
「お、ここかな」
澪夜は頑丈そうな木製の扉の石造りの建物の前で止まった。
頭上には交差した二本の剣と盾の紋章を模した看板がぶら下がっており、その下の板にはルーン文字のような字で『冒険者ギルド クラウディス王国本部』と書かれている。
澪夜には読めないはずだが、こちらに来た際に読めるようになっていたようだ。恐らくだが、エリュシオン・オンライン内でのスキル【言語理解】が効果を発揮しているのだろう、と澪夜は考えていた。エリュシオン・オンライン内では殆ど取得するメリットのない趣味スキルだったが、ここに来て意外にも役に立ったようだ。それに不思議なことに使い慣れた言語であるかのように脳内にはこちらの言語知識が蓄えられていた。
まあ、もし仮に澪夜がこのスキルを持ってなかったとしても、あの神が言語理解くらいはスキルとして渡してきただろうが。
「行ってみるか」
澪夜は扉へと手を掛け、冒険者ギルドの扉を開いた。
◇◆◇◆◇
冒険者ギルド内は比較的綺麗な作りをしていた。
扉を開くとそこは大きなホールになっていて、奥には20人程の女性が居るカウンターがあり、右手側には大きな掲示板があった。そこには所狭しと羊皮紙とパピルス紙のような紙が貼られている。
左側には西部劇に出てくるようなスイングドアが取り付けられた入口があり、中を覗き見るに酒場になっているようだ。冒険者ギルドが経営しているか、提携しているのだろう。
奥のカウンターの少し横には階段があり、吹き抜けになっているため、2階がちらりと覗えた。
階段の反対側にはまた違った扉が見え、『訓練場』と書かれている。恐らく建物の裏手にでも訓練場があるのだろう。
そんな事を考え、澪夜は足を進めた。
今の時間は12時になるかどうかといったところで、冒険者の姿は殆ど見えない。居たとしても酒場に見える人影や、澪夜の入った扉の少し横のソファに座っている20代半ばくらいに見える青年たちくらいだった。
さて。
澪夜は今現在歩みを進めながらその脳裏でものすごいスピードであることを考えていた。
どのカウンターに向かうか……である。
カウンターに居る女性は皆若く、綺麗だ。だが、そんなことはこの際気にしていなかった。澪夜が気にしているのはただ1つ……種族だ。
普通の人間に、犬や猫の耳のある獣人。耳が長く、スレンダーでカウンターに居る女性の中でも飛び抜けて美しいエルフに、他種族の血が入っているからかエルフよりとある部分の装甲が厚いハーフエルフ(それだけでなく、髪色や耳の長さからもわかる)や、一見中学生くらいに見えるドワーフ。
エリュシオン・オンラインでは見慣れてはいても所詮は仮想。
現実で見るのとは全く違った。
誰に話しかけようか。
そんな言葉がグルグルと頭の中を回っている。
澪夜は所謂コミュ障と言われる人種では無かったが(その割には友人は少なく──異性の友人は多かったことから、同性の友人が出来なかったのは一種の近寄りがたさがあったのと嫉妬からだろう──あまり遊びに行くということは無かった)、恐らく彼らはこんな感じで日々を過ごしていたのだろうと予想する。
そんなこんなで澪夜が最終的に向かったのはハーフエルフの女性のもとだった。
髪の色はエルフの血より人間のほうの血が濃く出たのか明るめの茶髪だが、目は翠玉の様に輝いていた(翠色の瞳はエルフ族の特徴の1つである……といつの間にかインベントリに忍ばされていた【異世界教本《種族編》】に書かれていたのを澪夜は昨晩に読んでいた)。
「こんにちは」
「あ、はい。こんにちは」
肩の少し下あたりで切り揃えられた髪をゆらして、ハーフエルフは顔を上げた。
「冒険者ギルドへようこそ。ご依頼ですか?」
「いえ、冒険者になりたいんですが」
「登録ですね。わかりました、少々お待ち下さい」
そう言うとハーフエルフはカウンターの更に奥へ行き、机で仕事をしていた少女に声を掛け、カウンターから出て来た。
「お待たせしました。それでは登録を行いますのでこちらへどうぞ」
彼女の言葉に頷き、澪夜は歩き始めた彼女の後を追う。
少しして行き着いたのは、カウンターの横にあるもう一つの扉だった。
そこに入ると、中には大きな魔法陣とその中心に90cmほどの高さの台、その上に長方形の石版が置いてあった。
「これは?」
「古代に存在したと言われるアーティファクトのレプリカです。個人の魔力を記録して、ステータスの一部分を別のものに転写でき、このアーティファクトを介して作られたそれはステータスの変化に応じて内容も変わるそうです」
「そうなんですか」
「はい。これはかなりありふれた物なので、ギルドでは余程小さな支部でない限り設置されてます。
それでは、あの石版に手を置いてください。そうすれば石版が魔力を吸い出してギルドカードが出来上がります」
「わかりました」
促されるまま、澪夜は魔法陣の中心に立ち、石版に手を置いた。
数秒後、石版から台、そして地面の魔法陣へと徐々に光が灯されていった。
さらに数秒後、澪夜の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
【名前】レイヤ・ヒメガミ
【性別】男
【年齢】18歳
【種族】原初神(人族)
【預金額】0
※()内は隠蔽した際のもので、他人には隠蔽したものが見える。
さらに数秒。
ウィンドウが閉じると、台の下部から金属音が聞こえた。同時に魔法陣の光も消える。
澪夜が下を見ると、台の下部が開き、その中に青銅の小さなプレート……ドッグタグのようなものが入っていた。見れば、そこには先程のウィンドウの内容が彫られていた。
「それがギルドカード……ギルドでの身分証です。無くさないようにしてください。再発行するとなると……10000シル必要になります」
澪夜の全財産のおよそ1/6。
ここに来るまでに見た物から計算するとこの世界では10000シルもあれば四人家族が一ヶ月普通に生活できそうだった。
そう考えると、この小さなプレートはかなりの価値があるのだと、澪夜は思わざるを得なかった。
◇◆◇◆◇
ところ変わって、澪夜が今居るのはギルドの2階にある談話コーナーだ。
そこで、ハーフエルフ……改め、ルーシア・エストレアから冒険者ギルドについての説明を受けていた。
「まず、冒険者ギルドに所属する者はその名の通り【冒険者】と呼ばれます。基本的に冒険者の門は誰にでも開かれて居ますが、奴隷や犯罪者はその限りではありません。
次に、冒険者の仕事についてです。
冒険者は【クエスト】と呼ばれる依頼を熟し、報酬を得ます。クエストの種類は様々で、簡単なところで言えば街の清掃や、孤児院の手伝いといった物から、街の外に出ての、薬草採取や鉱石採取、モンスターの討伐や、護衛といったものがあります。また、報酬も様々で、一番多いのは金銭で、その他にポーションなどといったものがあります。
また、クエストを10回連続で失敗、またはクエストを3ヶ月連続で受けないとその資格を剥奪され、以後一年間の除名処分となります。
これは、冒険者の仕事の性質上必要な措置である入都税、入国税の免除を悪用されない様にするためのものです。そのため、冒険者となると、商業ギルドなどの他のギルドに登録することはできません。まあ、登録することは無理でも店を出すなどはできますが。
次に、冒険者の等級について。
冒険者には等級があり、それに応じて受けられるクエストが変わります。
等級は下から、【青銅】【赤銅】【銅】【鉄】【銀】【金】【白金】【ミスリル】【オリハルコン】【アダマンタイト】となります。【鉄】までならある程度の実力があればなることはできますが、【銀】以上となると、ギルド側から提示する試験……まあ、クエストを受けて完遂していただく事になります。また、【金】以上は上位冒険者と呼ばれ、クエストの依頼者には貴族や大商人といった方も多くなるため、それなりの礼儀作法がわかっているという前提が必要となります。
勿論、ランクが上がれば待遇も良くなります。
最後に冒険者ギルドのルールについてです。
冒険者ギルドは基本的にどの国家にも属さない中立組織です。戦争が起ころうとも、ギルドとして戦力は出しませんし、ギルドから戦争を起こすこともしません。ただし、国家からの依頼で戦争への参加というものも存在します。その依頼の受注に関しては自己責任です。
冒険者は基本的に自由な職業です。
しかし、町中で犯罪を行えばその資格は剥奪されます。
また、ギルドとして見過ごせない問題……モンスターの氾濫などが起きた場合、一定水準に達している冒険者は強制的に依頼を受けていただきます。これに関しての拒否権は基本的に無いものとお考えください。
それと、倒したモンスターの素材はギルドで買い取りやオークションへの出品の代理も行っておりますので、是非ご利用ください。
また、ギルドでは預金を承っていますので、そちらもよろしければご利用ください。預かったお金はどこのギルドでも共通で引き出せますので」
「わかりました」
ルーシアの説明を聞き、澪夜はしっかりと返事をした。
「なにか、ご質問はありますか?」
「一つだけ……」
「なんでしょう?」
澪夜は控えめに口を開いた。
「ご飯が美味しい宿を教えて下さい」




