Quest19 王都へ
クラウディス王家筆頭剣術指南役カガ家と言えば周辺国の貴族で知らぬ者は居ない剣術の名門だ。その祖先は北方の小国の出身であり、6代前の国王に雇われた傭兵であった。
曰くその剣は夜空に浮かぶ三日月の様に美しく、
曰くその剣閃は煌めく流星の如く、
曰くその戦いは修羅のようだったと、知られている。
そして、国王からの叙爵を悉く断り続け、唯一地位として受け取ったのが王家筆頭剣術指南役というものだった。その地位と叙爵を受けないという姿勢は代々受け継がれ、今もそれを守り続けている。
だが、そんな剣術に於ける名家には極一部の人間しか知らない秘密がある。
それこそが澪夜と出会ったカガ家先代当主カガ・ムラマサが口にした【妖刀の一族】という言葉であった。
◇◆◇◆◇
翌朝。
澪夜の異世界生活三日目。
澪夜の足は王都クラウディリアに向いていた。
カール村から王都までの距離は徒歩で3時間ほどだ。長閑な草原地帯をのんびりと歩きながら、澪夜は予定をたてていた。
まずは王都へ入り冒険者ギルドに登録する。
その後は適当な宿を探し、王都に少し滞在してから別の街へ。
というのが、澪夜の考えている予定だ。
澪夜のこの世界での目的。それは貴族になることや富豪に成ることなどではない。折角の異世界。それを観光しようというのが目的だ。
王都の門に並んでいる人間は前日に比べるとかなり少なかった。だが、代わりに怪我をしている冒険者と思われる者たちが並んでいる人々の横を通り抜け、王都へと入っていった。
「はい、つぎ」
門に並んでいる人々を観察しながら待つこと凡そ一時間。
衛兵に呼ばれた澪夜はチャリンと音をさせコートのポケットから大銀貨を取り出した。
「身分証を」
「ああ、すいません。私は超の付くど田舎にいた者で身分証を持ってないんです」
「ん?ああ、辺境出身か。それなら仮身分証を発行しないとな。入都税と別で金が掛かるけど大丈夫か?」
「大丈夫です。ご迷惑お掛けします」
「それならいい。よし、行くか…………おーい、ちょっと変わってくれ!」
衛兵に連れ添われ澪夜は門の詰所の中に入った。男だらけではあるがきちんと整理整頓され、清潔だった。
「兄ちゃんも冒険者志望で王都まで出てきたのか?」
「ええ、まあ。元々、山奥の小屋で兄と暮らしていたのですがその兄が亡くなったので、街まで出て来たんです」
「そりゃ……災難だったなぁ」
澪夜は予め……というか昨日の夜に作った素性を衛兵へ話した。
「さて、そこに座ってくれ兄ちゃん」
「はい」
「仮と言っても身分証は身分証なんでな。作るにもいくつか手順がある。これからいくつか質問するからそこの石板に手ェ置いて答えてくれ」
「わかりました。その前に訊きたいんですがこれは?」
「ああ、これか。【審判の石板】って名前の魔導具だ。嘘を吐いたかわかるってだけのもんだが役に立つ」
「なるほど。ありがとうございます」
「いいってことよ。はじめてもいいか?」
「はい」
「名前は?」
「姫神澪夜……姫神が苗字で、澪夜が名です」
「ヒメガミ・レイヤ。北方で見られる名前だな。よし、次だ」
「はい」
「性別は?」
「男です」
「年齢は?」
「18歳です」
「王都へはなにしに来た?」
「冒険者になる為……それと観光のためです」
「嘘は無さそうだが……本当に冒険者になるのか?他にも仕事はあるだろうに」
「まあ、薬師もやってたことがあるのでそういうのも多少できますが……やっぱり憧れるじゃないですか、冒険者」
「わからんでもない。最後だ」
「はい」
「今までの答え総てに偽りは無いな?」
「はい」
「よし、終わりだ。これが仮身分証だ」
衛兵は名刺くらいの大きさの紙を澪夜に渡した。
「そいつの期限は一週間。それまでに身分証を作らなきゃならん。
市民として登録してもいいし、どっかの教会に入って……といっても国の認可をうけたとこだけだが、洗礼を受けて身分証を作ってもいいし、どっかのギルドに入っても良い。ああ、間違っても裏の闇ギルドには入るなよ。
それと、そいつの期限が切れちまったらそいつはその瞬間不法入国扱いだ。もし、期限までに身分証をつくれなかったら三回までなら再発行がきくからそんときはそれ持ってここまでこい。
なにか質問は?」
「ないです。いろいろありがとうございます」
「気にすんな。ああ、言い忘れてたな。ようこそ【クラウディリア】へ」
衛兵は人の良さそうな笑顔でそう言った。




