Quest14 信用
「いえ、お忙しいでしょうし、また今度お伺いさせていただきます」
澪夜は内心思ったことをおくびにも出さず、あくまで丁寧に、そして敬意を持っていると錯覚させるように答えた。
「夜も深まってきたことですし、自分は失礼させていただきます。それでは」
その上で、ティファナたちから離れる為にそんな事を言う。理由は実におかしいが、澪夜は特に気にすることなく言う。
ここで、もしティファナが素直に援助を求めたのなら、澪夜はもしかしたらそれをするかもしれない。
ただ、そんなことがティファナに分かるわけもなく、なにを言うこともできなかった。
「待ってくれ」
しかし、行こうとする澪夜を止める者が居た。
ティファナではない。止めたのは軽装の男──シンだ。
澪夜は後ろに振り返る。
「なにか?」
「こんなことをアンタに頼むのは図々しいことだというのは承知しているが……俺達を助けてくれないか?」
「断る」
澪夜は即答する。
「それをして、俺になんのメリットがある?」
「それは……」
「第一に、アンタらの頭はそこのお嬢様だろ。
そのお嬢様には、そんなことを言われていないぞ?」
澪夜が断る理由は、簡単なリスクとリターンの計算とちょっとした個人的な感情による。
リスクはティファナに何かあった際に何をされるかわからないというもの。ただ、公爵家の娘という時点で大事になるのは間違いないと考えている。リターンは公爵家との繋がり。この程度だろう。しかし、それは別件で得られることが決定している。
よって、この件に関しては、リスクのみ。自分の納得できるリターンは得られないと澪夜は判断した。
また、個人的な感情だが、それはティファナが正直に言わなかったことが原因となる。まあ、言われたとしても先述の理由で断っただろうが。
「貴様……先程からグダグダと。調子に乗るなよ」
「お前には言ってない。黙っていろ。
それとも、騎士というのは主君の代わりに返答する仕事でもあるのか?そうなると、国なんてものはすぐに消えるだろうな」
盗人騎士が吠えるが、澪夜は辛辣な言葉を返す。
その言葉が気に触ったのか、盗人騎士フレイドは剣を抜き、その場から動けなくなった。
「《闇縛・刺棘》」
闇によって生み出された無数の鎖がフレイドを拘束する。
その鎖はフレイドを締め付け、その棘はフレイドの鎧に傷を付ける。だが、これは序の口。この魔法の真価は、この棘を術師が自在に操れることにある。
「ぐっ、離せ!」
「おぉ〜、コワーイ。
てか、離すわけねぇだろ。なんで自分に害意のあるやつを離すんだ?マゾか?」
澪夜はおどけた様子から一転、冷めた視線でフレイドを貫く。
その視線を真っ向から受けたフレイドは思わず口を噤み、少しして羞恥にかられる。
「で?もう行っても?」
澪夜はフレイドから目線を外すと、シンを、そしてティファナを見る。
「い、いえ!待ってください!」
次に声を掛けても澪夜は止まってはくれないだろうと察したティファナはまだ一応話を聞く姿勢を取っている澪夜に縋るような声音で、言葉を掛ける。
「王都まで……【クラウディリア】まで一緒に、来てくださいませんか?」
彼女の口からやっと紡がれた言葉は、そんなものだった。
「お断りします」
そして、それに対する澪夜の答えは変わらなかった。
「なぜ……でしょうか?」
「信用できないから」
ティファナの疑問に澪夜はそう答える。
「公爵家?
俺はそんなものは知らないし、まず言わせてもらえば、アナタは誰だ」
「貴女は自分から名乗ったか?
俺はそこの男が自慢気に誰かの名前を言ったことしか記憶にない。この時点で信用ならないだろう。
それに、だ。
その男の態度。なぜ、助けた側の俺が不利益を被らなければならない?しかも、殺しにきた。もし、貴女方と共に行ったとしても、いつ寝首を掻かれるかわかったものではない」
「これで、お分かりになりましたか?
信用できない者──それも自分を殺しに来るような者が居るような集団と行動を共にするほど、俺は人間できてないし、罵られても共に行くようなお人好しでもない」
澪夜はそこまで言うと、コートの裾を翻し、完全に背を向け……少し歩き、ティファナの足下にナイフのようなものを投げた。
「そのナイフを起点にして半径10メートルの球」
「え?」
「その範囲内なら安全だ。あと五回は使えるだろ、有意義に使うといい」
澪夜が投げたのは【聖浄なる護剣域】というナイフ型のアイテム。その効果は、ナイフを中心とした半径10メートルの球形の中へ害意を持つものを入れないというものだ。因みに、エリュシオン・オンラインでの効果はモンスターの侵入を防ぐというものだった。
そして、それだけ伝えると澪夜は再び歩きはじめた。




