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好きな子と幽霊のボスを倒してみた

「じゃあ、開けるぞ」



「扉を開けたら、いきなり攻撃が飛んで来る時もあるわ。慎重に開けなさいよ」



「わかってるよ」



ミカナから注意が入るが、そんなことは俺だってわかっている。



例え、開けた瞬間にナイフが飛んでこようが俺ならキャッチしてやるぜ。


「……期待」



「何にだよ。言っておくけど、ボケはなしだ」



わくわくしているハピネスがいたので、釘を刺す。

ここでネタに走る必要性を感じない。



「ヨウキさん、気をつけてください」



「了解……っと」



そっと静かに扉を開け、中を覗く。

扉の先には偉そうにソファーに座る王冠を被った骸骨がいた。



「なんか、王冠被った骸骨がいるぞ。すごく偉そうな感じで座ってる」



いかにも私はボスです、偉いです、みたいなことを体現しているような感じだ。



「アンデッドキングね。珍しいわね、こんな所にいるなんて」



「キングねぇ……強いのか?」



「……見せかけ」



「まじかよ」



あの王冠はただの飾りだと言うのか。



「アンデッドキングは普通のアンデッドが多少の知恵をつけた魔物です。個体の強さは普通のアンデッドとあまり変わりません」



「残念だな、アンデッドキング。完全に名前負けしているじゃないか」



戦いになったら、速攻でまず王冠を狙おう。

王冠落としたら、もうただのアンデッドにしか見えなくだろうし。



アンデッドキング? にしてやる。

……別に恨みとかあるわけじゃないけど。



「……何かたくらんでませんか」



「セシリアってソフィアさんから、読心術でも学んだの?」



「ヨウキさんが考えていることが、最近わかるようになってきました」



「そんなに何か考えている時、俺って顔に出てるのかな」



ポーカーフェイスの練習した方がいいかも。



「ほら、雑談は終わってからやりなさい。行くんでしょ」



「あ、すみません」



「悪い悪い……じゃあ、俺が先頭で。いくぞ!」


俺は勢いよく、扉を開ける。

さっき覗いた時点で奇襲はないとみた。

堂々と派手な登場が出来る。



「ナ、ナンダ」



「俺の名はヨウキ! この館に無断で住み着きだした哀れな亡者たちを天に還すために参上したぜ」


ビシッとアンデッドキング相手に決める俺。

どんよりした空気の館に長時間いたので、気分を一新させようと思ったのだ。



「……失笑」



「オイ、シンニュウシャダー」



唯一反応をしてくれたハピネスから、きつい一言をくらう。

アンデッドキングも俺をガン無視して、仲間を呼んでいるし。



「仲間は呼んでもこないわよ。あらかたセシリアが浄化しちゃったからね」



「ナニ!?」



「残るアンデッドはあんただけってことよ」



「……覚悟」



ハピネスとミカナが武器を構える。



「ヨウキさんも行きますよ」



「俺さ、ヒーローが沢山いる町に行きたいなー」



「帰ってきてください。ほら、ミカナとハピネスちゃんは戦闘を始めようとしてますよ」



ミカナは絡まずにスルー、ハピネスからは失笑をしてから、失笑って言葉まで発せられた。



厨二スイッチを久々に入れたけど、強制的にオフにされた感じだ。

あの二人、組むと意外と凶悪だな。



「おおっし……やるぞ!」


セシリアが味方な内に立ち上がる。

これ以上どんよりしていたら、セシリアのやばいスイッチを入れかねない。



「復活しましたね。では、行きましょうか」



「任せろ。狙うはあの王冠だ」



≪瞬雷≫を発動し、一気にアンデッドキングに近づく。

俺の役目は敵の足止め。


俺がぶっ倒してもいいけど、力任せに倒したら館を散らかすことになる。セシリアの魔法で浄化するのが一番、効率が良い。



俺は素早く動き、フェイントを入れつつアンデッドキングを牽制。



身の丈にあってない微妙に装飾が派手な剣を振り回してくるが、俺には当たらない。



「ふっ、剣が止まって見えるぞ。その程度か!」


「クッ、アタラヌ」



一度言ってみたかった台詞を言いつつ、隙を見てアンデッドキングに蹴りかかった。

もちろん狙いは頭の上の王冠。



俺の蹴りは見事にクリーンヒットし、カンっという音とともに王冠が宙を舞う。



アンデッドキングの後ろに虚しく落ちる王冠。

これでやつはただのアンデッドだな。



「ア、アア。アアアアアア」



「ちょっ、おい!?」



いきなり喚きだし剣を放り捨てたアンデッドキング。

そのまま俺に背を向けて、王冠の元に走っていく。



無事かどうかを確認し、ほこりをとるように手で撫でている。

そんなに大切な物だったのか、あの王冠。



「……最低」



「いや、待て」



「……鬼畜」



「だから違っ……」



「……外道」



「弁明させろよぉぉぉ!」



知らなかったんだよ、そこまで大事な物だったなんて。

あんなん、ただの飾りだろうなみたいな解釈だったんだよ。



「はいはい、漫才終了ね。あんたたち、依頼の度にやってるの? よくネタ尽きないわね」



別に好きでやっている訳じゃないぞ。

……まあ、楽しい時もあるけどな。



こんな台詞、ハピネスやデューク、シークには絶対に言わないが。



「……敵」



ハピネスが指差す先には、王冠と剣を拾ったアンデッドキングが剣を振りかぶり、突進してきていた。


「ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ、ヨクモ!」


狙いは完全に俺で酷くご立腹の様子だ。

口の骨をカタカタと震わせて迫ってくるのは、結構ホラーな気分を味わえるな。



「王冠のことは悪かったよ。だったら、こっちだ」



俺は向かってきたアンデッドキングを最小限の動きで避け、剣を持つ手に蹴りを入れた。



今度は剣が後ろに飛んでいき、地面に落ちる。

静寂が場を支配し、勝敗は決したみたいな空気が流れた。



「マケタ」



アンデッドキングはその場で大人しく座り込む。 頭に被っていた王冠を手に取り別れを惜しむかのように見つめだした。



「随分と潔いわね。もう抵抗しないの?」



「マケタノダ、ワタシハ」



がっくりと項垂れているアンデッドキング。

もう早く止めを刺してくれオーラが全快だ。



「セシリア、なんかもう覚悟決めているっぽいし。一思いに≪ホーリーサークル≫頼む」



「わかりました……が。一つだけこの方に聞きたいことがあります」



「聞きたいこと? 相手は魔物よ」



ミカナがどうしてまたといった表情になる。

この感じ、何処かデジャヴュだ。



セシリアが止めを刺せる状況で相手に何かを聞くって。



「あなたは何故、そこまで王冠を?」



「ワタシハ、ワタシハコノオウカンガ、タイセツダッタ。ナゼカハワカラヌ。タダ、タイセツダッタ」



「大切……ですか。アンデッド化した死体の生前が何処かの王だったのかもしれませんね」



「ちょっと、セシリア。もう良いんじゃないの?」



「……わかりました。大事な物なんですよね、でしたら、一緒に送って上げます」



セシリアが杖に魔力を込める。

≪ホーリーサークル≫の発動にしては時間をかけているな。

もしかして、違う魔法を使おうとしているのか。


「≪ヘブンズロンド≫、光属性の上級魔法ですよ」



アンデッドキングの周囲に淡い光が立ち込める。 何か聞こえるようで聞こえない不思議な気分だ。


アンデッドキングには俺には聞こえない何かが聞こえているみたいだ。

骸骨なのに、何かを聞き入っているような表情が窺える。



「ア、アア。ナツカシイヨウナキブンダ。コエガ、キコエル。アノヒトノ……」



そう言ってアンデッドキングは周囲に溶け込むように消えてしまった。

王冠はもちろん、俺が蹴り飛ばした剣もなくなっている。



「ふぅ……」



セシリアは構えていた杖を下ろし、一息つく。

上級魔法って言ってたよな。



ここに来るまで≪ホーリーサークル≫連発したし、上級魔法使って大丈夫だったのか。



「ちょっと、セシリア。何で≪ホーリーサークル≫使わなかったのよ。充分浄化出来たでしょ!?」



「いえ、少し不安があったんです。だから、≪ヘブンズロンド≫を使いました」



「嘘、セシリアなら≪ホーリーサークル≫で……」



「ま、アンデッドはこれでいなくなったっぽいし。いいんじゃないか」



セシリアにも何か思うことがあっての行動だろう。

館からアンデッドは消えて依頼も達成したしな。



「……達成?」



「館から嫌な気配も感じないし、もう大丈夫だろ」



「……達人(笑)?」



「いや、ノリで言っただけだ。実際にボスは倒したし、あらかた部屋も確認していなかっただろ。あと、達人(笑)は止めろ」



わざわざかっこ笑いって言わんでいい。



「確かにそうね。細かいことは良いわ。じゃ、帰りましょうか」



「いや、やっぱり確認は大事だ。二人で最後に館を一周してきてくれ」



「はあ!? そう思うならアンタが行きなさいよ」


「……同意」



「とっとと、ボス戦未参加組でレッツゴー」


嫌味を含めた棒読み口撃をくらわす。

いってらっしゃーいと手を振るのも忘れない。



「ぐぐ……馬鹿にしてるわね。でも事実。わかったわ、行くわよ。ほらさっさと一週するわよ」



「………………了承」



ハピネスが葛藤していたようだが、最終的に納得してくれた。



「俺たちは先に馬車に戻ってるからなー」



部屋を出ていった二人に聞こえるように、大きな声で叫ぶ。

先に帰ったら殺すわよと脅し文句が返ってきた。


失礼だな、セシリアがいるのだから、そんなことするわけないだろうに。


「さて、セシリア。おんぶと肩貸すのとお姫様抱っこどれがいい?」



「すみません。肩をお借りします……」



フラフラと地面に座り込むセシリア。

やっぱり立っているのもやっとの状態だったか。


「肩貸しても無理そうだけど」



顔色はそこまで悪くないけど、無理はしない方が良いだろう。

とりあえず、水を渡そう。



「はい、ボトル」



「ありがとうございます……」



ごくごくと水を飲むセシリア。

少しは回復してくれればと思っての行動だ。



食い物もあればよかったのだが、持ち合わせがない。



「生き返った?」



「はい、ううっ……」



力を入れているみたいだけど、立ち上がれないっぽい。

杖を使っても無理そうだ。



「セシリア、お……」



おんぶかお姫様抱っこか。

おんぶだとこう……あれだ、問題があるな。



「よし、お姫様抱っこでいこう」



「え、ヨウキさん!?」



セシリアの意見は聞かずにお姫様抱っこをして、館の出口まで走り出す。


二人を理由つけて追い出してのが正解だったな。 セシリアに気を遣ったのだけど、これは見られたくない。



「ヨウキさん、これは恥ずかしいです……」



「大丈夫、俺二回目」



ティールちゃんの故郷、ダガズ村にて一度抱っこしてます。



「へ、私覚えがありませんよ!?」



「だって気絶してたし」


してたっていうか気絶させたんだけど。



「あ!」



「心当たりあった? 思い出したところ悪いけど。全速力でいくから。二人に見られたくないし」



ダガズ村では村人たちのほとんどに見られたけど。

あの二人に見られたら、しばらく茶化されるだろうからな。



俺はセシリアに負担がかからない程度に全力で走った。







次回でこの章は終わりそうです

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