好きな子の二つ名の由来を聞いてみた
お久しぶりです。早速一ヶ月丸々、放置してしまいました、すみません。
「料理、買い物、お金の管理。ほとんどセシリアが請け負って、てきぱきとこなす様子を見て、勇者様がセシリアに一言言ったらしいのよ」
「一言?」
「お母さんみたいだって」
「お母さんて……」
あいつは何を考えているのかと思う。
確かにセシリアは気が利いて、家事をこなせて、人を癒す。
母性の塊のような性格の持ち主だ。
だが、お母さんとはちょっと違うだろう。
ユウガは母親がいなくて、それで、セシリアに母親の姿を重ねてしまったということか。
「ユウガに母親はいますか?」
我ながらまぬけな質問をしてしまった。
どうやってユウガは産まれたんだよって話だ。
「ちゃんと、ご存命よ。以前のパーティーで会ったもの」
「あ、ですよね」
姿を重ねたわけではなさそうだ。
ユウガの思考は、主人公ではない俺には理解出来ないということか。
「野宿の準備をしていて、勇者様の料理を渡した時に言われたそうよ。セシリアったら、料理を手渡している最中だったのに、十秒くらい固まっちゃったらしいわ」
笑いながら話すセリアさん。
この情報は誰から仕入れたのか。
自分の黒歴史をここまで詳しくセシリアが話すとは思えないが。
「あの、今の話はセシリアから聞いたんですか?」
「セシリアが話す訳ないじゃない。ミカナちゃんから、聞いたの。その時はセシリアの話じゃなくて、勇者様の話をしていたんだけどね」
「ユウガの話ですか。セシリアにユウガがどんな失礼を働いたかを報告していた最中とか」
「正解よ、ヨウキくん」
パチパチと拍手を送られる。
適当に言ったことが当たるとはな。
「それで、そのユウガのお母さん発言がどう転がって二つ名に?」
「セシリアがその時に何も言わなかったせいかしら。勇者様がその後も、お母さんみたいって連呼したみたいで。その様子を見ていた町村の人々がセシリアに聖母ってつけちゃったみたいね」
「ユウガが完全に悪いな」
セシリアも聖母じゃなくて、聖女なら許していたと思う。
どうして頑なに聖母が嫌いかはわからないが……年を気にするタイプなのか。
「ヨウキくん、絶対にセシリアに今日話したことは内緒だからね」
「あ、はい。絶対に秘密にします」
「あと、セシリアに年齢のこととかは聞いちゃダメよ?」
「いや、それはわかっています」
セシリアに限らず、女性に対して年齢のことはタブーだ。
「そう、ならいいわ。じゃあ、年齢以外のセシリアの秘密を教えて上げるわね」
セリアさんは楽しそうな笑みを浮かべている。
これは確実に聞いてはいけないことを言おうとしているな。
「セリアさん。セシリアがいないからって暴露話をこれ以上するのは良くないかと」
「あら、そう。せっかくセシリアがどうやって体型を維持しているかについての話をしようかと思ったのに」
「それ絶対に話しちゃいけない話題ですよ」
「奥様、私もお嬢様の名誉に関わることですので、さすがに止めさせてもらいます」
女性が裏でしている努力についてとか知ってはいけないと思う。
こんなこと聞いたらセシリアになんと言われるか。
ソフィアさんも止めたからか、最初から話す気がなかったのか。
セリアさんは冗談よと言い、含み笑いを浮かべている。
どこまで本気なのかと疑ってしまうな。
「そういえば、セシリアが体術の練習を始めたのよね。ヨウキくん、何か聞いてる?」
「いえ、特に聞いてないです」
前に体術を教えて欲しいみたいなことを言っていたな。
やばい、良いよって言っておいて忘れてた。
「シークくんと庭でよく練習しているのよ。体術だけじゃなくて、木の棒で打ち合いなんかもやっていたわ」
「セシリアって僧侶ですよね。剣士に転向でも考えているんでしょうか」
「僧侶でも時には自分自身を守らなければならない時があります。ですから、お嬢様は護身用に体術を練習をしているのかと」
「なるほど。ソフィアさんがセシリアに体術を教えるとかは?」
一緒に依頼を受けて鉱山に行った時、凄まじい動きを見せていた。
棒術とかはわからないけど、体術はソフィアさんの専門だろう。
ソフィアさんの動きをセシリアが出来るようになったら、びっくりするけどな。
「私は構いませんが、夫が五月蝿く止めに入るかもしれません」
「ソフィアの旦那さん面白いわよね。メイドの時はメイドをしろって。私が用事で遠出した時、警護の兵士よりも先に出てくる魔物を倒しちゃってね」
メイドとして着いていったはずなのに、一番早く動いて魔物を倒すとか。
「さすが、ソフィアさんですね」
「最終的に、兵士たちの仕事を奪わないでって私が止めに入ったのよね」
「はい。敵意を察知したら直ぐに無力化する。そんな、ギルドにいた頃の感覚が働いてしまったようです。奥様に注意された後は、馬車の防御に徹していました」
「それでも馬車の守りを固めていたんですね」
使用人も守られる立場だと思うのだけど。
ソフィアさんの場合は最後の砦って感じになっているな。
弱々しいメイドなんていないのではないだろうか。
ソフィアさん、ハピネス、ティールちゃん。
俺の知り合いのメイドさんは全員がいろんな意味で強い。
「ヨウキ様。私たちメイドは護身用の力を備えているだけです」
「いやいやいやいや。明らかに不必要なくらいのスキルを備えていますよね」
その気になれば岩をも砕くかかと落としを出来るとか。
飛び蹴りでリザードマンを軽く吹き飛ばすとか、メイドがやることじゃないよね。
「護身用です」
「ヨウキくん。メイドだけでなく、女性は自分を守るために強さが必要な時もあるのよ。それに、ソフィアはギルド上がりだからね」
「……そういえば、そうですよね」
メイドに夢を持っているわけでもなかったし、考えてみたら大きなお世話だよな。
「体術のこと、今度セシリアに聞いてみます。俺も体術得意なんで」
「ありがとう、セシリアも喜ぶわよ。苦手分野で、四苦八苦していたところだったみたいだから。シークくんとヨウキくんならセシリアもレベルアップ出来るわね」
「任せて下さい」
「因みにセシリアが体術の練習を始めたのは運動不足のためとかじゃないからね。体型の維持も関係ない……」
「奥様、ヨウキ様が誤解されるような発言は控えて下さい」
ソフィアさんがセリアさんを止めに入る。
そんなこと言われると、セシリアが体術の練習を始めた理由がダイエットのためなのかと思えてきた。
「あの、俺そろそろ帰ります」
これ以上、セリアさんに遊ばれたくない。
セシリアの情報を聞けるかもだけど、セリアさんがいつ爆弾を投下するかわからなくて怖いし。
ソフィアさんが止めに入ってくれている間においとましよう。
「また、今度お話しましょうね〜」
「奥様。シーク様の口調が移っております」
「はい。今日は貴重な話をしてくれてありがとうございました。失礼します。……ソフィアさん、ありがとうございました」
最後に小声でいろいろフォローしてくれたソフィアさんに感謝の言葉を呟き、屋敷を出た。
「どうするかな……」
宿に帰ってきたものの、これといってすることがない。
セシリアのことを考え、情報を集めていたが。
「レイヴン、ミカナ、セリアさんにソフィアさん。協力を頼んで得ることが出来た情報がセシリアの禁句についてだからな」
嫌われたくないなら、言葉に気を付けようね的な。
「結局、どうすりゃいいんだ俺は」
現状維持でいいのかな。 屋敷に行って、お土産のお茶菓子を摘まみながら、セシリアが入れた紅茶を飲みつつ談笑。
自然と好感度が上がっていたりすることを祈るとかさ。
「情けないな、俺」
男なら行動しろと知らないおっさんが俺の脳内で語りかけてくる。
このままじゃ、お前は大切な誰かを失うぞと力説するおっさん。
後悔する前に行動しろ、変化を恐れてはダメだと励ますおっさん。
止まらない知らないおっさんの後押し。
「ああ〜、うるさい! ちくしょう。こっちだって悩んでんだよ。知らないおっさんは出てくんな」
よくわからないおっさんを脳内から追い出し終わったところで真面目に考える。
結局、どうすればいいのか。
「よし、セシリアの前で聖母って言わないようにしよう」
決意したはいいが、これで何が変わるかと言われたら変わらない。
もう、どうすればいいんだろ俺。
「さっきからブツブツと一人言が多いな。何を悩んでいるのだ」
「あ、悪い。起こした」
口に出して考え過ぎたな。
寝ていたガイを起こしてしまった。
ティールちゃんのヒモと化していることが発覚して傷心だというのに。
「気にするな。寝てばかりではダメだと我輩、思っていてな。何か出来ないかと自分なりに考えている。良い案は浮かばんがな」
自由に外に出ることが出来ないからな。
ギルドの登録も出来ないし。
夜にこっそりと抜け出して、探索や魔物を討伐。収集した物を俺が売るっていう手段もあるけど。
万が一見つかったら、直ぐに騎士団やユウガが飛んでくるからな。
ガイの労働方法については追々考えよう。
「今は俺も自分のことでいっぱいいっぱいだ」
「……色恋か。我輩にはさっぱりだ。押すだの引くだのという駆け引きは面白いと思うがな」
「そんなに単純じゃないし、悩んでいる当人は面白くねぇよ」
一度引いて、ここで押せば恋愛成就……っていうタイミングがわかればな。
そもそも、恋愛は駆け引きじゃないか。
「ふむ、やはり我輩には難しい」
「だよなぁ。うーむ」
あまり変なことをして説教の展開にはなりたくない。
ありきたりなヒーロー物を想像してシンプルに考えてみよう。
ピンチに陥るヒロイン、かっこよく助ける主人公。
王道なストーリーならそこで恋が生まれたりする。
「よし、この作戦でいこう」
「決まったのか?」
「ああ。名付けてこれで俺も主人公作戦だ」
「今まで小僧は自分をどう評価していたのだ……」
「これで俺も真の主人公になるぞ」




