好きな子の二つ名について聞いてみた
相棒の携帯が壊れました。
慣れないパソコンで打ったので、誤字、脱字がいつも以上に目立つかもしれません
「どうも、お勤めご苦労様です」
「ん、ああ、お嬢様のご友人か」
俺はアクアレイン家の屋敷に来ている。
もちろん約束はしているので、迷惑なことはしていない。
門番の人はもう屋敷に来る度に軽く挨拶をしてくれるくらいになった。
俺を門前払いした門番とは全く違っていて助かる。
「しかし、今日はお嬢様が神殿での勤めがあるため外出しているぞ」
「ああ、今日はセシリアじゃなくて、セリアさんに会いに来たんですよ」
「奥様にですか!?」
「はい」
何故か驚いている門番そっちのけで、開けられた門をくぐる。
別に驚くことじゃないだろうにと思いつつ、出迎えてくれたソフィアさんに案内され、応接室に向かった。
「ヨウキくん久しぶりね。元気だったかしら。セシリアとは上手くいってる?」
「お久ぶりです、セリアさん。セシリアとのことに関してはノーコメントで……じゃだめですよね。良好だと俺は思いたいです」
部屋に入って早速答えづらい質問をされた。逃げの回答しようとしたが、ここは逃げずに自分の気持ちを率直に答える。
「そう。まあ、娘の様子を見るに問題はないから、大丈夫だとは思っていたけどね」
「じゃあ、なんで質問したんですか」
「娘の様子が変わっていないってことは、特別なにも起こっていないってことなのよねえ。……ヨウキくん」
セリアさんは微笑を浮かべているが、俺はああとか、おふなど意味不明な単語を口にするしか出来なかった。恋愛イベントなど起こっておらず、むしろ、友人のレイヴン元部下のハピネスにフラグが立っている。
俺とセシリアの方が出会いは早かったはずなのに、何故だ。
「ヨウキ様、こちらに」
立ったまましどろもどろしている俺を見かねたソフィアさんが、椅子に座るよう案内してくれた。
ぺこりと頭を下げて椅子に座るといつのまに用意したのか、目の前のテーブルに紅茶とお茶菓子を置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「お客様には当然の対応です。お気になさらず」
ではごゆっくりとソフィアさんは扉の前で一礼し、部屋から出ていこうとする。しかし、セリアさんが声をかけ、呼び止める。
「待ってソフィア。今日はあなたにもいて欲しいんだけど駄目かしら」
「私がですか? 」
表情には出していない明らかに不思議がっている様子だ。俺も今日、何故呼ばれたのか知らない。
ソフィアさんにもいて欲しいということなので、ますます何をするのかわからないな。
セリアさんがこくりと頷くとそれ以上の言葉は必要なかったらしい。
ソフィアさんはすたすたと歩き扉を離れ、セリアさんの横についた。
「さて、セシリアの様子についてだけど、その話は終わりね。元々、話す予定じゃなかったし」
「へ?」
「ごめんね、ヨウキくん」
悪戯っぽく笑うセリアさんを見て、おちょくられたのだと気付く。
ソフィアさんはわかっていたのか、やれやれとといった感じだ。
おちょくられたこちらとしてはたまったものではないのだが。
「け、結構焦りましたよ」
「うふふ、ごめんね。でも、ちょっと期待しているのよ。あのセシリアが若者らしい……少女のように悩んでいる姿をね」
「いやいや、その言い方はちょっとあれじゃないですか?」
まるでセシリアの悩みが若者らしくないというように聞こえる。
今まで、セシリアから物事の相談を受けたことがないのでわからないが、いくらなんでも失礼な気がする。
「うーん、ヨウキくんてセシリアの二つ名って聞いたことないわよね」
「はい、つい最近、知るチャンスはありましたが、セシリア本人によってチャンスを潰されてしまいました」
「そういえば、先日、セシリアが滅多に見せない表情でミカナちゃんを引きずるようにして自室に招き入れていたことがあったわね。もしかして、その日かしら」
あの後ミカナはセシリアの自室まで連行されていたのか。
今度会ったら謝った方が良さそうだ。
誰もが恐れるセシリアの説教、身にも心にもしみるからな。
「たぶん、その日かと思います。俺のためにいろいろな話をレイヴンとミカナから聞いていたので」
「あら、そうだったの。実はヨウキくんを呼んだのはセシリアの昔話でもしてあげようかなと思ってね」
「え、いいんですか……って、いや、待てよ」
嬉しいお知らせだが、タイミングが良すぎる気もするな。
俺が知りたがっていた情報がこんなに都合よく舞い込んで来るだろうか。
もしかしたら、またセリアさんの掌の上で転がることになるのではと思ってしまう。
「疑うのも無理ないわよね。実はミカナちゃんに頼まれたのよ。ヨウキくんにセシリアのお話してあげて下さいってね。申し訳ないけどって言ってたわ」
義理堅いミカナはセリアさんに後のことを託したみたいだ。
「そうだったんですね。いいんですか、俺聞いても」
「うふふ、何か問題あるのかしら。出来がよくてかわいい自慢の娘の話をしたがらない親はいないわ」
「確かにそうかもしれませんね」
「奥様、話すのは構いませんが、お嬢様のことも考えた上でお願いします」
「わかっているわ。そのためにソフィアを残したんだもの。私が口を滑らせそうになったらお願いね」
「かしこまりました」
「ヨウキくんを痛みもなく一瞬で夢の世界に連れて行ってあげてね」
「いやいや、何とかされるのは俺なんですか!?」
セリアさんが口を開いた瞬間、首を極められるか、首根っこをつかまれて部屋の外に投げられるかのどちらかしか想像出来ない。
ソフィアさんを警戒してセシリアの話を聞くどころじゃなくなるのだが。
「安心してヨウキくん。半分冗談だから」
「すみません、ソフィアさんとは一度だけ一緒に依頼に行っているので、強いことはわかっているんです。半分でも全く安心出来ないです」
岩のような外殻を持ったロックリザードを踵落とし見事に粉砕していまうほどの体術の持ち主だとわかっているからな。
俺が本気を出したらとか関係なく、マジで安心出来ない。
「なら、冗談ということにしておこうかしら。話も進まないし」
俺にとっては結構重要なことなんだけどな。
しかし、このやり取りをいつまでもやっている場合じゃないな。
セリアさんもソフィアさんも忙しい中、時間を作ってくれているわけだし、大人しくしていよう。
「そうですね……お願いします」
「それじゃあ、話すわね。私の自慢の娘、セシリアの二つ名についてだけど」
「いやいやいやいや! その話はだめだと思うんですけど」
セシリアがミカナ引きずってまでして止めた、自分の二つ名についての話題だ。
はたして、知って良いものだろうか。
しかしセリアさんはどうしてかしらと疑問を浮かべるだけで、これといって気にしている素振りはないようだった。
「普段は優しくて誠実で、パーティーに招かれたら必ずと言って良いぐらい、羨望の眼差しを受ける私の自慢の娘、セシリアだけど。二つ名は本当に嫌いみたいなの。表情が固まるから直ぐに分かるのよね」
「誰にだって言われたら嫌なことの一つや二つあるかと思うけど」
そこまで頑なになる程嫌がる二つ名ってなんなのだろうか。
聞いてはいけないと思うが、知りたいとは思う。
エターナルフレンドより、酷い二つ名はないと思うけどな。
「聖母。それがお嬢様の二つ名です」
ソフィアさんがあっさりと悪びれることなく、セシリアの二つ名を口にした。
そういえば、デュークにのせられた尾行デートの時に寄った孤児院の子どもたちがセシリアのことを聖母って呼んでいたっけか
「セシリアの二つ名は割と有名だから、その顔は聞いたことがあったって顔ね」
「はい、少し前にセシリアと行った孤児院の子どもたちがそう口にしていました」
「子どもたちにはセシリア好かれやすいから、二つ名が浸透しちゃってるのよね。寄ってくる子は皆小さい子どもばかりだから、強くも言えないし」
「あー、そういや苦笑いしてましたね。普通に遊んではいましたけど」
帰りに聖母について聞いて、カウンター食らったんだったな。
あの時点で俺は地雷を踏んでいたことになるのか。
しかし、聖母とか、母性があって面倒見の良いセシリアにぴったりの
二つ名だと思うんだけど。
「なんでセシリアが二つ名が嫌いかって思っているわよね」
「わかりました?」
「私も最初は良いと思ったのよ。なんでセシリアが拒んでいるのかわからなかった。でも、セシリアも乙女だからね。思うことがあるみたいなの」
年的なことを気にしていたりするってことだろうか。
あまり詮索しない方がいい気がする。
無粋な妄想をし過ぎてセシリアに嫌われたくないし。
「お嬢様も人です。人には触れられたくない、入ってきて欲しくない領域が存在します。ヨウキ様、覚えておいてください」
ソフィアさんの諭すような言葉に俺は黙って頷くことしか出来なった。
俺にだって触れられたくないことはある。
それがセシリアにもあったということだろう。
「ヨウキくんなら、これ以上言葉はいらないわよね」
「はい、ちゃんと理解しました」
「なら、いいわ。……ちなみにセシリアの二つ名なんだけど、原因は勇者様ってことも伝えておくわね」
「え!? その話詳しく教えて欲しいんですけど」
セシリアの二つ名の由来がユウガにあるとはどういうことだ。




