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好きな子の昔話を聞いてみた

「セシリアがいなかったら大変だったとか、そんなに怪我することが多かったのか?」



「……楽な旅じゃなかったけど、そこまでいうほど怪我は多くなかったわ」



「ふーん、ということは僧侶としてではなく、セシリア自身がいなければまずかったということか?」



思いつくのがユウガのお守りという役。

他にセシリアどういった部分で活躍していたのか。



「まず、ユウガの女性問題の解消ね。アタシが行くと余計にヒートアップさせちゃうし、剣士は話せないし、筆談じゃ女の子達は止まらなくてね。ユウガが出ていくと、面倒事が増えるし」



二人そろってため息をついている。

相当、苦労したみたいだ。勇者の癖に問題事を増やすとか、何やってんだ。



「でも、セシリアもユウガの側にいるんだし、女性をヒートアップさせるんじゃないか? 」



「アタシの場合ヒートアップさせたというか、自分がしていたというか……」



「おい!」



最後らへんで声が小さくなっていったが、俺にはバッチリ聞こえたぞ。

こいつ話し合いから、言い合いに発展させやがったな。



『ミカナと違いセシリアは嫌みも言わず、柔らかな笑みと嘘偽りのない言葉で相手を落ち着かせていたな』



「ちょっと剣士。その言い分は、アタシが嫌みったらしかったってことかしら」



ミカナはメモを指差し、顔を近付けて反論する。

レイヴンは気まずそうに目を逸らし、メモをびりびりに破いた。

……今更破いても遅いと思う。



「ま、意中の相手に異性が群がってきたら、いらついたりはするだろ」



「ふ、ふん。そう、そうよ! ア、アタシは、ユウガのことが……す、好きなんだから。その時は冷静になれなかったのよ! 今はある程度抑えているわ。さあ、セシリアの話に戻るわよ」



「強制的に話を変えたな」



「五月蝿いわよ」



余計な一言のせいで睨まれてしまった。

レイヴンも何も書いていないし、スルーした方が良さそうだ。



「分かったよ、ツッコミは無しだ。他にはないのか、セシリアの武勇伝」



「……旅の裏方の仕事をほとんどセシリアがやってたこととか」



また二人がそろって気まずそうに俺から視線を逸らす。



「裏方って買い出しとか、料理とかか? 分担してやれよ」



別にセシリアじゃなくても出来るんだから、ローテーションを決めてやれば済む。にも関わらず、セシリアに全て任せていたとはどういうことだ。



「……セシリアは全部問題なく出来たから、役割が多かったのよ」



「問題なくってどういうことだ?」



「あー、もう鈍いわね。アタシや剣士は苦手分野があって、ローテーションに参加出来なかった分野があるの!」


「二人に問題があったって意味か」ミカナは逆上し顔を真っ赤にし、レイヴンは苦笑いを浮かべている。



「アタシは料理が出来ないのよ、知ってるでしょ。調理環境が整っていても無理なのに、野宿時に皆が食べられる物なんて作れなかったわ。……ちょっとずつ、覚えようとはしていったけど」



「その点、セシリアは野宿時でもちゃんとした料理が作れたと」



屋敷に行ったらセシリアによく紅茶や菓子を貰っているが、全部美味いからな。

旅をしていた時も、料理スキルを遺憾無く発揮していたのだろう。



『因みにセシリアには劣るが俺も料理は作れたからな。セシリアに負担がかからないように、交代で作っていたぞ』



レイヴンが補足情報の書かれたメモを見せてきた。

料理を作れるなんて聞いたことなかったな。

ということは、ミカナの料理スキルはレイヴン以下か。



「おい、レイヴンに負けているぞ。料理スキルは大丈夫か?」



「うっさいわね、余計なお世話よ! 剣士は騎士団で遠征とかあるから、食料不足が発生した時に役立つからって覚えさせられた知識でしょ」



『……まあ、そうだけどな』と小さい字で気まずさをアピールしたメモを見せてくる。

それでも迷惑をかけていない分、いいと思うが。



「料理係は二人か。このタイミングで聞くのおかしいと思うけど……ユウガは?」



パーティーのリーダーで勇者。

ユウガは一体、何を得意としていたのか。

聞かずとも帰ってくる答えはわかるが。



「ユウガも料理作れるわよ」



「あ、まじで?」



予想外の答えに驚きを隠せない。

ユウガは戦う以外の役割を持っていないと思っていたが。



「普通に作れるわよ、アタシより美味しい料理がね」



「ていうことは、料理係は三人か」



後半、声に力が入っていたが無視。

料理でのセシリアの負担はそんなになかったか。



「いや、二人よ」



「何でだよ!」


今の話の流れでは料理スキル持ちは三人いたはず。

スキル持っていた癖にサボっていたのは誰だ。



「ユウガは料理が出来ると言ったけど、していたとは言っていないわよ」



「なんでやらせなかったんだ?」



「作る料理が無駄に豪華だったり、食材拾いに行ったらトラブルも拾って来たり、買い出しに行っては騒ぎを起こすしで……ね」



「成る程、料理以前の問題か」



「セシリアも剣士も料理の度にハプニングが起きるなら、二人で担当するって言っちゃって」



他人が聞いたら良い笑い話だな。

料理の度に緊急クエストが発生するとか。

飯時になって、気を抜こうにも抜けないという。

そんなんなら、二人でローテーション回した方が疲れないわな。



「食材用意して、料理だけやらせればよかったんじゃないか?」



「料理中もハプニングを起こさないか、ハラハラするセシリアと剣士の姿しか想像出来ないわね」



「もうそこまできたら、何かの呪いがかかってるとしか思えないぞ」



勇者の道は常にハプニングが付き纏うのか。

嫌だな、そんな人生……あ、俺は魔族だった。



『料理中にハラハラするとかってのもある。ただ、料理係は食材の調達や管理をしてこそだ。中途半端に料理だけやらせたら、逆に俺とセシリアの負担が増える』とレイヴンが凄く真面目な意見を出してきた。

料理係も奥が深いみたいだ。


「さっきから、偉そうなことばっか書いてるけど、あんたも問題あったの忘れたのかしら」



「そういや、レイヴンも苦手分野があったって言ってたな」



料理はこなしていたみたいだが、他はどうだったのか。

レイヴンに出来ないことといえば。



『こういうことだ』と今書いたメモを指差すレイヴン。

人前で話せないということだが、それがどうマイナスに繋がるのか。



「行く先々の町や村で起こっている事件とかの情報集めで剣士の筆談は致命的よ。パーティーでの旅だし、滞在時間も決まってるのよ。そんな中、一々、紙に書いて情報集めてたら時間が足りないのよ」



『旅の途中で文字を早く書く修業はしていたんだが』とレイヴン。

完全に努力の方向が間違ってるぞ。

しゃべれとは言わないが、早く文字を書く以外にも打開策はあったろうに。



「レイヴンは事情があるし、大目に見るとして、ということは情報収集は主に女性陣二人でやっていたのか」



「さらっとユウガを外したわね。その通りだけど」



先ほどの料理係の話を聞いたら、容易に想像がつく。情報収集をしていて正体がばれ、本来の目的とはまったく違うことをしている姿がな。



「なあ、ユウガは何の役割を担当してたんだ?」



「一般人、それは聞かないで。アタシの口からは言いたくないの、言ってしまったら、ユウガがもう……」



レイヴンは触れないでくれと言わんばかりに、静かに首を横に振っている。

勇者パーティーの旅って結構大変だったんだなあ、主にセシリアが。



「一緒に苦難を共にした仲間にこんな思われかたされるって勇者としてどうなんだ?」



「ハプニングは持ってきてたけど、結果としては誰かを助ける行動に繋がっていたからね。アタシはユウガが勇者で良かったと思うわ」



『いろいろあったが、退屈しない充実した旅だった』と思い出にふけっているのか、何度も頷くレイヴン。流石勇者、あまり役割をこなしていなくても敬愛はされるみたいだ。



ユウガはすごく仲間に恵まれたと俺は思う。

だが、今回の話はこういう締めではない。



「綺麗にまとめようしているところ悪いが、つまりセシリアが食事の準備や買い出し、お金の管理とかも担当していたということでいいか?」



「うっ、よくお金の管理のことまでわかったわね」



「買い出しはセシリアかレイヴン、ミカナが担当してたんだろ。日常品はミカナ、レイヴンは食材で分けて、セシリアが両方受け持ちのお金管理。違うか?」



「そ、その通りよ。剣士に日常品まで買いに行かせたら遅くなるから、アタシが担当していたの。そしたら、セシリアが両方受け持ちの私がお金を管理しますねって言って。何の反論も無く決定したわ」



「セシリアの仕事多過ぎだろ」



買い出しがあればセシリア、お金の問題があればセシリア、ユウガがやらかしたらセシリア、怪我をしたらセシリア。

セシリア大活躍だな、おい。



「アタシ達、かなりセシリアの優しさに甘えてたのかもしれないわね」



『……そうだな』と二人が反省した色を見せている。一番反省すべきはここにいないユウガだと思う。

奴がセシリアにどれだけ迷惑をかけたのか……俺と良い勝負をしてなければいいな。



『旅の話といえば、俺達にはいろいろな二つ名がついて回ったぞ』とレイヴンのメモに俺は食いつく。

俺の黒歴史に認定されている黒雷の魔剣士のような二つ名がセシリア達にもあるというのか。



「ああ、そういえばあったわね。ユウガがさすらう勇者だっけ」



「なんだそれ? 希望の勇者とかじゃないのか。なんだよ、さすらうって」



アンデッドに付きそうな二つ名だが、ユウガみたいなイケメンハーレム勇者には不釣り合いな気がするぞ。


「ユウガは町に行こうが、村に泊まろうが、野宿しようが頻繁にトラブルを連発していたからね。いくら旅をしているとはいえ、時間帯も場所もめちゃくちゃで、ランダムな目撃をされまくった結果ついた二つ名よ」



「阿呆か」



自由気ままに歩き回るから、トラブルを呼び解決。

その度に噂が広まっていったのだろう。

普通に旅をしていればそんな二つ名、つけられないと思うぞ。



「アタシがガーディアンだったかしら」



「いや、それレイヴンの二つ名じゃないのか?」



ガーディアンて、どう考えても魔法使いに与えられる二つ名じゃないぞ。

むしろ、騎士のレイヴンの方がしっくりくる。



「いいえ、間違いなくアタシの二つ名よ。穏健派なユウガのファン達がつけたの」



「ユウガのガーディアンてことか、納得だ。因みに過激派がつけた二つ名は?」



「……エターナルフレンドだったかしら。永遠に友達とか嘗めてるわよ、本当に」



最早虐めの類いだろと思うが、つけた奴のネーミングセンスは中々だ。

ミカナには悪いが、少し吹き出しそうになった。

ユウガと永遠の友達にならないように祈っておこう。



「ところで、レイヴンはどんな二つ名で呼ばれてたんだ?」



「ふふっ、剣士は冷血剣士なんて呼ばれてたわね」



「レイヴン、お前は一体何をしたんだ!?」



いきなりの物騒な響きのあだ名の登場に驚く。

レイヴンにそんなイメージはないんだが、旅で何かやらかしたのか。



レイヴンは弁明文を必死に書いている。

書いている段階で既に、俺は何もしていないと言わんばかりに首を横に振っているな。



『俺はしゃべらずに生活していた。魔物と戦う時も声を出さずに淡々と剣を振っていたんだ。そしたら、何か勘違いされたのか、いつの間にか血も涙もない冷血漢だというイメージがついていて』というメモを見せられ、成る程と納得してしまう。



確かに一言も発さずに魔物を斬り殺しまくっていたら、そういうイメージもついてしまうかもしれない。

普段も話をしないところを見られると尚更だ。



「剣士は筆談をよくしていたから、イメージは直ぐに消えたけどね。二つ名は残ったわ」




「ドンマイだなレイヴン。全然、冷血漢とかじゃないのにな。じゃあ、お待ちかねのセシリアの二つ名は?」



「セシリアは確か……」



「楽しい話をしているみたいですね」



ミカナが言いかけたところで中断される。

会話を中断した声の主はセシリアだった。

全員が何故此処にといった感じで固まる。



俺達の意思を読み取ったのか、セシリアが説明を始めた。



「ミカナに話があって、家を訪ねたら留守でしたので帰ろうとしたのですが。ちょうど通り掛かった、勇者様がお声をかけて下さりまして。ミカナが町のケーキ屋に行ったと教えてくださったのです。そしたら、何やら楽しそうな話をしているではありませんか」



セシリアはがしっとミカナの首根っこを掴む。

あれはいつだったか、俺がソフィアさんにやられた記憶がある。

俺の経験からすると、あのままミカナは引きずられていくな。



「ちょっ、セシリア。アタシ達は思い出話を……」



「はい。だから、私もミカナと思い出話がしたいです。ゆっくりと……ね。では、ヨウキさん、レイヴンさん、本日は失礼させて頂きますね」



「え、な、なんでアタシだけぇぇぇぇ!?」



ミカナはセシリアに連れられて店から姿を消した。

テーブルに女性という花は無くなり、ケーキ屋で男二人が向き合っているという構図が残った。



「……ヨウキ、済まないがセシリアの二つ名は本人から聞いてくれ。俺の口からは言えん」



「あ、ああ。今日はありがとな、助かったよ」



「俺もいろいろと世話になっているからな。……あと、礼はミカナに言ってくれ」



レイヴンはミカナが引きずられていった、店の入口を凝視している。

セシリアの態度から推測するに、二つ名は地雷だな。今日はその収穫があっただけでも満足だ。

多少もやもやが解消されたな。

……ミカナが生贄になったけど。

セシリアの二つ名は後日


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