友人と少女魔法使いに相談してみた
好きな子について調べることを決めたが、具体的にどうすればいいだろうか。
ストーカーにならない程度にセシリアを尾行……尾行がストーカー行為か。
『バニッシュウェイブ』で姿を消して尾行すれば……いや、だから尾行自体が駄目だっつーの。
セシリアの部屋待ち伏せして、姿を消した状態でセシリアの私生活を覗けば……ばれたら騎士団出動で俺は牢獄行き確定だな。
「やばいな、最早俺には犯罪をするほか、道は残されていないのかもしれん」
独り言を呟きつつ、思考を働かせる。
穏便に情報を仕入れる手段があるはずだ。
「すまん、ちょっと話を聞かせて貰いたいんだが」
「へっ……? げっ、レイヴン」
後ろから腕を掴まれ、振り向くと騎士として巡回中であろうレイヴンの姿があった。
王都の治安を守る騎士として、今俺がした発言は完全にアウトなわけで。
「ヨウキ……何があったかは知らないが、事件が起こる前に、未然に防ぐのも騎士の仕事なんだ。一応、話を聞かせてくれ」
「まじですか……」
道の真ん中では目立つため、路地裏に連行された。
話を聞くと言われたが、考えていたことを正直に話していいものなのか。
記録をとるためか、レイヴンが書類を取り出し、項目にチェックを入れている。割と本気の取り締まりのようだ。
「まず、何故あんな発言をしたのか……あの時、何を考えていたんだ?」
「……好きな子のことを考えていました」
レイヴンのスラスラと書類にペンを走らせていた手が止まる。
どうしようかと悩むそぶりをし、首を傾げつつペンを走らせた。
手の動きからして、はてなと記入したっぽい。
「質問を変えるぞ、何かしようとしてあの発言をしたのか?」
「考えはしたよ。これしか道は残されていないのかと思ってさ、つい、口走ってしまったんだ。でも、実際にやろうなんて考えてはいなかったぞ」
数多くの人々や亜人達が往来する街中で、不謹慎な発言をしてしまったと思う。実際に何かやったわけではないし、レイヴンも俺が本当に犯罪に走るとは思っていないはずだ。
「成る程……まあ、ヨウキだし大丈夫か。すまんな、時間を取らせて。仕事上、聞かなきゃならないんだ」
「そういう風に思われる発言をした俺が悪いんだし、気にしないでくれ」
書類に目を通し、チェックを入れていくレイヴン。
おそらく、問題無し的な処置をしてくれているんだろう。
しかし、街中での不用意な発言はしないようにしないと。
「最後に……さっきの質問に戻るが何をしようと考えたんだ?」
「ストーカー行為についてだけど」
「……すまん、ヨウキ。やっぱりもっと詳しい話を聞かせて貰っていいか」
結局、騎士団本部まで連行され詳しい話をすることになってしまった。
レイヴンの部屋にて、何がどうなって、ああなったのかを説明する羽目に。
信用してくれていたんじゃなかったのか、レイヴンよ……と思う。
俺が相当悩んでいると思われたのか、後日プライベートで会うことになった。
一人で悩みを抱えこむなとも言われたな。
先日、いろいろあったしそのことについても話したいのだろう。
騎士団から釈放され、一人宿に帰った。
ガイの身体に亀裂が入ったままだったが、軽くスルー。
ベッドにダイブし、そのまま夢の世界に旅立つ。
それから数日間、もやもやとした気持ちのまま、レイヴンと会う日までを過ごした。
ちなみに数日経っても、ガイの傷は癒えなかった、物理的な意味で。
約束の日、いつものケーキ屋に行き、レイヴンに会いに行ったのだが……。
「なんで、お前までいるんだ」
「何よ、いたら悪いの?」
レイヴンだけかと思いきや、ミカナまでいた。
先にケーキを注文したのか、二人の目の前に食べかけのケーキと紅茶がある。
……偶然会ったわけではなさそうだ。
『セシリアのことを知っている人間が一人でも多い方がいいだろうから、呼んだ』というのがレイヴンの言い分らしい。
こちらにメモを見せている。
「ていうか、あんたいい加減にしゃべりなさいよ。もう、私何も言わないし、思わないから!」
ミカナの要望に対して、『すまん』という三文字を返すレイヴン。
人魚の一件で変わろうと思ったはずだが……まだ、心の壁は堅いみたいだ。
「むうぅ、まぁ、無理矢理しゃべらせるわけにもいかないわね。今日は剣士のことで集まった訳じゃないんだし」
俺を見てニヤニヤするのを止めて欲しい。
しかし、協力して貰う以上はある程度の我慢も必要か。
ささやかな抵抗ぐらいはしよう。
「悪いな、自分のことで精一杯のはずなのに」
「……アタシに喧嘩を売ってるのかしら?」
ニヤついていた顔から、額に怒りマークのついた表情に早変わりだ。
ささやかな抵抗のつもりが、がっつり反撃してしまった。
「すまん。偉大なる勇者パーティーの一人に大変失礼なことを言った」
「……その言い方、なんか腹立つわね。謝る気ないでしょ、あんた」
頬杖をつき、不機嫌な表情を見せるミカナ。
レイヴンはため息をついている。
どうして、ミカナと会うとこんなやり取りから始まるのか。
元々、相性が合わないのかもしれないな。
「よし、冗談はこれくらいにして本題に入ろうか」
「ちょっと、何勝手に流そうとしているのよ!」
『これ以上のやり取りはじり貧になる。悪いが、引いてくれないか』
ミカナはメモを見て眉間にしわを寄せるも、時間の無駄と感じたのか、大人しくなった。
「落ち着いたところで、話を始めようか。で……何から話すんだ?」
「あんたが犯罪に走らないための話よ、一般人」
「ぐふっ!?」
いきなり言葉のボディブローが俺の胸を襲ってきた。レイヴンよ、数日前のことはもう話し済みなのか。
俺が確認を取ろうとしたら、いつの間に置かれたのか。
目の前に『済み』という二文字のメモがある。
この二人、何らかの打ち合わせをしてきたのか?
「セシリアは私の大切な仲間で、今は友達よ。セシリアの周りにストーカーがうろつくなんて、許さないわ」
「俺をストーカーと断定するな。あと、お前そんな友達想いなキャラだったか?
」
失礼なことを言っているかもしれないが、最初はユウガ一直線で周りを顧みないキャラだったような。
俺とレイヴンが相談に乗ってから変わったのか。
ミカナとあまり絡んでないし、情報が回って来なかったんで知らなかった。
「さっきから失礼な言動の連続ね……そんなんじゃ、女の子に嫌われるわよ。デリカシーが無いとか致命的じゃないの」
「ぐっ、すまん。確かにその通りだ」
「セシリアがどうかは知らないけど、絡むのが面倒とか思われたりしたら、大変よ。一度ついたイメージって簡単に取れないし……ね」
ミカナは最後にレイヴンを一瞥する。
それに限っては男も女も関係ないな。
『すまん』とミカナに謝るレイヴン。
レイヴンが会話に参加出来る日はいつになるんだろうな。
そう遠くない未来であればいいが。
「レイヴンはともかく、俺とセシリアは大丈夫なはずだ。馬鹿やっても最終的には許してくれるし」
「それって諦めてるだけじゃないの。開き直るのは良くないわ。それじゃあ、セシリアに愛想尽かされちゃうわよ」
「……まじで?」
あの女神なセシリアが愛想を尽かすだなんて想像がつかない。しかし、セシリアも人間だ、このまま俺が悪ふざけをし続けたら絶交なんてこともありえたり。
「ちょっと、顔色悪くなってきているけど大丈夫? アタシが話したのはもしもの話だからね。頭の片隅には置いておきなさいっていうだけよ」
「そ、そっか。そうだよな。ははは……」
渇いた笑みを浮かべて俺は店の天井を見つめる。セシリアが冷たい眼差しを向けてくるのを想像してしまった。
「今日は別にあんたを虐めに来たわけじゃないんだから、落ち着きなさい。これじゃ、アタシが来た意味がまったく逆になっちゃうわ」
「女性目線で見たら、俺がいかにダメな奴かというのを教えに来たんじゃないのか?」
「……あんたの中のアタシはとんだ悪女なのね。少し前に、アタシの相談に乗ってもらったじゃない。その時の借りを返したいのよ」
「ああ、そんなこともあったな」
俺がセシリアと半月会うのを禁止されていた時だ。
あの時は、俺やレイヴンの話を聞く予定だったのに、いつの間にかミカナの恋愛相談を聞くことに。
意外とユウガやセシリアと関係がぎくしゃくしていて、どうしたらいいのかというガチ悩みを相談されたんだった。
「剣士にも相談に乗ってもらったから、乗ってあげようかと聞いたんだけどね。そしたら……うん、まあって感じ」
ミカナは苦笑混じりに話している。
これは気まずい空気になったパターンだな。
レイヴンは申し訳なさそうに俯いているし。
やはり、相談すら乗れない状況だったか。
デュークの言う通りだったな。
「そういう訳だから、剣士と一緒に今回はあんたの悩みを解決してあげるわ」
レイヴンも『任せろ』と書かれたメモを自信ありげに見せている。
勇者パーティーの内、二人が協力をしてくれるとか、端から見たら豪華だよな。協力と言っても恋愛に関しての協力だけど。
「頼もしいな、おい。じゃあ早速いろいろな話を聞かせてくれ」
「任せなさい……とは言っても、個人情報とかは無理なのよね。その辺はセシリアとデートでもして、自分で聞くか、こういうのが好きなんだなって気付くべきだと私は思うわ」
「そ、そんなもんなのか?」
女性の心はわからない……予習は大切だと俺は思う。デュークもセシリアの好みに合わせて、デートプランを考えろって言っていたが、駄目なのか。
「人づてに聞いた情報通りのプレゼントをあんたは渡す訳!? 最終的には自分が決めるのよ」
「いや、そんなことはしないけどさ。じゃあ、今日は何を話してくれるんだ」
「あんたが知らない、セシリアがどんな女性かってことを話すわ……まあ、勇者パーティーで旅をしていた頃の話ね」
「へぇ、それは、気になるな。ユウガが暴走して、セシリアにキレられた話しか、聞いたことがなかった気がするし」
「……そんなこともあったわね。それ以外のセシリアの伝説を話してあげるわよ」
「伝説? まるでセシリアが勇者みたいだが」
「私はセシリアがいなかったら、勇者パーティーは成り立っていなかったと思うわ」
『……確かに』とレイヴンが同意のメモを見せてくる。
やたらと首をこくこくと縦に振っているので、セシリアがどれだけ重要なポジションにいたかが窺えるな。
回復役はパーティーには必須だろうが、それ以外にも理由があったっぽい。
これは楽しい話が聞けそうだ。
中途半端ですみません。次回はもっと早く更新を目標にします。




