少し悩んでみた
半年ぶりぐらいの登場ですかね。
長らくお待たせして申し訳ないと私の中で何度も謝罪をしました。
レイヴンとハピネスとの依頼から帰ってきた数日後。俺はセシリアから用事が終わったので、会いませんかという連絡を受けた。
もちろん、返事はイエスなので宿にて行く準備をしている。
「なんか、悪いな。伝達係みたい感じでさ」
「……私も今日はお仕事が休みで、身体の調子も良かったので、出かける予定でした。ですので、気を使わなくても大丈夫ですよ?」
椅子に座り、俺が適当に入れたお茶を飲んでいるのは、アクアレイン家に住み込みで働いているティールちゃんだ。
シークの薬が効いているのか、身体は大分良くなっているらしい。
……あの生死をさ迷った時以来、危険な状態になったこともないとか。
「ならいいんだけど、出かける用事ってのは」
ちらりと全く動かないガイを見る。
以前も同じようなことがあり、俺への伝達はついでと言わんばかりに部屋に来たことがあった。
しかし、いつもなら姿を見て直ぐに守り神様と駆け寄っていくのに、それがない。
けんかでもしたのか?
「今日は必要な物を揃えに買い物に行こうと思ってたんです。嵩張る物以外はもう済ませてきました」
「あ、そうなの……」
そういう割りには何かでかい袋があるんだけど。
おもいっきり嵩張るよな、これ。
置いた時にジャラって音がしたけど何が入っているんだ。
「この袋が何か?」
「いや、別に。ただ何が入ってるのかなーと」
「お土産です」
誰にとは言わないので、察しろということなのだろう。
「へぇ、そっか。じゃあ、俺はもう行くから。……ごゆっくり」
最後の言葉はガイにだけ聞こえるように、声を細くして言った。
部屋の扉を閉めて、俺は歩き出す。
宿の廊下を歩きながら、俺が先程までいた部屋で何が行われているのか。
最早、簡単に想像出来るが確認のため聴覚強化して探ってみた。
「守り神様、守り神様! 私言い付け通りに気持ちを押さえ付けて、場所をわきまえることが出来ました。抱き着きたい気持ちを必死に押し殺しましたよ!」
「ぬうぅ、興奮するな。また倒れるぞ」
「大丈夫ですよ、最近身体の調子が良いんです。それより見てください! 守り神様がお好きと聞いたので、魔鉱石をたくさん買ってきたんです。……っよいしょ」
「おい、無理に持ち上げるな。腕を痛めるぞ」
「守り神様に必要な食事のような物なのですよね。私頑張って屋敷で働きますから、たくさん食べてください!」
「ティール、今すぐにその考えを改めて欲しいのだが」
会話を聞いてて吹きそうになった。
完全にガイがヒモと化してるじゃねーか。
それにしても、あのでかい袋には魔鉱石が入っていたんだな。
よくティールちゃん一人で運んできたものだ。
これも愛が成せる技なのか。
あの二人の領域には踏み込まないようにしようと決め、俺はアクアレイン家の屋敷に向かった。
「なんか、すごく久しぶりに会う気がするんだけど……」
「そうですか? 最後に会ってから、一ヶ月も経っていないはずですよ」
セシリアはティーカップ片手に首を傾げた。
屋敷に着いた俺はセシリアの部屋に招かれ、こうしてまったりしている。
思えば俺の安らぎの場は宿よりここかもしれない。
「そう感じる程、レイヴン達との依頼は密度が濃かったのかな」
「私も予定が無ければご一緒させていただいたのですが」
「セシリアにはセシリアの用事が有ったんだし、また今度行こう」
「そうですね、ありがとうございます。では、今回行けなかった代わりにどんな依頼だったのか教えて貰えますか?」
紅茶とお茶菓子をテーブルに綺麗に置き、ティータイムの準備が完成。
正面に座り、セシリアは俺が口を開くのを待っている。
「じゃあ、話そうじゃないか。ツッコミ不在、立てた予定は丸崩れ。最後がどうなったのか、二人しか知らない。人魚の歌が絡む、船から荷物が消えたという謎を解明する依頼の話を」
「いろいろと何があったのか察しましたが、荷物が消えた謎はもうわかった気がします……」
俺の下手くそな前置きにセシリアは完全に苦笑い。
それでも、阿呆全開の俺の話を楽しそうに、時折呆れながら最後まで聞いてくれセシリアはやはり女神だと思った。
「……とまあ、最終的に二人に何があったのか俺にはわからないわけだ。ただ、デュークの話だと最近のレイヴンは何処か遠くを見つめることが多くなったらしい」
「とりあえず、今の二人はそっとしておいてあげましょう。ある程度、話を聞くのは良いと思いますが、あまり問いただすは良くないかと」
「そうだよなぁ」
帰りの馬車では俺が何をしても終始無言だったからな。
セシリアの言う通りほとぼりが冷めるのを待つか。
「それにしても人魚ですか……ヨウキさんの話を聞くと会ってみたかったです」
「最後の歌には感動したからなぁ。また、会えれば良いけど。今頃は自分達の住家で仲良く暮らしているだろうな」
「……そうですね。でも、彼女達が自分達の住家に戻れて良かったと思います。ヨウキさん達は彼女達を救ったんですよね」
「ああ。俺達以外があの依頼を受けていたらまずかったかもしれないって話もしたな」
実力的な問題を考えると、シケちゃんの歌にやられて終了。
シケちゃんを倒せるパーティーが依頼を受けていたら、今頃シケちゃんは……考えるとぞっとする。
俺達が依頼を受けなかったら、バッドエンドしか待っていなかったな。
「魔物を私利私欲のために使い、状況が悪くなれば罪をすべて被せようとしていたなんてとんでもないです。……今回の依頼でヨウキさん達はとても大切な経験をしたと思いますよ」
「大切な経験?」
「魔物を利用し、何かしらのことをしているのは今回の盗賊達だけではないはずです。今もきっと何処かに彼女達のように虐げられている者達がいるかもしれませんよ」
「確かに、そうかもな」
今は普通にエルフとか獣人が街を歩いているけど、昔は結構いざこざが起きていたとか。
……シークに教えて貰った記憶がある。
ティールちゃんから借りた本に載っていただったか。
種族が違うっていうのは中々難しい。
簡単に解決出来るようなことではないと思うが。
「私達だけでも、今回のような依頼に直面したら解決していくようにしましょう」
「ああ、俺も今回の依頼でかなり勉強になったし。任せてくれ!」
「次こそは私もお手伝いさせて貰いますね」
決意の現れか、セシリアが両手をぐっと握りしめる。セシリアの思いがけない仕草に、純粋にかわいいと思った。
「お、あ、ああ。その時はよろしく頼むよ」
「はい。あ、紅茶のお代わりはどうですか? よろしければ、お茶菓子も」
「あ、じゃあ頂きます……」
話している内に無意識で出して貰った紅茶を飲みきっていたみたいだ。
セシリアが再度ティータイムセットを準備すると、また談笑が始まった。
レイヴン、ハピネスのことは勿論。
最近のシークの様子やティールちゃんの仕事ぶりをセシリアが語れば、俺が最近ガイに施した彫刻を語る。
お互いに笑い合い、時に呆れつつ時間が過ぎていく。気がつけば夕方になっており、窓から見える景色がオレンジ色に染まっていた。
「あ、もうこんな時間か」
「そうみたいですね。会話に夢中になり気づきませんでした」
「そろそろ俺帰るよ。ごめん、こんな時間まで、紅茶とお茶菓子ご馳走様」
カップに残っていた紅茶を飲み干し、慌てて椅子から立ち上がる。
部屋から出る際に笑顔で手を振るセシリアが見えた。
「また、お会いしましょうね」と言っていたのか、慌て過ぎたな。
返事を言いそびれてしまった。
屋敷から出て、宿までの帰り道。
一人で歩いていると、とても宿までの道のりが長く感じる。
セシリアと会話していた時は時間を忘れていたというのに、この差は一体なんなんだ。
もやもやしたまま、宿に着く。
部屋に入るとティールちゃんはおらず、石像のように立っているガイだけがいた。
表情をよく見ると疲れきった顔をしている……が、身体の表面のつやが良くなっているような。
ティールちゃんが持ってきた魔鉱石の恩恵だろう。
わざわざ、ガイを起こして言及する必要はないと判断しベッドにダイブした。
夕飯まだ食べていないなーということを頭の片隅に置きつつ、レイヴンとハピネスの進展について考える。
最後に何があったのかわからない。
散々言い、思ったことだが二人にとって重要な何かが起こったのは確かだ。
結果が現在の二人の間にある微妙な距離なわけだし。
比べて俺はどうだろうか。セシリアといつもと変わらぬティータイムに談笑。
セシリアにかわいいと思いつつも、口には出さずに会話に集中。
笑顔で見送られつつも慌てた結果、手を振り返すこともなくもやもやしたまま帰宅。……これで良いのか俺よ。
頭の片隅には置いておいたはずの夕飯を忘れ、俺は悶悶としたまま朝を迎えてしまった。
「おい、小僧。何かあったのか、目の隈がすごいぞ」
「あー、自分のこれからの道について悩んでいたら寝れなくて」
俺を目を擦り、ぼーっとした様子で部屋の中心に佇む。
「昨日何があったのか知らぬが、寝ないと身体に毒だぞ。眠れぬのなら、我輩が強制的に眠らせてやるが」
「あー、お願いしようかな……」
もう悩み疲れたし、ギルドで依頼を受ける気力がない。
眠れると思ったら眠たくなってくるという不思議。
まぶたが重くなり、意識が遠退いていく。
「最近疲れているようだし、何より我輩気分が良い。身体の調子もな。小僧、今回は楽しい夢を見るがいい」
ガイの声に対し、「うるせー」と消え入る返事をし俺は意識を手放した。




