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友人を決意させてみた

すみません、遅くなりました、ぐだってきました。

次で本当に人魚編、終わらせます。

「……ただいま」



レイヴンが単独行動に出てから、三日。

何の音沙汰もなかったのに、いきなり宿にレイヴンは帰ってきた。

不眠不休で調査していたのか、目の隈がやばい。



「おかえり……って、大丈夫か、おい。フラフラじゃねぇか! 」



「……あいつらからいろいろと情報を聞けたが、肝心のアジトの場所は知らされてなかったみたいでな。自分の足で探してきた」



「そういう事情になったなら、俺達に相談しに来いよ」



「……自分一人でやると決めた以上は最後までその仕事に責任を持つ。それが、俺だ」



責任感の強さは流石騎士団長と言うべきか。

しかし、今回は相談して欲しかったな。



レイヴンと音信不通になってから、ハピネスはぼーっとしてるし。

そんなハピネスを元気づけようとしても、全部空回りするわで大変だったぞ。



「ま、アジトを見つけられたならいいか。……あいつらはどうしたんだ?」



「この町に駐在している騎士達に引き渡した」



その時に使ったメモを見せてきた。

『こいつらを頼む。この町で起きている事件の重要参考人だ』と書かれてある。


「随分といろいろ説明をすっ飛ばしたな。騎士達はちゃんと状況を飲み込めたのか?」



「ああ、俺達に任せてくださいレイヴン団長! と快く引き受けくれたぞ」



「……レイヴンて騎士団で人望が厚いのかよくわからないよな」



「この辺に来たのは久しぶりだったからな。……時間があれば、稽古をつけてやりたかったが、今は一刻を争う。さっさと奴らのアジトに乗り込……」



「……駄目」



ぎゅっとハピネスがレイヴンの二の腕を掴んだ。

俺もハピネスに同意見なので、言い合いになる前に理由を説明する。



「焦る理由もわかるけど少しは休んだ方が良いぞ。というか、今は寝た方が良い」



「だが、早く助けに」



「……今は、寝よ?」



最近、覚えたらしいハピネスのスキル。

上目遣いからの顔を傾けるが、レイヴンに炸裂した。効果は抜群みたいだ。

レイヴンは赤面して、ハピネスと目線を合わせないように、目を泳がせている。



「だが、早く行かないと」



「……睡眠」



上目遣いから、今度は身体から冷気が出ているんじゃないかと思うぐらいの冷たい視線に変わった。

赤面していたレイヴンの表情が一気に凍りつく。



ちらりとレイヴンが俺に視線を送ってきた。

俺は何も言わず、ただ首を横に振る。



「……わかった、仮眠を取ろう」



レイヴンが折れたと見るや、直ぐにベッドへ案内し、布団をまくるハピネス。

その姿はまるで、息子に早く寝なさいと言う母親のよう……残念ながら恋人同士には見えない。



疲労がかなりたまっていたのか。

レイヴンがベッドに入ると直ぐに寝息が聞こえてきた。



「まったく、いくらなんでも無理しすぎだろ。洞窟での一件があったにしても」



「……うん」



レイヴンにとっては、かなり衝撃的なことだったのかもしれない。

だからといって、身体の限界を知らずに突っ走るのは違うと思うのだがな。



「で、ハピネス。さっきの技は誰から教わったんだ?」



「……技?」



「とぼけんなよ、レイヴンを寝かせるためにいろいろ仕掛けただろ」



「……メイド長」



ハピネスからソフィアさんの名前を聞き、成る程と納得してしまった。

ソフィアさんが怒っている時の眼差しを思い出す。

冷たい視線が突き刺さり、身体が凍てつくような感覚をだ。



「でも、待てよ。ソフィアさん、上目遣いなんて普段してたっけか? ハピネス、上目遣いもソフィアさんから教えて貰ったのか」



「……ティール」



一度首を横に振ってから、今度はティールちゃんの名前が出てきた。

ガイ一筋、ヤンデレまっしぐらなティールちゃんなら、そういう物を知っていてもおかしくないな。



というか二人共、元とはいえ俺の部下に変なことを教えないでくれ。



「あまり、いろいろ身につけるなよ。大変だから」



俺もそうだが、特にレイヴンが。



「……楽しみ」



「おい。今、変な考えをしたろ。その黒い笑みは誰から教えて貰った!?」



小悪魔っぽい笑みを浮かべていたぞ。



「……秘密」



「ちきしょー。誰だ、うちのハピネスに変なことを吹き込んだのはー!」



レイヴンが隣の部屋で寝ている中、いつものように騒ぐ俺達。

だが、俺には会話をしていて、ハピネスがレイヴンが寝ている部屋と、窓の外に何度も目を向けていたのを知っている。



疲れきっているレイヴンと、いまだに囚われているシケちゃんの友達が心配なのだろう。

俺も心中穏やかではないが、二人で慌てても仕方ない。



レイヴンが目覚めて行動出来るまで、俺はハピネスを落ち着かせるためのピエロを演じていた。



「すまん、大分寝ていたみたいだ。ん、腹の上が重い……?」


「あー、やっと起きたか。レイヴン、丸一日は寝てたぞ。ま、もうちょい早く起きると思って待ってたんだが寝ちまったみたいだな」



「な……!?」



ずっと、部屋でハピネスと漫才をしていて時間を潰していたわけだが、思った以上にレイヴンが熟睡していたからな。



俺は眠気が襲ってきたので、椅子に座って寝てしまった。

ハピネスは俺が眠る時は起きていたはずだ。

しかし先程、目を覚ますと立ち膝でレイヴンに寄り掛かる形で寝てしまっていた。



「ふぁ〜あ。良かったなレイヴン。連日徹夜で動き回ったかいがあったな」



「う、ハ、ハピネス起きろ」


レイヴンは俺の質問に答えず、冷静を装いハピネスを揺すり起こす。

安定した寝息を立てていたハピネスの表情が微妙に歪む。



まあ、気持ち良く寝ている最中に無理矢理起こされるのって嬉しくないよな。



「……就寝中」



「寝言で返事をするな。本当に起きてくれ」



ハピネスが起きないので、焦るレイヴン。

声から必死さが伝わってくる。

強く揺らせない辺りがレイヴンらしいが、それではハピネスは起きないぞ。



「しばらくそうしていればいいんじゃないか」



「良くない!」



結局、レイヴンは強く行動を起こせず、ハピネスが自ら起きるまで待つことになった。

ご褒美だと思えばそこまで苦ではないだろう。


「全く……まあ、ちょうどいいか。ヨウキ、少しだけ話に付き合ってくれないか」



「この状況だからな。会話くらいしか暇を潰せないからいいぞ」



「ありがとう。実はまだ迷っているんだ。魔物を助けることに」



「シケちゃんは脅されていたっていう証拠は出てきただろ。今更、何を迷っているんだ」



ふっ切れたから、三日三晩徹夜で走り回っていたんじゃないのか。

そんなことを言っているんじゃハピネスが泣くぞ。



「今まで俺は魔物を倒してきた。ヨウキもそうだろ?」


「いや、まあ、そうだけど」


俺は魔族なので、複雑な立場なんだが。



「約束はしたんだ、助けるさ。だが、助けた後にあの人魚達が悪事を働かないという保障はないだろ」



「まだ、そんなことで悩んでいたのかよ」



「そんなこと!? これは重要なことだ。あの人魚の歌は強力だ。水上限定とはいえ、一度襲われたら被害が……」



「あー、わかった、わかった。落ち着け、深呼吸しろ」



俺はレイヴンの両肩を掴み、落ち着かせる。

まだ、疲れがとれていないのか、ハピネスが腹の上にいるせいか頭が回っていないようだ。



レイヴンが冷静になったところで、俺は会話を再開する。



「忘れたのか、洞窟で言った俺の言葉」



「う……」



我ながら似合わない臭い台詞を言ったなぁと、思い出すだけでも恥ずかしい言葉。レイヴンも思い出したようだ。



「あの時に決心したんだから、今更鈍るなよ。ハピネスに嫌われちまうぞ」



「く……ヨウキの言う通りだ。一度決めたんだったな。もう、迷わん」



レイヴンの気持ちが再度固まったようで安心した。

後は、ハピネスが起きればなと思ったが、こいつ寝たふりしてやがったな。



口元がにやついているのでわかった。

俺達の会話を聞いていたな。

レイヴンは決意を固めた余韻に浸っているせいか、ハピネスの寝たふりに気づいていないみたいだ。



本当はさっさとシケちゃんの友達の救出に行きたいんだがな。

二人のために少しだけ待ってやろう。



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