表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/420

友人と元部下に説得されてみた

長らくお待たせしました。次か、その次くらいで人魚編も終わる予定です……予定です。

俺とレイヴンが荷物を調査し始めてから、早数分。

すべての箱を開けて調べようとしていたが、その必要もなさそうな展開になった。



「……ふざけているな」



レイヴンが馬鹿にされた気分になっているのか、怒り心頭のご様子。

俺もこの有様はかなり腹が立つがな。



積み上げられていた箱の中には確かに盗まれた積み荷は入っていた。

しかし、入っていたのは手前側の箱にだけ。

奥の箱の中身は空だったのだ。



「シケちゃんが盗んだと思わせるための上っ面だけの偽装だな。わざわざ奥側にある箱からはチェックしないし、普通は手前から開ける」



「……あの人魚も出てくるタイミングを指示されていたかもしれないな」


「……ああ」



こころなしかレイヴンが少し顰めっ面になっているような。



「……終わった」



ハピネスもシケちゃんから詳しい話を聞き終えたみたいだ。良いタイミングなのか、悪いタイミングなのか微妙だな。



レイヴンの顔を見て首を傾げていたので、そっとしておこうと手で合図をする。ハピネスも了解という意味で首を縦に振ってくれた。


「……報告」



ハピネスが聞き出した情報を聞き、まとめる。

話している最中、隣にいるレイヴンからひしひしと殺気を感じた。

先程からかなり苛立っているみたいだ。



これ以上、レイヴンがキレるような情報はないことを祈っていたが、それは無理だった。



「……成る程。ギルドの者が町に来たら、盗賊が情報を流し、ここにおびき出させる。人魚は冒険者を無効化させて、盗賊が冒険者を回収する手筈か。……大方、眠っている最中に無力化して、口封じするか、他国の奴隷商人にでも売るつもりだったのだろう」



「俺達が初めて来た冒険者だって言ってたんだな?」



「……うん」



「そうか、良かった」



俺達以外にも冒険者が来ていたら、レイヴンの言う通りの展開になっていたかもしれない。

ハピネスがいなかったら、シケちゃんの歌に俺やレイヴンもやられていたからな。

並の冒険者が来ていたら、盗賊に捕まっていただろう。



「……箱を調べてから襲うことも決められていたとはな。もし、あのまま俺が人魚を切っていたら真相は闇の中だ」



自分のせいで依頼が迷宮入りするところだったからか、レイヴンが苛立ちのあまり歯ぎしりをしている。



「許せないな。上手くいこうがいかまいが、シケちゃんの仕業にしてトンズラ出来るようになっている」



「……不愉快」



俺もハピネスも憤りを感じているが、レイヴンは飛び抜けて突出している。

いろいろな感情や想いが混ざりあっているようにも見えるな。



「……ヨウキ、俺達がここに入ってから大分経ったな」



「ん、そうだな」



シケちゃんと戦闘して会話をし、箱を調査。

ハピネスが聞いたシケちゃんの話まとめてと結構時間が経った気がする。



「……先程、ハピネスが聞いた人魚の話が本当なら、俺達を回収しようとしている輩が迫って来ているんじゃないか」



「た、確かに……」



俺はこっそりと嗅覚を強化して、洞窟内に誰かが入って来ていないかを探る。

すると、こちらに近づいて来る五人分の臭いを嗅ぎ付けた。



「……来てる?」



レイヴンがいるというのに、俺に確認をしてくるハピネス。

五感の強化魔法は身内とセシリア以外には秘密だというのにこいつはと思う。



「俺に聞かれてもな……」



「……絶対に来るはずだ。倒れていない俺達を見たら、『心配して見に来た』とでも言う気だろう」



レイヴンは剣の柄に手をかけ、ゆっくりと盗賊達が来るであろう、俺達が来た道に向かって歩いて行く。

その後ろ姿から寒気を覚える程、冷たい殺気を放っている。



こんなレイヴンは始めて見る。

魔王城で散々戦ったが、こんな殺気は出していなかったはずだ。



「……本気」



「ああ、そうみたいだな」



俺達の出番はなさそうだ。レイヴンは盗賊達を待ち構える場所を決めたようで、広場の中央に着くと、動かなくなった。



「あ、あの……私とミサキは助けて貰えるのでしょうか?」



シケちゃんの怖ず怖ずといった感じの声が聞こえた。しかし、おかしいな。

俺達は泉から大分離れた位置で話していたはずだ。



振り向くと、近くにある岩からこちらを覗き込むように、顔だけ出しているシケちゃんがいた。



「え、どうやって……」



「あ、人魚は尾鰭を足に変えることが出来るんですよ……。長時間の移動は無理ですし、歌えなくなりますが」



一人うろたえている俺を気付かってか、シケちゃんが説明をしてくれた。

歌えなくなると言うことは完全に戦闘力が無くなるのか。



「それじゃあ、逃げることも出来ないか」



「はい、地上で人魚は戦う術がないんです」



「そうか。ところで変身したら、その……ズボンとか、ぐふっ!」



「……沈黙」



隣にいたハピネスから腹パンをくらった。

下賤な質問をするなというメッセージだろう。

その証拠にハピネスから、ゴミを見るような視線を感じる。



俺の言葉が最後まで聞こえなかったシケちゃんは、状況がわからないように首を傾げていた。



「ま、まあ、レイヴンも君の事を助けるよう、協力をしてくれることになったから。安心してくれ」



俺は広場の中央から動かないレイヴンを指差す。

レイヴンに剣を向けられ切られそうになったのだ。

怖い思いをしたはずなので、多少トラウマが残っていると思ったが。



「ほ、本当ですか。お、お礼を言わないと……」



別に気にしていないのか、シケちゃんはレイヴンの所に行こうとしたのだ。

レイヴンは今、近寄ってはいけない空気を出している。

シケちゃんも俺の下賎な想像が正しければ、岩陰から絶対出てはならない。



ハピネスが素早くシケちゃんをブロックし、俺は後ろを向き、何も見ていないことをアピールして事なきを得る。



俺達がそんな、のほほんとしたやり取りをしている中でもレイヴンは微動だにせずに、佇んでいた。



「……盗賊達の会話が聞こえてきたな。済まないがヨウキとハピネスは手を出さないでくれ、俺なりにけじめをつけたいんだ」



俺達に顔だけ振り向き、自分だけで闘いたいと懇願してきた。

最初にシケちゃんを疑ったことを気にしているのか、別の理由か。



「……了承」



「じゃあ、俺達は離れているよ!」



「……ありがとう」



お礼を言ったレイヴンは鞘から剣を抜く。

構えはせずに剣を下ろし、ただ持っているだけだ。



やがて、盗賊達の姿が視認出来るようになり、広場に入ってきた。

盗賊達は俺達の姿を見て、驚いていたが、直ぐにへらへらとした表情に変わる。



「よ、よお。剣士さん無事だったのか。俺はあんたらが心配になって仲間を連れて様子を見に来……」



レイヴンは無言で会話を遮るように、剣先を男の顔に向けた。



「……」



「な、何だよ剣士の兄さん。これは、何のまね……」



「……だまれ」



怒気のこもった声とともに、剣の柄が男の鳩尾に打ち込まれた。

痛みに声も出せずにその場で倒れ込み、悶絶している。



「な、なんだ、てめぇいきなり!」



仲間がやられたからか、他の四人が武器を構え、レイヴンに向ける。



「……全て人魚から聞かせて貰ったぞ。覚悟しろ」



「あの人魚しくじりやがったのか。まあいい、覚悟しろとは結構じゃねぇか! 男のくせに女みてぇな声しやがって、お前ら、やっちまうぞ」



男の号令で盗賊達は一斉にレイヴンに飛び掛かった。

しかし、レイヴンは武器を全て剣で叩き落とす。

命は取らないようにしたのか、最初の男同様に柄を打ち込み無力化していく。



号令をかけた男は武器を叩き落とした後、足払いをして転ばせた。



「ま、待ってくれ。違うんだ。俺達はここにいた人魚に操られて……」



この期に及んで、こんな苦し紛れの言い訳をするとは呆れるな。

レイヴンも今の言い訳がカンに障ったのか、男の顔すれすれに剣を勢いよく突き刺した。



「ひっ!」



「……もう、だまれ」



完全に戦意喪失した男は泡を吹いて気絶してしまった。

全員気絶したことを確認したレイヴンは剣を鞘に収める。



「お疲れさん」



「……ぐっじょぶ」



俺とハピネスは一仕事終えたレイヴンの肩を叩く。

……ハピネス、どこからそんな言葉を覚えたんだとツッコミたい衝動にかられるが、空気を読みこらえた。



「……ありがとう。だが、まだ終わりじゃない。こいつらには聞きたいことが山ほどあるからな。……絶対にこいつらのアジトの場所を吐かせる」



剣は納めたが、まだ怒りは納まっていないらしい。

レイヴンから黒いオーラが出ている。



「……落ち着く」



ハピネスがレイヴンの手をぎゅっと握った。

それで宥めることになるのかと一瞬、疑問が浮かぶ。しかし、思春期真っ盛りなレイヴンには充分な鎮静剤になったみたいだ。



「わ、わかっている……」



真っ赤にした顔を見られたくないのか、顔を背けている。

だが、握られている手を離そうしない辺りがレイヴンらしいな。



「さて、レイヴンへのご褒美もそこそこに、こいつら起こして尋問するか」



二人はイチャイチャして貰って構わない。

むしろ、当初の予定通りなのでしてくれと言いたいぐらいだ。



「ま、待て、ヨウキ! こいつらの尋問とアジトのことも俺に任せてくれないか」



「……まだ、引きずってるのか。シケちゃんもレイヴンにお礼を言いたいと言っていたし、一人でしょい込むことはないと思うぞ」



「それでも……俺はまだ自分を許せない。だから、頼む」



「……いい、よ」



俺がどうしようか悩んでいると、勝手にハピネスが了承してしまった。



「おい、勝手に……」



俺が反論しようとしたら、ハピネスに目だけで訴えられた。

普段は無表情のハピネスが感情を面に出しているのだ。

泣きそうに見えるのに、強い意思の篭った眼差しを向けている。



そんな顔をされて、駄目だと言ったら、デュークとシークに怒られてしまうな。



「わかったよ。頼んだ、レイヴン」



「……我が儘を言って済まない。自分でやると言った以上、必ずこいつらから情報を聞き出す。もちろん、アジトの場所もな、それじゃあ、な」



レイヴンは持っていた縄で盗賊達を全員縛り上げ、五人を引きずって出口に向かって去っていった。

……まじで、単独行動なんだな。

何かわかったら、宿に戻ってくるだろう。



「……隊長」



「ん、何だ」



「……ありがと」



「何についてのお礼なのか、わからんがとりあえず……気にすんな」



俺はハピネスの頭を撫でる。

すると、先程と同様に無言で手を弾かれた。



「……それとこれとは、別」



「手厳しいが、それでこそハピネスだ」



レイヴンもだが、ハピネスも絶好調に戻ったな。

どうなるかと不安に思っていたが、良い形で事が運んでる。

あとは無事にシケちゃんの友人を奪還出来れば良いんだけど。



シケちゃんに一旦別れを告げて、俺とハピネスは宿に戻り、レイヴンの帰りを待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ