友人と元部下と調査をしてみた
「よし全員……といっても三人だけだが、揃ったことだし今回の依頼について説明をしようか」
俺がそう口火を切ると二人はこくりと頷いた。
……二人共、真面目無口系だから、俺一人だけ喋るのが多くなりそうだ。
「依頼主はフリメールの町長、依頼内容は最近多発している商船の金品盗難事件の解決だ」
「……商船か。港町ならではの依頼だな。金品を強奪しているのは海賊辺りだろう。旅をしていた頃、同じような依頼を何度か受けたことがある。とりあえず、聞き込みを行って、海賊のアジトを虱潰しに探せば……」
「ちょ、待て、話はまだ終わってないから」
「ん、そうだったのか、すまない」
顎に手を当て、ぶつぶつと策略を立て始めたレイヴンを見て、少々驚いた。
しかし、よく考えてみるとレイヴンは好きで無口キャラをしているわけではないのだ。
ただ、自分の声にコンプレックスがあり、人前で話さないだけで割とお喋りなのかもしれない。
ハピネスが隣にいるので緊張しているんじゃないかと思ったのだがな。
そんなことを微塵も感じさせないくらい、依頼について真面目に考え出したし。
どうなるかと不安だったが、レイヴンの様子を見ると依頼は順調に達成出来そうだな。
「じゃあ、話を再開するぞ。まず、レイヴンが言っていた海賊が関係しているかっていうことなんだけど……その辺も全くわかってないらしい」
「……随分とまた妙な話だな。盗まれたということは襲われたのだろう? まさか船員達全員が寝ていた間に盗みに入られたわけじゃないだろうし」
「……無理?」
「……ああ。普通なら何人か見張りとして起きているはずだからな。それにいくら寝ていたとしても船に侵入されたら、いくらなんでも何人かは気づくはずだ」
「……ふぅん」
自分で聞いておいて気の抜けた返事を返すとは、ハピネスらしいな。
「その無理が実際行われたから問題なんだが」
「……どういうことだ?」
「船員達全員が寝ていて、その間に金品が無くなっていたらしいんだ。それも被害にあった全部の船でな」
「……不可解」
レイヴンの話と俺の話を聞いたハピネスが少し理解できていないみたいだ。
まあ、ハピネスもただでさえ始めての依頼なのだし、混乱するのも無理はない。
その辺を上手くサポートしてやれば、好感度アップに繋がるかもしれないぞ、レイヴンよ。
「……今はまだ依頼の説明段階だ。難しく考えすぎなければ、だ、大丈夫だと思うぞ……」
「……理解」
最後に噛んでしまったが、結果的にフォローしたので及第点だな。
ハピネスもレイヴンの助言で冷静さが戻ったみたいだし。
「じゃあ、続きな。金品のみが無くなっていて争った形跡は無しときたもんだからな。疑いが海賊ではなく、商船の船員達にかけられているらしい」
「……口裏を合わせていて、実は船員達全員が共謀者かもしれないというわけか」
「ああ、あくまで可能性のひとつだけどな。依頼書にはここまでの情報が書いてあるだけだ。あとは直接聞き込みをするしかないだろう」
「……聞き込み?」
ハピネスが俺に首を傾げてきた。
依頼が初めてなんだし、聞き込みもしたことないよな。
瞬間、俺の脳内であるプランが考えついた。
「あー、聞き込みとかなら、レイヴンの方が得意だろ。騎士団でもいろいろと仕事ありそうだし、なっ?」
俺はレイヴンの肩を掴み、同意を求める。
「……いや、俺は」
「得意だよな!?」
要ははいかイエスで答えろという話である。
こちとら気を回してやろうとしているのだから、少しぐらい悟ってほしいものだ。
「あ、ああ、まあ、な」
「よし、じゃあ別れて調査をしよう。俺は依頼人の商業ギルドのギルドマスターから話を聞いてくるから、二人は船員から話を聞いてきてくれ」
そう言い残し、俺は早々と部屋から立ち去り、宿を出た。
二人で依頼の調査、仕事とはいえちょっとしたデート気分にはなるだろうという考えである。
レイヴンがいるし、ハピネスも減り張りはつけると思うので大丈夫だ。
「でも、根本的な問題を忘れているような気がするな。……まあ、何かあったとしてもレイヴンなら上手くやってくれるだろう」
俺は俺で依頼人に話を聞きに行かなくちゃならないし、心配ばかりしても仕方ないしな。
何よりレイヴンの方がこういう仕事は慣れているだろうし、心配する方が失礼かもしれない。
「一応とっとと話を聞いて、早めに合流しようかな」
プランを立てた俺は、通行人に道を尋ねながらギルドに向かった。
歩いていて分かったのだが、なかなか潮風が気持ちいい。
港町だからか、ミネルバ程ではないが割と店も多く、人の通りも多い。
デートするには悪くない町だと思う。
依頼が早く終われば、のんびり買物してから帰ろうと言えばデートに引っ張ることも可能なはずだ。
依頼のプランだけでなく、二人のデートプランも考えていると、目的地の商業ギルドに着いた。
受付嬢に話をして、ギルドマスターの所まで案内して貰う。
受付嬢もそうだが、職員全員がピリピリしている気がする。
金品が立て続けに謎の紛失をしているんだから、仕方のないことか。
商業ギルドがこんなんじゃ、町の店の雰囲気も怪しいな。
二人に良い環境でデートをして貰うためにも、さっさと依頼を終わらせるようにしないと。
「どうも、君が依頼を受けてくれたギルドの者かね?」
案内された部屋に入ると、髭の似合うダンディな男性が椅子に腰掛けていた。
以前、レイヴンの仕事場にお邪魔したことがあったので、似た感じの雰囲気を感じる。
巨大な机には何枚もの書類が積み重ねられていて、つい先程まで仕事に追われていたみたいだ。
おそらく、今回の紛失事件も相まってかなり忙しいのだろう。
「お忙しい所、失礼します。ミネルバのギルド所属のヨウキと申します」
「そんなに畏まらなくていいよ。依頼したのはこちらだからね。用件は依頼についての話かな?」
「はい、お願いします」
「ふむ……では、すまないが時間がないので手短に話させて貰うよ」
忙しい中、わざわざ時間を割いて手短でも説明してくれるのだ。
こっちにもレイヴンのデートという貴重な目的もある。
何より俺が選んだ依頼なのだから、真面目に調査する義務もあるからな。
俺はギルドマスターから、情報を聞いてギルドを出た。
手短にという意味通り、依頼の内容確認や盗まれた金品についてなどの話をさっと聞いて終わった。
おそらく二人はまだ情報収集をしているはずなので、合流するために港に向かう。
向かっている最中に気づいたのだが、あの二人はどうやって情報収集しているのだろうか。
宿を探した時のことをふまえると、難しい気がする。
自分で押し付けて出ていったが、かなりまずい状況になっているのではないだろうか。
レイヴンは調査とかに慣れているはずだから、なんとかなるだろうと思ったが……失敗だったかもしれない。
こんな心配が杞憂に終わることを願っていると港に着いた。
前世で船を見たことはあるので、そこまで驚きはしないが、中々の迫力につい視線を向けてしまった。
屈強な肉体の船乗り達が荷物の積み降ろしをしている中、見慣れた二人がいた。情報収集の最中らしいが、どうやって聞き込みをしているのか。
このまま合流して頼られる可能性もあるので、そこら辺にある倉庫の陰からこっそり覗いてみた。
「……情報」
どうやらハピネスが船員に声をかけてるみたいだな。
「ん……? なんだいお嬢ちゃん。俺っちに何かようかい」
「……依頼」
「依頼……?」
やはり口数の少ないハピネスじゃ用件が伝わらないみたいだ。
、変な空気になる前にフォローしに行った方がいいか?
そう考えたが、ハピネスが船員に指差しをした。
指の先にはレイヴンで何か看板のような物を持っている。
「何々……ギルドの依頼で聞き込み中。船で起こった事について話してほしい? 」
「……理解?」
ハピネスが首を横に傾けた。
なる程、そういうやり方をしているのか。
どちらが考えついたかは知らないが、考えたものだ。自分のコミュニケーション能力不足をカバーしているということか。
「お嬢ちゃんが今回の依頼を……? おいおい、家のギルドマスターは何を考えて……」
船員が何かを言いかけた瞬間、レイヴンが少しだけ剣を抜いてみせた。
元々そういう手筈なのか、ハピネスが嘗められたからなのかわからんが。
今、レイヴンは変装しているので正体は分からないはずなので、普通の剣士として見られるはずだが。
「……っ、寒気がしたぜ。そこにいる兄ちゃん何物だ? 海の男の俺っちがこんなに寒気を覚えたのは久しぶりだ」
どうやらレイヴンの奴、殺気のような物を出したらしい。
一般人に向けていい物じゃないだろうに。
レイヴンのことだから加減はしたのだろうが……作戦であってほしいな。
「……納得?」
「ああ、そっちの兄ちゃんを見る限りお嬢ちゃんもただ者じゃねぇんだろうよ……。嘗めたこと言って悪かったなお嬢ちゃん。海の男として潔く謝罪させて貰うぜ」
「……拒否」
「そんな訳にはいかねぇ! 海の男として自分の過ちにはけじめってもんをつけなきゃなんねぇんだ」
「……情報」
「その前に謝罪だぜ!」
上手くいくかと思ったが、海の男というのは結構気難しいのが多いみたいだ。
見ている分には面白い光景ではある。
クールで無表情なハピネスと、熱く豪快な船員のやり取りはギャップがあり過ぎる。
レイヴンもフォローに回りたいようだが……コンプレックスのせいで声が出せないからな。
とりあえず、船員に大きく落ち着けと書いた紙を一心不乱に見せているな。
うん、とりあえず自分が落ち着こうかレイヴンよ。
さっきまで殺気を出していた人物には到底見えない有様になっているぞ。
「お嬢ちゃん、港では海の男の礼儀には従うもんだぜ!」
「……海、初」
「なにぃ!? 初めて海に来たのか、お嬢ちゃん。だったら俺っちが海での心得ってもんを教えるぜ!」
「……面倒」
船員とのやり取りを見て、俺は必死に笑いを堪える。二人の温度差も面白いが、レイヴンが一番面白いぞ。二人の会話になんとか、筆談で加わろうとしているからな。
今は船員への落ち着けから、ハピネスに対しての依頼に変わっている。
もう、そこまで必死になるならいっそのこと声に出せばいいのではないだろうか。
二人の情報収集を温か見守るのもいいが、とっとと依頼を終わらせてデートをさせたい俺がいる。
お邪魔虫上等の意気込みで俺は二人と合流することにした。




