友人と元部下と依頼に行ってみた
「それにしても……ハピネス。お前、随分とオシャレな感じの装備を買ったんだな」
俺が来ている物はとりあえず最低限身を守ることが出来、かつ動きをあまり阻害しないだけの安物装備である。
しかし、ハピネスは服としても充分機能するようなオシャレも意識した装備をしているのだ。
「……?」
言われて初めて気づいたのか、ハピネスは自分の装備と俺の装備を見比べている。
「……ダサ」
「ちょっと待て、こらぁ!」
見比べ終えた途端に鼻で笑って、その一言はないだろう。
確かにオシャレ意識していないし、安物買ったけどさ。
ハピネスは言葉数が少ない分、重みがあるから結構心に響くものがあるんだよな。
「……事実」
「追い撃ちをかけんな! 俺の装備は、性能と使える金額を考えぬいて、買ったんだよ」
「……貧乏?」
「金はちゃんと持ってるわ! いつもプラプラしているように見えるかもしれないけど、ちゃんと依頼に行っているっつーの!」
遊びまくっているイメージがあるかもしれないが、ちゃんとギルドで依頼を受けて仕事はしている。
豪遊もせずに貯金もしているので、貧乏ではない。
最近した大きい買物は……黒歴史の時ぐらいだろう。
「……けち」
「倹約家と言え!」
表情をあまり変えないので、ハピネスの言っていることは冗談なのか本気なのかわからない時がある。
付き合いもまあまあ長いというのにな。
ただ、今日はいつもよりも若干、機嫌の良さが表情に出ている気がするな。
本当に若干だが……まあ、楽しんでくれると俺も助かるんだがな、企画した身としては。
ハピネスは俺に自慢するかのようにくるりと一回転して、装備を見せ付けてくるし。
そういうことはレイヴンが帰ってきたらやれよと思う。
「……ん!? ハピネス、お前腰についているそれ何だ」
「……武器」
ハピネスが素早く腰から取り出したのは二枚の扇だった。
魔王城にいた頃から武器を待たずに、身ひとつで戦っていたハピネスを知っている俺としては正直意外である。
魔法と自分の羽根を使って戦っていたはずだ。
俺に見せ付けるように扇をヒラヒラと扇いでいる。
「……なんか見覚えがあるような気がするんだが?」
ハピネスの扇が白とピンクの混じったような色の羽根が装飾に使われているのである。
五秒ほど観察すると俺の脳内で答えが導き出された。
「それ、お前の……」
羽根だろと言おうとしたらハピネスに手で口を塞がれた。
「……状況」
「……ああ、悪い」
今、俺達は乗り合い馬車乗り場にいるのだ。
お前の羽根だろという阿呆な発言をしようとしたから止めたのだろう。
「……軽率」
「悪かったって。それで、その扇……」
「……私の身体」
「わかった、わかった。俺が悪かったからその台詞とポーズはやめろ。変な誤解を生むから」
自分の身体に両腕を回して抱きしめながらそんなことを言われると、俺が変態扱いを受ける。
このタイミングでレイヴンに戻って来られたらさらに面倒なことになっていただろうがな。
「……了解」
「……やけに素直だな? いつもなら言葉で追撃をしてくるのに」
「……誤解」
「ああ、誤解を受けたくないからか」
こくりと首を縦に振るハピネス。
今日のハピネスは素直な時は素直なので、少し調子が狂うな。
いつもなら常に俺で遊ぶことを忘れないのがハピネスなのだが。
「……ただいま。御者に話をつけて来た。今日は客が少ないらしいから簡単に取れたぞ」
「おかえり。そっか、良かった」
ハピネスとじゃれている間に、レイヴンが帰ってきた。
簡単に取れたというのは間違いなさそうだ。
使用したと思われる紙の量が明らかに少ない。
「……もうすぐ出発らしい。早めに席を取っておかないか?」
「そうだな、三人で離れ離れとか嫌だし。行くか」
「……賛成」
早速馬車に乗り込んだ俺達だったが、早めに乗ったということもあり、席は選びほうだいだった。
俺の個人的主観だと、好きな子と席が隣同士というのは願ってもない状況なはずだ。
レイヴンもそれを望んでいるに違いない。馬車に足を踏み入れた瞬間に考えた俺だったが。
「……レイヴン」
何故か俺の隣に座っているレイヴン。
俺は君の座るべき場所はそこではないだろうという念の込もった視線を送る。
しかも、ハピネスと向かい合わせじゃなくて対角線になってるし。
ハピネスは平然とした感じで自分の隣に荷物を置いてしまったし、駄目だこりゃ。
レイヴンは紙とペンを取り出し、すらすらと何か書きはじめた。
俺へのメッセージだったようで、紙にはすまないの四文字が書かれている。
「いや、俺も余計なお節介だったわ……」
それから程なくして馬車は出発した。
レイヴンは人がいるから喋れないし、ハピネスは荷物を枕にして寝るしで最悪なスタートである。
とりあえず、寝ているハピネスを指差して、レイヴンに隣に座っていたら肩に寄り掛かって寝てたかもしれないぞと言ってやった。
赤面して顔を隠したと思ったら、今度は隣に座らなかったことを後悔しだしたようで頭を抱えて落ち込んでいた。
そんなこんなで微妙な出だしのまま、目的地である港町フリメールに着いてしまった。
「ハピネス、起きろ!」
「……おは」
「目的地に着いたから降りるぞ。ほら、荷物を持って、レイヴンもな」
自分の荷物を持って先に馬車から降りると、続いてハピネスの荷物も持ったレイヴンが降りてきた。
どうやら、持ってあげたらしい。
隣に座らなかったことを反省しての行動か。
レイヴンも積極的になってきたかもしれないな。
馬車を降りると、まず拠点所を確保するために宿へと向かうことにした。
初めて来た町なので、勝手がわからず人に聞くことにしたのだが。
ハピネスは口数が少ないので伝わらず、レイヴンは筆談で聞いていたため、テンポが悪く、実質俺一人で探すはめになった。
「二人とも、コミュニケーション能力をもう少し身につけような」
「……すまん」
「……反省」
「ハピネス、知らない人にいきなり『……宿』はないだろ。それだけじゃ趣旨が相手に伝わらないからな。レイヴン、紙を粗末にするな、一回一回同じ文章書くんだったら、残して置けばいいだろ」
俺は説教をする側じゃなくてされる側なんだがなと思いつつ、二人に注意する。宿は見つかったのだから、あまり言うのもあれなので、さっさと部屋を取った。
もちろん、二部屋取りハピネスは一人部屋で、俺とレイヴンは同室だ。
流石の俺もそこでレイヴンに視線は送らない。
部屋に入り、荷物を置いてベッドに座って旅の疲れを取る。
「なあ、一応聞いておくけどさ。ハピネスと部屋一緒だった方が良かった?」
「……その質問については答えられないな」
「答えは二択の質問だったんだけどな。まあ、レイヴンならそう言うと思ったよ」
セシリアと一緒の部屋になりたいかって聞かれたらって考えると、俺も答えられないだろうからな。
まだ、そういう関係にはなっていないし、いずれはなりたいけども……気恥ずかしいというかなんというか。
俺もこんなんだから、レイヴンの気持ちはわからなくないんだよな。
「……荷物も置いたし、そろそろ依頼の話に移りたい。俺とハピネスは一切聞いていないからな」
「あ、そうだな。すっかり忘れてた。じゃあ、今から説明するからハピネスを呼んで来てくれ」
「……俺一人でか?」
「いやいやいやいや。行けるだろ!」
不安げな表情をしてきたので驚いた。
ハピネスもそうだが、二人共、感情を表に出さないタイプのはずなのに今日は大分出ている気がする。
「そうだよな。……よし、行ってくる」
「隣の部屋にいる仲間を呼びに行くだけで、そこまで緊迫した雰囲気を出すとはな……」
自分で行かせたくせにものすごく不安になっている俺がいる。
何か起きても止め役であるセシリアとデュークがいないから、俺がなんとかするしかないんだよな。
自分でどんどん墓穴を掘っていかないようにしないと……。
「まじで無計画だけど。大丈夫かな、今回の依頼……」
暴れている魔物を倒すような、単純な依頼を受ければ良かったと今更後悔する。
二人を仲良くさせようと思い、とりあえずハピネスのテンションが上がりそうな場所を考えたのが発端だな。
初めて行く、または見る場所ならテンションが上がるだろうという、よくわからない理屈を発揮したんだっけか。
そして、海に行ったことがなかったはずなので、港町での依頼に決めて、せっかく港町に行くのだからと特殊な依頼を受けようと思ったのだ。
結果、ただ魔物を倒して終わりではない依頼を選択してしまったのである。
「よく考えたらすぐに終わる依頼にして、余った時間でデートさせた方が良かった気がするんだが……」
自由時間を作って何か思い出に残るような出来事があれば最高だな。
「間違っても依頼で休み終了なんてことにはならないようにしよう。依頼失敗なんてのは論外だ」
二人にとって甘い思い出を作って貰うのが目標だ。
苦い記憶になどさせてたまるか。
サポートがいないのが懸念材料だが、最低限の努力はしよう。
「空振らないようにしないとなぁ。あと邪魔だけはしないよう心掛けよう」
俺だってデュークみたいにナイスなアシストが出来ることを証明してみせる。
そう、一人で意気込む俺がいた。




