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友人と元部下と待ち合わせしてみた

すみません、遅くなりました

「はぁ、ついに来てしまった……」



待ち合わせ場所に指定した乗り合い馬車の前で俺はため息混じりに呟いた。

周りには旅行に出かける者、依頼に行く者、実家に帰省する者で溢れている。



俺は依頼に行く者にあたるのだが、今回の依頼は一人ではない。



俺の厨二爆発事件の時にレイヴンに元気がないように見えたので、気分転換にと久しぶりに依頼に誘ったのだ。



ただ依頼に行くわけだが、二人ではない、実はハピネスも誘っている。

レイヴンには何人か増えるかもとは言ったが、ハピネスのことは話していない。






ハピネスを誘うと言ったら緊張するだの何だのと言うと思ったので、ちょっとしたサプライズ感覚で誘ったのだ。

今回の依頼で二人の距離が縮まれば良いなぁという思いもあるが。



まあ、それが俺の計画でハピネスが誘えたら、後は二人きりにさせるためにセシリアやデュークも呼ぶはずだったのだが。



「えっ、セシリア来れないの!?」



「はい……その日は大切な用事がありまして。ハピネスちゃんやレイヴンさんとはあまり出かけたことがないので出来れば参加したかったのですが……」



「いや、用事があるなら仕方ないよ。また、今度誘うからさ。その時はちゃんと全員の予定聞いてから企画するからさ」



「本当にすみません……」



レイヴンとハピネスを誘った直後に屋敷に行ってのやり取りを思い出す。

本当に残念だったのか、謝りつつがっかりしていたからなぁ。



俺は屋敷を出てセシリア以上にがっかりしたけど。

テンションががた落ちしつつも、次の日にデュークを誘いに行ったが。



「悪いけど、無理っすね」



「嘘だろ! セシリアにも用事があるって断られたのに、デュークまで来れないのかよ」



「俺だってレイヴンやハピネスのことは応援したいっすけど……レイヴンがいないとなると騎士団の方が忙しくなるっすからねぇ」



「そこをなんとかさ、前日に仕事を終わらせるとか」


「……仕事だけが理由じゃないっす。俺はレイヴンの推薦で騎士団に入ったんすよ。ただでさえ、ひいき目で見られてると思われてるのに、同じタイミングで連休とったら、さらに立場が狭くなるっすよ」



「な、なるほど……。確かにそれじゃあ無理か」



「隊長、自分で企画したんだから責任持つっすよ。……言っておくっすけど、逆に二人の間に亀裂を生じさせちゃ駄目っすからね!」


「わ、分かってるよ……」


余計なことだけはするなと、堅く釘を刺されたのを思い出す。

別に俺は下手な言動なんてするつもりはない。

ただ、頼りにしていたセシリアとデュークなしでの三人のパーティーだということ事態が問題なのだ。



「完全に俺、邪魔者だろ……」



予定を立てたのも人を集めたのも俺なのだが、正直帰りたい。

人を頼りにすることを前提で、計画を立てることがいかに愚かだというのを痛感する。



「ドタキャンして帰るか……? いや、そんなことしたらセシリアに嫌われるし、デュークに無責任だと怒られるし。……何より二人に悪いしなぁ」



一人で何か名案はないかと考えるも思いつかず、無常にも時間だけが流れていく。

そんな中、急に肩を叩かれて振り向く。

そこには、いつもの騎士団長の姿ではない、冒険者姿のレイヴンが立っていた。



「……待ったか?」



「い、いや、別に……今来たところだけど」



実は、もう三十分も前から来ていて、ずっとどうしようか考えてたなんて言えるわけがないな。



「どうかしたのか。ものすごい汗の量だぞ?」



「えーっと、今日かなり暑いだろ。だからだよ、うん」



どうやら、俺から大量の冷や汗が流れているらしい。考え事に夢中になり過ぎて気づかなかった。



「そうか? 今日は割と涼しいと思うぞ」



「い、いつもは騎士団の鎧を装備しているだろ。今日はレイヴンにして珍しく、軽装だろ。だから涼しく感じるんじゃないのか」



「……確かに、そうかもな。ここ最近、休みがなかったからずっと鎧を着ていた気がする」



話を逸らす作戦は成功したようだが、気を抜くことは出来ない。

もう、ここまできてしまったら腹を括って依頼に行ってしまおう。



ハピネスが来たら、ドッキリ成功みたいな感じでやんわりとごまかせばいいだろうし。



「そうか。今日、明日でリフレッシュしてくれれば、予定を組んだ俺としても嬉しいんだ。だから、ギルドの依頼だけど、楽しもうぜ」



「ああ、わかったよ。ヨウキ、ありがとう。それじゃあ、乗り合い馬車の御者に手続きをしに行こうか……」



「ちょっ、待った!」



常備しているのであろう、紙とペンを握りしめて御者の元に行くレイヴンの腕を掴んで止める。

まだ、ハピネスが来ていないので手続きを済ませてはいけない。



「……どうした。早く手続きをしないと、席が埋まって乗れなくなるぞ?」



「じ、実はまだ依頼に行くメンバーが全員揃ってないんだよ」



「……何?」



レイヴンの眉が少し動き、顔色が若干青くなる。



「そ、そんな、あからさまに不安になるなって。来るのはレイヴンも知り合いだからさ」



「……そうか、なら良いんだ。来るのはセシリア辺りか? 確かデュークは休みを取っていなかったはずだし。後、俺とヨウキの間に共通している知り合いといえば……?」



ぶつぶつと呟きながら、誰か来るかを模索しているが、何故か、ハピネスの名前が出てこないな。

デュークと一緒にハピネスとお近づきになるために協力したことを忘れたのだろうか。



誘っても絶対に来ない、または俺が誘っていないと思っているのかのどちらかだろう。

ハピネスの名前が全く出ないところを見ると、少々不安を覚えてくるな。



このまま、何の心構えも出来ていないレイヴンの元にハピネスが来たらどうなるか。

先に来ることをばらして置いた方が良いような気がするな……レイヴンだけでなく、俺のためにも。



しかし、その決断をするのが遅かったと俺は背中を引っ張られて気づいた。

レイヴンは俺の目の前で顎に手を当て、誰が来るかを考えるのに夢中だ。

となると、今俺の背中をぐいぐいと引っ張っているのは。



「……到着」



「やっぱり、か」



振り向くと、いつもの無表情で何故か敬礼しつつ服を引っ張るハピネスがいた。もう待ち人が来たというのにレイヴンはハピネスに気づいていないのか、深く考え過ぎて自分の世界にトリップしてしまっているようだ。



「……遅刻?」



「いや、時間通りだ。俺とレイヴンも今来たところだよ」



「……そう」



俺に挨拶を済ませたハピネスは、レイヴンの前に行き軽く胸を叩いた。



「……おは」



軽く胸を叩かれたおかげで、自分の世界から帰還したレイヴンはハピネスの存在に気づいたようで……先程は青くなった顔色が今度は一気に赤くなった。

レイヴンは意外と感情が顔に出やすいんだな。



魔王城で最初会った時はクールで寡黙な剣士だと思った頃が懐かしい。

そんな思い出に耽っているとむんずと腕を捕まれ引きずられる。



引きずる主は言わずもがな、レイヴンだ。

ハピネスと少し離れた場所まで引きずられると解放される。



「……何故、ハピネスが?」



今までで一番レイヴンの低い声を聞いた気がする。

そんな今は全く関係ないことを思える俺は、この状況にたいして余裕を感じているのだろう。

レイヴンなら分かってくれると。



「ハピネスもずっと屋敷で働き詰めで、何処にも出かけてないからさ。……ちょっとした遠出だし、せっかくだから誘ってみたんだよ……な」



「……遊びじゃないんだぞ」



「うっ……さ、さっき疲れを癒すって言ってたろ。確かに依頼はちゃんとした仕事だ。遊びじゃない。だけど、ハピネスだってレイヴンが思っている以上に戦力になるから大丈夫だ」



レイヴンには言えないが俺の元部下を嘗めるなよという話である。

デューク程ではないが、ハピネスも戦える。



魔法と自身の羽根を駆使して戦うのがハピネスのスタイルで、魔王城では良く修業をしたものだ。今は俺の全身脱羽毛により羽根はすべてないが、魔法だけでも充分強い。



「……そうか。ハピネスとの付き合いはヨウキの方が長いしな。済まない、俺はハピネスの実力も知らないから」



今度は落ち込まれてしまった。

不安になったり、怒ったり、落ち込んだりと忙しいな。



「別に、これから知っていけばいいだろ。というか今回の依頼で知れるだろ、いろいろと」



「……俺に出来るだろうか」



「しっかりしろって! そこはいつもみたいに『……そうだな』だろ?」



「ふっ……そうだな」



言い方を物真似して雰囲気を和ませる試みが成功したのか、レイヴンに笑みが零れる。

いつものレイヴンが戻って来たようなので、とりあえずはよしとしよう。



馬車の中でもテンパりそうな予感がするが、俺がフォローすれば良いだろうし。話終えた俺達はハピネスの所に戻る。



「……待った」



「悪い、待たせた。ちょっとレイヴンと乗り合い馬車の金を割り勘にするかどうかで揉めてな……」



どうして、ハピネスを連れてきたのかを問い詰められていたなんて話すわけにはいかないので、しょうもない嘘を吐く。



「……そんな話してないだろ」



「……私は?」



「ハピネスの分はレイヴンが払ってくれるらしいぞ」



「……私も、払う」



「いや、俺がヨウキの分もまとめて払うから任せてくれ。御者に話をつけてくる!」



今度こそ乗り合い馬車の予約をしにレイヴンは御者の元に走っていった。

もちろん、紙とペンを握りしめてだ。

……一人で買物をする時はいつああしているんだろうか。

まあ、話の流れを漫才っぽい感じにしてごまかすことが出来たし、良かった。

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