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番外編 皆のホワイトデーを見てみた

なんとかGW中に更新出来ました

「その場のノリで屋敷から連れだしちゃったけど、予定とか大丈夫だった?」



「はい。今日は特に何もありませんでしたので」



「なら、よかった」



俺はセシリアと会話をしつつ、ガイが待つ宿部屋に向かっている。

屋敷から出る直前に、ソフィアさんにティールちゃんがいるかどうかの確認をとってみた。

案の定出かけたと言っていたので、おそらく、ガイの元に向かったはずだ。



「ガイは一体何を贈る気なんだろうな。外にも出ない……というか出れないから調達のしようがないはずなんだが」



「ガイさんのことですから、何か考えがあるのではないでしょうか」



「うーむ……」



結局、考えても全く検討がつかないまま、宿に戻ってきてしまった。

セシリアを連れて部屋に向かう。



「……変だな。話し声が聞こえないぞ?」



何となく聴覚強化をして、会話の内容を一足先に聞こうと思ったのにな。

いつもならストレスが溜まるくらい、いちゃラブしているのだが……。



「ティールちゃんがまだ来ていないのでしょうか?」



「どうだろうな。とりあえず中に入ってみよう」



俺は部屋の扉を開け、中に入った。

そこにはベッドに寝ているティールちゃん、傍らにはガイがいるという光景があった。



「ガイィィィィー!!」



「ぬぉわぁっ!?」



俺はガイを指差し、ドヤ顔で言い放った。

突然の声に驚いたのか、ガイがその場で飛び跳ねた。すぐにこちらを見て、何故か安心している様子を見せた。

俺達でよかったと思っているのだろうか。



「む……なんだ小僧に僧侶の娘ではないか。いきなり扉が開いたから驚いたぞ。まあ、小僧達で安心したがな。我輩のことを知らない人間が入ってきていたら危なかったぞ」



「ああ、確かに危なかったな。……だが、俺にはそんなことよりもっと危ないと思っていることがあるんだ」



「どうした。何かあったのか?」



「それはな……お前だ、このロリコン野郎ぉぉぉぉー!!」



「ヨウキさん、落ち着いてください!」



ガイに襲い掛かろうとした俺をセシリアが宥め、騒動が沈静するまで、まあまあな時間を要した。

部屋は荒れ、俺はセシリアによる説教をくらってしまった。



せめてもの救いはそんな騒ぎを起こして人が誰も来なかったことぐらいか。

……一番起こってはならないことが起きなくてよかった。



「おい、僧侶の娘よ。どうせなら夕刻まで小僧に説教をしてくれないだろうか。この程度では我輩、生温いと思うのだが」



「そうですね。ヨウキさんも充分反省していると思うのですが、ガイさんがそう言うのでしたら……」



「本当にすみませんでした。もう、勘違いしないし、騒がないし、ロリコンて言わないんで許してください」



俺は正座からの土下座を繰り出した。

説教の延長だけは勘弁してもらいたい。

必死の謝罪が実を結んだのか、説教は終了し俺は解放された。



長い時間正座をしていたので足が痺れているが、なんとか立ち上がる。



「……これだけ騒いだのに、ティールちゃん眠ったままだったのか」



ベッドの上ですうすうと寝息を立てている。

とても穏やかな表情をしているな、余程良い夢を見ているのだろうか。



「我輩が魔法で眠らせたからな、しばらくは起きんだろう」



「え、わざわざ魔法で眠らせたんですか、ガイさんが?」



「それってやっぱり……」



襲おうとしたんじゃと言いそうになったが、慌てて口を閉じた。

下手な発言をしてまた説教は嫌だし、話が進まなくなるからだ。



「む……なんだ?」



「いや、なんでもない。眠らせたって、何か理由あってのことなんだよな」



「無論だ。これが、我輩なりのティールへのホワイトデーとやらのお返しなのだ」



「「え!?」」



俺とセシリアは綺麗にハモった。

眠らせることがプレゼントとは、どういうことなのだろうか。



「今、我輩はティールに夢を見せている」



「ああ、《ナイトメア・スリープ》か。ガイ得意だもんな」



俺はガイの《ナイトメア・スリープ》によって過激な夢を見せられたことを今でも忘れない。

俺の負の念を込めた視線に気づいたのか、ガイがセシリアに顔を向けて話を再開する。



「そ、それでだな。我輩はある程度なら魔法をかけている相手の夢を操作できるのだ」



「そんなことが出来るんですか!? ……では今ティールちゃんにはどんな夢を見せているのですか?」



「どうせ、ティールちゃんとガイが外出している夢とかだろ」



それが、ティールちゃんの一番やりたいことだろうし。

しかし、ガイは首を横に振り否定の意を示す。



「……ティールの祖母の夢を見せている。我輩の夢など見せる訳がないだろう。生きている者なら会えるが、死んだ者とはおいそれと会えないからな」



「そうだったのか」



「でも、そんな簡単に思い通りの夢を相手に見せることが出来るのですか?」



セシリアの疑問はもっともだが……俺も一度見せられているので可能だというしかない。



「もちろん、下準備が必要だ。ティールが来てから少しの間、祖母の話をしたのだ。そうして祖母の思い出を頭に浮かばせてから、後はティールが懐かしいと思っている者の夢を見るようにすればいい」



「おい、ちょっと待て。俺の時ってそういう下準備してなくね?」



「それだけ小僧の頭は単純であったのだろう。煩悩にまみれた頭だな」



はっはっはと笑うガイ、セシリアは事情を知らないので首を傾げている。

……この辱められた恨み晴らさずべきか。



「過去を振り返るのも良いけどさ、今現在をしっかり見つめて生きるのも大切だよなぁ?」



「え、そ、そうですね」



「う、うむ……」



俺がまともなことを言っているためか、二人の多少困惑気味だ。

セシリアはともかく、ガイのやつ肯定したな。



「だからさ、ティールちゃんもガイからのプレゼントを貰いたいと思うんだよ。だから……デートとか、がんば」



「……なんだと?」



俺は軽い感じで親指を立てる。

ガイは口を空けて呆然、セシリアはというと俺に意見をいいたげだ。



「ヨウキさん、確かにティールちゃんのことを考えると良い案だとは思いますが、現実的にちょっと……」



「セシリア、こういうことは無理とかじゃないと思う。俺はティールちゃんの願いを叶えてあげたいんだ!」



俺の熱の篭った力説にたじろぐセシリア。

半分はガイに対する仕返しだが、ティールちゃんの願いを叶えたいというのも嘘ではない。



絶対にティールちゃんはガイとのデートを望んでいるはずだ。

あれだけ惚気を見せられている俺が言うのだから間違いない。



「待て待て待て待て! 我輩とティールを置いて話を進めるな」



「ちっ。別に良いだ……」



このままセシリアを説き伏せて、仲間に引き込もうしていたのに、後一歩のところで邪魔をされてしまった。

ガイとの口論を繰り広げようとしたら、ティールちゃんの寝言が聞こえた。



「おばあちゃん……」



そう口にして寝返りをうつティールちゃん。

ガイはどうだと言わんばかりに口角を吊り上げる。

しかし、次に寝返りをうった瞬間の寝言は祖母ではなく。



「……護り神様ぁ〜」



完全に寝ているはずなのに、いつもガイと話をしている時の笑顔のままで呟いた。

俺はニヤニヤしつつ、ガイを肘でつつく。



「愛されてんなぁ〜。やっぱりデート確定だ」



「我輩は魔法をかけ直す。だから……出てけ!!」



流石に悪ふざけが過ぎたようで、セシリア共々部屋を追い出されてしまった。



「追い出されてしまいましたね」



「ここ、俺が借りてる部屋なんだけど……?」



「今のは仕方ないですね。しばらくは部屋に入れなさそうですし、屋敷に戻りましょうか」



「せっかく来て貰ったのに、ごめん」



いたたまれない気持ちを残しつつ、セシリアの屋敷に戻ることにした。

移動中、広場に何かの行列が出来ていた……主に女子のだ。

面倒事の臭いがしたので、気に止めずに真っ直ぐ屋敷に向かった。



屋敷に戻り、門をくぐったところでそういえばと思い出し、セシリアに質問する。


「ソフィアさんてホワイトデーのお返し貰ってた?」



「私はそのような話は聞いていませんね。まだ、貰っていないのかもしれません」



ソフィアさんにお返しをするといえば、夫であるクレイマンだ。

バレンタインデーではギルドで臭い台詞を平気で言ってのけて、チョコを頬張っていたはずだ。



いくら面倒臭がりなクレイマンでも、お返しをしないなんてことはないはずだ……たぶん。



「あいつ、前科があるからなぁ……」



クレイマンは結婚記念日をプレゼント選びに使ってしまいソフィアさんを怒らせ、ぼこられるという事件を起こしたことがある。

一緒に過ごさず、プレゼントもないという最低なことをしでかしたからな。

「私はクレイマンさんがそこまで悪い人だとは思いませんが……とりあえず、ソフィアさんのところに行ってみましょう」



セシリアは一緒にギルドの依頼で仕事をした時のクレイマンしか知らないから、そこまで悪い印象を持っていないみたいだな。

確かに悪いやつではないんだよ。

ただ、だらけ過ぎてるだけなんだよな。



セシリアに連れられソフィアさんがいるであろう部屋に着く。

ノックをして、ソフィアさんの許可を取りに部屋に入る。



「うわぁ……」



「すごい……」



部屋に入った瞬間、目の前にはバケツ六個分のクッキーが置いてあった。

ソフィアさんは作業のようにクッキーを一枚ずつ食べている。



「セシリアお嬢様、お帰りなさいませ。ただいま、昼食の手続きを致しますので」



「いえ、それよりもこの大量のクッキーは一体どうしたんですか?」



「……夫からのホワイトデーのお返しです」



ふぅとため息混じりに話すソフィアさん。

クッキーをちらりと見てのため息だ。

クレイマンの奴、量があれば良いと思ったのだろうか。

ソフィアさんが食べきれるかどうかを考えなかったのか、奴は。



「クレイマンの奴、何考えてんだ?」



俺にはさっぱりわからないんだが。



「大方、なれない料理をしたんでしょうね。いくら夫が天才とはいえ、料理は別ですから。中々上手く作れなかったので、式神にも手伝わせたのだと思います」



「あいつ、阿呆だろ」



それで大量のクッキーが出来上がってしまったので、まとめて包装して贈ることにしたのか。

セシリアもこのエピソードには苦笑しているな。



話しをしつつ、クッキーを食べるソフィアさんだが、よく見ると食べるクッキーを選んでいるような?



「本当に……夫らしいです」


ソフィアさんは手に取っているクッキーを見て、わずかに微笑んでいる。

まさか、この大量のクッキーの中からクレイマンが作った物だけを選んで食べているとかだったりして……。



「なあ、セシリア。俺、夫婦の愛ってすごいと思うんだ」



「ヨウキさん、いきなりどうしたんですか」



セシリアはソフィアさんが選別食いしているのがわからないみたいだ。



「わからないならいいんだ、ソフィアさん、失礼しますね」



「はい、お嬢様、何かございましたら直ぐに駆け付けますので」



「え、あ、はい。では、ソフィアさん、失礼します」


改めて、ソフィアさんの凄さを知ったような気がした。

何処に行こうかと決めてはいないが、セシリアと屋敷内を散策する。



「そういや、シークがセリアさんからバレンタインデーにチョコ貰っていたはずだな。あいつ何かセリアさんに渡したのか?」



子供とはいえ、ちゃんとお返しをするのがマナーだろう。

金がなければこの際、手作りの物でもいいし。



「確か、肩凝りや美容に効果のある薬草をブレンドしたお茶を渡していました」



「うん、あいつは普通の子供とは違ってたの忘れてたわ」



そこまで気の利く物を自分で作って渡すとはな。



「お母様がすごく喜んでいましたよ。早速飲んでみたみたいでしたが、美味しいと言っていましたので、シークくんも嬉しそうにしていました」



「そっか。シークの奴も随分と馴染んで来ているみたいだし、もう心配しなくてもいい感じだな」



皆それぞれ、良い形のホワイトデーを過ごしているみたいで良かった。

前回のバレンタインデーの時の俺のような者がいないか気になっていたが、大丈夫そうだ。

デュークは心配いらないし、レイヴンは……。



「あ!」



「どうかしましたか?」



「そういえばさっきミカナがユウガのホワイトデーイベントの会場警備を騎士団に依頼したって言ってたよな」



「はい、確か……」



そうだとするとイベントの規模と勇者との関係からして、団長のレイヴンは出席必須だろう。

あの行列だといつ、イベントが終わるかわからんぞ。



そうなると、レイヴンがハピネスの所に来れるのも遅くなるわけで……まだイベントは開始されていないはずだな。



「セシリア、ハピネスを連れてレイヴンの所に行こう」



「え、どういうことですか?」



「今ならまだ間に合うはずなんだ!」



「だから、理由を〜」



セシリアと共に走り、仕事中のハピネスを捕獲した俺はソフィアさんに事情を説明。

ハピネスの恋愛成就のために昼休みを多めに下さいと頼み込むと、後ろからチョップが飛んできた。



セシリアにも協力して貰い、頼みこんだところでやっと承諾を得た。

今日中に今日の分の掃除を終えれれば良いとのこと。


「……説明」



「なしだ! とりあえず着替えて来い。直ぐに行くぞ」



「……何処?」



「レイヴンの所だよ。セシリア、悪いけど馬車貸して貰えないかな?」



「任せてください。今手配して来ます」



「……私、空気?」



何も分かっていないハピネスを着替えさせ、セシリアに手配して貰った馬車に乗り込み、イベント会場に向かう。

会場に着くと、人で溢れ返っており、なんとか知り合いを見つける。



「おい、デューク」



「あ、隊長じゃないっすか。どうしたんすか、こんな所にいても胸糞悪くなるだけでしょうに」



「それはどういう意味でだ。ユウガがいるからか、それとも俺が冴えない奴だからか……って今はこんなこと関係ないんだよ」



いつもの漫才をしている暇ではない。

デュークにささっと事情を説明をする。



「ああ、そういうことっすか。なら助かったっすよ。さっき俺がイレーネにホワイトデーのお返しを渡したらもの凄く羨ましそうに見てて、『デュークはいいな、返せて』って悲しげに呟かれたんすよ」



「やっぱりそんな感じか……」



ハピネスだけでなく、レイヴンまでとは……レイヴンの方が重症だな。

これはハピネスを連れて来て正解だったかもしれない。デュークの話を聞く限りの空気の抜けたレイヴンじゃ、何かあった時の対応に困るだろう。



フラグメイカーなユウガのいるイベントだからこそレイヴンにはしっかりして貰わねばなるまい。



「でも、ハピネスが来たなら大丈夫っすね」



「ああ、たぶん」



「ヨウキさん」



変装をしたセシリアがやってきた。

セシリアにはハピネスと一緒に待機して貰っていたはずなんだが、ハピネスの姿がない。



「セシリア、ハピネスは何処に行った?」



「実はヨウキさんを二人で待っている間に、警備の最終確認をしていたレイヴンさんに会いまして」



「本当っすか、良かったっす〜」


デュークがもう心配要らないと踏んだのか、普段の穏やかな雰囲気を出しはじめた



「ですが、少々問題が発生しまして……来ていただけますか?」



「ああ、わかった」



何があったのかと安心していたデュークも一緒にセシリアに着いていく。

やがて、人気な少ない路地に着いた。

先は曲がり角になっているので、顔だけ出して覗くとそこにはレイヴンとハピネスがいる。



「まさか、今度はレイヴンがホワイトデーのお返しを渡せないとかじゃないっすよね?」



バレンタインデーではハピネスがプレゼントを中々出せずにお見合い状態になってしまったからな。

あの時デュークも現場にいたのでまさか、今回もと思ったらしい。


「いいえ、レイヴンさんはハピネスちゃんが来たら直ぐにプレゼントを出して渡しました」



「じゃあ、何に困ってるんだ?」



俺はもう一度覗いて、二人を見る。端からには見つめあっているように見えるが……よく見るとレイヴンは自分が渡したプレゼントの箱を、ハピネスは箱とレイヴンをちらちらと見ているような。



「……どうやら、レイヴンさんはプレゼントを開けてくれるのを待っていて、ハピネスちゃんはどうしたらいいのかわからないのかと」



「ピュアなのも大概にしろやー!!」



我慢できなくなった俺がプレゼントを開けてやろうと二人の前に出ようとしたが、デュークとセシリアに押さえられてしまった。

結局、セシリアから二度目の説教を受けてしまった。



レイヴンもタイムアップが来てしまい、ハピネスの反応を見られずじまい。

フラグメイカーの効力は相変わらずなのか、女子ラッシュが起こり騎士団が沈静させ、イベントもなんとか終わりを向かえた。



セシリアと過ごせたので、ホワイトデーもまあ、結果オーライといったところだろう。


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