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番外編 飴を渡してみた

大変遅くなりました。

「すごいですね、これ本当にヨウキさんが作ったんですか!?」


「あっはっは。……まあね」


セシリアが俺が渡した飴細工の花を見て、喜びと驚きの混じった表情をしている。

俺は褒められた恥ずかしさをごまかすために、誇らしげに笑った。



昨日、早く寝たおかげで早く起床することが出来た俺は、予定通り朝一でセシリアの元へ向かった。

出迎えてくれたソフィアさんには怪訝な顔をされたが、セシリアは笑顔で部屋に招き入れてくれたので、気にしない。



案内される途中にハピネスとすれ違ったが、俺と一緒にいるセシリアには羨望の視線を送っていた。そして、俺は一瞬目があったと思ったら直ぐに逸らされてしまい、そのままどこかに行ってしまった。



いつもなら、短くまとめた悪態をついてくるというのにな。

まあ、理由は何となくわかる。

状況を知っている者なら誰にでもわかる内容だ。

とりあえず、レイヴン早く来いと言ったところだろう。



前回のようにプレゼントを持ったまま、お見合い状態になどならなければいいがな。

あの距離感が二人にとってはちょうど良いのかもしれないが……見ているこっちからしたらじれったい。



デュークの苦労が実るのはいつになるんだろうな。

……俺も苦労をかけているから言えた義理じゃないか。



「食べるのがもったいないくらいですね」



「バレンタインでセシリアがくれたチョコレートケーキやクッキーに比べたらまだまだだよ」



「いえいえ、ヨウキさんの飴細工の方が素晴らしいですよ」



「そこまで褒めて貰えると照れるな……」



お菓子のおかげか、部屋の中が甘い雰囲気になってきた気がする。

こんな思いが出来るなんて、一週間頑張ったかいがあったというものだ。

いや、打算的な考えはやめよう。

もっとシンプルに……ホワイトデー最高!



なんて、幸せは長く続かないのが道理というもので……。



「おはよう、セシリア! ソフィアさんに止められたんだけど、どうしても渡したいものがあって……」


ノックもしないで入るからラッキースケベに繋がるのだろう。

今はそんなこと関係ないが、俺にとっての邪魔者が入ってきた。



開けた瞬間の爽やかな笑顔のまま、フリーズしている。

こいつにとっても俺は邪魔者だというわけか。

とりあえず今言いたいことを言ってやろう。



「部屋入る時、ノックしろよ……」



女性の部屋に入る時、ノックするのは当然のマナーだろうに。



「おはようございます、勇者様。次からは気をつけてくださいね。……もう、このやりとりを何度したかわかりませんが」



いつも優しいセシリアが少しトゲのある発言を繰り出した。

何度もやられたらそりゃあ注意にトゲも入るよな。


俺ならキレる所だが、セシリアは注意で済ませるのだからやっぱり優しいのだろう。



「あ、うん、ごめん。次からは注意するよ。それで、なんでヨウキくんがセシリアの部屋にいるの? しかもこんなに朝早くに……」



「近い近い、離れろ! 俺は別にホワイトデーだからお返しを渡しにきただけだ」



徐々に顔を近づけて迫ってきたので、離れるように注意する。

たとえイケメンだろうが、俺は男に迫られる趣味はない。



「そんな……先を越されるなんて」



ユウガは黒いオーラを出して、床に伏してしまった。よく見ると手には何かが入っているであろう袋を握りしめている。

そういえば、セシリアはバレンタインデーで世話になった人達や知り合いにお菓子を配っていたんだったな。



ユウガもセシリアから貰っていたのか。

……パーティー組んでたんだし、知り合いっちゃ知り合いだよなぁ。

世話になったというより、世話をしていた方ではあるだろうけど。



「あーあ、先を越されちゃってたのね。まさか、朝一で一番最初にホワイトデーのお返しを渡したいっていう物好きがユウガの他にもいたとは」



「物好きで悪かったな」



「ミカナもご一緒だったんですね」



ユウガいる所にミカナ有りだな。

付き添い的なポジションで来たのだろうか。



「ええ。バレンタインデー同様に、ホワイトデーもユウガのお返しイベントがあるから。前回みたいなパニックを起こさないように、私が細心の注意を払ってユウガをイベント会場に連れていくことにしたの」



「そういえばそんなこともあったな……」



俺はショックで未だに床に伏しているユウガに目を向けた。

アイドルじゃあるまいし、こいつは本当になんなんだろうか?



「前回はレイヴンさん達、騎士団の方々がパニックの鎮圧をしたんでしたね。今回は前もって護衛の手配をしておいたほうが良いのではないでしょうか?」



「確かにそうだよなぁ。迷惑かけるなら、前もって言っておいた方がいいと思うぞ」



前回はパニックの鎮圧に向かったおかげで、ハピネスはレイヴンにチョコを渡す機会を得たわけだが。

あのような騒動は起こすべきじゃないし、きちんと準備した方が良いと思う。



「その辺はぬかりないわ。ちゃんと剣士に頼んで会場に騎士を回して貰っているから」



「なら心配ないか……?」



フラグメイカーのユウガのことだから、何かしら事件を起こしそうな気もするけどな。

まあ、起きたとしても俺は知らないが。

レイヴンにデューク、頑張ってくれ。



「ところで……いつまでいじけている気よ。ほら、あまり時間ないんだからさっさと渡しなさい!」



「う……わかったよ、ミカナ。セシリア、これホワイトデーのお返し。本当は一番最初に渡したかったんだけど……」



さりげなく俺のことをじろっと見てきやがったぞ、こいつ。

嫉妬しているのはわかるけど、勇者がやっていいのかそんなこと。



「誰が最初とかじゃないですよ。私はただ感謝の気持ちでお菓子をお配りしていましたので」



「えっ、そう!? じゃっ、じゃあ、これ……」



大切そうに握りしめていた袋から取り出したのは、普通のローブだった。

正直、前回のアクセサリー店でのことを考えると拍子抜けである。



てっきりまた無駄にゴージャスできらびやかな物を持ち出してくると思ったのだが。

セシリアも俺と同じことを思っていたのか、渡された瞬間、逆に驚いていたようだったし。



「素敵なローブですね。ありがとうございます」



「喜んで貰えてよかったよ」


二人が妙に良い雰囲気になっているような気がするのは俺だけだろうか。

間に入って全力で邪魔してやろうかと思う。



「ちょっと、あんた。何か邪なこと考えてるでしょ。顔に出てるわよ」



「まじか!? やばい、やばい。ポーカーフェイス、ポーカーフェイスっと。……よし、行くか!」



「よし、じゃないわよ!」



無表情に切り替えアタックを試みたが、ミカナにまたしても邪魔されてしまった。

邪魔に入る邪魔をされるとはな……俺が悪いんだけども。



「なんだ、お前も一緒にアタックしないのか。黙って見ている気か?」



「確かにそうだけど……ユウガの邪魔をしたくないし、セシリアも嬉しそうに笑ってるから……あの空間を壊したくないの!」



セシリアと仲良くなって、ユウガと和解したからこいつ、少し心の整理が必要になったかもしれんな。

自分の恋愛を真っ直ぐ貫き通せばいいものを……。



しかし、好きな子が笑顔になっているのなら、邪魔をするというのも間違っているような気もするな。

ミカナの意見も一理あるかもしれんな。

まあ、俺が間違っているのだから当たり前か。



「わかったよ。成り行きに任せる」



「……驚いたわね。まさか、本当に止めるなんて。アタシが止めても強行すると思ったんだけど」



「待て、こら」



止めておいてその言い分はないだろうに。

こんな感じで漫才をしている内に、ユウガとセシリアは談笑を終えた。



「ミカナちょっといいかな?」



「何よ、会場に向かうの?」



「いや、そうじゃないんだ。ミカナにもバレンタインデーに貰ったからさ、お返しを渡そうと思って……」


「えっ!?」



ミカナの顔が急に真っ赤に染まった。

俺はセシリアの近くに行き、成り行きを見守ることにした。



「勇者様もミカナにちゃんと用意していたんですね」



「まさかこのタイミングで渡すとはな。流石勇者だ」



本命の女の子にプレゼント渡した直後に、別の女の子にプレゼント渡すとか、本当に勇者だな。



先に渡せただろうにと思うが……セシリアに最初に渡したかったんだろうか。

まあ、それはそれとしてミカナもこれで報われるな。


「ミカナにはいつもお世話になっているし……僕からの感謝の印だよ!」



そう言って、袋から取り出した物を見て俺は思った。こいつ、ここでやりやがった、と。

ユウガがミカナに用意した物は魔法使い用の服だ。



ただし、魔法少女という言葉がぴったり合うような服である。

白とピンクを貴重とし、可愛らしいリボンがアクセントのフリフリな服だった。……悪ふざけとしか思えないんだが。



「これはね。休みの日一人で市場に行ってみたんだ。そしたら、これを見つけて、ピーンときたんだ。商人のおじさん曰く、異国の女魔法使いが着る服らしくて。それで……」



「行こう……」



まだユウガの話の途中だったが、俺はセシリアの手をさりげなく掴み部屋の外に誘導した。

ミカナの表情がなんというかこう……喜怒哀楽の内の喜怒が表現されていたんだよな。



セシリアも嫌がるどころか、ミカナにごゆっくりって小声で囁いてきたからな。部屋を出て、そっと扉を閉めた瞬間ミカナの非常に冷ややかな声が聞こえてきた。



「……やっちまったな」



「……そうですね」



「今日、ガイがティールちゃんにお返し渡すって言ってたんだよ。何渡すか気になるから一回宿に戻ろうかと思うんだけど、セシリアも、どうかな?」



「では、ご一緒させていただきます」



「じゃあ、行こうか」



俺はやらかしたユウガを置き去りにして、セシリアを連れて宿に戻ることにした。

次回はGW辺りになんとか更新します……

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