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尾行してみた

長くなり過ぎて時間かかりました。

ケーキ屋から出た後、俺は嗅覚を強化してデュークとイレーネさんを探していた。

何処に行くんですかというセシリアの質問をはぐらかしてである。

正直はぐらかすのは気が引けたが、決まっていないのでどうすることも出来ない。



「馬車で移動することが多いですから、たまには、こうやって町中を歩くのも悪くありませんね」



セシリアの元気そうな言葉が痛いな。

笑顔で俺の時間稼ぎの会話をしてくれて……ノープランなデートだというのに非常に申し訳ない気持ちになる。



「ははは、そう? 俺はいつも歩いて移動しているからわからないかも。ごく稀に飛んで移動する時はすかっとするけど……」



話題に乗って軽いボケをすると、セシリアが本気にしたのか眉を動かし、俺の腕を両手でがっしりと掴む。



「ヨウキさん、少しお話をしましょうか」



「じょ、冗談だよ……」



場を和ませようとしたのだが、逆効果だったようだ。セシリアは俺が魔族化するのがお気にめさないらしい。

俺も滅多なことではしないが……なるべく人としての生活をして欲しいみたいだ。



魔王城で俺が葛藤していたことを知っているからこそ、心配してくれているんだろう。

俺はそんな優しさにも惹かれているからな。

だからこそ、セシリアとの好感度を上げるためにこのデートは失敗出来ない。



デューク達を見つけて作戦を実行しないとな。まあ、作戦といってもやることは至って単純だ。

デュークのデートプランをパクる、それだけだ。



フォローは完璧、どんな事態でも収拾をつけるあのデュークが考えたデートプランなら絶対に間違えはないはずだ。

偶然を装って会ってダブルデートに持ち込むことも考えたが却下した。



ダブルデートでもデュークの意見に従えば、様々な良いデートスポットに行けるだろう。

しかし、それでは何の案も出せなかった俺の印象が薄くなることは確定する。



それにイレーネさんもデュークと二人きりが良いだろうし、邪魔はしたくない。ただデュークがどんな場所をデートコースにしているのかを見て、似たような場所に行く。

名付けて尾行デート作戦だ……我ながら最低だとは思う、しかし俺は止めない。



笑える冗談を交えながら、セシリアと会話しつつ、嗅覚を頼りにデューク達に接近していく。

デューク達の姿を目視出来るくらいまで近づくと、ちょうど何処かの店に入ろうとしていた時だった。



内心でラッキーと思い、入っていった店の看板を見る。

そこには『モヒジイの薬屋』と書かれていた。



「何だと……?」



驚き過ぎてつい思ったことを口にしてしまった。



「どうかしましたか、ヨウキさん?」



「いや、何でもない」



平静を装ってごまかすが、頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。

デートで薬屋って聞いたことがないぞ。

どちらかが怪我したとかならありえる。

しかし、イレーネさんは笑顔で店に入っていくのが見えたので、怪我なんてしているようには見えなかった。

全身鎧兜のデュークは論外だ。



なら何故? と思うが、全くわからない。

それよりも、これでは俺の作戦は失敗になってしまう。まさか、セシリアを薬屋に連れていくわけにもいかないし……。



「あっ! ヨウキさん、ここに入って見ませんか?」



どうしようか悩んでいた所で、セシリアからの救いの手が差し延べられた。



「ああ……ってここ?」


セシリアが勧めてきたのは、貴族が通うような高級ブティックではなく、庶民の服や貴族の着ていた古着が売っている服屋だった。



「はい。以前ヨウキさんにアクセサリーを頂いたので今度は私が御礼をしようと思いまして。ヨウキさんさえ良ければ私が何着か選んであげようかなと」



「まじで!?」



ギルドの依頼で着ていく冒険者の服以外、普段着はあまり持っていなかったから助かるな。

最近唯一自分で選んで買った服はもうお蔵入りになってしまったし。

セシリアなら古着でもお洒落な服を選んでくれるだろう。



「じゃあ、お願いしようかな」



「任せてください。絶対にヨウキさんに損はさせませんから!」



「あ、ありがと……」



セシリアが俺の両手を掴んで……って顔が近い。

これはこれで嬉しいんだが、セシリアからただならぬ気迫を感じるのは気のせいだろうか。



俺の服選びをしてくれるのはありがたいんだけど、目がマジなんだよな……。

そんなセシリアに腕を絡められつつも、半分引きずられるように服屋に連行された。

俺の心中は喜び半分戸惑い半分の割合である。



「ヨウキさんはちょっと個性的な感覚を持っているみたいですから……私がヨウキさんに合ったスタンダードな服を選んでみせます!」



「なあ、それって遠回しに俺のセンスが悪いっていうことじゃ……」



「いえいえ、そういう意味じゃありませんよ。ただ個性的なだけですから」



笑顔で言われるとツッコミようがなくなるなぁ。

セシリアなりに気を使ってくれているのだろう。

自分でもセンスないって自覚はあるし。



俺が自由に服を選んだら、第二、第三の黒歴史が生まれる可能性も考えられるからな。



「あはは……まあ、よろしく頼むわ」



そんな感じでセシリアによる俺の服選びが始まった。何着かセシリアが候補となる服を持ってきて、俺が試着していく。



ある程度、俺の好みにあった服装を考えてくれているようで、流行りだけを重視して選んでいるわけではないようだった。



セシリアが選んでいる合間に俺が一人で歩き回り服を見ていると、多少厨二っぽい服に目がいき、手にとってみる。



「うーむ……駄目だとはわかっていてもつい見入ってしまう。これが厨二病の性ってやつか」



「さ、さあこの服なんてどうですか。ヨウキさんに似合うと思いますよ?」



俺が自分の治らない病について歎いていると、すぐにセシリアに服を渡された。



「ありがと。じゃあ試着してくる」



こういったやり取りを繰り返して試着した結果、セシリアが三着程厳選して購入することに。

会計時に自分で払うと言ったのだが、御礼ですからと押し切られてしまった。



ちなみに買った服の中の一着を着て、店の外に出た。着てきた服より、セシリアが選んでくれた服の方がお洒落だと思ったからだ。



「いや〜俺だけ服選んでプレゼントまでして貰ったのは嬉しいんだけど、セシリアは服いいの?」



こんな古着屋で買える服を着ないだろうから、セシリアが望むならブティックに足を運ぼうと思うのだが。



「はい、私は結構服を持っていますし。ソフィアさんが私に合った服を仕立ててくれるので」



「あ、そうなんだ」



流石はお嬢様だなと思ってしまう。

セシリアの服はソフィアさんが仕立てていたのか。

あの人何でも出来るんだな。

メイド長の肩書きは伊達ではないということか。



「さあ、次は何処に行きますか?」



「次? ああ、次ね。えーっと……こっちかな」



考えてみたらノープランデートの真っ最中だったっけ。

やばい、今回は偶然場を乗り切ることが出来たが二度も奇跡は起きないぞ。

さっきのは何か事情があったはずだ。

もう一度デュークを付けてみよう。



強化した嗅覚を頼りに二人の居場所を割り出し向かう。

二人の姿が見えた頃には、ちょうど何処かの建物に入っていくところだった。



「今度こそっ……」



セシリアに聞こえないよう、小声で呟き建物の看板を見ると、アルバート流剣術道場』と書かれている。



「嘘だろぉぉぉぉぉ!?」



俺は地面に崩れ落ちた。

確かに二人共騎士だけど、よりにもよってデート時にまで剣術の特訓とか。

そんなに剣が好きなのか二人共。



「どうかしましたか、ヨウキさん。いきなり大声を出して……何かあったんですか?」



「あ、ごめんごめん。ちょっと思い出しへこみをしただけ」



苦しすぎる言い訳をして地面から立ち上がる。

剣術道場とはまたしても参考にならない場所に行ったな。

このピンチな状況をどう覆すか。

周りを見渡して良い店はないかを探す。



「もしかして、道に迷ったんですか?」



「いや、そんなことないよ」



先程と今の行動を含めて道に迷ったのかと勘違いされてしまった。

こうなったら適当な店に入るしかないか。



「あっ、ヨウキさん。少しだけこの店に寄っていっていいですか?」



また悩んでいるタイミングでセシリアが入る店を提案してくれた。

セシリアの視線の先を追うといろんな種類の花が置いている建物がある。



「花屋か、別にいいよ」



「では入りましょうか」



心の中で助かったと思い、セシリアに続いて花屋に入った。

外にも花があったが、店内にはそれ以上の花がある。俺は花の種類に詳しいわけではないので、物珍しさにキョロキョロしてしまう。



「最近、シークくんに花について教えて貰っているんですよ。料理に使えたり、お茶に使えたりする花とか」



「あー、あいつそういうのが得意分野だからな」



シークは植物関係全般の知識を持っているので、花のことも相当知っているはずだ。



「屋敷の庭師の方と対等で会話していたのを発見しまして、私も会話に加わるとシークくんがいろんな知識を披露してくれたんですよ。庭師の方が知らない知識もあったみたいで、それ以来、二人共仲良しになったみたいです」



「庭師の人には悪いことしたかと思ったけど、心の広い人で助かったな……」



雇い主の娘の前で子供に面目を潰されたわけだからな。

まあ、セシリアはそんなこと気にしないだろうけど。



「むしろ感謝しているみたいですよ。仕事をしていく上で必要な知識を学ぶことが出来たと言っていましたから」



「ならいいんだけどさ。シークが少しでも屋敷に溶け込めているみたいで安心したよ」



「もう完全に溶け込んでいますから大丈夫ですよ。もちろんハピネスちゃんも」


ハピネスの方は他にも心配な要素があるんだけどな……まあ、今はいいか。



「なら安心だな。じゃあ、シークから教わったっていう知識を披露して貰おうかな」



「ふふ、任せてください」



俺が名も知らぬ花を指差しては名前やちょっとした解説、どのような用途があるかを教えて貰った。

そんな俺達を店主の女の子が羨ましそうに見ていた。彼女からはイチャついているカップルにでも見えたのだろうか。



そう見えていたなら俺としてはかなり嬉しいことなんだがな。

見て回るだけで帰るのは忍びないので、俺とセシリアが気に入った花を数本買って店を出た。



「いやー、花ってただ見るだけの物じゃないんだな。貴重なことを知れたわ」



「全部シークくんから教えて貰ったことなんですけどね」



二人で談笑しながら店を出て歩く。

気分が良いのか、笑いが絶えない気がする。

ノープランデートが恐いぐらい順調なので、俺は内心ひやひやしているが。

解散するにはまだ早い時間帯だし、後もう一押しあれば今日が最高の思い出になるかもしれない。



三度目の正直だと勝手にデュークを信じて、セシリアを連れデューク達の元へ向かった。

町の中心から離れて、デューク達に近づいていく程店が減っていく。

一体デュークは何処に向かっているのだろうか。



セシリアからも俺が何処に行こうとしているのか、わからないらしくさっきから質問攻めにされている。

話を逸らすのも限界だと感じ始めた頃、ようやくデューク達の姿が見えた。



「あれは……デュークさんでしょうか。女性の方と一緒にいるみたいですが」



周りに人気があまりないので、セシリアにもデューク達が見えてしまった。

ごまかすのは後にして、今はデューク達の目的地である場所を知らないと。

でかい横文字で書かれた看板を見ると施設の名前がわかった。



「やぶさめ場……!?」



なんで町の中心から離れているとはいえこんな施設があるんだよ。

そもそもデート中に来るような所じゃないだろ!

ここから見る限り、イレーネさんはルンルン気分で施設の中に入っていったけどさ。

本当にあの二人デート中なのか疑うぞ。



「デュークさん、女性の方と入っていきましたね。挨拶しようと思いましたが……女性の方が楽しそうにしていましたし、お邪魔になっちゃいそうですから止めますか」



「あ、うん、そうだね。空気って読むの大事だから……」



「では、私達も行きますか。まだ目的地はこの先なんですよね?」



セシリアの質問され、背中に冷や汗をダラダラと流す俺。

先程は偶然に助けられたが、今回はそうもいかない。周りに全く店がないのだ。引き返すのも不自然だし、正直に白状するか奇跡を信じて先に進むか。



「あー、聖母様だー」



俺が究極の二択を強いられていると少年の無邪気な声が聞こえた。

声の主である少年がセシリアに向かって走ってきてそのまま抱き着いた。

その少年を皮切りに、少年、少女がセシリアの元に集まる。



セシリアが苦笑いを浮かべ、俺が困惑していると神父服を着た老人が息を荒げて走ってきた。



「これ、お前達、勝手に、走っていっては、駄目じゃ、ないか」



息切れしながらの注意は少年少女には届いかないようで、セシリアを中心に群れたままである。



「あの、貴方はセシリアの知り合いでしょうか? 俺はヨウキと言いまして彼女の……友人、なんですが」



友人の部分は少し声が小さくなった。

神父が俺の存在に気づいたようで、息が整うまで待ってから自己紹介を始めた。



「どうも、お待たせしました。私はダバテと申しまして孤児院を経営している者です。セシリア様の友人の方ですか。セシリア様には慈善活動で孤児院に訪れて貰っていまして」



「成る程、慈善活動で」


僧侶としての活動だろう。セシリアもいろいろな仕事をしているんだな。

未だに子供達の中心にいるセシリアを見て、好かれていることが伺える。



「セシリア様は孤児院でたくさんの子供達の相手をしてくれたり、勉強を教えて下さったりと……私も頭が上がらない状態なのです」


「はぁ、それであの状態っていうわけか。孤児院はこの辺りに?」



「はい。今日はみんなで買い物をしてきた帰りでして……この先に孤児院があるのです」



この情報を聞き、俺に起死回生の妙案が浮かんだ。



「へー、この人数での買い物なら荷物も多いですよね。子供達はセシリアに夢中だし、一度ああなってしまっては離れるのも難しいでしょう。どうでしょうか、俺とセシリアで孤児院に少しの間お邪魔しても?」



「えっと、私も子供達もそれは大歓迎ですが、よろしいのですか?」



セシリアの様子を見る限り大丈夫だろう。

俺もシークで子供慣れしているので問題ないし。

目的地を見失ってしまった俺にとっては願ったり叶ったりな状況なのだ。



「はい、行きましょう。あ、荷物俺が持ちますんで」



俺は神父さんが背負っていた大荷物を持ち、孤児院まで歩き出す。



「すみません、ではお願いします。……おーい、今日はセシリア様が来てくださるそうだから続きは院に着いてからにしなさーい」



「やったー、今日聖母様といれるんだ!」



「行きましょう、聖母様」



「あの、私聞いてないんですが……ヨウキさーん!」



後ろからセシリアの戸惑いの声が聞こえるが、子供達の手前で説明したくないので手を重ねてごめんと謝り、再び歩き出した。

……そういえばなんで子供達はセシリアのこと聖母様って呼んでいるんだろう。


おそらく二つ名だろうが、後でセシリアに聞いてみよう。

その後、孤児院に着いた俺はセシリアと共に子供達の遊び相手となった。

ほぼ全員がセシリアの方へ行って悲しくなり、女の子に慰められるという情けないハプニングがあったが。


遊んでいる内にあっという間に時間が過ぎてしまい、夕食までご馳走になってしまった。



「すみません、こんな遅くまでいて……」



「いえいえ。子供達も楽しそうにしていましたし、私も助かりました。是非ともまたいらしてください」



神父さんに見送られ、俺とセシリアは孤児院をあとにした。

セシリアを屋敷まで送っていく帰り道で、今日は良い思い出が出来たと確信している俺がいた。



「今日はとても楽しかったですね」



「ああ、うん」


「ですが、ヨウキさんの立てていた予定が大分崩れてしまったと思うんですが、大丈夫でしたか?」



「大丈夫だよ。服も選んで貰ったし、花屋でも面白い話を聞けたしね。孤児院も中々だったな」



「ダバテ神父もまた来て欲しいと言ってくれていましたね」



そういえば、孤児院の子供達がセシリアのことを聖母様って呼んでいたっけ。

遊ぶのに夢中になりすぎて理由を聞くのを忘れていたな。

もう屋敷に着きそうだし、最後に聞いてみるかな。



「なあ、子供達がセシリアのこと聖母様って呼んで……」



「ヨウキさん、世の中には知らない方が良いこともあるんですよ? あと知られたくないことも……ね」



今まで見てきた中で一番の笑顔なんだが……目が笑っていない。

どうやらセシリアにとって聖母様はタブーらしい。

何があったのかわからないが、深く追及するのは止めた方がよさそうだ。



「それでは失礼します。送って頂きありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」



「ああ、それじゃあまた今度……」



最終的に何とも言えない空気で別れてしまった。

最後の最後でやらかした気がする。

総合的には今日のデートは上手くいったのだが、偶然が重なり過ぎな気がする。



「とりあえず、デュークにデートの結果を報告してみよう。あと、あいつのデートコースについても聞かないとな」



今日はいろいろと面白かったり、楽しかったり、謎だったりと忙しい日だった。何だかんだで思い出には残る一日になったので結果オーライだな。

満足感たっぷりで帰路につく俺だった。

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