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厨二で依頼を受けてみた

ミネルバを飛び出して早八日。

今は危険な魔物が多く生息しているケベック山脈に俺はいる。

もちろん依頼のためであり、山脈の頂上付近に生えている薬草を採るためだ。



この依頼で三件目なので後一件残っている。

十日以内に終わらせると言った建前上さっさと終わらせなければならない。



「ふむ、さすがはAランクの依頼だな。ただ実力があれば簡単に終わると思っていたけど甘かったか」



独り言を呟きながら俺は頂上に続く道を歩く。

これの前に達成した二件の依頼は単純な魔物退治や収集クエストではなかったので、時間がかかってしまった。



とっとと山脈を登って目当ての薬草を見つけなければならない。

それなのに魔物はどんどんやってくる、何故だ。

俺は未だに扱いになれない剣を抜く。

構えは完全にデュークやレイヴンの見よう見真似。



剣術なんてまったく知らない俺の戦いぶりを見たら、普通の剣士に笑われてしまうかもしれない。

だが、今の俺は厨二全開。例え剣術初心者だろうが恐れるものなど何もない。



「この俺の前に現れたことを後悔するがいい」



襲ってきた魔物であるマッスルエイプの群れに剣を向ける。

筋肉が異常発達した猿の魔物で個体のランクはBだが、群れとなると話は違う。意外と頭が良い魔物で連携をとってくるのである。



案の定、群れからまず数匹が雄叫びをあげて俺に向かってきた。



「ふっ……愚かな」



俺は肉体強化を施し、さらに剣に雷を纏わせる。

黒雷とか言っているが普通の色の雷だ。

残念とか言われるかもしれないが知らんな。

出せないものは仕方ないのだ。



ケベック山脈の生態系を壊すわけにはいかないので、殺しはしない。

……というか殺さずって何となくかっこいい感じがするんだ、俺は。



「ギィィィイー!」



「安心しろ、殺しはしない……ただ、少しの間眠って貰うだけだ」



普段なら絶対使わないような厨二台詞を恥ずかしげもなく言い放ち、切り付ける。

剣に纏わせている雷は調整しているので、死にはしないはずだ。



俺の計算通り、切り付けたマッスルエイプは次々と身体を痙攣させて倒れていく。

仲間のそのような姿を見て激昂したのか、さらに数匹が襲い掛かってきたが結果は同じ。

俺の拙い剣術の前に倒れていった。



力の差がわかったのか、逃げ出していくマッスルエイプの群れ。

どうやら一番後ろにいた奴が指示したっぽい。

おそらく群れのボスだろう、良い判断をしたな。



「逃げる者を俺は追わん。見逃してやろう!」



逃げまとうマッスルエイプに踏ん反り返り、高笑いをする。

戦いを終えた俺は剣を納めて再び歩き出した。



そこからは似たような展開が続いたが、俺の厨二は止まることを知らない。


一人で高笑いをしながらあっという間に頂上付近にたどり着き、薬草を手に入れることが出来た。



薬草が手に入ればこんな魔物が出る場所に用はない。時間も限られているので、依頼主の元に急いで向かった。



「これが依頼の品だ、受け取れ」



「あ、ああ。ありがとう、これで娘の命が助かる……」



今回の依頼主はある貴族だった。

何でも娘が重い病気にかかり、治療するために薬草が必要だったらしい。



貴族の屋敷に着くなり薬草を渡した瞬間、おいおいと泣き出したから驚きだ。

……親としては当然の反応か。



宿部屋でイチャついていたあの二人も、お互いが助かったと知った時は嬉しそうにしてたな。



そんな思考をするが、俺は直ぐに黒雷の魔剣士に戻る。

今の俺はヨウキではない……黒雷の魔剣士だ。



「ふん、依頼を無事遂行しただけだ。俺は失礼させて貰おう。次の依頼があるんでな……」



「ま、待ってくれ! まず最初に会った時の無礼を謝らせて欲しい。あと、出来れば娘に一度会っていってくれ……」



「それは出来ない相談だ……俺は黒雷の魔剣士。例え誤解を受けようとも依頼は必ず遂行する。あと、ここでの依頼は果たしたからな、留まる理由はない、じゃあな」



止める貴族を余所に俺はその場から立ち去った。

ちなみに今の貴族、初対面の時は俺に対して嫌悪感ばりばりだった。



怪しいだの何だのとぼろくそに言っていたくせにあの手の平の返しようはすごいな。

前の二件の依頼主も同じような反応だったけど。

どうもこの格好は誤解を生みやすいな、止める気はないが。



「さて、最後は盗賊退治か、楽勝だな。くっくっく……俺の剣の錆にしてやる……」



まだまだ絶好調な俺は、最後の依頼である盗賊を狩るために移動を開始した。

目的地はもちろん、盗賊が良く活動しているというポイントだ。



依頼書にはある程度盗賊が出やすい場所が記載されている。

後はそこらへんをうろついて感覚強化をして、片っ端から血の臭いや人の声やらを頼りに無作為に探し回ればいい。



発見したら有無を言わさずに殲滅。

近くの町に駐屯している騎士団に渡せば依頼終了だ。……といった作戦で一日を浪費して探したが、まったく尻尾を掴むことが出来なかった。



「ぬうう……何故見つからん!? ちっ、流石は冒険者崩れの集まりといったところか。一筋縄ではいかないな」



おそらく自分達に対する討伐依頼が出された情報を入手して、危険察知でもしたのだろう。

ギルドの人間が来ることを見越して、移動しやがったな。



「黒雷の魔剣士から逃げられると思うなよ……」



俺は休もうともせずにその場から駆け出した。

もう時間がない、明日で十日目だ。

まだそこまで遠くには行っていないはず。



俺は近隣の町村で聞き込みをしまくり、情報を集めまくった。

全員、怪しそうな視線を送っていたが無視。

目撃情報や助かった被害者の証言を元に駆けずり回った。

そしてようやく、盗賊達を見つけたのは夜になる頃だった。



「ふはははは! ようやく見つけたぞ、この盗賊共」



「ちっ、ギルドの犬か。情報を掴んで移動したっていうのに見つかるのが早過ぎるぜ」



俺に見つかったためか、盗賊達は悪態をついている。しかし、また盗賊という割にはちゃんとした装備を身につけているな。

どれだけ盗賊稼業で稼いだのかと呆れてしまう。



野蛮そうな顔付きをしている者も少ないし……元冒険者の集まりだからか?



「大人しくすれば怪我をする必要もないが……どうする?」



一応戦闘をするかを聞く。答えはわかりきっているが、こちらも実力者として忠告をしているのだ。

その方がかっこいいからな。



「馬鹿じゃねぇのか、お前。俺達より怪しい格好しやがって。どこのギルドのやつか知らねーが、お前ら、相手は一人だ。やっちまうぞ!」



リーダーらしき男が指示を出し、盗賊達が襲い掛かってきた。

敵の数は十人程度、感覚強化で調べたところ隠れている奴はいなさそうだ。

俺は実力を計るため、お遊び程度に戦う。



各々が得意としている武器を使っているのだろう。

武器の熟練度は全員中々高そうだ。

仲間同士で連携も中々取れているし、流石は元冒険者といったところ。

だが……甘い、このような連携は最近戦ったマッスルエイプで慣れている。



実力を計り終えたところで俺は一旦跳躍し、盗賊達から少し離れた位置に着地。剣を抜き、盗賊達に向けて高高に宣言する。



「ふっ、武器を向けてきたからには覚悟しろ。そして後悔するがいい。この黒雷の魔剣士の前に降伏しなかったことをな!」



決まった……演出としてバックに中級魔法のサンダーボルトを落としても良かったかもしれない。

今度やってみよう。

俺の宣言にうろたえている盗賊が何人かおり、ぶつぶつと何かを言い出した。



「何だあいつ。リーダー、俺達変な奴に捕まっちまったな」



「黒雷の魔剣士……? 聞いたことのねぇ二つ名だ」



「一人のくせして何はったりかましてやがる! とっとと片付けちまおうぜ!」


ふむ……随分と俺のことを嘗めているようだ。

この格好を怪しいと侮辱もしていたしな、もう許さん。



「さあ、ショータイムの始まりだ。精一杯足掻いてみせろ!」



挨拶と言わんばかりにサンダーボルトを盗賊達の周りに連発する。

突然の魔法に慌てているが、直ぐに冷静さを取り戻しこちらに向かってきた。

対抗するため剣に雷を纏わせ構える。



「妙な形の剣を使っていやがるな。そんなもんじゃ切れねぇぜ」



盗賊の一人が俺の剣を見て罵倒する。

確かに普通の剣の形はしていない。

刃が稲妻のようにギザギザになっているのだ。



「ふん、馬鹿め。この剣のかっこ良さがわからないとはな!」



俺は盗賊の攻撃を難無くかわし、切り付けた。

盗賊は纏わせた雷によって痺れて気絶する。

確かに少し切りづらい……だが、雷を纏わせているので関係ない。

相手を倒せているのだからいいだろう。



そのまま、剣と魔法を織り交ぜて盗賊を殲滅していく。

人数が半分以下になったところで盗賊達が逃げ出し始めた。

元々そういう作戦を立てていたのだろうが……逃がさん。



マッスルエイプの時とは訳が違う。

一人残らず気絶させて、拘束した。



「ふう、後は近くの町の騎士団にでも渡せば依頼終了だな」



そう思い安心していると、誰かが近づいてくる気配を感じ、警戒する。

どうやら一人ではないっぽい。

数人の足音が聞こえてくる。



「誰だ、貴様は!?」



夜の闇から姿を現したのは、鎧を纏った騎士だった。派手に戦い過ぎたせいだろうか。

移動中の騎士団に見つかってしまったらしい。



「ふっ、俺の名は黒雷の魔剣士……ん?」



わらわらと騎士団の連中が姿を現していくと、知り合いが見える。

レイヴンに……隣にいるのはデュークだろうな。

全員鎧に鉄兜だが、デュークのだけ良く見ると、鉄兜と鎧を繋ぐ金具がついているのだ。



「むっ、こいつらは……貴様がやったのか!?」



どうやら騎士の一人があらぬ勘違いをしているようだ。

俺が盗賊であるこいつらを襲ったと思っているらしい。



この格好だと勘違いされるというのは今までの依頼でわかっているので仕方ないことだが。

このまま、関わると余計な面倒を起こしそうだな。

さっさと消えるとしようか。



「何を勘違いしているのか知らないが……俺の名は黒雷の魔剣士! こいつらは盗賊で俺は討伐依頼を受けたギルドの者だ。依頼は果たしたからな、処理は諸君に任せよう……では、さらばだ!」



「なっ!? おい、ちょっと待て貴様!」



一方的に用件だけを言い、後ろに高く跳躍する。

そのまま夜の闇に溶け込むようにバニッシュウェイブを発動し、俺は宣言通り消えた。



「くそっ……探すんだ。まだ遠くには行っていないはずだ」



確かに消えているだけで、遠くには行っていない。

俺を最初に見つけた騎士は指示を出しているが、騎士団はパニック状態だ。

突然人が消えたのだから、無理もないな。



このまま帰らせて貰おう。そう思いこの場から離脱しようとしたら、突然ハンドベルの音が響いた。

音の発生源はレイヴンだ。


……パニックを沈めるためにやったのか?

騎士達が静かになったのを確認すると、デュークに何やら耳打ちしだした。



「レイヴン……団長からの命令っす。今の人物に関しては追わなくてもいいそうっす。そこに縛られている連中はレイヴンが見た盗賊リストに載っていたらしいので連行するっすよ」



レイヴンの代わりに指示を出しているデューク。

……騎士団て普段こんな風に動いていたのか。

デュークが騎士団に入る前はどうやって意志疎通していたんだレイヴンよ。



デューク……いやレイヴンか、の指示に従い動き出した騎士達。

俺を追いかけようとしていた騎士は少し不満ありげだ。



騎士達が盗賊達を連行していく中、デュークとレイヴンは少しこの辺りを見回っていくといい残った。



俺は移動せずにバニッシュウェイブで消えたままだ。つい、騎士団のデュークの働きをぶりが見たくて居座ってしまった。



「……済まないな、デューク。いつも代わりに指示を出して貰って」



「本当っすよ。そろそろ俺とハンドベルから卒業して欲しいっす」



デュークがやれやれといった感じで首を横に振っている。

確かにレイヴンも少しは人前で声を出せるようにならないとな。

せめて、騎士団の前くらいでは出せないとだめだろ。



「……わかってはいるんだがな。本当に済まない……」



「謝るくらいならちゃんとして欲しいっす。このままじゃ恋愛の方も進展しないっすよ?」



レイヴンの顔が引き攣っている。

今の一言が大分効いたのだろう。

その通りなのかもしれないが……デュークも痛いところついてくるなあ。



「……努力する」



「ならいいっすよ。さ、見回りは俺がぱぱっと終わらせとくんでレイヴンは先に帰るっすよ」



「ああ……頼むな。そういえばさっきの黒雷の魔剣士……だったか。なんだか……」



「あー、さっさと帰るっすよ。さっき連行した盗賊達の書類も出てくるっすから」



「……ああ、そうだった。じゃあ先に帰っているから。……はぁ」



レイヴンは肩を落として帰っていった。

……なんとも悲しい後ろ姿だ。



夜の闇に消えていく感じが悲しさをより引き立てている。

今度レイヴンを誘って何処か行くか。



「さて、まだいるっすよね、隊長?」



いきなりデュークが回りを見渡すようにキョロキョロしだした。

何故まだいることが……だいたいなんで黒雷の魔剣士が俺だとわかったんだ。



中途半端な魔族化で体つきを変えている。

声もヘルメットを被っているのでいつもと違うように聞こえているはずだ。



まあ、姿さえ見せなければ完全にはばれないだろう。隠す必要はないが……このまま謎の男で終わった方がかっこいい。



「出て来ないなら来ないでいいっすけど……そろそろ正気に戻った方がいいっすよ。いつから黒雷の魔剣士をやってんのか知らないっすけど……こういうことはいつも後悔してたっすからね、隊長って。じゃ、忠告はしたし俺は帰るっすよー」



俺が何処にいるかわからないからか、大きく手を振ってデュークは去っていって。

俺はバニッシュウェイブを解除し考える。

盗賊達はレイヴン達が連行していったので、依頼は解決ということになる。

いろいろと終了だ……うん。



「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁあー!」



依頼が終了したことと、レイヴンとデュークの会話で完全に日常に戻った感じになってしまった。

そしてとどめの一撃がデュークの言葉。

いつも後悔している……しているよね、うん。



そう結論づけてしまったら叫ばずにはいられない。

着ている物を素早く脱ぎ、いつもの装備に着替える。脱いだ厨二衣装をかばんに無作為に突っ込み叫びながら無我夢中に走り出した。



「俺まじで何やってんのーーー!?」



後日聞いたところ、俺の声はばっちりデュークに聞こえていたらしい。



唯一の救いはレイヴンは落ち込んでいたせいか、心ここに有らずの状態になっていたため聞こえてなかったとか。

なんだか前半全然違う小説書いている気がしましたが、後半はやっぱり勇者パーティーでした(笑)

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