厨二になってみた
「ふっふっふっ……どうだ、いいだろ?」
「いいだろって、お前……本当に言ってんのか?」
裏路地で着替えを済ませた俺はクレイマンの元に戻ったなり、ポーズを決める。これも久しぶりな気がして気分が高揚するな。
「無論だ。久々に血が騒ぐぜ……もう誰にも俺を止められんぞ!」
「あ〜もうダメだ。相手すんの面倒くせぇ」
クレイマンは厨二スイッチの入った俺に対して呆れているみたいだ。
だが、俺は気にしない。
なぜなら、今の俺は気分が最高潮に達しているからである。
「よし、ギルドに行って依頼を受けるぞクレイマン。俺の中の何かが暴れ出す前にな」
「あ〜わかった、わかった。……つーか、本当にその格好で行くのか? 一回鏡見てこい。ギルドに行くのは鏡見てからでも遅くねーだろ」
「……何を言っているんだ、クレイマン。鏡なんて見てきたに決まっているじゃないか」
どんな感じになるかはある程度予想していたが、実際に見ないと素晴らしさがわからないからな。
適当な店の前の鏡で姿を見てきたのだ。
黒のロングコートに同色のズボンに指抜きグローブ。全身黒はなぁと思ったのでシャツは紫色にした。
そして銀盤が足の甲を覆っているブーツに極めつけがヘルメットだ。
ヘルメットを買った店の店主は鉄兜の方が防御力があるので、悪ふざけで作った商品だと言っていた。
なんでも、買う人は買うらしいな。
実質俺もその内の一人だし。
あと、鞘つきの剣も買ったので背中に差している。
剣なんて使ったことないが、面白い形をしていたので買ってしまったのだ。
異国にいる武器屋には様々な物が売っているようで、売れればいいな感覚で仕入れていたらしい。
こんな素晴らしい一品に対して何を言っているんだか。
俺からしたら売れていなくて良かったけどな。
「あー、鏡見てきてその感じなんだな。なら俺はもう何も言わねぇよ。言ったって無駄だろうしな」
「どうしたんだ、クレイマン。男なら一度は憧れそうな装備だろうに」
「憧れはしても実際にはしねぇよ、その格好」
「そうか、憧れはするよな。さすがクレイマンだ、わかっているじゃないか」
「……本当に今のお前には何言っても無駄だな」
諦めたようにため息をついているクレイマンを連れ、俺はギルドに向かった。
「あれ、副ギルドマスターじゃないですか。今日は休むと言ってませんでしたか?」
ギルドに着き、中に入るとクレイマンの隣で受付をしている女性職員が迎えてくれた。
口ぶりからして何故か俺のことは目に入っていないっぽい、何故だ。
「おう、休みだ、休み。ただギルドの依頼を受けたい奴がいてな、Aランクの」
「Aランクの依頼ですか。ちょうど依頼が来ているんですよ。副ギルドマスターがタリクーボ商業ギルドの依頼を完璧に達成してくれたおかげで、私達のギルドの信用が高まったからかもしれませんね」
女性職員はニコニコしながら嬉しそうに話している。自分の働いているギルドが有名になるのは良いことだ。
その分仕事は増えるだろうけど。
というか依頼はクレイマンだけではなく、俺やセシリア、ソフィアさんも協力したんだがな。
まあ、今の俺にとっては些細なことだし気にする必要もないか。
「近場での依頼ってあるか?」
「はい、四、五件ほどありますが……まさか副ギルドマスターが直々に行ってくれるんですか?」
「んなわけねーだろ。俺がわざわざ休みの日にギルドの依頼受けるかよ」
確かにクレイマンの性格上行くわけないよな。
聞いた本人も苦笑いしているし。
「あはは……そうですよね。副ギルドマスター今は勤務中じゃありませんでした。いつもは何だかんだで仕事をしてくださるので、つい……」
「全く……俺のこと何だと思ってんだか」
意外とクレイマンて人望が厚いんだな。
頭をボリボリかいているのは照れ隠しのつもりなのか?
微妙ににやついているのはごまかされないぞ。
いや、いつもはごまかせているけど今日は別のことで機嫌がいいんだろう。
ソフィアさんに満足いくプレゼントを選ぶことが出来たみたいだったし。
「では一体誰が依頼を受けるんですか?」
「こいつだ、こいつ」
クレイマンが後ろにいる俺を指差す。
「えっと……それって副ギルドマスターの新しい式神じゃないんですか?」
女性職員は一度首を傾げてから、恐る恐るクレイマンに質問した。
どうやら、あらぬ勘違いをされていたらしい。
だから、後ろにいるのに一切話しかけられなかったのか。
「俺の式神はこんな形してねぇよ。こいつが依頼を受ける。Aランクじゃねぇけどな」
「え……規則上Aランクの依頼はAランクの冒険者しか受けられないはずでは」
「実力は大丈夫だ、俺が保障する」
クレイマンはそう言っているが、女性職員はかなり困惑している。
いつも笑顔でテキパキ受付の仕事しているのにな。
「えっと……お名前は……?」
「あー、そうだったな。お前名前どうする。Aランクだし二つ名っぽいのでもいいぞ」
「じゃあ、黒雷の魔剣士で頼む」
どこから出てきたとツッコミをいれられそうな厨二ネームだ。
ヨウキでいいかもしれないが、今は顔が隠れているしクレイマンも二つ名っぽいのでいいって言っているからな。
厨二全開でいかせて貰おう。
ちなみに名前の由来は全体的に黒っぽい格好をしていることと、剣の形からとってみた。
「……だそうだ。それで登録しておいてくれ」
「あの、私が聞いたのは本名……」
「じゃあ、俺帰るわ。これ以上はもう面倒くせぇ。手続きやっといてくれ」
「あ、ちょっと待ってください……副ギルドマスター、クレイマンさーん!」
女性職員の呼び止めもむなしくクレイマンは去っていった。
今日はもう疲れたんだろう。
普段だらけ気味のクレイマンにしては、ツッコミやら何やらとなれないことをしていたからな。
回復力の元になるソフィアさんもいなかったし。
残ったのはうろたえまくっている女性職員と俺である。
クレイマンは帰ってしまったし、俺のテンションはうなぎ登りでもう待てない。そろそろ本領発揮といこう。
「ふっ、では早速依頼を受けたいんだが……どんな依頼があるか見せてくれるか?」
「あ、は、はい!」
女性職員は急いでカウンターに行き、依頼書を持ってきた。
先程クレイマンと会話していた時に言っていた依頼だろう。
ほとんど近場の依頼だ。
冒険者崩れの盗賊退治に、危険な魔物が住み着いている山脈から採れる、薬草が欲しいだのといったものがある。
他の依頼も見てみると、割と近い地域に密集している。
これだと移動にも苦労はしなさそうだ。
……頑張れば十日くらいで四件ほど回れる計算になる。
宿にも帰りたくないし、十日程空けても大丈夫だろう。
依頼で何日か部屋を空けたことがあるので、俺が帰らなくてもガイは不信に思わないし。
「じゃあ、これらの依頼を受けよう」
俺は受けることにした依頼書を女性職員に見せる。
「えっ……一気に四件もですか!? Aランクの依頼ですよ」
「ああ、任せてくれ。十日くらいで戻ってくるから。期待して待っていろ!」
「えっ、ええっ!?」
困惑する女性職員を残し、ギルドを出る。
もちろん出る前にポーズを決めるのは忘れない。
いつもとは違う格好なので、違うポーズを即興で考えキメてきた。
一回最強主人公の気分を味わってみたかったんだよ。今、黒雷の魔剣士の伝説が始まる……みたいな。
高笑いをしそうになるのをぐっと堪えて空を見上げる……冒険への第一歩を踏む主人公の気持ちはこんな感じなのだろうか。
この清々しい青空に暗雲ををもたらすわけにはいかない。
そう、これは俺の指命なのだ。
「くっくっく……俺が全て解決してやるぜ!」
厨二全開で俺は駆け出す。周りの人の目など気にしない。
俺には今、自由という名の翼が背中に生えているはずだ。
恐れるものなど、何もない。
この時はそう思っていたのだった……。
ヨウキ暴走し過ぎ……。




