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友人に助けて貰ってみた

「……散々な目にあったみたいだな」



「……本当にな。でもレイヴンがいてくれて助かったよ」



俺は騎士団本部にあるレイヴンの執務室にいる。



「……本当にユウガが申し訳ないことをしたな。すまない」



「いやいや、謝らなくていいって。レイヴンのおかげで俺の疑いが晴れたようなもんだし」




騎士団に連行された時は本当に今日はついていないと自分自身を呪っていた。

どうせ勇者であるユウガの証言ばかり聞いて、俺が全部悪いことになるんだろうと諦めていたが……神は俺を見捨てなかった。



たまたま騎士団本部で仕事をしていたレイヴンが話を聞き付けて、来てくれたのだ。



そして、公平な取り調べが行われてスリの件は俺の無罪が確定し、王都で乱闘騒ぎを起こしたため、厳重注意という形で話がついた。



俺が起こしたわけではないのだが……という細かい話は気にしない。

レイヴンがいなかったら確実にもっと面倒なことになっていただろうからな。



「本当にありがとう……仕事中だったのにわざわざ駆け付けて来てくれて」



「……窓から団員に連行されてきたヨウキとユウガが見えたんだ。何事かと思ったぞ……」



レイヴンの仕事机にはたくさんの書類が積まれている。

仕事を中断してまで来てくれたようだ。

本当に感謝しきれないな。



「……で。勇者はどうなるんだ?」



「ヨウキと同じ厳重注意……っていう形にはなるんだけど……」



「誰が注意するんだよ」



「……団長である俺がすべきだと部下達に言われたんだが……」



腐っていても勇者だ。

英雄扱いされている勇者に対しての厳重注意なんて恐れ多くて誰もやりたがらないんだろう……たぶん。



「体よく押し付けられたな」


「……はぁ」



レイヴンは深いため息をつく。

大丈夫か、疲れが溜まっているんじゃ……いや違うな。



「……レイヴンて勇者と喋れるっけ」



「……無理だ。馬鹿にされたわけじゃないんだが……そんなこと気にする必要ないと言われて……それっきりだ」



「あーなるほど」



本人が気にしていることをそんなこと扱いしたら駄目だろ。

気にしているから悩んでいるんだからさ。

ユウガに悪気はないんだろうが……阿呆なんだろうな。



「じゃあ、どうするんだよ。……このまま何もなしに解放するのか?」



「……筆談でなんとかする」



「おいおい……それでなんとかなるのか?」



「……勇者パーティーで旅をしていた時も筆談でコミュニケーションをとっていたから大丈夫だ」



「ならいいけど……」



「レイヴン! 隊長が騎士団に捕まったって聞いたんすけどどこにいるんすか!? 」



いきなりドアが開いたと思ったらデュークが声を荒げて入ってきた。

どうやらレイヴン同様、俺が連行されてきた情報を聞いて飛んできたみたいだ。



「おいおい、落ち着けデューク……つーかレイヴンじゃなくて団長って呼べよ。上司なんだから……」



「騎士団に連行だなんて……何やらかしたんすか。まさか、セシリアさんに振られすぎてついに非行に……」



「走ってねぇ! いいから俺の話を聞け」



「本当っすかぁ……? ま、いいっすけど。あと、俺の上司は隊長だけっすから。まあ公の場ではレイヴン団長とは言ってるっすよ。……で、何で連行されたんすか?」



「最初に言っとくけど俺は悪くないぞ」



「はいはい……わかったっすよ」



イマイチ信用していなさそうなデュークが納得するように時間をかけて説明する。

その間にレイヴンはユウガに話をしてくると言って部屋から出て行った。

出ていく時の表情が見えたが……あまり良くなかった。

頑張れとしか言えなかった自分がいたな。



「なるほど……それは隊長は悪くないっすよ。相手が隊長の話も聞かずに襲い掛かってきたんすから」



「だよな。俺悪くないよな?」



「ま、隊長がただの人間に財布を盗られるなんていう失態を犯したことは嘆かわしいっすけど」



「……」



説明をした結果、デュークも俺の無実がわかったみたいだが……なんだかやるせない。

デュークの言う通り財布を盗られた自分が情けなく感じる。



「いや、冗談すよ冗談。……何でそんな悲しい顔するんすか」



「いやぁ……今日は本当に悲惨な目にばかりあっているからさぁ……」



今朝からの出来事を考えるとため息すら出ない。

明日はセシリアと会えるというのに……。

なんなんだ今日は。

セシリアに会うための試練なんだろうか……いや、ないな。



「隊長、なんか……すまないっす」



自分のついてなさに悲しくなり落ち込んでしまう。

そんな俺をデュークが慰めてくれているとレイヴンが帰ってきた。

まだ、数分しか経っていないんだが。



「随分早いな」



「本人は深く反省していた様子だったし……それにユウガに長く説教するのは少しな……」



やはりレイヴンでもユウガは無理か。

まあ、筆談じゃ限界があるしな。

仕方ないとはいえ、少々納得いかないな。



「なんなら俺が行ってくるっすよ。勇者だろうがなんだろうが関係ないっすから」



「……デューク、ただでさえ騎士団で悪目立ちしているんだからこれ以上は……」



「ちょっと待て、今聞き捨てならないことを聞いたぞ。悪目立ちってなんだ。俺は聞いてないぞ」



ユウガのことは後回しでもいいから、じっくり聞かないといけないな。

元部下が何か粗相をしているなら隊長として注意せねば。



「いや、悪目立ちなんて……してないっすよ」



あからさまに顔を逸している。

明らかに怪しいな。

詳しい話を聞こうと詰め寄ると扉をノックする音が聞こえた。

レイヴンが机の上のベルを鳴らす。

すると扉が開き鎧を着た少女が入ってきた。

……ベルが返事の代わりになっているんだな。



「だ、団長、失礼します」



レイヴンの部下だろうか。

執務室に入ると周りをキョロキョロと見回している。俺を見て一瞬目を細めたがすぐに目を逸しデュークを見ると一瞬むっとした表情になるが、すぐに安堵した表情に代わる。

そして、むんずとデュークの腕を掴み部屋の外までぐいぐいと引っ張っていく。

……なんだかその仕種が微妙にかわいいな。



「団長、失礼しましたー」


頭を下げて執務室から退室する。

デュークは何も言わぬまま去って行ったな。

……まさかデュークまでロリコンになってしまったのだろうか。



「レイヴン、今の少女は誰だ?」



元とはいえデュークは俺の部下だ。

部下の犯した過ちは隊長である俺が正さねば。



「少女? ……ああイレーネのことか。デュークはイレーネと普段一番行動しているから、おそらく訓練中に抜け出してきたデュークを探してくるように言われたんだろう。……あと、彼女はエルフだからな。幼く見えるだけで実年齢は……個人情報だから言えないが……少なくともヨウキが考えているような年齢ではないぞ」



「エルフだと……?」



異世界の種族といったらエルフとまで言われているあのエルフか!?

……言っているのは俺だけだが。

今日はついていないと思っていたけどエルフを見れるなんて……レイヴンに助けて貰えたことといい……運気が上がったか?



「でもエルフって魔法とか弓が主流なんじゃないのか?」



「……そこも事情があるから……な」


言えないと。

まあ、会ったばかりでまだ話したこともない女性の事情を聞くのも男として駄目だな。


それなら、デュークが騎士団でちゃんとしているか聞きたいんだけど……机に積まれた書類が目につく。



考えてみたらレイヴンは仕事を中断しているんだよな、俺やユウガのために。

俺の厳重注意も形的には終わっているんだし、もうここにいる理由がないんだよな。



「ま、彼女からしたら俺は知らない人物だしな。それに好奇心だけで女性の事情を聞き出しなんてしたらまたセシリアに説教されるし。……レイヴン、俺そろそろ帰るよ。今日は本当に助かった」



「……悪いのはユウガだからな。当然のことをしたまでだ……じゃあ、またなヨウキ」



「おう、デュークによろしく言っておいてくれ」



そう言ってレイヴンに別れを告げ俺は騎士団本部から出た……が。



「あ……やっときた、君!」



何故か俺を待ち伏せしていた勇者ユウガに捕まってしまった。

もう今日はこれ以上揉め事はいらないんだけどなあ。

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