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少女魔法使いの悩みを聞いてみた

どうしよう、非常に困った。

まさか俺があの時、告白の場を設けるためにセシリアを一人置いていかせたことのせいでユウガとミカナとの関係に亀裂が生じてしまっていたとはな。



しかもその話を振られてもどう反応すればいいものか……。

ミカナやレイヴンから見たら俺はその時のことを何も知らない部外者だと思っているはずだ。

そんな俺にセシリアを一人見捨てたような感じの話を聞かせたのだ。

ミカナの言うようにセシリアに恋している俺は怒り狂うのが普通だろう。



しかし、その魔族は俺なので……怒れない。

二人は俺の反応を待っている。



「……何か理由があったのか? セシリアが死んでもいいとか考えて行動したなら俺はお前を許さない。だけど……」



ちらりとレイヴンに視線を送ると勢いよく首を横に振り否定している。

ミカナはそんな考えを持ってはいなかったと言いたいみたいだ。



「理由……ね。アタシは……ユウガの名誉のために奴の提案に乗ることを勧めたの」



「勇者の名誉?」



いきなりユウガの名前が出てきたので驚いた。

同時に疑問が浮かんでくる。

どういうことなのだろうか。



「アタシ達は最初に魔王城に入る前にちゃんと計画を立てて……勝てると思っていたわ。だけど奴に挑んでは全滅し回復されて村に捨てられてまた挑んで……それの繰り返し」



「……計画ってなんだよ」



「敵の情報よ。それまでの戦闘で得た幹部の魔族達や魔王の強さを計算した上で勝てるはずだったのに……」



「……」



考えてみたら、魔王城にいた幹部達や魔王ですら一度は外に出て戦いに出撃してたな。

……引き篭っていた俺を除いて。



「もう勝利は目の前まで来ているってクラリネス王国の国民達はそう思っていた……私達もね。そんな中で登場したのが奴よ。今までの戦いに何故出てこなかったのか分からないくらいのでたらめな強さを持っていて……。まさか魔王があんな切り札を隠していたなんてね」



切り札じゃないよ、ただの引きこもりだよとすごく言いたい。

もちろん言えるわけがないけれど。

考えてみたら再戦に来た時ユウガは俺の名前を知らなかったんだな。

一度も外に出たことない奴の情報なんかあるわけないし。



「……で、その話がセシリアの話とどう関係しているんだ?」



「さっきも言ったけどアタシ達だけでなく国民達も勝利を疑っていなかったのよ。……それなのに結果は魔王にたどり着くどころか城の半分ぐらいを進んだ場所にいた名も知らぬ魔族に全滅……そんな報告なんて出来なかったわ」



「……なるほど」


考えられるのは国民の混乱に兵士達の士気の低下辺りか。

あとは……



「勇者パーティーの信用が失くなること……か」



ミカナは気まずそうに俺から目を逸らす。

当たらずといえども遠からずといったところか。



「……ヨウキ」



理由を考えていると、急に今までだんまりだったレイヴンが声をかけてきた。



「なんだ?」



「……ミカナは自分達の信用を失わせないためにセシリアを……?」



「……」



うーん。そういう解釈するのが妥当なんだろうが……。

なんというかミカナのさっきの言葉と性格を考えると違うだろう。



「たぶん、ミカナは勇者パーティーじゃなくユウガを守ろうとしたんじゃないか?」

「……どういうことだ?」



「国民からの期待を背負った勇者パーティーが全滅……。そんなニュースが国民に知られたら一番非難されるのは勇者であるユウガだからな」



それだけ勇者っていう肩書は重いのだ。

国の希望を背負っているようなもんだしな。

それにユウガみたいなタイプは無意識に敵を作っている場合が多いし、熱狂的なファンだって信じていたからこそ失望感が大きいことがある。



「お前はユウガとセシリアを天秤にかけたんだろ?」



「……そうよ」



気まずそうに目を逸らしていたミカナが俺達の方に視線を戻す。



「全滅が続いて気が付いたら一ヶ月……限界だったわ。報告をごまかすにはね」



「ごまかす?」



「さっきも言ったでしょ。アタシ達が全滅したことが知れたら大変なことになるって。だから、情報が漏れないよう情報操作していたのよ。でも一ヶ月も経ってくると、さすがに情報操作にも限界がきていたの。それなのに奴に勝てる気配はなかった……だからっ!」



「……それで魔族の提案に乗るように勧めたのか」



「ええ! アタシはパーティーを組んで苦楽を共にした僧侶を一人置いていこうとしたのよ……もしかしたら殺されるかもしれないってところにね!」



「……」



ミカナは話している途中から自分に対する情けなさからか、それともセシリアに対して申し訳なかったからか涙を流し始めた。



レイヴンはそんなミカナを真っすぐに見つめて話を聞いている。

まさか俺が告白の場を作るために言ったことが、こんな悲劇に繋がるとは……。

真面目にどうしよう?



「……ヨウキ、ミカナだけ責めないでくれ。俺もその時に何も意見しなかったんだ。俺にだって……非はある……」



レイヴンがミカナを庇うように俺に説得してくる。

……もちろん耳元でだ。

責めるも何もこんな状況になったのは完璧に俺のせいなのだから、元々俺には誰かを責める権利なんてないんだよな……。

だけど、セシリアに恋をしているのに怒らないというのも不自然だろうから。

怒る怒らないとは違う選択肢を使うしかない。



「……だけど、今こうやって俺にその話をするってことは罪悪感はあったってことだろ?」



違う選択肢……それはミカナがセシリアを見捨てた後どのような行動をとったかだ。

場合によってはそれで許すっていう選択肢が出来る。



「……当たり前じゃない! 魔王を倒した後アタシは一目散に僧侶を置いていった部屋まで走り出したわ。それまでの戦いで体力や魔力が空っぽだろうがね!」



早くセシリアの安否を知るために疲れきった体に鞭打ち走ったのだろう。



「それでセシリアは無事だったのか?」



「無事だったわ。僧侶はアタシの顔を見るなり『ミカナさん、お疲れ様です』なんて言ってきたのよ。アタシは僧侶を……仲間を見捨てるような行為をしたのに……」



俺もレイヴンもただ黙ってミカナの話を聞く。

ここで口を挟んではいけないとレイヴンも思っているみたいだ。



「僧侶はね。アタシを見たらすぐに駆け寄ってきて回復魔法をかけてくれたの。それでお礼を言おうとしたらそこでアタシは気を失ったわ……」



回復魔法は怪我とかは治るけど体力は回復しないからな。

俺がいた部屋以降の幹部達や魔王との戦いで疲れが溜まっていたんだ。

それでセシリアの安否が分かった瞬間気が抜けて気を失ったんだろうな。



「……それじゃあセシリアには何も言わなかったってことか」



「ええ、それから気まずくて会いに行くこともせずにお礼も謝罪も出来ていないままよ……。この前の騒動の時も何も言えなかった……」



「これからもお前はセシリアに何も言わずにユウガに嫌われたままでいるのか?」



「分からない……どうしたらいいのかな」



幼なじみで大好きなユウガを守りたくて俺の提案に乗るように勧めた結果……ユウガには嫌われ、セシリアには負い目を感じているってことか。

セシリアに謝まるのが一番手っ取り早いんだが……ミカナの様子を見る限り無理だな。



まずセシリアに相談した方がいいかもしれない。

そのためにはあと半月経たないといけないけれど。

無責任だけど今日俺に出来ることはもうないか。



「少し考えてみたらいいんじゃないか? 本当に今のままでいいのかとかさ」



「……分かったわ。少し考えてみて結論を出すわよ。……それじゃあこの辺でアタシは失礼させて貰うわ。剣士の恋愛事情を聞けなかったのは残念だけど……話を聞いてくれてありがとね」



それじゃあ……と言ってミカナは店を出て行った。

テーブルに残された俺とレイヴンだったが、こんな空気になってしまい恋愛トークする気にもならなかったので今日は解散することにし店で別れた。



無駄なフードファイトをしたせいで少し出費が多かったというのはどうでもいい話だな。


なんか微妙にシリアスでコメディー要素がない……。

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