友人と少女魔法使いと食事してみた
ミカナとほぼ強制的に一緒に行動することになり、ミカナオススメのレストランに向かっている道中。
俺はどうやってミカナを退けようか必死に考えていた。
俺やレイヴンの恋愛相談はミカナにはしたくない。
なんだか口が軽そうだし、ヘタレとか言われて二人仲良くマインドブレイクしたくないし。
「……ヨウキ」
隣を歩くレイヴンが小声で話かけてくる。
良い作戦でも思いついたのか?
「なんだ?」
「……ヨウキとセシリアとどういう関係なんだ?」
「今それを聞くのか!?」
「ああ」
気になるのは分かるけど今はそんな場合じゃない気がするんだけど。
レイヴンは意外とマイペースなのかもしれないな。
まあ、俺だけがレイヴンの好きな相手を知っているってのもあれだし、手短かに説明しよう。
「俺の想い人で今は友人としての関係」
「ヨウキの好きな相手はセシリアだったのか。……ということは今回怒らせた相手は……」
「セシリア」
「そうか……大丈夫だったか?」
「何がだ?」
「いや……セシリアは誰にでも優しく接しているが故に怒ったらこわ……いや何でもない」
何かを思い出したのか、言いかけた言葉を止め、首を横に振るレイヴン。
……勇者パーティーを組んでいた時に何かあったんだろうか。
レイヴンがやらかしたとは思えないので、他二人が何かやったのだろう。
たぶん、というか高確率でユウガだと思うけど。
「レイヴン、俺はセシリアに何回も怒られたり、冷めた目線を送られているから大丈夫だ」
「……恋愛の方は大丈夫なのか?」
「…………」
大丈夫……なのか?
深く考えると不安になってきた。
結構セシリアの前で馬鹿な言動をしている気がする。
俺このまま愛想尽かされたりしないよな。
やばい、考えれば考えるほどネガティブなことを考えてしまい落ち込んでしまう。
「ヨウキ!」
俺が不安な表情をしたまま黙っていたら耳元で名前を呼ばれた。
その声でネガティブな思考から正気に戻る。
「……大丈夫か。いらない心配だったな、すまない」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけだからさ」
「そうか……本当にすまないな、俺が変なことを言ったせいで」
「ははは……」
苦笑いでごまかし一旦レイヴンから視線をはずす。
セシリアが俺のことをどう思っているかなんてセシリア以外誰もわからないんだから考えても仕方ないと自分自身に納得させる。
なんだか暗い気持ちになったので、久々の厨二スイッチをいれてテンションを上げよう。
「レイヴン、俺はもう大丈夫だ。安心してくれ」
耳元に小声でではなく普通の声量でポーズを決めて言う。
「……今度は別の意味で大丈夫じゃない気がするんだが」
「何がだ?」
覚えがないな。
もう落ち込んでいるわけではないし、今はテンションが最大値まで上がっている。
別に心配されるような状態ではないはずだが。
「……いや、なんでもない。少なくともヨウキが元気になったのならいい」
「そうか……なら安心して本来するべきだった話に戻れるな」
レイヴンが首を傾げている。
元々俺はセシリアとの関係について話をしようとしていたわけではない。
今はそれよりも相談しなければならない重要なことがある。
「……わからないのか。ならば教えよう! 答えはどうやってミカナの詮索をかわすかだ」
「……あぁ、なるほど」
レイヴンはげんなりとした表情になり頭を押さえる。どうやら自分が今おかれている立場に気づいたようだ。
「俺はもうミカナにいろいろばれているから構わないがレイヴンは違うだろう。質問攻めにされて聞いてもいないのにいらない助言をされて……さらに片想い相手のハピネスのことまで聞かれたら」
レイヴンの顔色が青くなっていくのがわかった。
レイヴンは俺よりミカナのことを知っているはずだ。ばれたらどれだけ面倒臭いことになるかがわかるだろう。
「……ヨウキさえ黙ってくれればいいんじゃ?」
「甘いな。ああいうタイプの人間は一度知りたいと思ったらしつこく迫ってくるだろう。俺が黙っていたらレイヴンに矛先が向くののは簡単に想像できるぞ」
「……正直ミカナに本気で迫られたら沈黙を貫く自信がない」
「だからこそ打開策が必要なんだが…………そうだ! フッ、喜べレイヴン。テンションを上げたおかげで良い策を考えついたぞ」
俺は不適な笑みを浮かべる。
やはり厨二スイッチを入れるといいな、頭が冴える。欠点はつい無駄な仕草が増えることだな。
つい自分がかっこいいと思うポーズをとってしまいがちだ。
「……本当か?」
「任せろ! では早速作戦についてだが……」
俺はレイヴンに考えた作戦を伝える。
作戦内容を伝え終えるとミカナが俺達に歩くのが遅いと言って来たので走って追いつく。
それから数分歩いたところでミカナオススメの店に着いた。
「着いたわ、ここよ。オシャレな雰囲気だし店員も親切で料理も絶品なのよ。さぁ、入りましょ」
店の中に入ると確かにミカナの言う通りオシャレな内装をして、店内には食欲がそそる臭いがする。
しかし、男二人で来るような場所ではなく、男女二人がデートで来るような雰囲気の店だ。
がっつり食事をする……というイメージがあまりわかない。
やはり俺達の恋愛……特にレイヴンについて詳しい話を聞くためにわざわざこんな店に誘導したのだろう。
「いらっしゃいませ、三名様ですね。こちらの席にどうぞ」
店員に座る場所まで案内され椅子に座りレイヴンに目配せをする。
俺の目配せに気づいたレイヴンはこくりと頷いた。
ミカナ、お前の思い通りにはさせんぞ。
俺とレイヴンは打ち合わせした通り、作戦開始した。
「さぁーって。あんた達の話をいろいろ聞かせて貰うわ……」
「すみませーん。注文お願いしまーす」
「ちょっと、話を聞きなさ……」
ミカナが話しかけてくるが無視をし、駆け付けて来た店員にメニューから選び料理を十品程注文する。
レイヴンは喋れないので、メニューに書かれている料理名に指を差して八品程注文した。
「ちょっと!? あんた達どれだけ食べる気!?」
「いや、腹減っているし俺達男子だからな。な、レイヴン?」
「……」
こくこくと頷くレイヴン。もちろん普段はこんなに食べたりはしない。
これは作戦なのだ。
「ふぅん……? まあいいけど。あ、アタシは……」
ミカナはここでがっつり食べる気はないようで、飲み物だけ注文した。
話を中心にする予定だったみたいだがそうはいかない。
数分後、俺とレイヴンは来た料理をゆっくりと良く噛んで食べていた……喋る間がないぐらい。
「……あんた達アタシと喋る気ないでしょ」
ミカナは俺達の姿を見て呆れ顔になっている。
俺は豪快に、レイヴンはマナーを守り食事している。しかし、俺もレイヴンも食事の手は止めない、尚且つゆっくり時間をかけ食べている。
これが俺の考えた作戦、食事中は喋れないから静かにね作戦だ。
……我ながら完璧な作戦だと思う。
これならミカナと喋らずに夕方まで時間をかけて食べ、解散できる。
「……ふぅ〜ん。そう、せっかく僧侶について面白い話を聞かせてあげようと思ったのに」
ピタリと止めない予定だった俺の手が止まった。
セシリアの話だと?
俺が知らないセシリアの話……聞きたい。
そう考え始めたらもう止まらない。
ゆっくり食べる予定だったはずだった料理十品を二十分弱で完食してしまっていた。
……作戦失敗だ。
「……ごちそうさまでした」
十品もの料理を完食したので結構腹がいっぱいで苦しい。
レイヴンが呆れ顔でそんな状態になった俺を見ている。
……言いたいことはわかる、だけど自分が知らない好きな子の話って知りたくなると俺は思うんだ。
……まあ、作戦失敗の言い訳にしかならないけどな。
「さて、剣士はまだ食事中みたいだし、あんたから話を聞かせて貰おうかしら」
ミカナ勝ち誇った顔をしているが、俺は自分のことは話してもレイヴンのことは絶対に話さないぞ。
レイヴンはそんな俺とミカナを交互に見ながら残りの四品の料理を必死に食べていた。




