番外編 イチャイチャを願ってみた5
俺は確かにみんながイチャイチャできるように願った。
しかし、これはないだろう。
「ヨウキくん、表情が暗いよ?」
「お前のせいだよ!」
俺は目を見開いてユウガへとツッコミを入れる。
セシリアとのデートがユウガとのデートに変わってしまった。
これもいきなりユウガが俺の腕を掴んで強引に連行するからだ。
ユウガにもミカナがいるというのに……俺をパートナーに選ぶとか、正気かよ。
「ああ、神よ。これは馬鹿なことを願った俺への罰なのか……」
「よく分からないけど……お店の中で悪目立ちしたら、セシリアに怒られると思うよ?」
「……そうだな」
ユウガの言う通りなので祈りのポーズを辞めた。
まさか、こんなツッコミをユウガからもらうことになるとは。
紆余曲折あったが、最近のユウガは常識的な行動が多い。
もしや、この意味のわからない二人行動も意図があるのか。
「なあ、俺を引っ張って来たのって理由あったりする?」
ユウガへと質問すると申し訳なさそうにごめんねと両手を合わせて謝罪してきた。
「うん、ヨウキくんには申し訳ないけど、今のミカナには同性の友達と過ごす時間も必要かと思って」
「そういうことか。なら、セシリアが適任だな」
ユウガなりにミカナを気遣ってセシリアと二人きりにしたのか。
これなら全く怒ることができんな。
「何が悲しくてユウガと雑貨屋を歩き回らなくちゃいけないのかと思ったけど、それが理由なら許してやろうじゃないか!」
「デート中だったのにごめんね」
「それはお互い様だろ。まあ、適当に回って時間を潰すか」
「そうだね」
ユウガと二人で雑貨屋を見回る。
日用品コーナーを主に見ていると良さげな花瓶があった。
手にとって落とさないよう慎重に商品を確認。
腰の丸い陶器製の白い一輪挿しの花瓶だ。
これなら、テーブルに置いても邪魔にならないし、セシリアも気に入ってくれるかな。
ふと横を見るとユウガは紺色のエプロンが気に入ったのか、手に取って眺めている。
……サイズを見るに自分用ではなさそうだ。
「ミカナにか?」
「うん。僕、最近、ミカナと一緒に家事するのが好きなんだよね。協力して暮らしているって実感できるからさ」
「それでエプロンか」
「そういうヨウキくんは花瓶だね」
「俺はセシリアと紅茶を飲みながらの談笑が好きだからさ。テーブルに置くと良いかなって」
「成る程ねー……いつものヨウキくんなら、こっちを選びそうだけど」
そう言ってユウガが指差した物は黒龍の頭の花瓶。
上に口を開けており、そこに花を挿すようだ。
「いや、それを言うならユウガだってこっちだろ」
俺が指差した先にはピンクを基調とした白いフリルのついたエプロンがあった。
「ヨウキくん……さすがにそれは違うよ」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
俺の厨二はそんなもんじゃない。
もっと俺の心を奮い立たせるデザインがあるはずだ。
お互いに軽く睨み合った後、物色を始める。
自分が本当に納得できる物を探すんだ。
「……よし。これだ!」
俺は台座に刺さった剣の形をした花瓶を手に取り、眺める。
花を挿して抜く度に選ばれた者の気分を感じれそうな一品だ。
「……ヨウキくんも見つけたんだね」
ユウガが選んだエプロンは白を基調としたオーソドックスな物。
無難な選択だな……いや。
「その手に持ってる羽はなんだよ」
天使の羽を脇に抱えているんだが。
どういう付属品だ。
「ミカナは僕にとって天使のような存在だからね。こうして羽がある姿もきっと素敵だと思って」
「邪気の全くない笑顔で言えるのな」
この辺はさすが勇者だと思う。
自分の奥さんに天使の羽か。
セシリアももちろん似合うだろう。
しかし、持ち前の後光があるセシリアに絶対に必要かと聞かれると……うーむ。
「こうして見比べてみるとお互いがお互いをわかっている気でいただけだったように感じるね……」
「ここから関係を深めよう的な流れにするの止めろ」
親愛度を深めるイベントじゃねーんだぞ。
ばれたかー、と残念そうにするユウガ。
しかし、その表情は暗くない、何故だ。
「ヨウキくんだけだよ。僕とこういうやりとりしてくれるの」
「それはユウガが勇者だからだろ」
勇者と軽々しく会話できる人なんて滅多にいない。
俺はユウガの性格を知っていて、それなりに付き合いがあるから、こうして話せているだけだ。
「そうなんだよね。勇者っていう肩書きが僕との間に壁を作る。……ヨウキくんは本音で語り合える貴重な友人なんだよ。これからも良き関係でいてくれると嬉しいな」
「お、おう……わかったから、それ以上のことは言うな」
満面の勇者スマイルはミカナにだけに向けるようにしておけ。
俺に向けるのは止めろ、辺な勘違いされるから。
そういうのはいらないんだって神様!
俺が嘆いているとセシリアとミカナの姿が見えた。
俺たちに気付いたようでこちらに向かってくる。
ここらで合流の流れか。
「ヨウキさん、手に取っているそれは……」
「えっ、あっ……」
俺が現在手に取っている物は最初に選んだものではなく、趣味全開で選んだ一輪挿し。
ユウガも天使の羽を持った状態でミカナに詰められている。
「これはユウガに真の厨二を教えるために選んだだけであって」
「僕もヨウキくんが決めつけたセンスに反論しただけだよ」
俺とユウガは二人に状況を説明。
お互いにこれだろと決めつけた商品と自分で決めた商品を見比べてもらった結果。
「どっちも」
「同レベルですね……」
ミカナとセシリアの一言により、俺とユウガの戦いは虚しい引き分けという形に終わった。
「でも、買っていいんだな」
ユウガたちと別れた帰り道。
俺は最初に選んだ一輪挿しの花瓶と後から選んだ剣の台座の花瓶を持ち歩いていた。
「趣味を抑制はしませんよ。ただ、限度は考えてくださいね。気に入った物を何でも買ってしまうと浪費癖が付きますし、置き場にも困るので」
「もう二人の家だからな。気をつけるよ」
「二人の家……ですか。そうですね、もう私の帰る家はヨウキさんの家ですから。お互いの意見を出し合って住みやすい環境にしましょう」
「そのためにと厨二は禁止と」
「……好きな物を完全に抑制するとストレスが溜まりますよ。先ほども言いましたが限度を考えて下さい」
俺はセシリアがいてくれるだけで……なんて。
口に出すのは恥ずかしいので止めた。
「ミカナも勇者様の選んだ物は両方買っていきましたね」
「天使の羽……付けるのか?」
「付けるんでしょうね……」
ミカナが天使の羽を持って、最近頑張ってくれてる、これで喜んでくれるなら……と、ぶつぶつ言いながら買ってた。
「勇者様の気持ちになるべくミカナは応えたいのでしょう」
「ユウガに全く邪気がないのも困るよな」
「そうですね」
ユウガは本心からミカナに天使の羽が似合うと思って選んだだけだからな。
俺がわかるんだから、ミカナもわかっているんだろう。
「本当に嫌なら拒否すればあっさりとユウガは身を引くだろうけどね」
焦った様子で謝るユウガの姿が目に浮かぶ。
俺の言葉に何故かセシリアが俺を見て少しだけ笑みをこぼしているような……。
「えっと、俺、変なこと言った?」
「いえ、すみません。……ただ、ヨウキさんと勇者様はそういうところは似ているなと思いまして」
「……はっ!?」
確かに俺がユウガの立場なら、同じような行動を取るだろう。
セシリアの指摘通りだ。
「俺とユウガは……同類だったのか」
「そこまでショックを受けることですか」
「いや、悪い部分が似ているわけじゃないから、そこまでかな」
つまり、好きな子には嫌われたくないってことだ。
間違っていない感情なら似ていたって構わないさ。
「いつものように違うヨウキさんを出さないんですね」
「違う俺って……ああ」
厨二スイッチのことか。
「気持ちを昂らせる場面じゃないから出さない。俺もユウガも大人になったってことさ」
「その割にはお店で盛り上がっていたような気もしますが……」
「よし、暗くなり過ぎる前に我が家に帰ろう、セシリア」
セシリアの手を引き、歩みを急ぐ。
もちろん、セシリアの負担にならない程度にだ。
少しだけ呆れた表情をされた気もするが……セシリアから俺の手を軽く握り返す力を感じたので大丈夫だろう。
「セシリア、あそこにいるのってクレイマンとソフィアさんじゃないか?」
ちょうど店から出てくる二人の姿が見えたので歩みを止める。
「そうですね。二人も私たちに気付いたみたいです」
軽く手を振ってから近づき合流し、挨拶を交わす。
見た感じ夕食の食材の買い物か。
家族四人だと量も多いし、大変だな……いや。
「うーむ、荷物持ちとして優秀な能力……」
「便利ですね」
クレイマンの宙に浮いた式神が荷物を全て持っていた。
「おう。ソフィアに負担はかけねえ。これが夫の力ってやつだな」
「力強さは全く感じていませんが」
ソフィアさんの鋭いツッコミがクレイマンに刺さる。
まあ、全部式神が持っているからな。
クレイマンの両手はどちらも空いている。
軽い荷物くらい持ってはどうか。
「おいおい、両手が空いていた方が都合が良いこともあるだろ」
「例えば?」
すぐに答えを出さないとソフィアさんの評価が下がりそうだが。
「それはだな……っと」
クレイマンが何か言いかけたところでソフィアさんを抱き寄せた。
店から出てきた客とぶつからないようにしたのか。
「な、空いていて良かったろ」
「まあ、な」
これは納得するしかないか。
この後、クインくんとフィオーラちゃんが家で待っているということで長話をすることもなく、二人と別れた。
二人が去った後、俺はセシリアに疑問をぶつけてみることに。
「……さっきのってクレイマンが抱き寄せなくてもさ。ソフィアさん、避けれたんじゃ?」
体術スキルの高いソフィアさんなら、クレイマンよりも先に察知して動きそうだけど。
「おそらく、ソフィアさんはクレイマンさんの動きも察知していたかと」
「つまり、そういうことか」
「そういうことですね」
やはり、みんながイチャイチャできる日だったらしい。
こんな馬鹿な願いも偶には言ってみるもんだな。
「ん……?」
正面からふらふらとした足取りで歩いてくる人影が……あれは。
「シークじゃないか」
こんな時間に一人で出歩いてどうしたんだ。
しかも疲れ切っている様子、何があった。
「わー……隊長だー」
力なく俺に寄りかかるシーク。
俺を全くいじってこないとは、かなり疲弊しているな。
「何があった?」
「今日は変な一日だったよー……。朝はティールちゃんの話を聞いて、昼からはフィオーラちゃんと出かけて、さっきまでヴェルディちゃんの特訓してたー」
こんなに予定が一日に被ったのは始めてー、とぐったりしている。
あー……シークはこうなってしまったか。
「セシリア……ちょっと良いかな」
「考えていることは一緒かと」
一応、確認してみたけど必要はなかったか。
シークが大変な一日を過ごしたのは俺が原因っぽいので。
「シーク、奢るから夕食を食べに行こう。好きなだけ食え」
「行きましょうシークくん」
「わーい……ごはんだー」
喜んでいるのだろうけど、返事にキレがないシーク。
店に連れて行くとめちゃくちゃ食べて家に泊まらせたらすぐに寝た。
これから安易に神頼みするのは自重しよ……。




