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番外編 イチャイチャを願ってみた2

全員イチャイチャできる一日があっても良い。

そんな甘ったるいことを願った俺は今。



「うぉぉぉぉぉっ!?」



騎士団の訓練場でひたすらにエルフたちから放たれる矢を避けていた。



「さすが、隊長っすね。エルフさんたちー、隊長は手加減して仕留められる相手じゃないっすから。本気出しても大丈夫っす」



「デュークこらぁぁぁぁぁ。煽ってんじゃねぇぇぇぇ!」



どうしてこんなことになっているのか。

それはデュークの頼み事が原因だ。

現在、ミネルバではデュークとイレーネさんの活躍により、騎士団とエルフによる技術交流が盛んになっている。



騎士は剣、エルフは弓を互いに教え合っているらしい……のだが。

エルフの弓の腕が凄すぎて騎士の一部が萎縮してしまっていると。



エルフでも手こずる標的がいるところを見せれば良いのではと考えた結果。

俺が選ばれたというわけ……ふざけんな。



「セシリアさん、隊長を借りて申し訳ないっす」



「これはヨウキさんにしか任せられない仕事ですね。……ヨウキさんなら当たらずに全て避けてくれるでしょうから」



「適任者は隊長しかいないっす」



セシリアはデュークと話しながら、少し離れたところで俺の勇姿を見ている。

セシリアに心配をかけるわけにはいかないな。



俺は矢を避けながら無駄に宙返りや側転をして、余裕をアピール。

そして矢が止んだところでいつもの決めポーズを決めた。



「ふっ、俺にかかればこんなものだ」



プライドを刺激されたエルフたちの歯軋りする音が聞こえる。

悪いが俺にも矢に当たってやれない事情があるんだ。



これで依頼完了……と思っていたらデュークが俺の近くに来て耳打ち。



「んー……このまま終わるも良くないっすね。今度はエルフたちの心が折れちゃうっす」



「いや、どうしろと。わざと当たれってか」



八百長は黒雷の魔剣士の誇りに関わる。

……なお、正体ばらし作戦のユウガとの戦いは除く。

あれはああするしかなかったんだ、失敗したけど。



「そんなことはしなくて良いっす。隊長はいつも通りで。こっちの切り札を出すっすから」



「切り札……?」



デュークが俺から離れて準備に入った。

エルフじゃなくてデュークがやるってことか。

確かにデュークは武器全般を使えるけど……それでも俺には当たらんぞ。



準備を終えて俺を狙うのはデューク……ではなく、イレーネさんだった。

上手くなったと言っていたけど、ここでイレーネさんが来るか。



「ふっ、俺は知り合い相手でも容赦はしないぞ」



「わ、私の弓矢が隊長さんに当たるんでしょうか」



「大丈夫っすよ、イレーネ。自分を信じるっす」



「デュークさぁん……」



俺を無視して二人の世界に入ろうとしているんだが。

何故、俺は報われない小物な悪役的なポジションになっているんだ。



「ふっ、さあ我を射抜いてみるが良い。その矢が我が身を貫くとは思えないがな」



「訓練用の矢ですよ……」



セシリアのツッコミが聞こえる。

そこは雰囲気的なものだから許してくれ。

俺の厨二発言でデュークたちは二人の世界から引き戻され、訓練が再開された。



「えいっ、えいっ」



「ふっ、はっ!」



やはり、イレーネさんの矢が俺に当たることはない。

……視線や手元を見るにしっかりと俺を狙うことはできている。



確実にデュークの指導による技術の向上は見込めているようだが。

相手が悪かったな。



「良い腕だが俺を射るにはまだま……っと!?」



眼前に迫ってきた矢を慌てて避ける。

なんだ今のは……確かに矢の軌道を予測して避けたはずだぞ。



「よしっ、やっぱり隊長には有効な手だったっすね」



「すごいです。デュークさんの言う通りにしたら、隊長さんの面白い動きが見れました」



「面白い動きって言うな! デューク、今のは何だ」



どういう仕掛けだよ、あれは。

視線や手元とは全然違う方向に矢が飛んできたぞ。



「今のは本来のイレーネの弓っすよー」



「本来のイレーネさんの弓……?」



「俺が教える前って意味っすね」



「はぁ!?」



構えも視線も何も変わってないじゃないか。

それでどうして矢の方向が変わるんだ。



「イレーネは昔から射る姿勢は綺麗だった」

「視線も問題なかったな」

「身体も最低限鍛えていたぞ」



それなのに狙ったところに矢が飛んでいかなかったと口を揃えて言うエルフたち。

それ以上、指導のしようがなかったと。

デュークは一体どんな魔法を使ったんだ。



「イレーネ、その調子で行くっすよ」



「は、はい。デュークさんが近くにいる場合といない場合を混ぜて頑張ります」



「それで良いっす」



「何その惚気式克服方法!?」



これが愛の力ってやつか……じゃなくて。

考えるだけで同じ体勢から打ち分けられるのは反則だろ。

見た目だけじゃ区別つかないんだぞ。



「ぐっ……愛の力か」



ちらりとセシリアに視線を向ける。

俺なら全て避ける……そう言ってくれたセシリアの期待に応えねば。

こっちも勝手に愛の力を披露した結果。



「よ……よっしゃ……」



「うぅ……当たりませんでしたぁ」



俺の勝利という形で幕を閉じた。

所々で掠りそうになった時はあったけどな。

イレーネさん恐るべし……。



「大丈夫っすよ、イレーネ。隊長相手に健闘したっす」



よしよし、と頭を撫でてイレーネさんを慰めるデューク。

そんな二人を囲むように集まるエルフたち。



どうやら、先程の技を習得しようとしているらしい。

あれはイレーネさんにしかできない芸当だと思うがな。



「俺のところには誰も来ないと」



俺の回避も充分凄かったと思うんだけど。

まあ、俺にはセシリアがいるからと訓練所の隅っこに座り込んでいると。



「……お疲れさん」



「ありがとう……レイヴン」



差し入れの果実水を受け取り一口。

俺には心配してくれる友人もいるから……。



「……セシリアじゃなくてすまんな」



「いやいや、そんなこと思ってないって」



動きまくった後のさっぱりした果実水は最高だよ。



「……セシリアは衛生担当の騎士に呼ばれてしまったんだ。助言が欲しいらしい」



「それは技術的な意味か?」



「……それ以外にあるのか」



「セシリアはそばにいるだけで癒しだぞ」



「……それは学んで身につけられるものではないだろう」



「確かにそうだわ」



修行でどうにかなるものではなかったな。



「……今回の依頼はデュークの進言でな。俺もヨウキならと許可を出したんだ」



「ふっ、黒雷の魔剣士に相応しい依頼だったと言っておこう。……イレーネさんの技には結構焦ったわ」



「……見ていたよ。デュークも面白いことを考える」



「それに応えるイレーネさんよ。愛の力は偉大だな」



「……愛の力、か。ヨウキはセシリアとの生活はどうだ」



上手くいっているかという意味だろうか。

それなら答えは決まっている。



「もちろん、満足しているぞ。セシリアがいる日常は良い」



「……そうか。おめでとう」



「……おう」



この気まずい雰囲気はなんだ。

レイヴンは仕事が忙しく、ハピネスとすれ違いの日々が続いているのか。



「……ふっ、別に何もないから、そう困ったような反応をするな」



「何だよ」



少し悩んだ俺の時間を返してくれ。



「……俺は騎士団長の業務があり、ハピネスも使用人以外のことを始めて、忙しく会えない日々が続いている。でも、今は耐える時なんだ。落ち着いてから、ゆっくり二人の時間を取るよ」



その日が待ち遠しいのか、少しだけ笑みを浮かべて空を見上げるレイヴン。

本当は今、会いたいんだろうな。



「ハピネスはさ。こういう時に何食わぬ顔でひょっこり現れるんだよ。そういうことするの嫌いじゃないからな」



「……そうだな。ハピネスは時々、俺を驚かせてくる」



「やっぱりか。ところで、あそこにいるのって騎士団関係者?」



俺が指差す先ではランチバスケットを持った使用人が騎士たちにクッキーを配っていた。

あんなサービス、訓練後にあるの?



「……いや、あれはどう見てもハピネスだろう」



「だよなー」



「……ヨウキ!」



「知らん知らん。俺は何もしてないって!」



会話の流れ的に怪しいかもしれないけど、俺は何もしてないし、知らない。

疑うレイヴンに両肩を掴まれ揺らされて続けていると。



「……まだまだ」



「まだまだじゃねーよ。止めろや!」



「……ハピネス」



もう充分なんだよ。

ハピネスが近くに来たことにより、冷静さを取り戻したレイヴン。

ようやく、解放されたわ。



「何でお前焚き付けるの!?」



「……気分?」



「気分で俺をさらに追い詰めようとするの止めてくれ」



やるならしっかりした理由を持ってこい。

持ってこられても困るけど。



「……ハピネス、今日はどうしたんだ」



「……応援」



中々、会えていないレイヴンのために差し入れを持ってやって来たと。

騎士たちの分も持ってきたのはレイヴンへの気遣いだな。

レイヴンだけ貰ってたら、やっかまれそうだし。



「……そうか。気を遣わせて悪いな。クッキーか、美味しそうだが、あとで執務室で」



レイヴンが照れて食べようとしない。

そこは食べて美味いなで良いだろう。

そんな逃げは許さんぞ。



「ハピネス、お前の技を見せてやれ」



「……了承」



ランチバスケットからクッキーを一つ手に取り、一言。



「……食べよ?」



「……ぐっ!?」



胸を押さえて後ずさるレイヴン。

これは効いてるな、一つ何かあれば。



声かけに工夫をするのかと思ったら、持っていたクッキーを半分に割る。

片方を自分で食べて、残った半分を手渡す。

いや、毒味かよ。



「……安心?」



「そういうことじゃないと思うぞ」



そこに関してレイヴンは心配してないから。



「……すまない、ハピネスに嫌なことをさせた。頂くよ」



ハピネスの行動を見てすぐにクッキーを食べるレイヴン。

ここまでされたら食うわな。



「……勝利」



「勝ち負けあるのか、これ」



「……ハピネスの勝ち、だな」



二人が満足しているなら、いいか。

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― 新着の感想 ―
最高すぎて 最近この小説を読むことが生活の中心になってきてますw 今回も最高でした 次回も楽しみです!
全員とは! まだ推定4カップルは残されている。作者にまでプレッシャーを掛けるようになるとは。ハピネスも成長していますね。
明けましておめでとうございます。 誤字報告 大丈夫っすよ、イレーネ。体調相手に健闘したっす 隊長 謎の弓術、物理法則息してる? 原因不明の現象って怖くね?
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