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相談されてみた

少し考えさせてくださいと、シエラさんが部屋を出て行った。

セシリアも相談役としてシエラさんに着いて行ったので、部屋には俺とソレイユの二人きり。



ソレイユの話を聞くのは俺の役目と。

先ほどの発言について説明してもらおうか……。



「それでは説明しましょう」



「まだ何も聞いてないぞ」



「説明して欲しそうだったので」



「今の俺は黒雷の魔剣士……のはずなので表情は仮面のおかげで読めないはずだが?」



聞こうとはしていたが、何故わかった。



「ちらちらと僕に視線を合わせたり外したりを繰り返す。何かを決めたかのように右拳を強く握る。何もないのに一歩前に出る……それに加えてこの状況とくれば質問しないなんてことにはならないでしょう」



「ぐっ……さすが、我が同胞。見事な観察眼だ」



怪我人相手に主導権を握れないとはな。



「あと一歩届かない観察眼ですがね。それで質問とはシエラさんのことですね?」



「ああ」



「恩返し……ですよ。知り合い以上友人未満の僕の介助をしてくれたことのね。ヨウキの作戦が原因とはいえ、僕を運んだためにいらぬ憶測が飛び交っているのでしょう。なら、僕が身体を張る場面かと」



「身体を張るの意味が違くね」


 

病み上がってすらいないのに次の予定を入れるのか。

完治未定なのに何を考えているんだ。



「そもそも、領地はどうするんだよ。親父さんから帰ってこいって言われてるんじゃなかったのか」



次期領主の話はどうなったのか。

この話を振るとソレイユが急に窓の景色を眺め始めた。

おい、ここから隣国は見えないぞ。



「……唐突な質問をしますが、ヨウキには僕がどういう風に見えていますか。実績を重視して意見を下さい」



「どういう風にって……隣国の勇者パーティーの一員で次期領主。実力はAランク冒険者相当の物を待っているって感じか。あと、交友関係にセシリアとこの俺、黒雷の魔剣士がいることだな!」



しっかりとポーズを決め込む。

決してふざけているわけではない。



勇者パーティーの一員である聖母セシリア、勇者ユウガと善戦した黒雷の魔剣士だぞ。

世間的には羨ましがられると思うのだが?



「そうですね。勇者パーティーの一員として旅に出て魔王討伐を他国に先を越され、隣国の有力令嬢との婚約に失敗。実力はあっても肝心な時に決めきれず。自国ではなく他国での活動が多い……それが僕です」



「それは後ろ向きに捉えすぎじゃないか」



事実だけど理由があったり、仕方ないことだってあるだろう。

……隣国の令嬢との婚約失敗っていうのは俺のせいだけど。

セシリアを譲る気はなかったからな。



「ヨウキはそう言ってくれても父からすれば僕は何の功績も上げていないことになるんですよ。最終警告があったにも関わらず、連絡なしとくれば」



「くれば?」



「そんなにこの国にいたいなら、もうそこで暮らせと言われてもおかしくないんです」



「えっ」



「領主には弟がなるでしょう」



「おいおいおい!」



話が飛躍しすぎだろう。

ソレイユの親父さんてそこまで短気なのか。



「僕が生きて帰ってこられるかわからない旅に出た時点で弟にも領主としての教育はしていたので、困ることはありませんし」



「全部、ソレイユの推測だろ」



決めつけるのは良くない。



「……一部の事情を伏せて手紙は書きました。仮に父に領地へ戻るよう言われても、シエラさんへの義理を果たしてからにします」



「怪我が完治してもミネルバにいる気なのな」



「ええ。もちろん、謎のAランク冒険者、蒼炎の鋼腕としてね」



「……俺は正体を明かしたんだけどな」



黒雷の魔剣士の謎が解けたら、新たな謎が生まれるとか。

ミネルバの冒険者はどうなっているんだ。



「僕の場合は正体を明かせませんね。隣国とはいえ、僕の顔を知っている人は少なからずいるでしょうし」



「仮面を被っているからって貴族じゃないかとか思われることはないだろうから安心しろ」



俺という前例がいるから大丈夫だ。



「その辺はヨウキに感謝すべきですかね」



「まあ、お前の運命を捻じ曲げたのも俺だから、内心複雑なんだけど」



「僕が選んだ結果なのでお気にせず。……きっと大事な場面で決めきれない僕では領主という立場は向いていなかったんですよ」



もう次期領主の権利が剥奪されたと思い込んでるな。

また窓の外に視線を向け始めたぞ、そこから故郷は見えないというのに。

気分転換させるためにも話を変えよう。



「話は変わるんだが俺たちに弟子ができたぞ」



「弟子、ですか」



窓の外へ向いていた視線がこちらに向く。



「孤児院の女の子なんだが、俺に憧れた結果、覚醒してしまったみたいでな。もう元の人の道に戻すのではなく、どう厨二と付き合いながら生きるかを教えていく方針になったから。蒼炎の鋼腕にも指導の協力を願いたい」



「それは構いませんが……セシリアさんへの説明は済んでいるのでしょうか?」



「安心しろ。覚醒しているところを一緒に見て俺が導くって結論になったからな。セシリアと孤児院の一室を借りて話し合ってさ」



結婚したばかりの妻と密室で二人きりという。

言葉にすると羨ましがられる場面なんだが。



「……その説明だけで当時の光景が目に浮かびますね」



「責任って大事だって思った」



俺の影響を受けたのは間違いないからな。



「そうですね。責任は大事、です」



「だな。責任は大事だ!」



少し暗い雰囲気なので場を盛り上げようと大きな声で言うと。



「そうですね。本人のためにも最後まで付き合いましょう!」



俺に触発されたのか、ソレイユも大きな声で発言したところで扉のノック音が聞こえた。

あっ……と思ったのは俺だけでなかったらしく、ソレイユと仮面越しに二人で顔を見合わせる。



「お二人とも話に花が咲くのは仕方のないことかもしれませんが、もう少し声の大きさに気をつけた方が良いかと」



「ご、ごめーん」



「大変申し訳ないです」



扉越しに聞こえたセシリアの注意に対し、謝罪の言葉を返す。

人様の家で騒ぎすぎたと反省していると二人が入ってきた。



相談してどういう結論に至ったのか。

ソレイユは恩返しがしたくてめちゃくちゃ乗り気なんだけど。



「それではヨウキさん、行きましょう」



「へっ?」



「ここから先は二人で話すべきことかと」



確かに仮とはいえ男女の付き合いの話だもんな。

居座るのは良くないわ。



「それじゃあ、あとはシエラさんと蒼炎の鋼腕の二人でごゆっくり」



「お邪魔しました。療養中に何が問題がありましたら、知らせてください」



セシリアと二人で頭を下げてシエラさんの家を出た。

どうなるかは後日、わかること……だが。



「セシリアはどうなると思う?」



「お二人のことですか」



「そうそう」



「……ソレイユさんはシエラさんに好意を抱いているわけではなく、恩義を感じて提案したんですよね。そこがシエラさんも気になっているようです」



好きじゃないのに付き合うっていうことが厳しいと。

まあ、騒動が落ち着くまでっていう期限付きで契約恋人ってやつだからな。



「ソレイユは義理を果たす気満々だけどね」



「あと、シエラさんからすれば仮の恋人ではなく、将来夫となる恋人が欲しいということもあり、決めかねているみたいですよ」



「そういうことね」



クレイマンとシエラさんとのやり取りを見る限り、婚活は本気でやっていたっぽいし。

カップル気分を味わいたいわけではないと。



「そうなってくると蒼炎の鋼腕の提案は断りそうだな」



故郷にも帰っても居場所があるか分からないのに仮の恋人の提案も断られるって。

精神的に来るものがあるぞ。



「これ以上、力になれることはないのでしょうか」



「提案を断わられたとして、俺たちが励ましに行ったら嫌味にならないか?」



新婚で現在進行形で幸せなんだが。

そういう雰囲気を感じてソレイユも出て行きたがったわけだし。



「……普通にヨウキさんと会話をしている時でもそう感じられてしまうとお手上げなんですよね。意識して距離を置きますか?」



「それは俺の精神が持たないから止めて」



新婚早々に冷えた関係を装うのはしんどい。



「冗談ですよ」



「冗談ですよね。というか、俺の反応を見て楽しんでるでしょ」



手で口元を隠すってことは笑っているということだよな。



「ヨウキさんは魔剣士さんの格好をしていてもどんな表情をしているのかわかりますね」



「俺は今、セシリアが楽しんでいるだろうなーって思ってるんだけど」



「では、お互いに通じ合っているということにしておきましょうか」



「そうだね」



お互いに納得したところで二人並んで我が家へと向かう。

ソレイユのそういうところですよ、というツッコミが聞こえた気がした。

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