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教えてみた

蒼炎の鋼腕をシエラさんへ押し付……看病をお願いし、セシリア久々の孤児院訪問から、一週間が経った。

あれから俺はというと。



「自分をより格好良く見せる、自信を持つ、気分を高揚させる状態へと昇華させる。己の精神にのみ存在する引き金を厨二スイッチという」



「ほー」



「この厨二スイッチを押すと先ほど言ったような状態に持って行くことができる。簡単に言うと普段の自分よりも色々とやれそうな気になるわけだ」



「おー」



「ただしこの厨二スイッチは安易に押して良いものではない。普段の自分に戻るとその反動が出てしまうからだ」



「むぅ……」



「そもそも厨二スイッチは切り札だ。切り札とは見せ時、というものがある。普段から厨二スイッチを入れて生活するようではまだまだというわけだ」



「んぅ……?」



「常に自分が思う格好良い自分のままでいるなということだ。分かったかな」



「おー……」



ぱちぱちと拍手する少女。

憧れの眼差しを向けられて悪い気はしないが……俺の心境は複雑だ。



俺の影響で厨二の扉を開いてしまったこの子が暴走をしないように教育する。

そういう話になったため、最近はこうして孤児院を訪れる毎日だ。



放っておいても勝手に訓練してしまうだろうから、とダバテ神父もセシリアもこのような決断に至ったと。



もちろん、座学だけでなく訓練も見ている。

小さい女の子が自分の思いつきで好き勝手に鍛錬して体を痛める。

最悪、怪我につながるからな。



「調子はどうですか?」



ちょうど良いタイミングでセシリアがやってきた。

……たくさんの孤児を連れて。

やはり、俺と比べて人気の度合いが違う。



「話をちゃんと聞いてくれているよ。ダバテ神父によると訓練も教えた通りのことのみをやってるみたい……特に木登りを中心に取り組んでいるとか」



「木登りですか」



セシリアの疑問は少女の行動で即座に解決した。

俺の頭の上……自分の特等席に素早くよじ登り、決めポーズ。

このために木登りを頑張ったと。



「人の頭の上に乗る訓練は必要でしょうか」



「軽い身のこなしは大事だよ。まあ、この子が乗るのは俺の頭だけだよ。もしも、他の人にやったらその時点でこの子の特等席じゃなくなるから」



頭の上に乗るなんていう癖が付いてしまった時には権利剥奪だ。



「ヨウキさんの発言でものすごくショックを受けているようですが」



この状態だと顔が見えないから、わからん。

しかし、ショックを受けているというなら元気付けねばなるまい。

ここが今日の見せ場と見た。



「ふっ、良いか弟子よ。黒雷の魔剣士の頭の上がどれだけ貴重な席か……わかっているな。それだけの場所を独占するのだから、それなりの対価を払うのは当然というものだ。俺以外の頭の上に乗るんじゃ無いぞ。これは約束……ではなく契約だ!」



「おー!」



見えてないけど多分、片手を上げて叫んでいるんだろうな。

これで機嫌も治ったと。



「ふっ……完璧だな」



「だなー」



「本当に仲良しになりましたね」



二人でポーズを決めた後、セシリアが連れてきた孤児も混ざって遊ぶことに。

こんな平和な結婚生活を送れている俺はなんて幸せ者なのだろう。



孤児たちだけで追いかけっこを始めたところで俺とセシリアは休憩。

椅子に座って紅茶の時間を過ごす。



「あー……落ち着く。やっぱり、セシリアとのこの時間は大切だな」



「そう言ってもらえると嬉しいですね。私もこの時間が好きなので」



「好きな時間が同じって……なんか、良いと思うんだけど」



言った途端にちょっと攻めた台詞だったと後悔。

セシリアから、視線を逸らしてしまう。

こういう時こそ、厨二スイッチだろ俺。



今は入れるべきところだったと思いつつ、ゆっくり視線を戻す。

そこにはくすくすと微笑みを浮かべるセシリアが。



「時と場合にもよりますが……そうして自分の発言を気にするヨウキさんも嫌いではありませんよ」



「それは喜ぶべきことなのかな」



「自分で考えることも時には必要ですよ?」



「意地悪だなぁ」



お互いに笑い合って紅茶を一口飲んで、仕切り直し。



「そろそろギルドに行って依頼受けないと不味いかな」



「ここ最近、ずっと孤児院に来てますからね」



「色々と責任を感じて……さ」



セシリアが中々孤児院に来れていなかったことと第三の厨二を生み出してしまったことがね。

もちろん、責任感だけでなく純粋に俺が楽しいっていうのもある。



そういう気持ちがあって孤児院に入り浸っていたわけだが……そろそろ限界だ。



結婚して急に働かなくなった黒雷の魔剣士……うん、良くないね。

聖母様のヒモとか後ろ指を刺されそうだ。



セシリアに養ってもらう気はない。

一緒に支え合っていくんだ。

まあ、他にも理由はあって。



「ソレイユの様子が気になる。シエラさんに任せてからどうなったのか知りたい」



「そうですね。どこまで回復したのか私も気になるので一緒にギルドへ行きましょうか」



「だね」



ダバテ神父と孤児たちに別れを告げてギルドへ向かう。

さて、シエラさんはどうなっているか。



「見事に行列ができてるな」



「声をかけられる状況ではなさそうですね」



人気受付嬢だから仕方ないか。

用事自体はすぐに終わることだし、待たせてもらおう。



周囲からの視線が少し気になるけど無視。

邪魔にならないように壁際で大人しくしていようとしたら、クレイマンが手招きしていた。

何か用事あるみたいなので声をかける。



「よっ、久しぶりだな。クレイマン」



「お疲れ様です、クレイマンさん」



「おう。夫婦揃ってギルドか。最近、顔を見なかったからな。良い加減、働けって連れてこられたか」



「それは体験談か?」



クレイマンならありえる。



「何が体験談だ。俺は面倒くさがりだが、仕事をサボりはしねーよ」



「そうか」



「そうなんですね」



「おう」



なんだろう、会話に物足りなさを感じる。

こういう時にクレイマンの内情を知る人物の密告があるものだが。



「シエラさん、忙しすぎないか。会話に参加できないまでの行列っておかしいだろ」



「シエラさんの受付だけ異常ですよね」



確かにシエラさんは人気の受付嬢だ。

ギルドを利用しているのでそこはわかる。

しかし、これほどまでの行列ができるのは変だ。



「クレイマンの受付空いてますよーって半分くらい連れてくるか」



「おい、止めろ。俺の仕事が増える」



「仕事をサボりはしないってさっき言ったばっかじゃねーか」



「自ら仕事を増やすかどうかは別だろ。そもそも、あの並んでる奴らはシエラに用事があるからな。俺だと意味がねーんだ」



「いや、それって……」



仕事中のシエラさんをナンパするための行列ってことか。

ギルド的にそれは許されないのでは?

セシリアも心配そうにシエラさんを見つめているし、良くないことなんじゃないのか。



「なんか勘違いしてんな。言っておくがあの行列は二人が考えているような思惑で集まっているわけじゃねーぞ」



「そうなのか。俺はてっきりナンパ目的の行列でクレイマンはそんな後輩を守らない、自堕落系副ギルドマスターなのかと」



「俺でも必要な時は部下を守るっつーの。つーか、その全く本気で言ってない感じの顔を止めろ」



「ばれたか。それで結局あの行列はなんなの?」



クレイマンじゃいけないってことはシエラさん個人に用事があると。

ナンパ意外でどういう理由があるんだ。



「あれは今まで世話になってきた奴らがシエラを応援してんだよ」



「応援……ですか?」



どういうことかと俺とセシリアが揃って首を傾げる。

頑張らなければならない何かがあるのか。



「ついにシエラが本気になった相手がいるってな。黒雷の魔剣士と聖母様の伝手を使ってよ。今、王都で有名な恋のキューピッドを家に呼んだって話題になってんだが」



頬杖をついてこちらを見てくるクレイマン。

これは俺がやらかしただろ、と疑う眼差しだ。

どうしよう……シエラさんに意中の相手なんていないんだが。

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