俺以外の厨二を預けてみた
「そもそもシエラさんの家に運ばれた時点で気づいていたんじゃないのか」
ここから話し合いをしてやっぱり止めますとはならないだろう。
ソレイユはもうシエラさんのお世話になるしかない。
「確かに……僕としたことが。先日、提案された時に断っていれば」
「セシリアの説教後だったし、言うことを聞かねばならないという状態になっていたのかもしれないな」
「……それ、セシリアさんに失礼では」
「セシリアの言うことは間違っていないので、正しい方向に導く力が働いたと言える」
セシリアの導きのおかげで今、俺はここに立っていると言っても過言ではないからな。
ソレイユもセシリアの導きにより、シエラさんの家にお世話になることになったと。
「そもそも、今回の提案はヨウキがしたものですよね。セシリアさんの導きとは言えないのでは」
「細かいことは気にするな」
セシリアも俺の案に賛成してくれたからな。
これはセシリアの導きとも言えるんだよ!
「ここまできたら大人しくシエラさんに看病されておけって。普段、お世話になっている感じからして悪い人には見えないだろう」
「それは……分かってはいますが」
看病を受け入れないソレイユと口論していると二人が戻ってきた。
「看病についての話は一通り終わりましたが……蒼炎の鋼腕さんはまだ棺の中にいるみたいですね」
セシリアから呆れの混じった声で注意をされた。
これは良くない、やるべきことをやらずに話すことを優先してしまった。
やらかした分は行動で挽回だ。
そこからの俺は早い。
ソレイユの体へ負担がかからないように気をつけながら、素早くベッドへ移動させた。
「……ここまできたらこれ以上の抵抗は無意味ですね。シエラさん、ご迷惑をおかけするでしょうが、お世話になります」
「はい……えっと。ギルドと今では話し方が違うような」
「ふっ、蒼炎の鋼腕はこれが素だぞ。俺に憧れた結果、産まれたのが蒼炎の鋼腕だからな!」
シエラさんが困惑していたので補足説明をする。
まあ、詳しい事情までは言えないので、ここまでだが。
「正体を表した方が人気が出るような気がしますけど、どうですか?」
シエラさんがとんでもない案を勧めてきた。
「おい!」
ソレイユよりも先に俺が反応してしまった。
貴重な厨二仲間を奪おうとするのは止めてほしい。
「せっかくの申し出ですが、僕にも正体を表せない理由があるので蒼炎の鋼腕のままで接してください」
「よしっ!」
「いや、ヨウキのためではないですからね」
ガッツポーズしたら、ソレイユにツッコまれた。
俺の願いが通じたわけでないらしい。
でも、そこは見逃してくれよ。
「わかってるさ。蒼炎の鋼腕の正体はバレてはいけないのだからな。シエラさん、間違っても顔を見てはいけないぞ。見てしまったらクレイマンでも庇いきれない事態に発展するからな」
「あのクレイマンさんでも対処できない。……面倒臭いが口癖でも本気を出したら誰もついていけない処理能力と謎の人脈を持ったクレイマンさんでもですか?」
「……うむ、クレイマンでも無理だ」
クレイマンの力を持ってしても国家間の問題は解決できないだろう。
まあ、仮に顔を見てもシエラさんが口を閉じていれば良い話だ。
少し考える素振りを見せたシエラさんだったが、最終的には。
「私が関わって良い案件なのかと思いましたが、一度引き受けたからには精一杯務めさせてもらいます」
ソレイユの看病を引き受けてくれることになった。
これで俺とセシリアの心配もなくなり、ソレイユも無理をしなくて済む。
「ふっ、解決だな」
「解決というのはまだ早いかと。蒼炎の鋼腕さんの怪我が治ってギルドに復帰できたらですね」
怪我が治ったらソレイユは故郷に帰りそうだけどな。
良い加減、次期領主として働かないと。
情報収集って言い訳も限界があるだろうし。
「強く生きろよ」
「その助言にどういう意味が?」
「これが今生の別になるかもしれないからな」
このまま蒼炎の鋼腕は卒業と。
「私の家はどういう扱いを受けているんでしょうか」
「シエラさんの家でどうにかなるとかではないから、安心してくれ!」
そんな失礼な発言をしたつもりはないから。
「ヨウキさん?」
隣のセシリアの視線が怖い。
俺が必死にセシリアの誤解を解いていると。
「……良いですね、新婚だからこその空気ってやつですか。羨ましい、私も早くいい人を見つけたい……」
シエラさんが小声で妬みを呟いている。
そこは頑張ってくれ。
「そ、それじゃあ、蒼炎の鋼腕よ。シエラさんに迷惑をかけないようにな!」
「言われなくてもそのつもりですよ。そちらこそ、セシリアさんに迷惑をかけすぎないようにしましょうね」
「はい」
「突然、素に戻るんですね」
「そこは真剣に答えないといけないところだろ」
「黒雷の魔剣士はふざけているということですか?」
「勢いだけで結婚生活に臨んではだめだろ」
誠実さが伝わるような言動を心がけないと。
「それでは帰りの道中、これは必要ありませんね」
そんな発言と共に背後からそっと俺の仮面を取るセシリア。
急に俺の視界が見やすくなる。
待て待て、こんな中途半端な。
「だったら服も脱ぐ!」
「許しませんよ」
「今の俺は誰だ。ヨウキか、黒雷の魔剣士か。それとも黒雷のヨウキか!?」
顔出しで厨二衣装とか勘弁してくれよ。
シエラさんとソレイユは笑ってるし。
着替えなんて持ってきてないため、シエラさんから服を……だめだな。
魔法で姿を消して帰るか。
いや、どのタイミングで消えるんだよ、無理だろ。
「どんな格好でもヨウキさんはヨウキさんですから、自信を持ってください」
あたふたしていたら、セシリアから不意打ちをくらった。
「これは私が持ちますから、少し寄り道して帰りましょう?」
仮面を両手で持ち、少し首を傾げての追撃により俺は、はいと言うしかしなくなった。
「羨ましい、羨ましい……私もいずれ素敵な人と出会ってあんな空気を出してみたい」
「僕が自分の怪我を顧みず、家から脱出しようとした理由が、あれです」
「……少しだけ納得できるかもしれないです」
いつものやり取りをしているだけなのに、二人に申し訳ない気持ちになった。
棺桶の回収は後日、夜にこっそり行うという約束をしてシエラさんの家を出る。
あとはセシリア提案の寄り道だ。
これは久々のデートか……。
「ヨウキさん、次は医療品の補充をしましょう。その次は雑貨、最後に食料品の順番で回れば遠回りをせずに帰宅できるかと」
「はい」
普通に足りなくなった物の買い物だった。
ソレイユの看病もあり、二人で買い物に行く時間を作れなかったからな。
夫として荷物持ちを頑張らないと。
「ふっ、俺にかかれば……これぐらいの荷物はいくらでも持てるから気にせずに買い物していいよ」
「……口調が中途半端になっていますよ」
「今の俺は誰なのか」
「先ほども言った通り、ヨウキさんはヨウキさんです。しっかりしてください」
再度、セシリアから励ましてもらい通常運転に戻る。
何事もなく、順調に買い物を進めて行ったわけだが。
「セシリアってすごいな」
「何がですか?」
「いや、きちんと足りないものを把握してるんだなーって思ってさ」
メモもなく、よく覚えていられるものだ。
俺なら絶対に何個か買ってくるの忘れたとかやりそう。
「旅をしていた時に身につけた力ですね」
「……成る程」
本当に大変だったんだなぁ。
「勇者様、ミカナ、レイヴンさんとの旅は色々と勉強になりました。あの旅をしたおかげでヨウキさんと出会えましたし」
「……そっか」
そう言ってもらえると嬉しい。
セシリアが旅をしていなければ俺たちは出会わなかったわけか。
「勇者パーティー、ありがとう」
「何に感謝してるんですか。ほら、行きますよ」
「了解……っと。ところで俺も寄りたい場所があるんだけど良いかな」
「構いませんが……何処へ?」
「孤児院」
約束は守らないとな。




