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運んでみた

蒼炎の鋼腕ソレイユの受け入れ先が仮決定した。

あとは双方が納得してくれれば解決なのだが。



「ギルドの受付嬢……ああ、僕やヨウキの対応を怯まずに行ってくれる方ですね」



「そうそう」



最初は俺を見てクレイマンに助けを求めることもあったけど。

今ではすっかり慣れてしまったシエラさん。

慣れって大事だなって思う。



「しかし、どういう流れで彼女が僕の介助を?」



「それは察してくれ」



「ああ、そういうことですか。二人にばれていたんですね」



俺の一言だけで色々と理解したらしい。

話が早くて助かる。



「正直に言って俺とセシリアはソレイユが家にいることは気にしない。俺たちの結婚式のために動いてこうなったんだからさ」



「僕が気にするんですよ!」



ソレイユの目が怖い。

やはり、我が家に居続けると言う選択肢はなさそうだ。



「それじゃあ、移動な」



「移動な、ではありません。僕は誰にも迷惑をかけるつもりはないので。適当な宿に連れて行ってもらえたらあとは一人で何とかしますよ」



「何を言うのかと思えば……そんなことセシリアが許すわけないだろ?」



俺の一言により、表情が凍りつくソレイユ。

セシリアの説教は効くよな、分かるよ。

俺もたくさん経験してるし。



「まあ、とりあえずシエラさんの都合もあるみたいだしさ。会うだけ会ってくれよ。もうこっちで頼んで断るのも失礼だし」



「分かりましたよ。でも、移動はどうするつもりです。ここに運ばれた時は騒動のおかげで目立たずに済みましたが」



「その辺は俺に良い案があるから任せておけ」



はっはっは、と笑う俺に対して不安げな視線を送るソレイユ。

おいおい、俺は今まで数々の困難を解決してきた男だぞ。

人運びくらい大丈夫だって。



予定が決まったからか、セシリアの説教が効いたのか。

ソレイユが脱走するような素振りは一切見せることなく、シエラさんと顔合わせの日がやってきた。



「さて行くか」



「……嘘ですよね」



セシリアが俺の格好を見て呆れている。

ヨウキではなく黒雷の魔剣士……なのはいつものこと。

問題は背中に背負っているのがいつもの剣ではなく。



「んー、んー!」



ソレイユが入った棺桶ということだ。

抵抗されたので無理やり押し込み、外に声が漏れては困るので黙らせた。



「普通にソレイユを連れて外に出たらまずいからさ。ソレイユも注目を集めることは望んでいないし」



「その格好はかなり注目を集めると思いますが」



「俺が、でしょ。棺桶の中身のソレイユは周りから見えていないから大丈夫。ふっ、これぞカイウスを見習おう作戦だ」



びしっ、と決める俺。

怪我人ソレイユを歩かせず、目立たせずの完璧な作戦。

住民の注目を集める人柱には俺がなるさ。



「あの……治癒者として言わせてもらうとですね。今のソレイユさんを身動きのできない状態で立たせたままにするというのは良くないのですが」



「これじゃダメ?」



俺は中腰になった姿をセシリアに見せる。

こうすることで背負っている棺桶も斜めになるのだが。



「ダメです」



「ダメか」



そもそも中腰で背負っていくのは格好悪いな。

黒雷の魔剣士として受け入れられない方法だ。



「なら、水平に持ち上げて行くか」



「それも危ないので却下です。……私も行きますから、一緒に持って行きましょう」



「えっ」



「えっ、ではありません。ソレイユさんの状態も説明しないといけませんから。ヨウキさんも治癒魔法を使えるとはいえ、本職ではないですし。任せる以上は引き継ぎをしっかりしないと」



一人で行く予定だったのだが、セシリアも付いてくるらしい。

俺的には大助かりなので喜んで頼むことにした。



事前にシエラさんの家の場所は聞いておいたので、二人で棺桶を運ぶわけだが。



「あれは……黒雷の魔剣士とセシリア様じゃないか」

「どうして棺桶を運んでいるんだ」

「あの中には誰が……?」

「教会関係者じゃないか。黒雷の魔剣士は手伝いだろう」



すれ違う人たちがこちらを見てひそひそと、ではなく堂々と話している。

どう考えてた目立つからな。



「あの、ヨウキさん」



「何かな、セシリア」



「かなり目立っているようですが……本当にこのままシエラさんの家に行くのでしょうか」



「計画の変更はない」



棺桶に入れてソレイユを運ぶのは決定事項というやつだ。

確かにこのまま行くのは良くないが……大丈夫。



「話を合わせてくれ」



「えっ」



「いや、しかし大変だなセシリア。まさか、恋のキューピッドのカイウスが自分の持ってきた棺桶を忘れるなんてな」



これは俺たちの物ではなく、カイウスの忘れ物作戦。

俺たちは忘れ物を運んでいるだけであって、怪しい物を運んでいるわけではない。



周囲に事情を伝えれば少しは注目もされなくなるはず。

あとはセシリアがしっかり話を合わせてくれるか……。



「そうですね。カイウスさんも緊急の用事ができたからとはいえ、慌てて家を出て行くことはないかと」



さすが、セシリアだ。

少しも狼狽えることなく、俺に話を合わせてきた。

あとは会話を続けるだけだ。



「まさか、ブライリングの開発について相談されるなんてな」



「ブライリングに旅行に行った時のことが原因でしょうね」



「ああ。ブライリング自慢のカップルや夫婦が楽しめる施設を俺たちの力で攻略してやったからな!」



「あそこは楽しむところであって攻略するところではないです」



いつもの俺とセシリアらしい会話を続けながら歩く。

そうすると通行人たちもああ、そういうことかと納得するわけだ。




「ふっ、やはり俺の作戦は完璧だな」



「こういうことを日常的に行なっていると思われなければ良いのですが」



今後の生活に影響するのではないかとセシリアが気にしている。

奥さんの不安を取り除くのは夫の役目!



「それはそれで刺激的な生活じゃないか」



「……そうですね」



表情を見るに役目は果たせなかったようである。

その後も注目を集める度にカイウスの名前を出して、乗り切った俺たち。

無事にシエラさんの家にたどり着くことができた。



「黒雷の魔剣士、参上!」



「普通に訪ねましょうか」



「すみせーん。約束していたヨウキです」



扉を軽くノックしてから、呼びかける。

黒雷の魔剣士の姿でヨウキと名乗る時が来るとはな。




「お待ちしてました……はい、どうぞ、お入りください」



俺とセシリア、そして棺桶を見て一瞬固まったシエラさん。

クレイマンに鍛えられているだけあって、即座に復帰し、俺たちを家の中へと案内してくれた。



「クレイマンの教育の賜物だな」



「副ギルドマスターには口で、黒雷の魔剣士さんたちに実技で教えて貰いましたから」



乾いた笑みを浮かべながら、進んでいくシエラさん。

良い経験になったという意味……で考えてはいけないやつだな、これ。



「本当にいつもありがとうございます」



「いえいえ。そのおかげもあってか、トラブルがあっても慌てることなく、冷静に処理できるようになったので感謝しているんです。……以前よりも副ギルドマスターからの無茶振りが増えた気はしますけど」




そのせいで婚活が……とこぼすシエラさんに俺は何も言えず。

新婚で幸せな絶頂にいる俺が励ましても嫌味に聞こえるだろうし。



「シエラさん、蒼炎の鋼腕さんを棺桶の中から出したいのですが」



「わかっていましたけど、その中にいるんですね。重症と聞いているので、客室のベッドを使ってください」



「はい。詳しい経緯は私が説明するので、ヨウキさんは蒼炎の鋼腕さんをお願いします」



俺とソレイユ、シエラさんとセシリアで別れると。

力仕事は俺でシエラさんのへの説明とメンタルケアをセシリアが行うと。



セシリアなら良き相談相手になるだろう。

何故ならセシリアの二つ名は聖母だからな。

客室から二人がいなくなったので棺桶からソレイユを解放した。



「途中から大人しくなったな」



「運ばれている感覚がありましたからね。街中で騒ぎを起こすくらいならと諦めて静かにしていただけですよ。それよりも!」



ソレイユが語気を強めにして迫ってこようとしたが、動けず。

うめき声をあげて大人しくなった。

重症の身ということを理解しような。



「自分の身体は大事にしろよ」



「こんな運び方をしてきた人がよく言えますね……」



「最善の方法を選んだつもりだが?」



騒ぎを起こさず、蒼炎の鋼腕を運んでいるともばれていない。

問題はないはずだが。



「そうですね、そういうことにしておきましょう。僕が言いたいのはそこではなくてですね。……まさか、受付嬢のシエラさんが婚活中とは」



「いや、シエラさんが婚活しているのはギルドでは周知の事実だぞ」



クレイマンが彼氏関係でネタにしていることあったし。

ソレイユも聞いたことあるだろうに。



「事務的なやり取りしかしていなかったせいでしょうか」



「もう少し周りに目を配れよ」



「言い返せないのは仕方ないのですが、ヨウキに言われるのは釈然としませんね」



「何でだよ」



そこは素直に納得してくれ。



「そもそも、すでにシエラさんに介助されることがほぼ確定しているように感じるのですが」



「そうだな」



シエラさんが案内してくれた客室にはベッドはもちろん。

テーブルには水差と清潔な布が置かれており、着替えも数着用意されている。



「ヨウキ……僕を騙しましたね」



「いや、そんなことはない」



クレイマンが背中を押した結果だろう。

ここまで用意が済んでいるのなら、断れないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの更新、面白かったです! 毎回楽しみにしているので、体に気をつけて執筆頑張ってください!
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