受け入れ先を探してみた
ソレイユが出ていくかもしれない。
聴覚強化によってソレイユの呟きを知ってしまった以上、行動に移らなければ。
「セシリア、ちょっと出かけてくるからソレイユのこと頼むよ」
「分かりました。夕食はどうしますか?」
「もちろん、家で食べる!」
新婚生活が始まって数日で一人外食なんてしない。
セシリアから夕食を作って待っていますからという、ありがたい言葉を受け、俺は家を出た。
「家にいるのが辛いなら信用できる誰かに受け入れてもらうしかないな」
現状、ソレイユは介助が必須。
治癒魔法でどうにか、なんてこれ以上は無理だ。
俺とセシリアの新婚生活を邪魔したくないというなら、誰かに頼むと。
俺たちの紹介と言えば脱走することもないだろう。
面子を潰すことになるし、受け入れ先もいきなりいなくなったら心配するしな。
「問題は誰に頼むかだな」
こういう時に頼りになる相手といえば……。
「いや、家は無理っすね」
困った時の相談相手といえばデュークだ。
偶々、休みで家にいたのでイレーネさんには申し訳ないが、外に連れ出した。
もちろん、イレーネさんと同棲中なことは知っているので、ソレイユを任せようとは思っていないが。
「騎士団の寮は無理か?」
「今、騎士団忙しいんすよね。ほら、帝国の勇者がまた攻めて来たじゃないっすか。こんな簡単に国境を超えて攻められちゃダメだろうって会議三昧で。国境の警備から見直すってことで騎士団も忙しいんすよね」
「そうか……ちなみに蒼炎の鋼腕はユウガが来るまで帝国の勇者ミラーを足止めした功労者なんだけど」
功労者だから何とかならないか作戦を試してみる。
「うーん……そもそも騎士団って国と繋がってるじゃないすか。万が一正体がばれたら終わりっすよね?」
「あっ……」
「頼る相手を間違えてるっすよ」
ごもっともなデュークの指摘を受け、俺はデュークと別れた。
確かに騎士団の寮とかデュークやレイヴン等、信用できる者ならともかく。
知り合いでもない騎士にソレイユの正体が発覚したら、騒ぎになること間違いなし。
デュークが見張るにしてもレイヴンが庇うにしても限度があると。
「……そうだな。そっちもばだばたしているのに無茶なお願いして悪かった」
「いや、こっちも力になれなくて申し訳ないっす。事情的にも力になりたかったんすけどね。……それにしても、新婚生活が始まったばかりなのに走り回ってるなんて隊長らしいっすね」
「うっせ」
けらけらと笑うデューク。
こっちは結婚式のためにボロボロになったソレイユのためにも動かないといけないんだよ!
「早く受け入れ先が見つかってセシリアさんと二人きりで生活できると良いっすね」
「そういう言い方止めろ」
「冗談っす。でも、俺の立場なら嫌っすね。新婚の家に転がり込むの」
「……だよな」
ソレイユにとっては想い人とライバルの二人組という別の要素もあるが。
しかし、デュークが頼れないとなると……あそこか。
俺はデュークと別れ次への目的地へと向かった。
「ごめんなさい。今、家も余裕がないわ」
「……そうですか」
デュークの次に頼ったのはセリアさんだ。
セシリアの実家で貴族の屋敷となれば情報漏洩の心配もないし。
名案だと思ったんだけど。
「ちなみに理由って聞いても良いですか」
「良いけど……ヨウキくんは知らないの?」
「えっ」
「ソフィアがガリス帝国の勇者の教育のために城に出払ってることよ」
「はっ!?」
間抜けな顔をした俺を見てセリアさんは丁寧に説明してくれた。
ユウガが倒したミラーが城へと運ばれた後、このまま帝国へ帰して良いのかという話し合いになったと。
こう何度も襲撃してくることに関してはもちろん、外交で訴えるらしいが。
ミラーは帝国の指示を無視して来ている可能性もあると。
戦闘狂な節があり、帝国に帰す前にどうにかならないかと考えた結果。
セリアさんがソフィアさんを推したと。
「家のソフィアならそういうことに慣れてるから任せて貰って構わない」
なんて言ったのだとか。
もちろん、身体中に仕込んだ武器は全て解除済みだが、危険人物に変わりない。
万が一のためにユウガも城に通っているとか。
「事情は分かったんですけど……俺に事情が知らされていなかったのは何故」
「セシリアが言わなかっただけよ。ヨウキくんの手を借りないといけない状況でもなかったし。……新婚なんだから、そこはセシリアの気持ちを察してあげてちょうだい」
つまり、一緒にいる時間を取れる様にしたってことか。
嬉しい……帰ったらにやけないように気をつけよう。
今度また相談に乗ってくださいと屋敷を後にした。
「うーん、どうしよう……」
歩きながら次の手を考える。
元部下、友人、知り合い全員が忙しいと。
「何かお困りですか?」
悩みながら歩いていると声をかけられた。
「セシリアがよく行く孤児院のダバテ神父……さん」
「ダバテ神父で良いですよ」
優しげな笑みを浮かべたダバテ神父は買い物帰りらしく。
大量の食料を入れたかばんを両手に持っている。
お困りなのはそっちだろうと、片方のかばんを持ち、孤児院まで運ぶことにした。
どう考えても一人では大変だろう。
手伝いで何人か孤児院の子どもを連れてくれば良かったのではないか。
「こどもは遊ぶことが仕事ですから」
「それにしたってこの量は厳しいでしょう」
「そうですよね。……本当はこんなに買う予定ではなかったのですよ。ただ、急にパーティーを開きたくなってしまったんです」
「パーティー?」
買い物中、急に決めるものなのか。
それに孤児院みたいな施設は事前に告知して子どもと協力して取り組みそうなものだが。
「最近、子どもたちの元気がないんです。これで少しでも子どもたちの笑顔が見られればと思ったのですが。……私の力が足りず、通りすがりのヨウキさんに迷惑をかけてしまっている」
力なく笑いながらこちらを向いて申し訳ないと話すダバテ神父。
いや、この人子どもたちのために頑張ってるし。
そんな顔しないでくれよ。
「立派ですよ。こんな大荷物を子どもたちを元気づけるために運んでいるんですから」
「……そうでしょうか」
「そうですよ。ほら、孤児院に帰ったらパーティーの準備だってあるんでしょう。そんな顔でパーティーって言われても子どもたちは喜びません。子どもたちと楽しく協力して準備して楽しまないとね」
「確かに……ヨウキさんの言う通りですね。パーティーの主催者が落ち込んでいては参加者の子どもたちも楽しめない」
少しだけ表情が柔らかくなったか。
あとはパーティーの雰囲気と子どもたちがダバテ神父を癒してくれるだろうな。
それにしても子どもたちの元気がないとは。
ソレイユのことも心配だが、気になる話だな。
「ちなみに子どもたちは何かあったんですか」
「ああ、何となく察してはいますよ」
ダバテ神父は原因が分かっていると。
解決できない問題だから、こうしてパーティーを開くことにしたのか。
何か力になれないかな。
「良ければ教えてくれませんか。何か手伝えることがあれば……」
そう言ったところでダバテ神父がものすごく申し訳なさそうな表情になった。
これは俺に手伝わせるのが不安的なやつか。
何度も俺の顔を見てはどうしようかと悩んでいる。
困っているのは間違いない、ここはごり押してみるか。
「ふっ、一人で悩みを抱え込んでいるのは辛いものだ。この件に関して俺は荷物を運んでいるだけの部外者……遠慮せずに吐き出すと良い」
ちょっと厨二スイッチを入れて決めてみた。
この姿勢なら打ち明けてくれるはず。
さあ、子どもたちに元気がない理由とはなんだ。
「……おそらく、最近孤児院にセシリア様が来ていないことが原因かと」
「あっ……」
俺、関係者じゃん。




