状況把握してみた
ウッドワンの声からして、真っ直ぐ式場へと向かってきている。
このまま入ってこられたらパニックになるな。
状況把握のために一旦、俺が話を聞きに行くか。
「どこに行くんすか」
席を立って移動しようとしたところでデュークに捕まった。
俺のことを監視していたのか来るのが早い。
ここで心配かけることもないし、トイレって言っておこう、
「ちょっと用を足しにな」
「嘘っすね」
「判断早くね?」
「何年の付き合いだと思ってるんすか。隊長の考えなんてお見通しっすよ」
デュークを誤魔化すことはできなかったか。
これではウッドワンの元に行けない。
しかし、ここで動いておかないと後々面倒な気がする。
ここは元祖相談役のデュークの力を貸してもらうことにしよう。
「実はウッドワンが大変大変と言いながら向かってきてるんだよ。絶対に揉め事だろうから、式が始まる前に処理したくてさ」
「ウッドワン……あー、隊長が仲良くしてる記者さんすか。それは厄介っすね」
「そう思うだろ。デュークと一緒ならどんな問題が来ても解決できるし」
「それはダメっすよ。隊長は式場にいないと。ここは俺に任せるっす」
「いや……」
食い下がろうとしたところでセシリアの顔が浮かんだ。
隣にいる、側を離れないと約束した。
デュークの言う通り、俺は動くべきではない。
「そうだな。俺は式場にいるよ。デューク 、悪いけど頼めるか」
「当たり前じゃないっすか。今日みたいな日はいくらでも頼って良いんすよ。それじゃ行ってくるっす」
本当に頼りになる部下を持ったなぁ。
デュークの後ろ姿を見て思う。
イレーネさんには大人しく待っているように伝えていくという、恋人への気遣いも忘れないと。
イレーネさんは離れたくないのか、手をわきわきさせていたな。
何があったのか、聴覚強化して確認だけでもしておかないと。
「こんにちは」
「ああ、アミィさん」
集中しようとしたところで声をかけられたので振り向く。
そこには行きつけのケーキ屋を営むアミィさんの姿があった。
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとう」
「それと……当店へのウェディングケーキ作成の依頼。とても光栄です」
手続きはデュークたちが済ませたんだが。
俺とセシリアで計画していたとしても、アミィさんたちに頼んでいただろう。
行きつけで色々とお世話にもなっているし。
「俺もセシリアも是非、アミィさんたちにお願いしたかったから。むしろ、引き受けてくれて感謝というか」
「感謝なんてとんでもないです。数ある店の中から私たちのお店を選んでくれたんですから。感謝するのはこちらの方ですよ」
「いやいや、俺としてはきっと二人は素晴らしいウェディングケーキを用意してくれるという確信がある。普段ケーキの試食もさせてもらってるし」
「兄はまだ修行中の身です。むしろ、兄の試食に付き合ってもらえて感謝を」
どちらも引かない展開になり、お互いに感謝を言い合う会話になった。
これではきりがないと判断したところで別の話題に持ち込む。
「と、ところで肝心のウェディングケーキは何処に?」
「兄が是非、会場に運ばせてほしいと言っていたので。私はデザートの用意をしていたんですけど……少し嫌な予感が」
そんなことを話していたら最愛の妹よ、というマッスルパティシエ、アンドレイさんの声が式場に響き渡った。
廊下から聞こえてきたので、ちょうどウェディングケーキを運んで来たのだろう。
しかし、何か違和感があるような。
「うん……うん?」
「どうかしましたか」
「いや、アンドレイさんのアミィさんを呼ぶ声が聞こえたけど……ケーキを運ぶ音が聞こえなかったような」
てっきりウェディングケーキを運んできたのかと思ったのだが、台車の音がしない。
アミィさんはケーキを運んできていないと知り、少し焦った表情に。
「もしかして、最後の仕上げで何かミスをしたのかな……九割ほど完成したところで私、デザートの準備に入ったので完成を見ていないんです」
「ええっ!?」
ケーキ関係のトラブル発生なんて完全に予想外だ。
今から作り直すなんて到底無理な話。
二人でどうしようと慌てていたら、アンドレイさんが式場に入ってきた。
「あ、なんだ。アンドレイさん、しっかりウェディングケーキ持ってきてますよ、アミィさん」
「本当ですね。兄さんたら心配かけて……っ!」
アミィさんの表情が凍りついた。
まあ、そりゃあそうなるだろう。
アンドレイさんはウェディングケーキを乗せた丸テーブルの脚を片手で持って入場してきたんだからな。
ワイングラスを持ってるみたいな感覚なのだろうか。
絶妙なバランス感覚と鍛え上げた肉体があるからこそ成せる技だな。
もう俺は驚かない、遠い目をすることしかできないや。
セシリア、早く俺の隣に来てくれ。
「この辺りか……ふんっ!」
掛け声と共に持っていたテーブルをゆっくりと置く。
ウェディングケーキは微塵もぐらつくことなく無事だ。
一仕事終えた様子で額の汗を拭い、上腕二頭筋を触っている。
そこにつかつかと歩み寄るアミィさん。
この雰囲気を俺は知っている……やらかした時に見るセシリアだ。
「兄さん」
「何だ我が最愛なる妹よ」
「台車はどうしたの。用意してあったはずだけど」
「甘いな妹よ。我が肉体にかかれば台車等……不要っ!」
ポージングを決めて鍛え抜いた肉体をアピールするアンドレイさん。
いや、そこは台車使ってくれよ。
「ウェディングケーキの作成は店を開いてから初めての仕事なのに……とても大事な仕事で。あんな危険な運搬方法を選ぶなんて……」
絶対に台車で運ぶ方が安全だからな。
アミィさんが怒る理由もわかる。
しかし、アンドレイさんは真っ白な歯を輝かせ、良い笑みを浮かべながら。
「妹よ。時には道具に頼ることなく、己の肉体を信じるべき時がある。今がその時だと判断したまで」
悪ふざけ一切なしで自論を言い放ってきた。
これにはアミィさんも深いため息をついて呆れ顔。
「……兄さんの言い分、理解できないとは言いません」
「さすが、我が最愛の妹」
「でも、納得はできないので話し合いです」
がしっ、と強めにアンドレイさんの腕を掴み連行しようとするアミィさん。
まあ、当然だろう。
このまま大人しく引きずられていくまでがワンセットだ。
「少し待て、妹よ。……本日はご結婚おめでとうございます。また新作を多数、ご用意しておきますので。夫婦でのご来店、心からお待ちしております」
「……ありがとうございます。美味しい新作、期待してるんで。必ずセシリアと一緒に行きます」
ぐっ、と親指を立てるアンドレイさんは役目を終えたからか。
大人しくアミィさんに引きずられていった。
抵抗してないとはいえ、アンドレイさんを片腕で……アミィさんも意外と鍛えているんだな。
「てか、ウッドワンはどうなったよ」
聴覚強化して盗み聞きしようとしていたんだった。
どういう意味の大変なのか。
「隊長」
「……隊長」
「隊長ー」
元部下三人が俺の元へ駆け寄ってきた。
デュークは報告だろうけど、ハピネスとシークはどうしたんだ。
「隊長。残念なお知らせがあるっす」
自分の結婚式中に残念なお知らせって。
聞きたくないけど、聞かないとダメだよなぁ。
「何だよ。俺たちの結婚式がばれてミネルバがパニックにでもなってるのか。それともセシリアを狙っていた貴族が詰め寄ってきてるとかか。いや、ユウガの時も来ていたし、戦闘狂の勇者ミラー登場もあり得るな。ついでに冒険者ギルドも今日に限って仕事殺到で忙殺されてるとか」
思いつく限りの心当たりを言ってみた。
今までの経験からしておそらく正解があるはずだ。
「すごいっすね隊長。全部合ってるっす」
「全部合ってるのかよ!?」
どれかは外れてて欲しかったわ。
全部はきついって。
「さては盗み聞きしてたっすね」
「うわー、変態隊長だー。ハピネス姉の旦那さんに報告して捕まえてもらわないと」
「……旦那……旦那?」
いつもの流れができていない。
シークの旦那発言でハピネスは動揺したらしく、目をきょろきょろさせている。
まあ、まだ旦那にはなっていないからな。
「しっかり連携しろよ。というか言ったこと全部起きてるなら対応しないと」
漫才している場合じゃないぞ。
このままでは結婚式が台無しだ。
一つずつ、問題解決していかないと。




