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持論を語ってみた

「確かに聖母様は勇者パーティーの一員として過酷な旅を乗り越えて魔王を討伐した実績があります。ですが、聖母様は表立って戦う戦闘職ではなく、後衛の回復役でしたよね」



「ああ、そうだ。それでも俺はセシリアに負ける」



「そんな……勇者パーティーの一員は後衛でも戦闘能力が黒雷の魔剣士さん以上ということですか。待てよ、黒雷の魔剣士さんは勇者様を相手に善戦したはず。……ということは聖母様は勇者様に近い実力をお持ちということに」



魔物相手に無双するセシリアを想像したのか、目を見開いて震え始めた。



これ以上、自由に会話を続けたら盛大な勘違いが生まれてしまうな。

どうして勝てないのか理由を説明してやらないと。



「……セシリアは心の芯が強い。数値とかじゃ表せない、近くにいて初めて気づけたものだ。他には……誰にでも分け隔てなく優しい。出会った頃、俺はセシリアに救われたんだ。道を閉ざそうとしていた俺へ手を差し伸べてくれた時のこと。生涯、忘れることはないだろう」



「黒雷の魔剣士さん……」



「レストールくんは俺とセシリアの劇を見に行ったんだろう。ジェイサーさんから聞いた。最近、婚約者ができたこともな」



「そうですが。どうしてジェイサーはそんなことを」



話した理由がわからないらしい。

ジェイサーさんの親心からの独断行動だし当然だ。



指導相手として招いた講師に恋愛相談するなんて考えつかないよな。



「ジェイサーさんのことは置いておいて……だ。レストールくんは劇を見てどう感じた。率直に述べてくれ」



「どう感じたと言われても……脚色をあまりされていないのでしたら、素敵な関係を築いて結ばれたのだな、と」



「そうか、そう見えたんだな。確かに俺とセシリアは今、結ばれようとしている。あの劇に脚色があまりされていないのも事実だ……が、当然、俺とセシリアしか知らない物語もあるわけだ」



「もちろん、わかっています。きっと他にも素晴らしい話があるんですよね」



目を輝かせながら言い切られてもな。



「人と付き合い結婚するというのは簡単に行くものではない。特に俺たちの場合は特殊だったからな。それなりに苦労もしたさ」



苦労度合いで言ったらセシリアの方がたくさんしているだろうけど。

いや、そこは本当に申し訳ない。

その分、今後楽しませるから許して。



「黒雷の魔剣士さん、突然黙ってどうしたんですか」



レストールくんが心配そうに声をかけてきた。

自分から話を進めておいて急に黙ってしまったからな。



「ああ、済まない。ちょっと懺悔をな」



「会話途中で何を思い出したんですか」



「大したことではあるが、今話すべきことじゃないさ。それでだ。君が婚約者について調査を依頼したと聞いた。……本当にそれで良いのか?」



「……僕は付き合い結婚するまでの過程を楽しめるような立場ではありません。だからといって良い関係を築く努力を怠って良いということにはならない。フェリミール嬢に失礼がないようにするために情報を集め、夫婦生活で問題が起きないように人の心を掴む術を身につける。与えられた務めを果たすため、僕が考えた方法は……間違っているのでしょうか」



それなりの覚悟を決めての行動だったと。

誰にも相談することなく、自分の立場のみを考えて決断したようだ。

まだ若いのに……立派だな。



「人との距離の詰め方なんて人それぞれで間違いなんてないさ。だけど、俺は少しずつ相手を知っていくのも悪くないと思うぞ。近道しようとせずに回り道しながらで良いじゃないか」



「僕が回り道なんて……」



「真面目に鍛錬して勉強もしているんだ。恋愛絡みで回り道したって文句はいわれないだろうさ。そうだろう、ジェイサーさん!」



ここでジェイサーさんに振る。

身内からの後押しって重要だからな。



「は、はい……もちろんですとも。旦那様と奥様には私が説明しますので」



「ジェイサー……」



レストールくんの表情を見るに決意が少し揺れ動いている。

ここまできたらはっきりと進むべき道を示してやろう。

俺はジェイサーさんから預かっていた書類を一枚と残り全てに分けた。



「自分のことを知ってもらって、相手のことも知りながら関係を進めるのも悪くない。これが俺の持論だが……結局、決めるのはレストールくん自身だ。選ぶが良い。趣味や特技、好きな食べ物といった表面上の一部のみの情報か、全ての情報を手にするかを」



ここで全てを手にすると言われてもそれは仕方ない。

強制しないのは恋愛相談の鉄則だろうからな。

破ってしまったらブライリングの恋のキューピッドに怒られてしまう。



レストールくんは書類と睨めっこしてから、最後にジェイサーさんをちら見。

ゆっくりと一枚の書類だけを手に取った。



「……本当は一枚も手に取らない方が良いんでしょうね。ですが、僕は鍛錬と勉強ばかりしてきた男なので少しだけ頼らせてもらおうと思います」



「ふっ、俺はセシリアと何もない状態から始まったがな」



「黒雷の魔剣士よ。だからこそ、相手を振り回してしまったり、遠回りをしてしまったのではないのか」



蒼炎の鋼腕が何か言ってるけど無視。

突っ込んでしまったら、余計に俺の黒歴史が出てしまう。



「まあ、人それぞれの始まり方もあるということだな」



無理矢理まとめた感が強いせいか。

誤魔化したことがバレているようで、レストールくんが静かに笑っている。

台無しだぞ蒼炎の鋼腕……。



「そうですね。そういうことにしましょう。……そうだ、ジェイサー。頼みがあるんだ。フェリミール嬢に手紙を書きたい」



「手紙を……ですか」



「ああ。今回、勝手に彼女について調査したことへの謝罪。そして……僕のことを少しだけわかってもらうために情報を少しだけ書こうと思う」



自分だけ情報を知ってしまったからな。

相手にも自分を知ってもらい、対等な立場になろうと。



ジェイサーさん、ハンカチを取り出して涙を拭ってる。

レストールくんの覚悟や選択を聞いて感動したせいか。

これで解決だな……。



「あと、父と母に伝えてほしい。もし、今回の件で婚約が破綻になってしまったら。僕はどんな罰でも受け入れると」



えっ、そんな大事になる可能性があるのか。

蒼炎の鋼腕ソレイユなら貴族事情には詳しそうだし、こそっと聞いてみよう。



「おい、蒼炎の鋼腕。レストールくんの言ってることはどういう意味だ」



「……婚約者とはいえ、勝手に情報を集められたと聞いて良い気分になる者はいないでしょう。婚約解消どころか、最悪家同士の揉め事にまで発展する可能性がありますね」



「どうにか手助けできないか」



「……僕は他国の人間ですよ。自国ならともかく他国の貴族の問題に深く関与はできません。フェリミール嬢が寛大な心を持っていることに期待するしかありませんね」



「おいおいおい……」



軽い気持ちで恋愛相談を受けたわけではなかった。

それでも下手したら貴族同士の揉め事を起こすきっかけを生んだことになるのか。

どうしよう、そんなつもりじゃなかったんだが。



「……安心して下さい、レストール様。そのような報告をする必要はございません。得た情報は全て許可をもらい集めたものですので」



「許可だと!?」



レストールくんが驚き、目を見開いている。

俺も驚いた……が、安心したって気持ちの方が強い。

会話の流れからして最悪の事態は免れそうだ。



「もちろんですとも。何しろ、そちらの情報を集めて下さったのは旦那様と奥様なのですから」



どうやら、ジェイサーさんは一人で動いていた訳ではなかったようだ。

フェリミール嬢の両親も快諾済みの話らしく、フェリミール嬢本人は知らないと。



これなら問題に発展する可能性は薄いな。

レストールくんへのダメージは大きくなったっぽいけど。


「僕もまだまだのようだな。今回の件で鍛錬や勉強だけでは得られないものがあると知ったよ」



「フェリミール嬢への手紙はどう致しますか」



「……書くさ。平手打ちの一つでも覚悟するよ」



どのような罰から平手打ちに変わったか。

あやうくセシリアに合わせる顔が無くなるところだった。

貴族からの依頼って油断できないな。

一時はどうなることかと思ったぞ。



「……セシリアに会って癒されたい」



「それは癒してくれる者がいない僕に対する嫌味でしょうか」



聞こえないようにぼそっと呟いたはずだったんだが。

隣の蒼炎の鋼腕にはばっちり聞こえていたらしい。

素に戻ってしまうぐらい気に障ったと。

そんなつもりはなかったんだ。



「何かごめんな」



「謝罪されると余計に腹が立ちます」



いや、本当にごめんて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 意外とフェリミール嬢がフルオープンで情報漏洩を許可していた可能性も……。本人以外納得済みでの情報交換だったり。レストール君の情報も全て向こうに渡っているとかだったらお似合いの二人かもw
[良い点] これにて一件落着! やはりヨウキのトラブル解決能力は凄いな。 専門じゃないどころか、どちらかといえば苦手な恋愛相談でもしっかり解決した。 [気になる点] >隣の蒼炎の鋼腕にはばっちり聞こえ…
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