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さらに元部下の近況を聞いてみた

「さあ、次はどっちの番だ」



残っているのはハピネスとシークだ。

ハピネスはレイヴンと顔出しで婚約発表。

シークは新たな才能を開花し、女の子友達が一人増えて三人に囲まれている。



本人の口から是非、詳しく色々と聞かせてもらいたい。

俺がじりじりと二人との距離を詰めると、ハピネスがデュークの隣へ小走りで駆け寄った。



頼りになるデュークに助けを求めるか。

だったら俺の取る行動は……。



「お前は逃さんぞ、シーク!」



「うわー、捕まったー」



シークの両脇に腕を入れて持ち上げる。

すばしっこさが売りのシークでもこうなってしまえば打つ手はない。



「さあ、お前の近況を言え。包み隠さずにな!」



「いーやーだー」



じたばた暴れても離さないぞ。

二人で攻防を繰り広げていたら、デュークが挙手してきた。



「あのー、ハピネスから俺が代弁する形でなら良いって言ってるっす」



「なぬ?」



「えっ?」



ハピネスがデュークに助けを求めたことは間違ってなかった。

だが、それは俺の魔の手から逃れるためではなく、報告の手助けをしてもらうためだったと。



いつものハピネスなら俺との漫才に持ち込んでうやむやにしそうなものなのに。



「ここで隠すのはレイヴンに失礼だって言ってるっす。別にやましい事がある訳じゃないのにって」



「ほう。そういう考えが出来るようになったか」



ハピネスも大人になったな。

婚約もしたんだし子ども扱いするのがおかしいか。

これからは大人として接していくべきかね。



「あと、単純に自分の彼氏自慢をしたいらしいっす」



「子どもか!」



なんだその理由、お前そんなキャラじゃないだろ。

二人のことは内に秘めておくタイプじゃなかったのか。



「俺や隊長の近況を考えて舞い上がっちゃったみたいっすよ」



「あー、雰囲気的なやつか」



「そうっす。それでハピネス。肝心の話は……へー、成る程、成る程」



デュークにひそひそと小声で相談するハピネス。

……こっそり聴覚強化して盗み聞きしようかな。



「隊長ー、言っておくけど抜け駆けはなしだからね。デューク兄があっち側にいるんだから。隊長がいてくれないと僕一人になる」



シークが疑いの眼差しを向けつつ注意してきた。

俺の考えなどお見通しらしい。

これも長い付き合いがなせる技か……。



「わ、わかってるって」



「その言い方、やっぱり抜け駆けしようとしてたんじゃーん。このっ、このっ!」



「うわっ、おい。止めろ」



側頭部を何度も蹴り付けてきたので、慌てて降ろした。

鍛えてるだけあってシークの蹴りって結構痛いんだよな。

鍛錬は怠っていないらしい。

シークとふざけ合っている間に二人の相談が終わった。



「ほら、そこの二人。暴れてないで耳を傾けるっす」



「はいよ」



「りょーかーい」



「良い返事っすね。それじゃあ、ハピネス。何の話題から行くっすか」



「……隊長」



「俺?」



どうして俺が出てくるんだ。

レイヴンとはお互い相談したりされたりという友人関係だが、最近の近況だろ。

何かした覚えないけど。



「今回、婚約発表を踏み切ったのって隊長の影響を受けてるらしいっすよ」



「それは……俺とセシリアのため的なやつでは」



「いや、それも多少はあると思うっすけど。隊長がセシリアさんと二人で幸せになる的なことをレイヴンに話したそうじゃないっすか。それが覚悟を決めるきっかけになったとか」



「そんな話は確かにしたけど」



「自分もハピネスと二人で幸せになるための一歩を踏み出したくなったらしいっす」



「隊長の言葉でハピネス姉の彼氏さん、火がついちゃったんだー」



ただ、自分の結婚後の計画を話しただけだったんだが。



「……感謝」



「ハピネスもそこは隊長に感謝してるみたいっすよ。一緒に住む物件探しの話もしてたそうっすから」



「おおー、それはめでたいな」



同棲計画まで立てているのか。

良いじゃないか、俺とセシリアは半同棲状態だったけど、二人は違うんだろう。

一つ屋根の下で共に暮らし始めるわけだ。



「……要望」



「家の条件についてか。あれだろ、二階建てが良いとか、店が近いとかってやつ」



その辺は本格的に物件探しを始める時にお互いの意見を擦り合わせて決めれば良いんじゃないか。



ハピネスのもじもじして言いにくそうにしつつもぼそっと出た言葉に衝撃を受けた。



「……寝室、一緒」



少し固まってしまった。

いや、婚約したカップルなんだから別に不思議なことではない。

しかし、意外というか何というか。

第一に出した要望がそれなんだなっていう。



「ちなみにそれはどっちが言い出したんだ」



「……レイヴン」



「レイヴンからか」



「理由はちゃんとあるみたいっすね。ハピネスの寝顔を見て夜安心して眠って朝はしっかり頑張ろうって気になるためらしいっす」



「それ共感出来る」



俺も朝夜セシリアの寝顔を見れたら癒されるし、やる気に満ち溢れるもんな。

デュークも気持ちはわからなくもないのか、うんうんと何度も頷いてる。



ハピネスも自分で話して照れてるってことは言われて嬉しかったんだろうな。

自慢したくなったんだろう。



良いぞ、どんどん彼氏自慢しても。

しかし、ここでシークの空気をぶった斬る一言が。



「ハピネス姉ー。それって二人だけの想い出にしておいた方が良かった話じゃないのー」



ハピネスの表情が凍りついた。

馬鹿、と咄嗟にシークの口を塞いだがもう言ってしまった後だ。



デュークもあー、と意味のない言葉を発して掌で顔を覆っている。

少し考えてハピネスが出した結論は。



「……記憶、消去!」



実力行使で俺たちから記憶を無くすことにした。

いや、ふざけんな。

これからセシリアと二人暮らしする予定の家で暴れないでほしい。



三人がかりでどうにか取り押さえる。

暴力で解決しようとするの止めろ。



いつぞやも見られたくないことがあるからって、俺を殴り飛ばしたことがあったな。

懐かしい記憶だわ。



「隊長、考えごとしてる場合じゃないっす!」



「そうだったな、すまん。シーク、気分を落ち着かせるハーブティーを淹れてきてくれ」



「りょ、りょーかーい」



シークがお茶を淹れるために離脱。

頼むぞシーク、お前の淹れるお茶に俺たちの命運がかかってるからな。



「よーし。シークが来るまで耐えるぞデューク」



「いや、説得するっすよ……」



「……消去、消去!」



「ええい、暴れるなハピネス。どうせ俺たちに言ってない思い出話だって沢山あるだろう。その中の一つを話しただけでそこまで思い詰めなくて良い」



説得としては弱いが、ハピネスの力が緩んだ。

もう一押しってところか……だったら。

俺は先程、ハピネスが冗談混じりで言ったことを利用することにした。



「さっき自分で彼氏自慢したいって言ってたろ。話したくなったのなら仕方ないさ。彼氏彼女自慢なんて誰だって一度はしてみたくなるもんだ。なあ、デューク」



はいと言え、と目で訴える。

思ってなくても良いから今は賛同してほしい。

視線だけで俺の伝言が伝わったのか。



「え、ああ……もちろんっすよ。俺も自慢したくなる時あるっす」



「ほらな」



見事な連携でハピネスの抵抗が止んだ。

よし、畳み掛けるぞ。



「俺の知り合いにも惚気話してくるやつはいるぞ」



どっかの副ギルドマスターとか、どっかの恋のキューピッドとか。

家に来てわざわざ惚気話をしに来る勇者もいる。



「そんなもんっすよね。全然、慌てることじゃないっす。むしろ、これからはハピネスも俺たち側になるんすから。落ち着いて話を聞けるようになるっす」



「……冷静」



「そう、冷静にならないといけないっす。シークの相談を聞く立場になるっすよ」



「……大人」



ハピネスが考え込み始めた。

これならもう暴れる事はないだろう。

俺とデュークは抑え込むのを止め、椅子に座り休憩。



「お茶淹れてきたよー」



シークがハーブティーを持ってきた。

いや、もう解決しちゃったんだよなぁ。



「……シーク」



「え、あれ、ハピネス姉、どうしたのさー」



シークが持ってきたハーブティーをテーブルに置き、優しく抱きしめるハピネス。

さっきまで暴れていた姉貴分が急に優しくしてきたら、そりゃあ動揺するよな。



「……応援」



「……えっ、何がー?」



「まあ、そういうことっすよ」



「どういうこと。僕がちょっといなくなってる間に何があったのさー」



「さて、一服一服っと。あー、落ち着く」



「隊長がハーブティー飲んでるしー」



ハーブティー、美味いじゃないか。

今度、セシリアに出したいから後で教えてもらおう。

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― 新着の感想 ―
[一言] のろけ大会、たのしそうだな、俺には縁無いけど。
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