元部下と集まってみた
「隊長ー。言わないでって言ったよねー」
家に帰ったら予想通り、頬を膨らませて怒ったシークがいた。
怒るのもわかる、匿ってくれと頼ってきて約束までしたんだからな。
「すまんな。三人がちょっと困ってる様子だったんで教えてしまったんだ。シークだって助かっただろ」
午後の劇について教えてもらったり、差し入れしてもらったり。
可愛い女の子に囲まれて癒されたはずだ、うん。
「すやすやベッドで眠ってたところを起こされて三人がいた時は飛び上がっちゃったんだからねー」
「悪かったって。ほら、お土産」
これぞ必殺、物で釣る。
稼いでる大人が使える、平和的な仲直りの方法だ。
帰り道、必要な荷物を忘れたとデュークとハピネスと別れた後に買ったお菓子だ。
これでシークの機嫌も治るだろう。
しかし、俺の見通しはお菓子よりも甘かった。
「三人が持ってきてくれた差し入れでお腹いっぱーい」
「何……だと?」
そういえばウェルディさんが差し入れ持ってきてた。
ティールちゃんもソフィアさん仕込みの紅茶を入れるって言ってたし。
お菓子で釣るという考えは浅はかだったか……。
これではシークの機嫌が悪いままだ。
どうにか別のことでご機嫌取りをしないと。
「いやー、お待たせっす」
「……到着」
忘れ物を取りに行ったデュークとハピネスがやってきた。
二人ならシークの機嫌を上手い具合に良くしてくれるはず。
「シーク、これエルフの里で貰ってきたお土産っす。いやー、珍しい薬草とかあるもんなんすね。知り合いに薬師がいるって話したら、親交の印ってことで効能について書かれたメモも貰えたんすよ」
「わーい。デューク兄、さっすがー!」
デュークのお土産に飛びつくシーク。
目をキラキラと輝かせて薬草やメモを見ている。
まあ、薬師としての能力向上に繋がる貴重な薬草レシピ付きとくれば喜ぶよな。
俺の買ってきたお菓子の立場がないけど。
「……贈呈」
「ハピネス姉もくれるんだ。……わー、まくらだー」
ふっかふかだーと頬擦りするシーク。
ハピネスの手作りとなると一級品に違いない。
裁縫の腕は良く知っている。
ユウガの抱き枕の時とかも世話になったからな。
今、睡眠に飢えているシークにとって寝心地の良い枕はまさに神アイテム……。
俺のお菓子の存在感がますます薄くなった。
「つーか、お前ら絶対事前に打ち合わせしただろ」
俺の存在を霞ませるようにって二人で悪巧みしたに違いない。
俺が渋い顔で問いかけると二人は顔を見合わせて作戦成功とハイタッチしやがった。
「いやー、隊長がシークの話をし始めたんで渡すならここしかないって思ったんすよ。ハピネスもちょうどシークに渡す物みたいだったんで」
「……おつ」
「おつって何がだ」
ハピネスのことだから意味は何となく想像付くけど。
「……引き立て」
鼻で笑いながら堂々と喧嘩を売ってきた。
そこまで言われて黙っていられる程、俺は優しくはないぞ。
「よろしい。売られた喧嘩は買ってやろう。表に出ろ!」
「……お嬢様、報告」
「よし、家の中で平和にパーティーするぞ!」
たまには優しくなって多めに見てやろう。
俺の華麗な掌返しを見て残りの元部下はというと。
「隊長、セシリアさんに弱すぎっすよ」
「そんなんで良いのー?」
散々な言われようである。
このままだと情けない隊長だが……俺だってただセシリアに甘いだけじゃない。
きちんとした理由がある。
「ふっ、俺だって結婚したらそこそこ厳しい旦那になるさ。夫たるもの威厳は必要」
「あー、出たっすよ。結婚したら性格変わる男。どう思うっすか、ハピネス」
「……不信」
「結婚前は優しかったってやつだー。隊長、悪い男になるんだねー」
「お前らそろそろ俺で遊ぶの卒業しようか」
こいつらのチームワークが一番発揮されるのって俺をいじる時だよな。
戦いの時とかに発揮してほしいんだが。
……いや、ミネルバにいて俺たちが全力で戦闘するなんて機会はないか。
魔王城にいた頃もそんなに戦ってなかったし。
「うん、平和が一番だわ」
「何すか急に」
「俺は平和主義に目覚めたんだ」
セシリアと平和に暮らすためにも心を穏やかにしないと。
「セシリアさん主義の間違いじゃないんすか」
「……納得」
「ひゅーひゅー」
「ふっ、それも悪くないな。俺はセシリア至上主義だ!」
「厳しい旦那になるって言ってた隊長はどこに行ったんすか!?」
「そんなものは知らん」
セシリア至上主義で良い、この話題は終了。
それよりも気になることがあるし。
「あのさ。デュークのエルフの里で買ってきたお土産ってのはわかるんだ。でも、ハピネスの枕は何故……」
こんな都合の良いタイミングで用意しているなんて有り得るのか。
「……記念」
「記念って何のだよ。シーク、何かあったっけか」
「んー、覚えがないかなー」
「……友達、沢山」
ハピネスの言葉でシークの表情が凍りついた。
ティールちゃんにフィオーラちゃんにウェルディさん。
可愛い女の子友達が沢山できたシークへの記念品てことか。
弟分の成長をハピネスなりに祝おうと考えたんだな。
「良かったな、シーク。これからも頑張れよ」
「た、隊長ー」
シークが救いを求めるように俺の腹に抱きついてきた。
泣き顔で頼ってくるの止めろ。
別に三人ともそこまで迷惑はかけていないだろうに。
そもそも女の子に囲まれた経験がない俺を頼る事自体が間違ってる。
こういう時は俺じゃなくてさ。
「シーク、悪いがお前の助けに俺はなってやれない。代わりに元ハーレム状態だった勇者と伝説の恋のキューピッドをやってる吸血鬼を紹介してやろう」
まじめに悩んでいるなら貴重な体験談を聞いたり、専門家に相談する方が良いしな。
うんうん、と一人頷く俺にデュークが一言。
「隊長、それだとシークは女の子友達がいる状況を素直に受け入れるか、一人に絞るかみたいなことになるんじゃないっすか」
「いや、そうはならんだろ。あくまでも相談に乗るだけなんだから。どうするかはシークが決めることだ。まあ、まだ子どもなんだから恋愛云々考えずに仲良くできる友達として遊んでいたら良いんじゃないかって思うけどな」
「……同意」
珍しくハピネスが俺の意見に賛成してくれた。
深く悩まず、適度に振り回されることだな。
「ほら、いつまでもここで話してないで席に着くぞ。夕食買ってきたから準備だ準備」
「わかったっすよ」
「……了承」
「はーい」
協力しないやつに飯は食わさないぞ。
俺が動き始めると三人とも返事をして手伝ってくれた。
まあ、皿を並べて料理を盛り付けるくらいだから、すぐに終わったけど。
「それじゃあ、今日はレイヴンとハピネスの正式な婚約発表を記念して」
「隊長とセシリアさんの結婚式が近々行われることを記念して」
「デューク兄がエルフの里ですごいことしてきたことを記念してー」
「……シーク、記念」
「全員、ばらばらかよ!」
せーの、で言ったら全員合ってなかったんだけど。
これは笑うしかないな。
俺だけじゃなくて三人とも笑ってる。
どうにか笑いが収まったところで仕切り直し。
「あー……こうして四人集まれたことに乾杯」
「乾杯っす」
「……乾杯」
「かんぱーい」
四人でグラスを鳴らしてパーティー開始。
こうして四人でご飯を食べるのも久しぶりな気がする。
「こうして四人で集まるのも良いな」
「そうっすね。魔王城にいた時は一緒にいるのが当たり前だったっす。あっ、隊長は引きこもってたんで別枠っすね」
「それ言うの酷くないか?」
「冗談っすよ。でも、隊長の言う通りこうして一緒に飯食うのも懐かしさを感じるっす」
「……同感」
デュークとハピネスもうんうんと頷きながら、料理を食べている。
ミネルバに来た時は宿暮らしを四人でしてたけど、すぐに全員居場所を見つけて去ってったからな。
その後、四人で活動することが減ったし。
全員、上手く自分の道を見つけたよな。
ここでおいしー、と順調に食べ進めていたシークの食べる手が止まった。
「どうしたシーク。食いすぎて腹でも痛いのか」
「違うよー。ただ……隊長もデューク兄もハピネス姉も結婚したらさー。こうして気軽に集まれなくなっちゃうなーって思っただけだよーん」
「だけだよーんて……」
最後、しんみりするのが嫌だったからか、語尾を伸ばして冗談っぽくしたな。
つい、本音を言ってしまったんだろう。
確かに俺たち三人、結婚が視野に入っていることは事実だけどさ。
「遠慮せずに遊びに来いよ。歓迎するぞ」
「そうっすよ。そりゃあ、当日集合は無理っすけど予定合わせたら会えるっす。みんな、同じ街に住んでるんすから」
「……当然」
「……良いの?」
悪いわけがないだろうに。
シークのやつ、そんな心配してたのか。
俺にとってこの三人は家族同然。
「結婚したからって繋がりが消えるわけじゃないだろ。変な心配するな。遠慮もするな。不安になるな。何かあったら頼れ。ティールちゃんたちのこと以外ならある程度の相談には乗ってやる」
「隊長、そこは何でもって言うところっすよ」
「シーク、デュークは何でも相談に乗ってくれるらしいぞ」
「……信用」
「そうだな。俺よりもデュークの方が信用でき……って、おい!」
ハピネス、お前は隙あれば俺を貶めてくるな。
結局、いつもの件になるとシークも悩みが吹き飛んだらしく。
俺をいじる側に戻っていた。
まあ、いつもの調子が戻ったんなら良いんだけどさ。




