説明を求めてみた
デュークが寮にいる理由を少しだけ加筆しました。
「さあ、説明してもらおうか!」
「いや、急に何事っすか」
俺は今日の騒動を裏で仕切っているであろうデュークの所に突撃していた。
俺の感覚強化を使えば見知ったデュークがいる所を探し当てるなど造作もない。
イレーネさんとの愛の巣があるはずなのに、何故か騎士団の寮にいた。
空き部屋で書類整理をしていたらしいな。
聞きたいことは色々あるがまずは一言、こちらから言わせてもらう。
「セシリアとのデートが誰にも邪魔されずに楽しめたぞ。本当にありがとな!」
「説明しろって言ったりお礼を言ったり訳がわからないっすね。……まあ、隊長の考える通りっすけど」
「ほらな、そうだろ」
「ほらな、ではなく私にも説明してもらいたいのですが」
デュークとの会話に夢中になってセシリアを置いてけぼりにしてしまった。
全力で反省して説明しなければいけない。
「あー、申し訳ないっすセシリアさん。隊長の言う通りなんすよ。二人に相談もなく勝手に動かせてもらったっす」
「おい、俺の挽回の機会が」
「勝手に動いたとはどのような目的があって、でしょうか」
「セ、セシリア……」
俺の予想も聞いてくれよ。
ちょっとだけ落ち込みかけていたら、セシリアが素早く俺をフォロー。
「ヨウキさんもある程度わかっているのでしょう。ですが、目の前に全てを知っているデュークさんがいるのですから、一緒に話を聞きましょう」
「そうだな。俺も説明してもらおうか、なんてさっき言ったばかりだし。デューク、頼むぞ」
「隊長、本当にセシリアさんに弱いっすね」
「惚れた弱みだ、悪いか!?」
「堂々と言うことっすか、それ……隊長らしくて良いとは思うっすけど。あと、セシリアさんがいる前で言えるのも隊長だからこそできるんすよね」
いつまでもお幸せにと祝福半分、呆れ半分で言ってくる。
確かに……こういうことは二人きりの時に言うべきことだな。
しっかり反省しないと。
「あー、その顔は絶対、別方向に納得してるっすね。セシリアさん、注意した方が良いんじゃないっすか」
「時と場所、場合を考えてくれるのなら私としてもその、言われても悪い気分にはならないので……。口に出してもらえないよりは良いかな、と」
「セシリアさん……そうっすね。考えてみたら今日は久々に邪魔の入らないデートをしたんすもんね。突っ込んだ俺が悪かったっすよ」
デュークの俺とセシリアを見る目が優しいものになった。
このままだと話が進まないので、素直に受け入れることにしよう。
「それじゃあ、本題よろしく」
「わかったっす。まあ、本題と言ってもそんなに難しい話でもないんすけど。ただ、二人が動きやすくなれば良いなと思って周囲に協力を頼んだだけっす」
「協力とはレイヴンさんや勇者様にですか」
「そうっすね。エルフの里からミネルバに戻ってきて感じたのが二人に目が向き過ぎているなと。だから、俺なりに考えて手を回してみたっす。この前のパーティーで全員で協力しようって話にはなってたんで」
「やっぱりな」
俺もそんな感じだろうとは思っていた。
しかし、ユウガはともかくレイヴンとハピネスはこれで良かったんだろうか。
もっと自分たちのタイミングで発表したかったんじゃないのか。
そう考えると非常に申し訳ないんだが。
「あー……隊長もセシリアさんも表情見たら何を考えているかわかるんで言わせてもらうっすけど。レイヴンもハピネスも前々から考えてたみたいなんで気に病む必要はないっすよ。レイヴンなんかはこの前、隊長と話して決意したって言ってたんで」
「俺と話?」
なんかあったっけ……ああ!
情報屋に追いかけ回されて助けてもらった時のことか。
婚約発表に踏み切るような良い話をした覚えはないぞ。
「課題にぶつかってもセシリアさんと談笑する時間があれば乗り越えられるとか。一緒に過ごすことが増えるから、他にも好きな時間を探す……とか。勢いだけじゃなくて意外としっかり考えてるんすね、隊長」
「いや、言ったけど。そんな話をしたけども!」
その話をセシリアがいる前でするな。
結婚したらこうしたいな……という話をされる身になってみろ。
本人の知らぬところで話した本音を聞かれるって結構、恥ずかしくなるもんだぞ。
「ヨウキさん」
「あ、うん」
「ヨウキさんの考え、素敵だと思いますよ。私もヨウキさんと同じ気持ちになりました。一緒に……好きな時間見つけていけると良いな、と」
「ああぁぁ……」
「崩れ落ちたっすね」
デュークにツッコミをする余裕はない。
全身から力が抜けた。
嬉しい、それだけが理由だ。
「あのー、続き話すっすよ。隊長はそのままで良いんで。セシリアさんが聞いてくれれば大丈夫っす」
「俺の扱いが雑だな」
「それは前からっす。それで民衆の目が分散されている今の内に……二人で結婚式を挙げれば良いんじゃないかと思うんっすけど」
「はぁ!?」
「復活したっす」
そんなこと言われたら、恥ずかしがって地面に伏せてる場合じゃないだろ。
急に結婚式まで話が吹っ飛ぶのかよ。
これには動揺を隠しきれない。
セシリアですら、開いた口が塞がらないみたいだし。
「デューク。気持ちは嬉しいんだが、式は俺とセシリアで話し合って今後どうするか決めようと」
「ちなみに今回の計画はセシリアさんのお母様にも協力してもらっているっす」
「お母様も、ですか」
「そうっす。レイヴンとハピネスの婚約、勇者様の決意表明、エルフと騎士団の協定。確かに情報屋は食いついてくれたっすけど、二人から完璧に離すっていうのは難しいかなって。それで相談してみたらすぐに任せなさいって言ってくれたっすよ」
セシリアさんのお母様、力持ってるんすねと続けるデューク。
うふふ、微笑むセリアさんが目に浮かぶ。
そこまでされて渋るのは気が引けてくる。
でも、本当にこんな勢いのままで望んで良いのか。
悩んでいるとセシリアが薬指に嵌めている指輪を見せてきた。
控えめに微笑んでいる……これは、そういうことだよな。
だったら、悩む必要はない。
「なんだか俺、邪魔みたいっすね。ちょっと席を外すんでごゆっくり」
気を利かせたデュークが部屋から出て行った。
すまんなデューク、心の中で謝罪しておこう。
これで二人きりになったわけだが……何と言えば良いものか。
お互いに覚悟は決まった……いや、前々から決めていたと言うべきか。
だけど、こうして式を挙げることが現実味を帯びてくるとな。
とにかく今現在、自分の気持ちを言葉に表すと。
「幸せだぁ」
ゆっくりと息を吐くように口からこぼれ出た。
もっと話さないといけないことがあるはずなのに、最初に出てきた言葉がこれだ。
「そうですね。同意します」
「同意で良いんだ。家に帰ってセリアさんからも話を聞いたりとかさ。そういう話から始まる的な」
「そういうことは帰ってからで良いです。ここ最近、ばたばたしていてどうしよう、どうなるのかなと思っていたので……デュークさんの話を聞いて安心しました。だから……」
セシリアは俺の手を取り、客用の椅子へと誘導。
二人で並んで座ると俺にもたれかかってきた。
「デュークさんが戻って来るまで肩を貸してください」
言い終えると目を閉じてしまった。
寝ようとしているわけではないな。
こういう時はあれだ、俺も目を閉じて……これからのことを考えたり、これまでのことを振り返ったりしよう。
二人揃って寝るなんてことはしないようにせねば。




