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演劇を観てみた

「さて、準備準備と」



今日は演劇公開日、俺は自宅で仕度をしていた。

あれからセシリアとは適度に会っている。



情報屋に追いかけられようが知ったことではない。

あの日で吹っ切れた俺は時には堂々と話して逃げるを繰り返している。



セシリアとデートは控えているものの、俺から屋敷に遊びに行くし、逆にセシリアが家に来たりと。

まったりと二人での時間を過ごしている感じだ。



結局、外では落ち着けないのでお互いの家で過ごしている。

遠出したくなったら誰もいなさそうな山でピクニックでも良いし。



今日はセシリアと劇場で待ち合わせだ。

二人で向かっても良かったけど……一緒に住み始めたら待ち合わせもしなくなるし。



結婚前にそういうことを楽しむのもありだと二人で相談した結果だ。



「正装……までいかないにしても普段着じゃまずいか」



適した服装を選ぶのに手間取る。

鏡の前で着替えていたら、来客を知らせる扉のノック音が聞こえた。



セシリアではないだろう、また情報屋だろうか。

着替え中なんだが、ちょっと待ってくれよ。



「すみませーん。今、手が離せなくて」



「隊長ー、僕だよ……」



忙しいからと追い返そうとしたら、身内の声が聞こえた。

何だシークか……少し声に元気がないような気がする。



相手がシークなら多少だらしない格好でも良いだろう。

急いで扉を開け、家に迎え入れる。



そこには長年の付き合いの俺でも見たことがない程、げっそりしたシークの姿が。



いつも元気なのがシークの特徴なのに……口が半開きで目の焦点が合ってない。

今にも倒れそうな状態だ。



「シーク、一体誰にやられたんだ。くそっ、よくも俺の家族をこんな……」



「元凶は僕の目の前にいるよー……」



恨みのこもったジト目を向けてくるシーク。

待て待て、俺が元凶って何だよ。



「あれだろ、ハピネスの件だろ。それは確かに俺が悪かったけどさ。そこまで根を詰める必要あったか?」



あの時のハピネスの有無を言わさぬ感じは驚異的だったかもしれない。

それでもここまでシークが追い詰められる程までの要求をするとは思えないんだが。



「ハピネス姉だけだったら大丈夫だったんだけどね……」



「だけだったら……あっ!?」



シークの意味ありげな言い回しで思い当たったことが一つ。



「セリアさんとソフィアさんか……」



シークがこくりと小さく首を縦に振る。

あの時の耳打ちはシークの化粧についてだったのか。

女性三人からの重圧……そりゃあ、こうなるわ。



「今日の演劇は午後の部もあって……その時にまた行かなくちゃならなくてー」



「成る程。休みに来たのか。……わざわざ家に来るよりも屋敷に戻るなり劇場の控え室で仮眠すれば良かっただろ」



寝慣れてる屋敷、移動時間のかからない劇場。

家に来るよりもどちらかの方が良い気がする。



「屋敷だとティールちゃん、劇場だとウェルディちゃん、うろうろし過ぎたらフィオーラちゃんに捕まっちゃうから……隊長に匿ってもらおうかなーって」



「そういうことか」



限界ギリギリのこの状況で三人の相手は無理だと。

ガールフレンドの多いモテモテなシークは大変だな。



「客間のベッドで仮眠を取れ。寝過ごすのは止めろよ」



「うん、ありがと隊長ー……」



ふらついた足取りでシークは客間へ入っていった。

本当に午後までに起きれるのかよ。

俺は出かけるから起こせないぞ。



「俺も向かうのは劇場だし。午後になってもシークの姿が見えなかったら……うん、考えよう」



セシリアを放ってシークを優先はできない。

誰か知り合いがいたら頼むことにしよう。

シークを起こさないよう、なるべく音を立てずに服装を決めて家を出た。



「妙だな」



いつもなら情報屋に遭遇してあれこれ聞かれるんだが。

今日はそれがない、何かあったのか。

頭にはてなを浮かべながら歩いていたら、何事もなく劇場に着いてしまった。



「どういうことなんだこれは……」



「ヨウキさん、早いですね」



頭を悩ませているとセシリアが駆け寄ってきた。

ワンピースドレスにジャケット……ラフな格好だ。

良かった、堅苦し過ぎる服装にしなくて。



「待ちましたか」



「いや、今来たところ。何故か情報屋に会わなくてさ。セシリアは道中どうだった?」



「私は馬車で送ってもらったので……ただ、降りる時に囲まれませんでしたね。最近は囲まれることが度々あったんですけど」



セシリアも情報屋からの接触がなかったと。

いくらなんでもこんな急に興味を失うものかね。

俺たちからしてみればありがたい話だけどさ。



偶然じゃ片付けられない、誰かが何かしたのか。

考えられるとしたらデュークだな。

この前、ユウガを連れて行ったし可能性は充分あり得る。



「ヨウキさん……ヨウキさーん」



「わっ!?」



考え込み過ぎてたな。

セシリアが何度も声をかけていたようだ。

今日は久々の外デートの日なのに……蔑ろにしたらダメだろ。

今はセシリアに夢中になろう。



「あの……先程まで上の空だったのに今度は黙って見つめてくる。ヨウキさんの中でどういった心境の変化が起きているのでしょうか」



「セシリアに夢中になるために……脳裏に焼き付けているんだ」



「そこまでしなくても良いですよ。……そうですね、これくらいにしておきましょう」



セシリアが俺の手をぎゅっと掴む。

周りに人がいるんだが……いや、手遅れだな。

周りの人たちから注目を集めたが軽く頭を下げると、空気を読んでくれたのか離れて行った。

これはゆっくりできるかもしれないな。



「行こうか」



「はい」



俺からもセシリアの手を軽く握って離さないようにし、劇場へ入った。

俺たちは招待客なので特別席、一般の席はほぼ埋まっている。



演劇への期待値はかなり高いようだ。

俺とセシリアは注目を浴びているものの囲まれたり話しかけられたりはしない。



マナーの良い客が多いのか、入場前にウェスタが気を利かせて注意喚起したのか。

どうやったのかは知らないがこちらとしては助かる話だ。

落ち着いて演劇に集中できる。



「つーか、俺の立場が……戦場で仲間を失い心を病んで引きこもった兵士って」



「仕方ありませんね。ヨウキさん、正体については誤魔化したんですから」



「まあ、創作だし。所々、脚色されてて当然だからな」



それでもセシリアが俺に手を差し伸べて外へ連れ出してくれるっていうシーンはある。

これは俺が強い要望を出したから。



俺とセシリアの出会いを語るには欠かせない、重要な思い出だからな。



「ウェルディさんも初めての舞台なのに堂々と演技しているな」



メイクも完璧だった。

シーク、良い仕事をしたな。



この調子で午後の部も頑張ってくれ。

今は寝ているであろう元部下へささやかな応援をする。

自分で作った強壮剤を飲んでまで頑張り始めたら、流石に止めよう。



「はい。ウェルディさんの努力が窺えますね」



「稽古頑張ったんだろうな」



ウェルディさんの演技にも注目して見ていたら、演劇はクライマックスへ。

最後はプロポーズして終わり……かと思ったら告白して終わった。



演劇を見ていた観客は拍手喝采、俺とセシリアももちろん全力で拍手。

良いものを見せてもらったよ。



最後に演者や裏方が観客に挨拶して終幕か。

流れを予想していたら……急に暗転。

何だ何だと軽くざわつく中、舞台に上がったのは。



「ハピネス……?」



いや、ハピネスなのは間違いないんだ。

ただ、衣装や化粧に装飾品で普段の姿とかけ離れていて、正直戸惑っている。



薄桃色と白がベースの衣装はハピネスにしてはかなり攻めている。

露出が少し多いんじゃないかと家族目線で言わせてもらいたい。



髪にはハピネスの髪色と似たチェーンアクセサリーを付けている。

これは長髪をイメージして付けたんだろうな。



普段履かないヒールの高い靴を履いているし。

メイクも普段はそこまでしないのに、シークにがっつりやってもらってる。



神秘的な美女……とかそういう風に仕上げたと言うべきか。

シークの技術、ハピネスが元々持っていた素質が合わさった結果。



ざわつきは落ち着き、観客たちはハピネスから目を離せなくなっていた。

ハピネスが歌い終わり一礼すると、再び拍手喝采。

演劇の時よりも盛り上がっているような気がする。



ハピネスのやつ気合い入れ過ぎだっつーの。

まあ、俺も全力で拍手して騒いでるけどな。



「最高だーっ、観に来て良かった。ありがとーっ、また歌声を聞かせてくれーっ。うおぉぉぉぉぉぉぉ!」



「ヨウキさん、やりすぎです」



「周りも盛り上がってるし、ハピネスの晴れ姿だし、この熱気を少しでも長く維持したくてさ」



「ヨウキさんらしいですね。では、私もできる限りの協力を……とても素晴らしい歌声でしたよ、ハピネスちゃーん!」



セシリアにしては珍しい大きな声でハピネスに声援を送っていた。

俺も負けじと声援を送り続ける。



観客が少しずつ落ち着いてきたところで終幕。

ここで演者や裏方、劇団員が勢揃い。

ウェスタによる劇団員の紹介、演劇について説明。



「それでは本日、我が劇団へお越し下さったお客様方へ感謝を申し上げます。ありがとうございました」



最後は劇団員全員で一礼して終了。

舞台は幕が閉じていく、これで午前の部は終了と。

そろそろシークが起きないといけない時間帯だ。

一人で起きれたかな……。



「ん?」



「あっ……」



何故かハピネスが一人で閉じた幕の間から出てきた。

まさかのアンコールか。

歌い始めると思ったら違うようだ、幕の間からもう一人出てき……。



「レイヴン!?」



どうしてレイヴンが登場するんだ。



「ヨウキさん、何か聞いていますか」



「いや、全く」



二人から何も聞いてないんだが。

困惑する俺たちに向けてレイヴンからとんでもない言葉が飛び出した。



「……俺はクラリネス王国騎士団長レイヴンだ。突然だが今日、この場を借りて……ハピネスとの婚約を宣言する」



一気に会場内がどよめいた。

俺ももちろん、目を丸くして二人を見ている。

おめでたいことだが、急にどうして……。

何が二人の背中を押したんだろうな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヨウキが魔族ってばれたら、クレイマン巻き込まれるんじゃ…
[一言] どんどんまとまっていくな。おめでとう。
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