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二人で過ごしてみた

ユウガに頼んだら黒雷の魔剣士が街中で堂々とイチャつく男にされてしまった。

デュークが止めてくれたおかげでぎりぎり後戻りできるぐらいになってはいる。



お願いしたのはこちら側だし、久々にセシリアとデートできたからそれはそれで良いとして。



「つーか、何をまどろっこしいことをしてるんすか。別に堂々と歩けば良いと思うんすけど」



「それができないからユウガに頼んだんだよ」



「でも、セシリアさんは隊長に会いに行ってるじゃないすか。情報屋に囲まれたって隊長なら簡単に脱出できるんすから、変に策を練らずにデートすれば良いんすよ」



デュークの言い分に何も返せず黙ってしまう。

それでもさ、ここ数日大変だったんだよ。

追いかけ回されて酷かったんだ。



少し会わない方が良いっていうのもセシリアやセリアさんと相談して決めたこと。

俺の選択は間違っていたっていうのか。



「ここ数日いなかった俺がでかい口を叩ける資格がないっていうのはわかっているっす。それでも、隊長ならもっと上手くやれる。俺はそう思っていた……なんてことはないっすけど」



「おい!」



ちょっと感動しようとしてたとこだぞ。

周りのみんながくすくす笑ってるじゃねーか。

ここで俺をいじるの止めろよ。



「隊長なら上手くやれないにしても何かしらの行動には出てて欲しかったっす。先に動いたのがセシリアさんて……隊長らしくないっすね。いや、セシリアさんが変わったのか。まあ、それを踏まえても隊長が動くべきだったんじゃないすかねぇ……」



「そ、それはまあ」



「良いんですよ」



デュークの責めに押されっぱなしだった俺に救いの手が舞い降りた。



「私が行きたかったからヨウキさんの所に行ったんです。しばらく会わないと決めたのに突然、行ったんです。つまり、今回は私の我儘であって、ヨウキさんは悪くないんですよ」



セシリアが俺を庇うように抱き寄せて、後方へと追いやる。

嬉しいんだけどこの状況は良いのだろうか。

セリアさんはあらあら、と頬に手を当て微笑んでいるが。



「ヨウキくん……」



「隊長……」



男子二人の視線が痛い、止めろよその視線。

そもそも、俺だってセシリアに会いたかったんだ。

行動しなかったのは悪い、認めよう。

俺はセシリアの前に出て……抱き寄せた。



「俺だって会いたかった気持ちに変わりない。セシリアが会う機会を作ってくれたのなら、俺はその機会を存分に活かして要望に応えさせてもらうまでだ」



俺だって言う時は言うし、やる時はやるんだからな。

……具体的に何をするか決めてないけど。



まあ、一緒にいるだけで幸せを感じるから。

セシリアも同じ気持ちなら、のんびり部屋で過ごすのも悪くないかな。



「そうだよね。男として好きな人のために何かしたいって思うのは当然。今の言葉を聞いて僕は胸が熱くなったよ」



「俺としてはセシリアに届いて欲しくて言ったんだが」



何でユウガに一番、響いてるんだよ。

うんうん、と何度も頷いている。

通じるものがあるんだろうけど、今は控えてくれよ。



「いやー、隊長も言うようになったっすねぇ」



さっきまで俺を責めてたデュークが俺の成長を褒めている。

誰目線で言っているんだ、お前は。



「こういう時は何かこう……隊長、すがるように口調変えてたじゃないすか」



「すがるとか言うな」



厨二スイッチにすがるも何もないからな。

あれは俺の気分で入れたり、入ったりするものだから。



「まあまあ。そんな隊長が好きな人ができて結婚申し込んで婚約して。自然に自分の想いを伝えて行動しているところ見たら俺……」



「待て待て待て!」



このタイミングで涙ぐもうとするな。

泣くなら結婚式の時に泣いてくれ。

そもそも、俺の成長はもっと前から感じていたんじゃないのか。



「娘の幸せを願う母として旦那様の勇姿を見れたのはとても喜ばしいことね。ヨウキくん、勇者様にお願い事をして正解だったんじゃないの?」



セリアさんが微笑みを崩さずに質問してきた。

ユウガに頼んだ結果、俺とセシリアは公然の前でやたらとイチャつくカップル……という認識を与えることになったんだけども。

それが正解だったって……なんでだ。



「勇者様がお膳立てしてくれたおかげで気を遣わずにデートできるでしょう。さっきの言葉が本当ならこの数日のもやもやの分、行ってくれば良いじゃない」



数日前までは様子見を勧めてきたのに今日になって背中を押してくる……だと。

確かにさっき大口叩いて今もセシリアを抱き寄せている。

行っていいんじゃないか、これ。



「セシリア、行こう。障害は全部俺が吹き飛ばす」



「吹き飛ばすのは良くないですね。でも出かけることには賛成です。もう、出かけてしまいましょうか」



セシリアも行く気満々、ツッコミも平常運転。

これなら何も怖くないな。



「囲まれたらデート中だって言えば良いっす。別にやましい事もないんだから、行きたい所に行って食べたい物食べてそれを二人で共有してくるっすよ。それじゃ俺はこの勇者様に用事があるんで失礼するっす」



「えっ、用事って僕と君ってあまり話したことが」



「良いからこっちに来るっすよ。それじゃあ、隊長。また今度」



戸惑うユウガを引っ張ってデュークは手を振り去って行った。

用事って何なんだろうか、俺も知りたい。

好奇心に負けてセシリアを残して二人を追いかけるなんて選択は絶対にしないが……今度、聞くか。



「それじゃあ、セシリア……遊びに行こうか」



「はい」



満面の笑みをもらえた。

うん、やっぱり好きな人の笑顔はこう……くるものがある。

抱き寄せていたから至近距離だしさ。

ここは調子に乗って良い場面か、横からじゃなくて正面から抱きしめて……。



「若いって羨ましいわねぇ」



ばっ、と二人して勢いよく振り向きセリアさんを見る。

そうだった、出て行ったのは二人だけだ。

まだ部屋にセリアさんがいるんだ。



さっきからずっとこっちを見てにこにこしている。

これ以上、何か言われる前に外に出るべきだな。

行動に移ろうとしたら、扉をノックする音が聞こえた。



「あら、誰かしら」



「奥様、ソフィアです」



「今、良いところだから入ってきて良いわよ」



セリアさん、言ってる事おかしいって。

良いところだからって言う時はだいたい、入ってきて欲しくない時だろ。

名残惜しいがセシリアと離れる。



「あら、気にしなくてもいいのに」



「気にしますよ!」



「ヨウキさんの言う通りです!」



「息ぴったりね」



「失礼します……お邪魔でしたか?」



事情を知らないソフィアさんが部屋に入ってきた。

全くお邪魔じゃないから、セリアさんに用事なんだよな。

なら、すぐに要件を伝えてくれ。

セリアさんの意識を俺たちから逸らしてほしい。



「大丈夫ですよ、ソフィアさん。お母様に相談事ならどうぞ。私とヨウキさんはもう済んだので」



セシリアが好機を逃すまいとセリアさんよりも先に話し始めた。

追撃を阻止した感じだな。



緊急の案件です、と伝えてセリアさんの耳にそっと口を近づけるソフィアさん。

俺たちに聞かせられない重要な話らしい。



「……それは本当なの」



「はい。たった今仕入れた情報です。私もこの目で確認したわけではありませんが」



「自分の目で確かめる必要があるわね。ヨウキくん、セシリア。急だけど用事ができたから出かけるから……屋敷でゆっくりするのも良いし、外に出るのでも良い。二人のやりたいようにしなさい」



人に迷惑をかけるのはダメよ、と言い残しセリアさんはソフィアさんを連れて出ていった。

何があったんだろう。



「セシリア。何か心当たりはある?」



「リンベルの施設のようにお母様が投資している事業がいくつかあるので。そこで何かあったのかもしれません」



夜に輝きを放つ花、リンベル。

セシリアに連れて行ってもらったことがある。



「プロポーズした日に行ったところだよね」



「はい。まだ施設が解放されていないのに特別に許してもらったんです。あの日はお母様に事情を説明したら、すぐに良いと言ってもらえたんですよ」



「そうだったんだ。少しは反対するもんじゃないの。ほら、娘だからって特別扱いはしないみたいな」



「私もダメ元で頼んだんですけど……私に用意できそうなもの全てを使った最高の一日を作りたくて。あの日は途中から考えたって言いましたけど」



「考えてみればお店への予約とかがあったもんね」



「以前から行きたかった店へ行って綺麗な服を着て食事。大事にしているアクセサリーを身につけて……恋人と過ごす。気持ちがお母様に伝わったのかと」



「そこまで計画してくれていたんだ」



掌の上だったことは話したけど。

そこまでの想いを秘めていたのは知らなかった。



「本当に嬉しかったんですよ。ヨウキさんがプロポーズしてくれて……私の計画以上のことをやってくれたんですから。あの日は二人で作った最高の一日でしたね」



確かにあの日は最高の一日だった。

最後はセシリアの期待に応えることができたし、プロポーズして誰もいない夜空の下。

二人だけの世界で飛んではしゃいだ。



歌になってることもまあ……うん。

全部ひっくるめて最高の思い出だ、それには違いない。

ただ、俺はそれで満足はしない。



「まだまだ、俺とセシリアならもっと沢山の最高の思い出を作れるよ。何度でもセシリアの予想を超えて見せるから」



「斜め上の方向には越えないで下さいね」



「善処します……」



前科がいくつかあるのでその可能性も捨てきれない。

そこは直していくべき課題だ。



「セシリア、実はさ」 



「私もヨウキさんにお願いがあるんですけど」



ここで切り出すタイミングが一緒って。

二人で笑ってしまった。

多分、同じ想い……考えてることは。



「今日は」



「このまま家で過ごしましょう」



「当たり」



「紅茶とお茶菓子準備しますね」



「俺も運ぶの手伝うよ」



出かけるのも良いけど今は話したい気分。

結局、今日は屋敷で談笑して終了。

付き合う前から変わらない、セシリアとの和やかな日となった。



ただ、デュークとユウガ、セリアさんとソフィアさんの用事が何だったのかは分からないまま。

……揉め事にならなきゃ良いけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん、選択肢があることは重要だよね。外でもデートできる状態だからこそ家でまったりすることも楽しめるものだ。
[一言] 平和に終わった1日なのにもう騒動の気配が
[良い点] 更新お疲れ様です。 てぇてぇなぁ! もげろ! [一言] 絶対フラグが立ちましたね
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