王様と会ってみた
読者の方からの様々意見を参考にした結果、内容を編集しました。
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「え……? 陛下と謁見ですか!? そんな話私達聞いていないんですけど……」
城に着くなりこれから何をするのか。
セシリアが城の兵士に確認するとまさかの国王と会うことになっているらしい。驚きパニックに陥っているセシリアが必死に兵士に説明を求めている。
こんなに取り乱しているセシリアは初めて見るな。
シークは辺りをキョロキョロ見回している。
アクアレイン家の時のように魔王城と比べられたら洒落にならないので予め言わないよう口止めしているから安心だ。
セシリアが城の兵士と言い合いをしている間、俺はクラリネス王国の王について調べたことがあったので、それを思い出していた。
クラリネス王国国王、ダーツ=オルタ=クラリネス。第三王子ながら、兄二人を蹴落として王になったという奴だ。
十年間クラリネス王国で続いた魔王軍との戦いで、僅か十五歳で戦場に立ち、戦果をたくさん上げたらしい。
俺が魔王城にいる時も、どこかの国の王子がやたら強いとかいう噂があったな。
そんな弟を良く思わなかった兄二人から暗殺されそうになったが、逆に二人にあらぬ罪を被せ、婿入りという形でクラリネス王国から追い出したとか。
ちなみに兄二人はまったく戦場に立たず、役に立たないと兵士達を痛めつけたり、遊んでばかりいたとか。
追い出して正解だなそんな奴ら。
そして三年前、元国王であり父親であるダルク=マルタ=クラリネスから王位を継承されたとか。
半分は噂だけどな。
もう半分はレイヴンから聞いた話だけど。
二十五歳で国王をやっているとかすごいよな。
俺には到底まねできないことだ。
王子じゃなかったらユウガじゃなくて、ダーツって奴が勇者になっていんじゃないかっていうぐらい実力があったらしいしな。
まあ、どっちが勇者になろうと俺には勝てなかっただろうけどさ。
結局俺一番だぜと心の中で思っていると、兵士と言い合いをしていたセシリアが帰ってきた。
表情はそんなに悪くないので、どうやらまずい話ではなさそうだ。
「話はついたのか?」
「はい。どうやら国王様自ら私達と話がしたいと仰ったそうです」
「ダガズ村でのことを詳しく聞きたいのかな?」
「おそらくは」
だったら口裏を合わせないと大変なことになるな。
ガイのことや、俺が魔族になって戦ったことは伏せなければならない。
変に話が食い違ったりしてもだめだしな。
「となると心配なのは……」
俺とセシリアは同時にある方向へと目を向ける。
そこには落ち着きのない様子で城を見回しているシークの姿があった。
こいつが一番心配なんだよな……。
「……不安だ」
「私もです……」
俺とセシリアはシークに余計なことは一切喋らないように何度も言い聞かせた。シークはコクコクと何度も首を縦に振り、肯定の意思を伝える。
俺とセシリアが必死の形相でしつこく注意したからか、シークは話している間終始無言だった。
「いいか、絶対に余計なこと言うなよ!」
「シークくん、気をつけてくださいね。自分の首を絞めることになりかねませんからね!?」
二人掛かりで充分なほど言い聞かせていると、兵士がこちらに来たので慌てて黙る。
「すみません。そろそろ謁見の間にご案内したいのですが……よろしいですか?」
「あ、はい……大丈夫です」
「ではこちらに……」
兵士を先頭に城内を歩く。セシリアはこういう場になれているのか、かなり落ち着いている。
俺は少し緊張しているのだが。
シークは城の調度品などに興味を示しているようで緊張はしていないようだ。
多分一番気楽なのはシークだろう。
質問されたら主に俺やセシリアが答える手筈になっているしな。
兵士さんの案内を頼りに歩いていると大きな扉の前にたどり着いた。
多分謁見の間とやらがこの先にあるのだろう。
俺はごくりと唾を飲み込む。
魔王城で魔王に会ったことは何度かあるし、その経験を活かせば礼儀とかなんとかなる。
シークは……うん、不安だ。
兵士によって扉が開けられる。
魔王城の魔王がいた謁見の間とそこまで変わらない。床に赤い絨毯が敷かれ、玉座には男性の姿が見える。
おそらく俺達を呼んだクラリネス王国現国王、ダーツ=オルタ=クラリネスだろう。
左側には護衛であろう女性騎士が、右側には高価そうな服を着て、眼鏡をかけている男性がいる。
大臣とかそんな身分の人だろう。
そして数十名の警備の騎士達が部屋の両側にいる。
兵士に促されて、玉座より数歩離れた位置まで移動して俺とセシリアは膝をつき頭を下げる。
シークはわかっていないようだったみたいだが、空気を読むことができたのか見様見真似でなんとか場を切り抜けた。
「突然呼び出してすまないな。私がクラリネス王国国王ダーツ=オルタ=クラリネスだ。……堅苦しいな。すまない、普通の話し方でいいだろうか?」
……これは俺達に聞いているのか?
隣にいる女性騎士に向かって話しているように見えるのだが。
「……だめです陛下。セシリア・アクアレインはともかく初対面の者が二人いるのです。ここは王の威厳というものを見せないと……」
「固いことを言うなよシルヴィア〜」
いきなり女性騎士の肩を掴み引き寄せる。
顔がかなり近くなっているので、女性騎士は赤面しているぞ。
というかなんだこの二人は、できてるのか?
この二人に桃色のオーラが見えてきたんだが。
周りの騎士は直立不動のままだし、大臣っぽい人は軽くため息をついて「またか……」と呟いている。
セシリアもこの光景は初めてじゃないのか、無表情を貫いていて、シークは……よく見たら寝てやがる!
「あの〜……話は?」
五分ほど二人の愛を確かめるかのようなやり取りを見ていてついに限界がきたので用件を聞いてみる。
「ん……? ああ、すまんな。つい二人の世界に入ってしまったよ」
ついじゃねーよ、このリア充野郎……と言いたいが王様なので心の中で愚痴を言う。
女性騎士はなにもなかったかのようなすまし顔しているし、大丈夫かこの国……。
「では本題に入ろう。今日来て貰ったのはダガズ村での件についてだ。セシリア・アクアレインからの報告書を見る限り不備はない……が私はどうも腑に落ちない点がある」
うわぁ……やっぱりか。
俺とセシリアは軽く目配せし、打ち合わせ通りに口裏を合わせる合図を送る。
「ダーツ国王、一体どのような点が腑に落ちなかったのでしょうか?」
打ち合わせ通りに、まずは国王と親睦があるセシリアが質問に答える。
「ふむ、報告書にあったガリス帝国勇者ミラーは剣技だけでなく身のこなしも中々だということ。また、魔法を吸収する剣、魔法を反射する投げ槍、閃光を放つ筒などの人造魔武器とやらを所持していたという報告があったな。」
「はい、すべて本当の話です。……何処かおかしな点がございましたか?」
「そのミラーを川に落とした……ということが私は腑に落ちないのだ。いくら魔王を倒した勇者パーティーの一人、セシリア・アクアレイン。君がいたにしても無理がある気がしてならない。そちらの二人の内一人。ヨウキというものはギルドにて冒険者ランクがBだという裏はとれているが、少年の方はギルド未登録だからな。それに……」
シークを見てみると……まだ寝てやがる!
確かにこれじゃあ疑われても仕方ないな。
セシリアを見てみると冷や汗をかいている。
多分、どうこの場を切り抜けようか考えているんだろう。
余計なことは言うなと言ったが寝ていいと言った覚えはないぞ。
「……シーク、起きろ」
「ん〜?」
俺は肘で突いてシークを起こす。
「何かやれ、何か」
アクロバットな動きでもすれば信用してくれるだろう。
しかし、起きたシークを見てダーツ王がある提案をしてきた。
「君の実力が知りたいのだが……どうかな、この場でシルヴィアと組み手でも?」
ダーツ王がそんな提案をしてきた。
シルヴィアとは隣の女性騎士だろう。
……怪我しない程度なら大丈夫だとは思うが。
「いいよ〜」
「……では、行きます」
シークが間の抜けた返事をすると先程までいちゃついていた人とは思えないような鋭い眼光でシークを見つめ、向かってきた。
女性騎士は重い鎧を着ているとは思えないぐらい軽やかな動きを見せるがシークも負けていない。
一分程組み手をし、女性騎士が数歩離れて背を向けて元いた位置に戻る。
シークも追撃せずにその場で軽く伸びをしている。
どうやら終了らしいな。
「シルヴィア、彼の実力はどうだった?」
「はい、中々の身のこなしでした。あの年齢でこれほどの動きが出来るとは将来が楽しみなぐらいです」
話の内容からして、シークの実力は認めて貰えたっぽいな。
「ダーツ王、では……?」
セシリアが代表してダーツ王に質問すると。
「ああ、一応信用しようじゃないか。……まあ、元々山賊を連行しにダガズ村に行ったレイヴンから裏は取れていたんだが」
どうやらすでに、ダガズ村の人達から聞き込みをしていたようだ。
そしたら、ティールちゃんが住んでいた林の方から激しい戦闘の音が聞こえたと証言してくれた村人が何人かいたらしい。
だったら、最初から疑っていなかったということか……。
さっきまで必死に言い訳を考えていたセシリアがぷるぷる震え出した。
「ダーツ王!」
「はっはっは。そう怒るなセシリア・アクアレイン。ちょっとした悪ふざけだ」
さすがセシリアだ。国王相手に怒っているよ。
そんなセシリアの怒りを笑ってごまかすダーツ王。本当にこの国が心配になってきたぞ。
調べたダーツ=オルタ=クラリネスの情報、半分噂っていうか、全部噂なんじゃないのか?
そんなことを思っているとセシリアを宥めたダーツ王は一息ついて、口を開いた。
「ふう……さて本当の本題に入ろうか。今回ダガズ村で君らは数々の功績を残してくれた。ガリス帝国の勇者ミラーを退け、人造魔武器とやらの情報。クラリネス王国に対して諜報活動をしていることなど有益なものばかりだ。それで、何か褒美を与えようと思うのだが、何が良い?」
褒美……なんて甘い響きなんだろうか。
ご褒美だともっと良い感じがするよな。
俺の頭の中で勝手に褒美からご褒美に言葉が変わり、頭の中を駆け巡る。
ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美……そうだ!
「セシリアと付き合いたいです」
欲望に忠実に考えた結果、つい口に出てしまった。
言って一秒も経たない内に後悔する俺。
王様からの褒美で求めることじゃないだろう!
シーク爆笑、セシリア唖然。
そして、ダーツ王を含めた部屋中の人間全員が固まった瞬間を俺は見た。




