事情を説明してみた
遅すぎですが今年もよろしくお願いします。
「……ハピネスちゃん。シークくんを連れて行ってしまいましたね」
「あれは止められない。今度、シークには何か埋め合わせするよ」
だから、シーク許してくれ。
元部下二人は急な用事で去ってしまい、劇の様子も見た感じだと問題なさそう。
ウェルディさんのやる気を見れば安心できる。
シークやハピネスも関わっているんだ。
すこし考えすぎだったかもしれないな。
ユウガの経験者は語る……というやつに引っかかってしまった部分もあるが。
「そういえば、ユウガは大丈夫かな」
俺とセシリアのために囮として黒雷の魔剣士の格好で動き回っているわけだが。
何かやらかしていないよな。
自信満々だったし、簡単に身バレするようなことにはなっていないと思うが。
「セシリア。劇は信用できそうなことが確認できたしそろそろ、出ようか」
「そうですね。あまり長居しすぎるのも良くないでしょうし」
「行こうか」
ウェスタに別れを告げ、俺たちは劇場を出た。
シークとハピネスは声をかけるとさ……仕事の邪魔になるだろうと思い声をかけなかった。
これは優しさ、当然のマナーだ。
……決して面倒を避けたわけじゃない。
「ヨウキさん。シークくんとハピネスちゃんに声をかけなくて良かったのですか」
「あいつらはもう立派な大人だ。片や三人の女の子友だちときゃいきゃい騒いで片や騎士団長の恋人以上妻未満……一々、俺の挨拶なんていらないさ」
ふっ、と格好つけて言うと何やら疑いの眼差しを向けられた。
「……先程の一件が関係していますね。シークくんに助けを求められる、ハピネスちゃんに無言の圧力をかけられる等の可能性があった。だから、こうして出てきたと」
「もうセシリアの前で下手な誤魔化しは通用しないのか……」
「ヨウキさんの癖は把握済みです。出かけ先だけでなく家で過ごしている時のも……ね」
「さすが後衛職。前衛の動きをよく見ている」
「本当にそれが理由だと思っていますか?」
セシリアが普段から俺のことを見てくれているから……だったりすると良い。
まあ、そんなことを口に出すことはできず。
「……さあ、わからないな」
敗北宣言、逃走を選択した。
「答えはそうですね……帰ったら聞かせてもらいましょう」
逃げられなかった。
ただ、寿命が伸びただけでした。
帰宅後、勘違いじゃなければ良いなと思う発言をすることが確定。
そこは帰ってからの俺が頑張れということで置いといて。
セシリアと目立たないように歩いているんだが、全く黒雷の魔剣士の姿を見ない。
何かあったのか。
「ヨウキさん、気づいていますか」
「ああ。あれだけ騒ぎが起きていたのにな。黒雷の魔剣士はどこに行ったんだろう」
「あんたらも黒雷の魔剣士を探してんのかい」
二人で歩いていたら、通行人のお婆さんに話しかけられた。
どうやら親切心で声をかけてきてくれたっぽい。
俺ではなくセシリアがやんわりと対応する。
「はい。先程まで屋根の上を走っていたので。どちらに行かれたのかと。探しているわけではなく、不思議に思ったので」
「ああ、成る程ねぇ。そういうことかい。確かについさっきまでいたんだけど。騎士さんが現れて誘導していったよ」
「騎士?」
レイヴン辺りが来たのかな。
囮作戦は今日、急に決まったこと。
情報屋が集まり過ぎて混乱した結果出てきた……といったところか。
「どちらに向かったかご存じですか」
「ええーっと……セシリア様の屋敷方面だったと思うけど」
「なぬ?」
セシリアの屋敷に向かったと。
判断としては百点満点だ。
事情を聞くとしたら、俺の家かセシリアの屋敷でになる。
騎士団本部に連行はできない。
何故かというと横抱きにしているセシリアが偽物だからな。
その辺、わかってる辺りさすがだ。
早速、向かってみよう。
「お婆さん。丁寧に教えてくれてありがとうございました」
「いやいや。……あんたら情報屋とかじゃないだろう。なら、良いんだよ。セシリア様もようやく幸せへの第一歩を踏み出そうとしているんだから。そっとしておいてあげれば良いのにねぇ」
全く、情報屋ってやつは……と言いながらお婆さんは去っていった。
「良いお婆さんだったな」
「そうですね。親切に教えてくれたおかげで助かりました。それに嬉しいことも言ってくれましたし……幸せへの第一歩、一緒に踏み出しましょうね」
「もちろん」
周りにバレないよう、慎重に屋敷へ。
門が見えてきたところで人影が見えた。
いつも立っている門番じゃない、鎧を着ているので騎士だろう。
レイヴンだろうなと思って近づいてみると。
「遅かったじゃないすか」
屋敷の前にいたのはデュークだった。
イレーネさんと一緒にエルフの里に行っていたはずだが、帰ってきてたのか。
それならそうと連絡を……。
「言っておくっすけど帰ってきたのはついさっきっすよ。久々にミネルバの街並みを堪能していたら、黒雷の魔剣士が屋根の上を跳び回っていたんで何事かと思ったっす」
「ああ、それはな」
「偽物なのはすぐにわかったっすよ。様子を見てたらなんかしんどそうだったんで。騎士の権限を使って集まっていた人たちを解散させて、偽物さんには屋敷に行くように言ったんす」
「デュークさん。中身が誰か、承知の上で屋敷に向かうように指示を出したんですか」
「まあ、黒雷の魔剣士の格好だけしていたら別の場所に案内していたかもしれないっす。ただ……セシリアさんの服を着せた何かを横抱きにしていたんで。二人も関係していると判断したっす」
さすがデュークだ、頼りになる。
レイヴンかと思っていたがデュークが動いてくれたんだな。
「それよりも俺が話を聞きたいっすよ。何がどうなってこんなことをしたんすか」
「ああ、実は……」
「まずは屋敷に入りましょう。ここで立ち話するのも……勇者様も中で待っているんですよね」
「そうっす。事情を話したらハピネスの上司のメイド長が連れていったっすね」
「ソフィアさんか……」
特に騒ぎを起こしたわけではない。
俺とセシリアも了承しているわけではないので、ユウガもボコられてるとかはないだろう。
そう思いながら三人で屋敷に入り目にしたものはというと。
「ミカナちゃんに苦労かけちゃダメよ。ただでさえ不安定になりやすい時期なんだから、支えてあげないと」
「は、はい。ミカナとお腹の子のために勧められた講義には積極的に参加してストレスを与えないように生活しています」
「そう。出来るだけ一緒にいてあげてね。もちろん、適度にだけど。あとは家事もできるだけやってあげるのが良いわ。ミカナちゃんも段々と辛くなってくるだろうから」
「講義で習った知識を参考にご飯も気を遣わなきゃと考えていて、料理の練習しているんです。ミカナの負担をできるだけ減らせるようにしないと」
「勇者様もしっかり考えているのね。その調子で頑張って。何かあったら相談に乗るから」
「ありがとうございます」
セリアさんとユウガが話し合っていた。
話題はミカナについてのこと。
するのは良いんだけどさ、黒雷の魔剣士装備は屋敷内なら脱いでも構わないと思うんだが。
「あら、ヨウキくんにセシリアじゃない。勇者様から事情は聞いたわよ。数日ぶりのデートは楽しめた?」
「それはもうセシリアと一緒にいるだけで俺は幸せなので。周りを気にはしていましたが、最高の時間を過ごすことが出来ました」
「おっ、隊長にしては珍しく直球っすね」
「事実だからな」
嘘はついていない、本心から出た言葉だ。
セシリアもツッコミを入れてくることはなかったし、変なことはこれっぽっちも言っていない。
久しぶりに会ったデュークからしたら違和感があったみたいだけどな。
「うーん……セシリアさんも特に気にしている様子はなしと。俺がいない間に何があったんすかねぇ」
「デュークくん、だったわね。気になるなら二人から聞いてみると良いわよ。ここにいる勇者様も関係者だしね」
確かに関係者が揃っているな。
デュークがいなくなったのは俺とユウガが壮絶な闘いをする前だったか。
なら、そこから説明するか。
俺が主に、セシリアとユウガが細かいフォローを入れこれまでのことを話した。
デュークは途中で止めることなく、最後まで聞いてくれた。
聞き終わってからの第一声が俺たちを祝福する言葉で。
「まず、おめでとうという言葉を贈るっす」
「ありがとうデューク」
「ありがとうございます、デュークさん」
「いや、二人にはお世話になってるんで。隊長の場合は逆かもしれないっすけど」
「おい!」
婚約者と婚約者の母親の前で恥をかかせるなよ。
セシリアもセリアさんも笑ってるし。
「ヨウキくん……」
「お前も反応するな」
そのやらかしてるんだね……みたいな感じで俺の名前を出すんじゃない。
こういうのはいらないんだよ、今は!
「まあ、軽めの冗談は置いておいて。やり方は良かったんじゃないすか。変に策を練るよりわかりやすく正体をばらした方が伝わりやすくて好感が持てるっす。偶然、顔バレって無理があるっすもん」
堂々とデートしていちゃつくのが正解っすね、と話すデューク。
いや、そこまでいちゃつきながら正体をばらした覚えはないけどな。
「適度な距離を保ってばらしたよね」
「そうですね。私は仮面を取りましたが急接近してというほどでもなかったかと」
「……じゃあ、やっぱりそこの偽物魔剣士を真っ先に屋敷に誘導したのは間違ってなかったみたいっすね」
ここで矛先がユウガに向いた。
デュークの言い分からして何かやらかしたのか。
突然、自分に振られたユウガは自分は何もしてないと首を横に振って。
「いやいや。僕は必死に屋根の上を走ってただけだよ。そりゃあ、無言で走るだけなのは変だと思って。ミカナを抱えて飛んでる時を思い出して声をかけたりはしたけど」
「その声かけとはどのようなことを……」
「寒くない、大丈夫って言ってからぎゅってしたり。こういうデートも良いよねって囁いたり。もちろん、黒雷の魔剣士っぽくしないとばれると思って……ふっ、今日という日は最高だ。愛するセシリアとこうして陽の当たる道を歩むことができているのだからな、とか言ったけど」
「陽の当たる屋根の上を走ってるの間違いだろ」
「真っ先に指摘すべき点はそこじゃないかと」
「ははは……だよね?」
少しやり過ぎ感がある。
デュークが適度なところで止めてくれて良かったよ。




