殴られてみた
俺めがけて馬鹿でかい剣が落ちてきている。
観客席からはこちらへの被害は大丈夫なのかと心配する声と勇者様に限ってそんなミスはしないという声が聞こえるな。
まあ、その辺の心配はしていない。
観客席にはミカナがいる。
ユウガの力の源はミカナなのだから、怪我をさせるような威力は出さないさ。
ただ、この技を受ける俺がどうなるかって話。
こんな大技をどんな風に受けるなり避けるなりしたら、仮面だけ壊れる方向に持っていけるんだよ。
仮面だけじゃなくて俺の身体も壊れるわ。
いや、強化すればいけるだろうけど後々の説明を考えるとなぁ。
やはり、避けるべきだな。
ぎりぎりを狙って仮面の破壊を……難しいぞ。
完全に避けて接近戦に持ち込むか。
作戦を決めたところで頭上を見上げると、ユウガと目があった。
剣じゃなくて腕のところにいる。
そもそも、腕は必要だったのか。
大きくするなら剣だけで良いのでは、そんなツッコミをしたい。
「何故、真剣な眼差しで俺を見ている……」
やり過ぎて後悔しているとか、覚醒した力に酔ってにやけているとか。
そんな表情をすることなく、ユウガは俺から目を離さずに接近してきている。
どういう感情で俺を見ているんだろうか。
まさか、ここで俺に自分の力が通用するか試そうとしているなんてことはないよな。
魔王城で連敗したことを気にして今なら……的な。
「いや、ないわ」
即座に首を横に振って否定する。
そんな考えユウガはしないだろう。
やはり、ここは避けるべき……。
「魔剣士さん、避けてください!」
セシリアが焦った顔で観客席から声を上げている。
まあ、この規模の攻撃だ。
俺の身を心配して叫んでくれたのだろう、
セシリアの気持ちはものすごく嬉しい……が。
俺がユウガの攻撃をそこまで大袈裟に回避しなければならないと思われていると。
……今の俺は黒雷の魔剣士だった。
勇者の攻撃とはいえ背を向けるわけにはいかんな。
正体をばらすんだし、不慣れな剣は止めよう。
俺は剣を鞘に納め、両手にいつもの風属性魔法を発動。
俺の得意戦術は豊富な魔力量と強靭な肉体を使った戦闘だ。
「真っ向から受けようじゃないか!」
観客席からは何故ですかというセシリアからのツッコミが。
許してくれセシリア、俺は……。
「この攻撃を止めて……俺は証明する」
セシリアと結婚するのは俺だってな。
ユウガの新技、普通に受け止めるのは無理がある。
ならどうするか。
「攻撃は攻撃で相殺するもんだ」
単純に強化した腕で殴りまくる、それだけだ。
ユウガの剣が霧散するのが先か俺の体力が切れるか先か。
何故、正体をばらすためにと打ち合わせ済みの闘いででこんなことになっているのやら。
本当に予定通りにいかないもんだな。
「行くぞぉぉぉぉ!」
「来いぃぃぃぃぃ!」
ユウガと俺の叫びが会場に響く。
それから数秒後、俺はユウガの剣の迎撃を開始した。
「悪いが負けないからなぁぁぁぁぁぁ」
ヨウキとしてこの世界に来て間違いなく一番重い攻撃だ。
避けた方が正解だった……なんて思わない。
これはセシリアと結婚するための試練だと考えればこんなもん。
連打し過ぎて腕が怠くなってきたが根性で耐える。
もちろんユウガも引くことなく、全力で俺に剣を押しつけており……最終決戦感が否めない。
先程まで騒いでいた観客も今では固唾を飲んで俺たちを見守っている。
どれだけの時間、拳を打ち込んだのか。
わからなくなった頃、ユウガの剣にひびが入り……弾けた。
衝撃で吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぐっ、受け身取れんかった」
ちょっと痛いが体は動く。
まだ、仮面は取れていない。
当初の目的を果たしていないんだ。
付き合ってくれるよなユウガ。
「あれ……?」
ユウガは俺と逆側の方向へ吹き飛んだんだけど。
戦闘不能っぽくないか。
聖剣からは淡い光しか出ていない。
力を出し切った感があるぞ。
これ以上の戦闘を望めない……馬鹿な。
「予定と違うじゃないか……よ?」
おかしい、上手く身体が動かない。
特に両腕が変な気がする。
「んなっ!?」
俺の両腕がそれはもう痛々しいことなっていた。
強化していたとはいえ、ユウガの攻撃に耐えきれなかったらしい。
これじゃあ、戦闘続行は不可能だ。
剣も拳も握れない、やることは一つ。
俺は満身創痍ながらも駆け出した。
目的はもちろんユウガだ。
ふらふらながらもユウガは俺を見ている。
頼む、気づいてくれ。
最後の攻撃、それは頭突きだ。
そこをユウガが殴って仮面は壊れて正体がバレる。
これでいける!
「うぅ……」
ユウガもどうにか聖剣を杖にして立っているのがやっとみたいだが、俺の狙いに気づいてくれたらしい。
こくりと首を小さく頷いたのが見えた。
しかし、ここで予想外のことが起きる。
杖にしていた聖剣が輝き始めたのだ。
地面から何かを吸い上げているような動きを見せ、ユウガの身体へと伝わると。
「傷が治っていくだと……」
ちょっと待て、そんなのずるくないか。
俺だって回復して良いなら治癒魔法を使いたいんだが。
聖剣の力により、完璧とまでいかないがそこそこの回復をしたユウガ。
聖剣に光のエネルギーを集めて……打ち出した。
やっぱり、そういう攻撃があるんかい!
まあ、直線的な攻撃だったので横にステップして避けた。
さあ、俺を殴れ。
「ぐっ……」
ユウガは俺の頭突きをかわして拳を入れてきた。
完璧な一撃に俺の口元は緩む。
殴られて喜ぶってないよな……まあ、これで作戦完了だ。
仰向けに倒れて俺は空を見上げる。
仮面が壊れたから視界が良い感じに……なってない!
俺は起き上がって仮面を確認する。
戦闘不能になった黒雷の魔剣士が復活したと観客が騒ぐが気にしない。
駄目だ、ユウガの攻撃が弱かったのかひびも入ってないぞ。
「まだまだぁ!」
ユウガに向かっていくと事情を察したユウガが俺を殴る。
しかし、仮面は割れない。
おい、この仮面頑丈すぎるだろ。
その後、何度か試みる内にセシリアとレイヴンが試合を止めた。
腕の怪我を理由に俺は強制退場となった。
そんなわけで回収された俺は今、会場の治療室のベッドの上で寝かされている。
「どうしてこうなった」
「……どうやらその仮面はかなりの掘り出し物だったらしいな」
「嬉しくない」
装備品としては一級品だったと。
冒険者的にも正体を隠す身的にも良い物だったのね。
「……それでセシリアとは大丈夫なのか。その、さっきかなり……」
「聞かないでくれ」
セシリアは俺の腕を治療して勇者様と話してきますと出て行った。
かなり怒っていた様子だったんだ……。
「レイヴン。聞かないでくれと言ったばかりだが、俺はどうすれば良いと思う」
「……そうだな。セシリアとよく話し合ったら良いんじゃないか」
「その話し合いで俺はどうすれば?」
さっ、と顔を背けるレイヴン。
これはあれだ。
自分で考えろとかではなく、俺の行く末を考えて居た堪れなくなったのだろう。
自分で言い出した作戦に失敗したんだもんなぁ。
あれだけ大口叩いて、こんな怪我もしてさ。
呆れられたよなぁ……。
「はぁ……」
「……ため息をつくな。楽観的になれとは言わん。ただ、俺の知るセシリアはこんなことでヨウキに見切りをつけない。ヨウキもここで諦めたりはしないだろう。今日失敗したからってそこまで下を向くな」
「わ、わかったよ」
「……わかっているなら、良い。あとは二人で話し合うことだ」
レイヴンがそう言い残して部屋を出ていった。
それから数分後、セシリアが戻ってきて。
「ヨウキさん。やはり、最初の案でいきましょう」
そう言い放ったのである。




