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勇者と闘ってみた

観客からの黒雷の魔剣士の名を呼ぶ声に包まれて俺は登場した。

予想以上に盛り上がっている……まじか。



視線だけ動かしてみると観客の中には明らかに身分の高そうな人や歴戦の猛者といった感じの人がいる。

その中には警備のための騎士がいて、レイヴンの姿も確認できた。



もちろんミカナもいる。

隣の席が空席なのは……セシリアかな。

きっとそうに違いない。



「準備は良いかな」



「成る程。俺は挑戦者のようなもの。勇者様は先に入場していたようだな。待たせてしまったか」



ユウガは俺より先に呼ばれていたようだ。

敵対しているわけではないけど、それっぽい会話はしておこう。



今回の闘いの目的は俺の正体をばらすことだ。

そんな理由で闘います……とは言えない。

だから、表向きの理由としてセシリアと結婚するためのけじめということにした。



「さあ、行くよ」



先に仕掛けてきたのはユウガ。

聖剣を抜いて斬りかかってきたので受け止める。



「ごめん、まだ無理みたい」



「は?」



それだけ話して下がるユウガ。

待て待て……無理って聖剣の力の話か。

ミカナが相談したんじゃないのかよ、どうなってんだ。



ここにきて聖剣は気まぐれだったとかそういう話になるのか。

ユウガは申し訳なさそうな顔で剣を構えこちらを見てくる。



これだけの観客がいるんだ。

怪しまれないように気を引き締めろって。

聖剣が寝ているにしても今更止められないぞ。



途中で覚醒することを祈るしかない。

俺はそう結論付けてユウガとの闘いを再開した。



「まずいぞ、これ……」



聖剣の覚醒を信じて斬り合いを続ける中。

俺は危機感を感じていた。

まず聖剣の力無くして俺は倒れられない。



黒雷の魔剣士はギルドでも有名な冒険者。

実力を知る者も多い。



聖剣の力を使っていないユウガに負けて正体がばれてセシリアと結婚……駄目だ。

そんなばれ方をしたら、しばらくネタにされる。



問題はそれだけではない。

俺は魔法で身体能力を強化して戦うスタイル……元々格闘主体なので剣技はそこそこ。



偶にレイヴンやデュークに頼んで相手をしてもらっているが……そこそこだ。

そしてユウガは聖剣の力が使えない。



勇者と黒雷の魔剣士の闘いにしては地味な斬り合いが続いているこの状況。

観客席からのそろそろ探り合いは良いだろう的な雰囲気をひしひしと感じる。



これ以上、だらだらと剣だけで闘うのは限界だぞ。

今日、何度目かわからない鍔迫り合いになったのでユウガと相談することに。



「おい、どうするんだ。聴覚強化した俺の耳にはいつまで手を抜いているとか、こんなものなのか、とかいう声が聞こえてくるんだが」



「うっ……こうなったらヨウキくんが本気を出して僕を倒すとか」



「それはダメだって打ち合わせしたろ」



今回の闘いで俺は勝利してはいけない。

国の勇者であるユウガに勝つのはいくら何でも目立ちすぎることになる。



善戦した上で仮面割れを狙うのが目標だ。

どうにかして本気を出してもらわないと。



「あ……」



「どうした」



ユウガの目が観客席の方へ向けられている。

ミカナを見て覚醒する気だな。

こうなったら嫁パワーを頼りにするしかない。



「見える……ミカナがセシリアと話しているんだ。子どものことについて……かな」



「はぁ!?」



ここから観客席までどれだけ離れていると思ってる。それをわかってて言っているのか。

俺は聴覚や視覚を強化できるけど、ユウガにはできないはずだ。



読唇術を使えると話していたけどそれは戦いの時に軽く意思疎通ができる程度のものだったはず。



覚醒できなくて出まかせ言ってるとかないよな。

聴覚強化をして会話内容を確認する。

あまり褒められた行動ではないが……。



「……そうなの。もう名前の候補を考えていて」



「良かったですね、ミカナ」



「ええ、極端なところがあるんだけど。そこもユウガらしいっていうか。……本人の前では言えないけどね。全部を否定するのは違うし。これが惚れた弱みってやつなのかしら……」



「ミカナ。限度がありますからね」



「わかってるわよ。それにしてもまだ本気を出さないのね。ユウガったらもう……」



「何かあったんでしょうか」



「何もないわよ。ユウガはアタシがいたらいくらでも力を発揮するもの。だから、大丈夫じゃないの」



「自覚があったんですねミカナ……」



「偶然なんて言葉で片付けられないでしょ。何度も立て続けに起きたらね。もし、アタシがいてもユウガが力を発揮できなくなったらその時は……ユウガがアタシを好きじゃなくなったってことになるかもね」



「それは考えすぎではないですか」



「……そうね。もしもでも、そんなこと考えちゃいけなかったわ。ユウガを応援しないとね。ほら、セシリアも」



成る程、こういう会話ね。

子どもの名前の候補の話は最初から聞きたかったな。

どんな名前をつけようとしているんだろうな。



さて、ユウガが今の会話を本当に聞いていたのかどうか。

自分の名前が出ていたことに気づくとかでも驚くが。



「……そうか。僕の力の源はやっぱりミカナだったんだね」



「今の会話聞こえたのかよ!」



俺のツッコミにユウガは首を横に振って返答。

聞こえたわけじゃないのか。



「何でかな。ミカナだけはこんなに離れていても近くに感じることができるんだ。離れていても触れることができそうな……今まで感じたことがない不思議な感覚に僕も戸惑ってる」



「俺の方が戸惑ってるよ」



ミカナのピンチでもないのに新しい力が覚醒するとは思ってなかったぞ。



「あっ、そうだよね。ごめんね、不安にさせて。もう大丈夫だからさ。約束のために……そして、ミカナを全くもってあり得ないことで不安がらせないためにも僕はここで力を解き放つ!」



最終決戦のような台詞を言ったと思ったら聖剣から光が漏れ始めた。

ミカナの説得だけでなく、ユウガの強い意志が必要だったのかね。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」



雄叫びを上げながら気合を込めるユウガ。

ちょっと待て、そこまでしなくても良いぞ。

ユウガの聖剣の光を見て歓声が上がっている。



勇者がついに本気を出したぞという声が聴覚強化しなくても聞こえるな。

ようやく場が整った……そういうことだな。



「これなら力不足ではないよね」



光の翼で飛んで俺を見下ろすユウガ。

確かに力不足ではないが、黒雷の魔剣士として見下ろされるのは……良い気分ではない。



「ふっ、ここからが本当の勝負だ。行くぞ」



ユウガは空中を自由自在に動いて向かってくる気だ。

俺も翼は生やせるけど、この場でやるのは論外。

他の方法を取らないとな。

俺が飛べないなら、自由に飛ばさせなければ良いんだよ。



俺は地属性の魔法を発動。

適当な位置に地面の柱を作る。

これなら柱が邪魔になって自由に飛べないだろう。



「さあ、どうする勇者よ」



打ち合わせだと今の言葉の後に何度か剣を交えて仮面にひび……の予定だが。

俺に向かってくる気配がない、どうかしたのか。



「黒雷の魔剣士。君は強い。だからこそ、僕の全力を見せるよ」



「は?」



僕の全力って……大技を出すのかよ。

ユウガは光を纏ったまま天高く飛翔。

何をする気なんだと観客たちがざわめいている。



予定と少し違うが大技だと多少の余波がある。

まさか、速さに任せて落下しながらの剣による一撃……なんて技は出してこないよな。



聖剣のあの光の量を考えるとだ。

おそらく、剣から光の魔力を放つとかやってくるんじゃないか。

いかにも勇者っぽい一撃的な。



それなら、上手いこと食らったように見せかけて仮面の破壊に繋げられるぞ。

さあ、来いユウガ。



「何……だと?」



俺の予想が外れたらしく、空から見えたのは落下してくる聖剣。

剣の柄を握る右腕も見える。

速さに任せた一撃か……まあ、良いけどさ。



受け止めて剣の勝負に移そう。

そう考えたのだが……。



「おかしくね?」



縮尺がどうもめちゃくちゃな気がする。

でかい聖剣を握った腕が俺めがけて落ちてきているようにしか見えないんだが。

こんな技、ユウガ覚えてなかったよな。



「新技かよ!」



またユウガは新たな力を手に入れたようだ。

だからって俺に試すなよ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが勇者強すぎる(聴覚が) [一言] 更新ありがとうございます!
[一言] 魔族バレは無しでお願いします! 正体不明で結婚できない問題に上乗せせずに結婚させてあげてください!!
[良い点] ほのぼのとしたガールズトーク、良いですねぇ(旦那から目を逸らしつつ) [一言] なるほど、これが愛の力ですか(白目)
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