恋人からお知らせを聞いてみた
お待たせしたのに短いです。
すみません。
「勇者様と闘う場が整いました」
孤児たちとの熱い戦いから数日後。
突然、セシリアが訪ねてきたと思ったらこれだ。
ちょっと待ってくれよ……当事者の俺が何も知らないって何さ。
「どういうことだ。俺の知らない間に全てが決まるなんて」
「お母様と勇者様が協力して場所を確保してくれたみたいです」
私も知らなかったですよ、と続けるセシリア。
「何、その組み合わせ……」
ユウガが完全に抑え込まれるタッグだな。
セリアさんに勝てるわけないし。
「ミカナも協力しようとしたみたいですが二人から止められたみたいですね」
「もうそんな時期なのか?」
発覚してからそんなに日数が経っていないはずだ。
セリアさんも絡んでいるとなるとユウガの過保護が原因じゃないな。
「レイヴンさんには当日、手伝ってもらうと聞きましたね。警備関係を任せると」
「警備って……レイヴンに頼まなければならないくらい、規模の大きい会場でやるのかな」
「そこまでは私も知らされていないんですよね……魔剣士さんも勇者様も知名度が高いのでそこを考慮して騎士団から何名か騎士を派遣するくらいかと」
「成る程」
まあ、俺の正体をばらすわけだし。
そこそこ人が集まっていないと注目を集められないからな。
「その……大丈夫でしょうか」
「大丈夫とは?」
セシリアが心配そうな目で俺に尋ねてくる。
「入念に計画して色々と手配をしたはずなのに……何も起きないわけがないと思えてならないんですよね」
「うん、正常な判断ができてると思うよ」
今までの経験から考えて何も起きない……なんてことにはならない。
ユウガの行動に注意、俺は自分の暴走に注意しないと。
「ヨウキさんがわざと攻撃を受けることも心配です。相手は勇者様ですし」
「そこは念入りに打ち合わせしてるし、俺も避けられるように感覚強化するからさ」
視覚強化をフルに使い、仮面だけ壊れるように回避する。
攻撃のタイミングもわかっているのだし、充分可能だろう。
言葉だけでは安心できないのか、いまいち納得のいっていない表情を見せるセシリア。
考えろ、こういう時にどういう行動に出れば良いか。
やはり、安心してもらうのには抱きしめるとかだな。
早速実行……しようしたところ。
「こういう時には胸を貸してもらうべきですね」
セシリアの方が一枚上手だった。
抱きしめようと広げた両手が行き場を無くして小刻みに震える。
「今、どうしようかと考えましたね」
俺の胸に寄りかかったままでセシリアが聞いてきた。
戸惑いながら下を向くとそこには上目遣いながらも冷静な目で俺を見るセシリアの顔がある。
これはやられたな……。
「果たしてどこから俺はセシリアの掌の上で踊っていたんだろうか」
「そんな人聞きの悪いこと言われても困りますね。私が話していたのは本心ですよ。まあ、最後は少し意地悪をしてしまったかもしれませんが」
「俺が考えることも計算尽くだったというのか……」
「そういうことですね」
「ぬぅぅ……」
俺の恋人が強すぎる件について。
俺だってセシリアの先の先を読むくらいできる。
……さっきの心配が本当だったこととかな。
確認はいらない、今やるべきことは。
「じ、時間差……」
遊ばせていた両手をそっとセシリアの背中に回す。
抱きしめたわけだが、大分苦しい言い訳だ。
さっきの問答をしてからだし余計にそう思えてならない。
「……悪くないですよ」
それでもセシリアは満足してくれたようだ。
うーむ、セシリアに甘えてしまっている感が拭えない。
「ヨウキさんらしいですね」
「それって褒めてるのかな」
「ご想像にお任せします」
「よし、俺は恋人から褒められたっ!」
「急にものすごく前向きになりましたね……」
少し呆れ顔なセシリア。
抱きしめる力を少しだけ強くしよう。
「俺は優しくて理解があって聡明で料理上手で……」
「逃げられないようにしてから褒め殺しをするのは止めましょうか。それで話を戻すのですが……実は日程以外知らされていないんですよ」
「えっ!?」
「当日まで楽しみにしていてね、とお母様に取り合ってもらえなくて」
そんな話あるのか。
当事者の俺には知らせてくれよ。
セリアさん、どんな考えがあって教えてくれないんですか。
「そこそこの規模の会場で闘わせてもらえるのなら、別に教えてもらえなくても大丈夫かな」
やることは変わらない。
俺はセシリアとの結婚式のために正体をばらす。
「そうですか。私ももちろん当日、会場に駆けつけます。できることは応援することくらいですが……怪我だけはしないでくださいね」
「ふっ、俺は例え勇者が相手だろうと無傷で自分の決めた作戦を実行してみせるさ。それに……」
「それに?」
「俺にはセシリアがついているからな。何かあったら看病お願いします」
俺は抱きしめていた腕を離して頭を下げた。
いや、無いと思うけども。
何があるかわからないっていうのはさっき話し合ったばかりだからさ。
「そこは私の専門分野ですからもちろん頼まれなくてもしますよ」
「あ、ありがとう」
恋人から看病してもらえるのってなんだか夢があるよな。
ベッドに横たわる俺の横に座り、熱を測って果物の皮を剥くセシリアの姿。
そんな想像をしていると。
「看病目的に怪我をしないでくださいね」
「し、しないよ!」
俺もそこまで馬鹿では無い。
「当たり前の話をしますけど怪我はできるだけしない方が良いんですからね。先程も言いましたが心配しているんですよ。仮面を狙う……顔辺りに攻撃されるんですから」
「わ、わかってるって」
「私の治癒にも限度があるんですから」
これはセシリアの変なスイッチが入ってしまったか。
体が自然に動いて気がつけば正座していた。
さっきまでとても良い雰囲気だったのになぁ。
ここは諦め、目を閉じてセシリアの話を聞こう。
覚悟をしたんだけど。
「だから……必ず成功させてくださいね」
耳元で囁かれた。
目を閉じた隙に接近されたらしい。
驚いて飛び上がる。
「そろそろ、ヨウキさんも私のいたずらに慣れてもらわないといけませんね」
「……まだまだ慣れそうにないです」
普段のしっかりしたイメージがあるからさ。
一緒に住むようになってもなれないだろうな。




