勇者に協力を求めてみた
ユウガに上手い具合に殴ってもらい、仮面を壊して顔バレ作戦を実行するため。
俺はガイとセシリアを連れ、ユウガとミカナの家を訪れていた……のだが。
「ハート型の表札……こんなのなかったよな」
「以前、訪れた時はありませんでしたね」
「新婚ラブラブ自慢か?」
また暴走しているわけじゃないだろうな。
恐る恐るノックをする。
家の中から走ってくる音が聞こえた。
留守ではないらしい。
扉が開くとエプロンを着たユウガが出てきた。
「こんにちは、どちら様……って。ヨウキくんにセシリア……それに催眠療法の冒険者さん!」
何の話ですかという視線を俺に向けてくるセシリア。
ミカナが出張に行った寂しさで眠れなくなった時にそんな設定でガイを紹介しちゃったんだよ。
後で説明するから今は置いておいてという意味を顔に貼り付けて視線を返す。
伝わったのか小さく頷いてくれた。
よし、話を進めよう。
「実は頼みたいことがあったんだが忙しいか?」
「今は昼食の準備をしていたところなんだ。もうできるから大丈夫。さあ、入って入って」
ユウガに案内されて家に入る。
「あら、いらっしゃい……何かあったの?」
部屋にはソファに座って編み物をしているミカナがいた。
サイズ的に子ども服だろうか。
赤ちゃんを出迎える準備を着々と進めているようだ。
「ヨウキくんたちが用事あるみたい。申し訳ないけど、もう少しで準備が終わるから。それまで待っていてもらえるかな」
ごめんね、と言ってユウガは台所へ消えていった。
以前のように全てをやろうとはしていないのか。
聖剣の力が脅……封印されてるし。
良いパパになろうとしているようだな。
「……アタシがよく知らない面子が一人いるんだけど」
「あー……どうしようか、セシリア」
「ヨウキさんのことを話していますし、ガイさんのことも話して良いのではないですか」
ミカナは信用できる相手だろう。
一応、ガイにも確認しておくか。
「好きにしろ。小僧だけならともかく、僧侶の娘の判断なら信用できる」
「おい、どういう意味だ」
「言葉通りの意味だが。我輩は小僧のやることを見てきたからな。自分の行動を振り返ってみろ。我輩の見解に文句は言えないのではないか?」
言えるなら言ってみろと挑発するガイ。
……反論したいところだが、何も言えない。
実際、作戦失敗したばかりだし。
「セ、セシリア……」
「そこで助けを求めるのは彼氏としてどうなのかしらね」
「ぐはっ」
ミカナからも追撃されて俺は地に落ちた。
「ヨウキさんは最終的に上手くまとめることができてますから……その部分は自信を持っていいんですよ」
やはり、セシリアは俺を見捨てなかった。
「おい、その部分はと言ったぞ」
「その部分だけってことよね」
外野がうるさいけど気にしない。
今はセシリアの両手を握って精神を安定させる時間にしよう。
というか、自己紹介前なのに二人とも連携取れてるな。
「俺のことは一旦置いておいて先に事情説明しないか。話が進まない」
「そうね。まあ、大体の察しはついてるわよ。魔物なんでしょ?」
「正解だ。迷子からヒモ。そして、今では立派に働いているガーゴイルのガイだ」
「おい、いらん情報を入れるな。……本来は名もなきガーゴイルだったのだがな。ガイと名乗っている。よろしく頼む」
「ミカナよ。ユウガが以前、お世話になったみたいね」
お互いに自己紹介を済ませて軽く握手と。
二人とも気が合いそうなイメージがあるな。
「ガイはティールちゃんでミカナはユウガ。お互い相棒に困らされている者同士で何か通じることがあったり……」
「それならセシリアもこっち側ね。ほら、セシリア。こっちに来て」
ミカナがセシリアの腕を引いて俺から離れる。
ガイとミカナにセシリア、対面に俺。
「こういうことを言いたかったんでしょ?」
うんうんとガイも何度も頷いている。
反論したいところなんだが……。
「セシリア……ごめんな……」
「えっと、こういう時に私は何と声を掛ければ良いのでしょうか」
「普段からしっかりしろって言えば良いのよ」
「全くだ」
黒雷の魔剣士脱装備事件を起こしたばかりなので何も言えない。
思わぬカウンターを食らったところで本題に入ろう。
「それでユウガに頼みたいことがあってさ。ユウガは料理中みたいだし。ここは嫁であり保護者でもあるミカナの許可をまずもらっておこうかと」
「要件によるわ」
「実はさ……」
ミカナへ今回の件を説明、黒雷の魔剣士脱装備事件について話すと。
「やっぱりそっち側じゃない」
と言われてしまった。
こればっかりは言葉を受け止めるしかない。
今後、何かやる時はセシリアに相談することを改めて固く誓う。
「そこで仮面割れ作戦を考えたので是非ユウガに協力を頼みたいんだけど」
「ふーん……成る程ね。なら好都合かもしれないわ」
「好都合?」
どういう意味だろうか。
俺がユウガにやられることに何か意味があると。
「ちょっとアタシからもお願いしたかったのよね。ほら、ユウガって聖剣使ってないじゃない」
「それはミカナが脅してるからだろう」
ミカナがこれ以上余計なことはするなと聖剣を脅したから現在の状況になっているのではないか。
「それはそうなんだけど……あれからユウガも無茶はしないようになってね。今では助け合って生活してるの。アタシは良かったって思ってたんだけど」
「周りの評価的なやつか」
そうよ、とミカナは頷いた。
あれだけミネルバ中を飛び回っていたんだ。
それがピタッと辞めて全く振るわなくなったんだから、変に思われても仕方ないか。
「まだ見ぬ敵のために力を蓄えている最中だとか、力を使い過ぎて眠りについてるとか憶測が飛び交ってるの。その中でユウガに勇者としての資格がなくなったとか、聖剣が主人として認めなくなったとかいう噂もあって……」
勇者としての資格ってなんだよ。
聖剣使えることが条件なら確かに今のユウガは勇者ではないけど。
ミカナとしては自分の大好きな旦那が悪く言われるのは良い気持ちにならないと。
「自分勝手なこと言ってるってわかってるわ。それでも……お願い。ユウガに聖剣を使う機会を与えて」
「そういう頼みかぁ」
ただ、適当に闘って殴ってもらおうと思ってたんだが。
これはお互いに利益があるし、断る理由がないな。
しかし、ここで待ったをかけたのがセシリアだ。
「えっと、ミカナが勇者様の目を盗んで聖剣に復活するように語りかけてはどうでしょう。ミカナの言葉に反応するのならそれでも……」
「確かにそうなんだけど。新たな人類の脅威の誕生……とかそういうのと勘違いされても困るじゃない。だから、覚醒する理由が欲しいというか」
「俺は人類の脅威じゃないぞ」
物語の裏ボス的存在でもなければ新たな人類の脅威でもない。
勇者夫妻は俺のことをなんだと思っているのやら。
「聖剣の力の覚醒ということはそれなりに戦闘するということですよね。打ち合わせをするとはいえヨウキさんや勇者様は大丈夫でしょうか」
セシリアは俺やユウガの身を心配してくれている。
さすがは聖……うん、セシリアだ。
危ない危ない、心中でも地雷は回避しないと。
ここで今まで黙っていたガイが口を開いた。
「小僧の強さは計り知れないものがあるし平気だと思うぞ。我輩は聖剣とやらの力がどんなものか知らないが小僧以上の力を持つことができるのか。実力差があれば怪我なく戦闘中に仮面を壊されるくらいは可能だろう」
「それはそうかもしれませんが結婚目前にして婚約者が強者と戦うというのはちょっと……」
わかりますよね、と目で訴えてくる。
うん、あまり良いことではないね。
心配してくれていると。
俺は強いから大丈夫……なんて説得の仕方はダメなんだろうな。
そういう言葉が欲しいとかじゃないだろうし。
ここはやはり……。
「セシリアと結婚するためにも避けて通れないことなんだ。絶対に大丈夫だとは言えない。それでも……一緒になるために大事なことだから見守っていてほしい」
かける言葉はこれで合っているだろうか。
すでに行動でやらかしているんだ。
説得の言葉は間違えたくないんだけど。
「……ミカナ、ヨウキさんはずるいと思いませんか。こんな言葉をかけられたら、私は止めることができないのですが」
「結婚したらもっとすごくなるわよ。今の内に慣れておいた方が良いわ」
「おい、その助言は止めろ」
いつか、その説得には慣れましたとか言われてしまうんだろうか。




