恋人の母親と相談してみた
セシリアによる有難い話を聞いた俺は足を痺らせながらも屋敷内を歩いていた。
やっと着いたところでセシリアから、次はもっと沢山お話することになりますよ、言われて終了。
ガイは自らにナイトメアスリープという睡眠の魔法をかけたため、眠りから覚めず馬車内に放置。
俺を見捨てたからな、それなりの報復をさせてもらうぞ。
完全に八つ当たりだが、自分で起きないのが悪いんだ。
ちょうど良いタイミングで俺が求めていた人物が歩いてきたので声をかける。
「やあ、ティールちゃん」
「こんにちは、ヨウキさん。何か御用でしょうか。私は仕事を完璧にこなしてミスをせず守り神様の元へ帰らないといけないのですが」
相変わらずガイへの愛……いや、信仰心が重いティールちゃんだ。
ミスしないっていうのは一刻も早く帰るためか。
それとも、完璧な自分の姿をガイに見せたいからか。
どんな理由があるのかわからない。
俺の取る行動は一つだ。
「実は俺の連れが馬車の中で寝てしまってさ。起こしてきてほしいんだ」
「降りる時に何故、起こさなかったのですか。私も頼まれている仕事があるのですが」
「その連れがガイなんだけど」
「守り神様ー!」
ティールちゃんは走り出していった。
ふっ、良いことをしたぜ。
「ヨウキさん……」
隣を歩いていたセシリアが呆れた顔で俺を見ている。
事情を知っている者からしたら褒められた行為ではなかったかもしれない。
だが、俺の行動によってティールちゃんは寝ているガイを起こすという役得な状況を掴めたわけで。
「屋敷に来たお客さんを案内するのもメイドの仕事だよな」
「間違ってはいませんが……」
「ガイもティールちゃんの扱いに慣れてきているし大丈夫、大丈夫」
変なことは起きないだろう。
心配するセシリアを説得し、部屋へと向かった……のだが。
「セシリア、ヨウキくんを少し借りて良いかしら」
廊下でセリアさんに会うとこれだ。
俺のせいでセシリアの良くない噂が立っていることに関しての話だろうか。
セリアさんの後ろにソフィアさんも控えているんだよな。
やばいぞ、これは二人がかりでの話し合いになりそう。
俺はプライドを放り投げ、子犬のような目でセシリアに助けを求める視線を……。
「良いですよ」
二つ返事でセシリアは了承、終わった。
「ありがとうねー、なるべく早く返すから」
「では、行きましょうか」
俺はソフィアさんに引きずられる形で連行された。
やらかしたことがやらかしたことだからか、この対応なのだろう。
俺は最後まで助けを求める視線を止めなかった。
しかし、俺の祈りは届かなかった。
応接室に着くなり、即座に正座。
さて、どのような説教を受けるのだろうか。
まずは誠心誠意謝罪の言葉を述べねば……。
「この度は私の行動により、セシリア・アクアレイン様の名誉を傷つけることになってしまい誠に申し訳ございません。名誉を回復するため、身を粉にする想いで動きますので……」
「あら、そういう謝罪はセシリアにした方が良いわ。私はそういう話をしたくてヨウキくんをセシリアから借りたわけではないもの」
「そうなんですか?」
「ソフィアは少し怒ってるみたいだけどね」
それ、笑いながら言うことじゃないですよセリアさん。
引きずられたし、ソフィアさんが良く思っていないことは伝わっていたけど。
「ソフィアも旦那さんに困らされていることが多々あるから、セシリアのことを思うとっていう話だと思うわよ」
「……私も夫に困らされることがあるので。お嬢様のことを考えると」
セシリアに迷惑をかけるのは今回が初めてではないのだが。
いや、そう思うのもおかしいんだけど。
ソフィアさんからいつも以上の圧を感じるんだよな。
「ヨウキ様のことでお嬢様が奔走している姿を私は見てきました。忙しそうにして怒っていることもありました。ヨウキ様と結婚し、二人の生活が始まれば今まで以上にお嬢様が悩み、行動することになるのだと考えてしまったのです」
ソフィアさんは真剣にセシリアのことを想って悩み、俺に対して憤りを感じていると。
どうしよう、まったくもって言い訳ができない。
俺の立場がどんどん悪くなっていく中、セリアさんから救いの手が。
「あらあら、確かにセシリアは大変そうにしていたわ。頬を膨らませて全くもう……って言ってたけど最終的には笑っていたじゃない。これからもセシリアはヨウキくんの行動に期待していると思うわよ。もちろん、今回の件は別だけど」
「反省してます……」
しかし、セシリアがそんなことを言っていたなんて。
こんな状況だとしても少しだけにやけてしまう。
「とても反省している者の顔には見えませんが」
「ごめんなさい」
こういうところなんだろうな、俺って。
「……今日はセシリアへの失言もあったし本当にダメな日だ」
落ち込みすぎて口が滑ってしまった。
迂闊なことを言った俺を二人が見逃してくれるはずがなく。
「失言て何かしら。詳しく話して欲しいわ」
「私も気になりますね」
「は、はい……」
俺はうっかりセシリアの二つ名を言ってしまったことを話した。
仕方ないじゃないか、二人からの圧を感じたんだから!
「そういうことだったのね。うーん……」
セリアさんは事情を聞いて何か考えている様子。
ここは俺が非難されるところだと思っていたのに。
ソフィアさんも特に俺を注意してこないな。
何でだろう……。
「確かに嫌がっていることを人に言ってはいけないわ。ただ、セシリアもそろそろ……ねぇ?」
セリアさんは俺ではなくソフィアさんに何か同意を得ようとしている。
ソフィアさんは少し考えて頷いた。
つまり、どういうことだ。
「えっと……俺だけわかっていないんですけど」
「ああ、ヨウキくんはわかっていないなら、そのままで良いと思うわ」
「そうですね。今回の件は私と奥様にお任せください」
「理由を聞いても良いでしょうか……」
「秘密よ。それじゃあ、セシリアをこれ以上待たせるのも可哀想だから。ソフィア、ヨウキくんのことを案内してあげて」
「かしこまりました」
こうして俺はセシリアの元へ引きずられていった。
ソフィアさん、まだ怒りが収まっていないんですか。
廊下で引きずられているとハピネスの姿が見えた。
掃除しているわけじゃなさそうだ。
「……仕事」
「ハピネス先輩。私は仕事をサボっていたわけではありません。馬車で眠っていた守り神様のお世話をしていたんです」
「……覚醒」
「守り神様がとても気持ちよさそうに寝ているところを起こせますか!? 私はお側で見守るのが最善の選択かと」
「……困惑」
ハピネスがティールちゃんの扱いに困っている。
ガイの姿がないということはまだ寝ているんだな。
ティールちゃん、起こさなかったのか。
それをハピネスに見られて、あの論争に発展したと。
俺だけでなく、ソフィアさんも二人のやり取りを見ていたわけで。
「ヨウキ様。大変申し訳ないのですが私にもメイド長としての務めがあります。お一人でお嬢様の部屋に向かっていただけますか」
「はい、わかりました」
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくり」
ソフィアさんはハピネスとティールちゃんのところへ向かっていった。
走っていないはずなのに速いと感じるのはどうしてなんだろうな。
埃を立てることなく、歩いているのに速い。
これもメイドスキルってやつなのか。
「ティールちゃん、ごめんな」
役得と思ったんだけど、おそらくソフィアさんの説教をくらうことになるだろう。
俺は心の中で謝罪をして、セシリアの部屋へと向かった。




