覚悟を決めてみた
俺とセシリアの結婚式を知り合い全員が協力してくれることになった。
今後、どのような流れになるのか俺には予想がつかない。
貴族関連のことはセリアさんが黙らせ、ユウガやミカナが周辺国の知り合いに話をつけていくそうだ。
レイヴンは騎士団で警備をしてくれるらしい。
ユウガやミカナの時のようなことを起こさないようにするための対策を検討していくとか。
様々な動きがある中、俺はミネルバの入り口で部下の旅立ちを見送っていた。
「本当に行くんだな」
「もちろんっすよ。覚悟を決めたんすから」
デュークは拳を固く握って自分の覚悟を表している。
イレーネさんと里帰り、何かあったらとフォローのために付いて行こうと思ったんだが。
隊長は人の心配をしてる場合じゃないっすと断られてしまった。
確かにその通りなんだが。
「その……大丈夫なのか」
「大丈夫かどうかなんて行ってみないとわからないっすよ。まあ、どうにかするっす。悪い結果になんてならないっすよ」
余裕そうに手を振るデューク。
俺の一番の相談相手と言っても過言ではない。
いなくなられては困るので必ず帰って来いと言いたいが変に圧をかけるのもなぁ。
デュークなら丸く収められると俺は考えている。
何もなければだけどな。
そう、不安なのはデュークじゃないんだ。
俺はデュークの格好に注目する。
いつもの兜と鎧に……マントを羽織っているんだ。
腰あたりに留め具があって風で靡かないようにしてある。
さらに腰のベルトと膝の金具にも目を向ける。
よく見ないと違和感に気づかないが……。
「本当にそれで行くのか?」
「……途中からは自分で歩くらしいっす。そうっすよね、イレーネ」
「はい、デュークさん!」
マントの中からイレーネさんの声が聞こえた。
俺の描いた絵のせいで……デューク、すまん。
声に出して謝りたいところだが、言葉に出して良いものか。
俺は頑張れよと言うしかできなかった。
頼れるデュークがミネルバを去ってしまい、俺はある問題に直面していた。
そう、黒雷の魔剣士はヨウキだという正体ばらしをどうやるかについてだ。
結婚式でばらすというのもあるが……それってどうなんだ。
仮面を被ったまま式に参加して最後に正体ばらすのか。
最初から俺、ヨウキと結婚するんだと思わせたい。
そのためには黒雷の魔剣士がヨウキだと世間に知らせなければならない。
「よし、動こう!」
全てはセシリアとの幸せな結婚式のために。
俺は作戦を考えるために帰宅した。
「何でお前がいるんだ、ガイ」
「訪ねて来ただけで文句を言うな」
家に帰ったら見知った全身を装備品で隠している男がいた。
俺もガイの変装に関わったからな。
周りの目もあるのでさっさと家に入れた。
「俺は今から一人作戦会議をしようとしていたんだが」
「先日、開かれた盛大なパーティーの主役の台詞とは思えんな」
「ぼっちじゃねぇから」
みんな忙しいんだよ。
呆れたような声で言わんでくれ。
「ふむ、我輩も相談……というか苦情になるのか? 小僧に言いたいことがあってな」
ガイの用事は俺への苦情だという。
何かしたっけか、記憶にないぞ。
ガイに何かしたとなるとガイよりもティールちゃんが飛んでくるだろうし。
ダメだ、わからん。
心当たりがないと首を傾げていたら、ガイが説明を始めた。
「ギルドで何度か我輩と依頼を受けているだろう。そのせいか我輩が小僧と接点があると思われているようでな。正体を知っているんではないかと聞いてくる輩が後を絶たないのだ」
「そこに飛び火してるのか」
やはり、黒雷の魔剣士の正体を知ろうと動いているやつはまだいるのか。
もう少しで明かすから大人しく待っていてほしいんだがな。
「ここ最近で急に増えてな。何か心当たりは……あるだろう」
「あー……それはあれだよなぁ」
黒雷の魔剣士こと俺とセシリアの結婚式のために水面下でセリアさんたちが動いている。
どう頑張ったって動いていることは周りにばれるわけで。
セシリアと結婚間近な黒雷の魔剣士とは誰か、改めて調査がされ始めたか。
「そこそこガイと出歩いているしな」
「うむ。我輩も知らぬ存ぜぬを貫き通しているがこうも多いとな。我輩も正体がばれたら困る身だ。調べることを職にしている輩に周りをうろちょろされるのはあまり好ましくないのだ」
ガイの言い分は正しい。
このままだと周りに迷惑がかかってしまう。
何かが起きてからでは遅いんだ。
「よっしゃ、正体ばらすぞ!」
高らかに宣言したのだが、ガイから待てと言われた。
ここでテンションに任せて飛び出しては良くないことになるので大人しく意見を聞くことにする。
「いや、そんな急に決意するものではないだろう。もっと段階を踏むとかあっても良いのではないか?」
段階なんてもう充分、踏んだはず。
「もう俺がセシリアと結婚するんだと周知しても良い頃合いじゃないか」
「それは肯定も否定もできんな。我輩はガーゴイルだ。人の恋路の結末がどうだとかは聞かれてもな」
「おい、さっきまで段階がどうだとか言ってただろ」
何で急にガーゴイルだからとか言って逃げるんだよ。
「う、うむ……我輩に恋愛がどうとか言う資格はあるのかと思ってな。余程、妙な行動に出るなら止めるくらいはしようかと」
「行動が消極的すぎるだろ」
これは何か案を出して失敗したら嫌だから守りに入ったな。
ほっといたらそれはそれでどうして止めなかったと言われる。
だから、とりあえず俺の行動を抑制しようとしているんだ。
「安心しろ、ガイ。俺が何かやってもガイに迷惑はかけない」
「何故、我輩が訪ねてきたのか。理由を忘れてないか、小僧」
苦情を言いに来たんだったな。
ダメだ、現在進行形で迷惑かけてるわ。
「これ以上の迷惑をかけないから協力してくれ」
「……わかった」
「よし、じゃあどんな風に黒雷の魔剣士の正体を明かしたら良いか。二人で考えよう」
「おい、それは我輩と二人で考えて結論を出して良いものなのか!?」
一緒になる僧侶の娘と相談して決めろと言われてしまった。
確かにセシリアに相談しないとダメだよなぁ。
黒雷の魔剣士はヨウキでしたー、なんて。
勝手に発表したら混乱間違いなし。
セシリアから呼び出し確定。
いや、関係者全員からフルボッコだな。
「でも、セシリアも最近忙しいみたいで家に来てないんだよなぁ」
セシリアも結婚式のために動いている。
元々の仕事もあるので多忙なのだ。
そのため、俺は寂しい想いをしている。
これも結婚までの辛抱だ。
「俺にやれることって結局、黒雷の魔剣士関連のことだけだと思うんだ」
「小僧にもできないことがあるのか」
「そりゃあ、そうだろ」
俺は戦いとかなら負けなし……だけどさ。
周りへの根回しとか裏で動く系のことはできない。
違う分野の裏方仕事ならできるけど、今は必要ないし。
迷惑をかけるかもしれないが、動けるなら動きたい。
周りに助けられてばかりじゃ……な。
「正体をばらすまで行かなくても黒雷の魔剣士を少しでも一般的な者に近づけないだろうか」
「一般的とはどういうことだ」
黒雷の魔剣士の格好は周りと比べて目立ち過ぎている。
それを売りにしてきた……というか俺の趣味なんだけど。
「黒雷の魔剣士がヨウキだとすぐに結びつくのは良くないと思う」
「うむ……確かに突然、正体がわかるというとのは衝撃的かもしれないな。となると、噂でも流して正体を匂わすのか」
あの人かもしれないと予想ができていたら、反応も変わるだろう。
ただ、そのやり方はしたくない。
「ここで急に噂を流しても効果はそこまで望めないんじゃないかって」
「では、どうするのだ?」
「……俺に良い考えがある」
まったりした変化で周囲に溶け込めれば良いんだろ。
それでいて正体を明かさない。
セシリアに迷惑をかけないようにする。
黒雷の魔剣士という存在を身近な者に感じられるようになれば。
早速、行動していきますか。
「何かできることがあるなら、協力するぞ」
「ならこれからしばらく毎日、一緒にギルドで依頼を受けてくれないか」
「毎日か……意味があることなんだな」
「ああ、頼むよ」
「ならば協力してやろう。ここで協力しておけばティールも結婚式で我輩のためにと危ない役回りをすることはなくなるだろう」
この前のパーティーでティールちゃんが言っていたことが気になっていたらしい。
ガイの役目はティールちゃんと平和に過ごすことだからな。
「それじゃあ、今日から頼むわ」
「うむ」
ガイの協力を得て作戦は開始された。
作戦は順調に進んでいたはずだ。
俺の変化を周りが突っ込んでくることもなかったし。
十日程経った頃、依頼を受けようとギルドに行きクレイマンの受付へ。
「……おい」
「どうした、クレイマン」
「お前……何かあったのか?」
「ふっ、俺はいつも通り依頼を受けに来ただけだか」
「いつも通りじゃねーだろうが。何でここ数日の間で少しずつ装備を一般向けの物に変えていってんだよ」
おい、俺の作戦を大声でばらすんじゃない。




