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パーティーを終えてみた

ユウガも俺たち同様、パーティーのことを知らされていなかった模様。

理由はお察しということだが、準備に不参加なためか申し訳なさそう。



「ははっ、未だに聖剣の力は戻らないし、友人と仲間のためのパーティーの準備は不参加だし。僕って何なんだっけ。わからなくなっちゃったよ」



この勇者ときたらやさぐれ出したぞ。

まあ、言い分を聞くとわからなくもないがな。

聖剣の力を発揮できないユウガか。



「安心しろ。お前にはミカナがいるだろう。何があってもミカナは見捨てたりはしないさ。最悪、勇者としての職を失ってもミカナが食わしてくれるから安心しろ」



「全く安心できる要素がないよ!」



「勇者様、ミカナの優しさに甘えすぎないようにしましょうね」



「セシリアまで!?」



驚いている顔をしているけどさ。

そう言われても仕方ないような行動をしてきているからな。



その現実を突きつけるのはさすがに気が引ける。

悪気は無いからな、悪気は。

ただ、行動が勇者なだけなんだよ。



「まあまあ、元気出せって。聖剣はいざという時には力を発揮するだろうからさ。それともあれか。聖剣の力が無いとミカナを守れないとか言う口か」



「そんなわけないよ。僕は何があってもミカナを守るさ」



「なら、それくらいでしょげんなって。パーティーの準備のこともユウガがミカナのための勉強で大変だから口止めしていたんだろうし」



それ以外も理由があるんだろうけど全てを伝える必要はない。

除け者にされていたわけではなく、ユウガにはやれることがあると理解させて安心してもらうことが重要なんだ。



何で俺、自分が主役のパーティーで友人を慰めているんだろうな。

勇者、しっかりしろくらい言った方が良かったか。



「勇者様、ミカナはこれから初めての出産を迎えるんですよ。勇者様が支えていかなくてはならないのですから、多少のことでへこたれず自分を強く保ってください」



何か言おうか迷っていたら、セシリアがユウガに言ってしまった。

うん、まさにその通りだ。



俺のしっかりしろなんていう抽象的な言い分よりも具体的でわかりやすい。

これならユウガも……。



「……うん、そうだねやれることをやる。できないことは今から覚えていく。そうしてミカナを支えていくんだ。自分よがりにならないように相談しながらね」



「そうだな、ミカナに相談は必要だな」



「そうですね。勇者様は何か行動する前に一度、誰かに報告すべきですね」



「セシリア、僕の扱い方がヨウキくんに似てきてない?」



ユウガの言葉に確かにと思う。

俺の言動がセシリアに悪影響を与えていると。

いや、こういう扱いをしているのは主にユウガだからな。



ユウガとのやり取りが駄目だった。

そもそもユウガがしっかりしていればこんな扱いをしていない。

成る程、つまりだ。



「それはユウガが原因だな」



「何で僕が原因なのさ」



「俺の辛辣な言葉はユウガに使っていることが多い。それをセシリアが見て覚えてしまったというのならば……ユウガ、自分に罪があると思わないか」



「そんな暴論ある!?」



いくら何でも認められないよ、と騒ぐユウガ。

先程までの暗い雰囲気は無くなったようだ。



俺はさりげなくセシリアに目配せすると、軽く微笑みウインクしてきた。

作戦成功……と。

全く、世話のかかる勇者様だな。



事前の打ち合わせもなく、咄嗟の思いつきの流れで連携が取れる程、俺とセシリアの繋がりは深くなったと。

ユウガのおかげで再確認できたな。



今思えばユウガの変な勘違いで問題に発展するけども、気付かされることや成長に繋がることが多い。



俺とセシリアがここまで来れたことにユウガが深く関係していると間違いなく言える。

根は良いやつなんだよな、ユウガってさ。



「本当にありがとうな……」



「何で急に湿っぽい感じでお礼言ってくるのさ」



「勇者様のおかげで助かっていることもあるんです。これまでを振り返ってヨウキさんは改めてお礼を言ったのかと」



「何でセシリアはわかるの……」



ユウガは訳がわからないと。

セシリアと同レベルでユウガが俺と連携取れたらそれはそれでちょっと……という話になる。



「ユウガ、二人にちゃんと挨拶したの」



ここでミカナが俺たちと合流。

ほら、ユウガにとって一番理解のある相手が来たぞ。

さあ見せてくれよ、ミカナとどれだけ心が通っているか。



「あっ、ミカナ。二人には挨拶したよ。僕が今回のパーティーの準備に関わっていないこともね」



「そうなの。……内緒にしていて悪かったわ。ユウガは今、色々と大変だからこれ以上の重荷を背負わせたくなくてね」



そう言いつつセシリアをチラ見するのは、きっとそういうことなんだろう。

大丈夫、俺もセシリアもわかってるから。



「そうだったんだ。ミカナは僕のことを思って……」



「まあ、そういうこと」



「いつも助けられてばかりだよね、僕。今、ミカナのためにできることはないかな」



「それを当人に聞いちゃうのね」



ミカナが少し拗ねたように口をとんがらせる。

それくらい自分で考えるか、普段の行動から気づけと言いたいんだろう。

しかし、ユウガも夫として進化しているらしい。



「うーん、ミカナが気合いを入れてる時や優しくしてほしい時はわかるんだけどなぁ」



「は?」



「ほら、出かける前にお気に入りの眼鏡があるでしょ。変装用といってもいくつかおしゃれでかけてる物もあるよね。他にも前髪をいじっているのよく見かけるけど、あれは新しい服を買って髪型と合っているか確認してて。嫌なことがあったら、窓際に座って外を見ていたり」



ユウガってミカナの細かいところを結構見ているんだな。

セシリアも意外そうな表情をしている。



どうしてそこまで見ているのに問題起こすのかがわからない。

俺もセシリアも同じこと思っているんだろうな。



「やりすぎない程度に僕ができることを頑張ってるつもりだよ。一人よがりにならない程度にね」



「ふ、ふん。当然じゃない。父親になるんだからそれくらいの目標は立ててもらわないとね」



恥ずかしさを誤魔化すために強がっているのが目に見えてわかるぞ。

こういう感じの夫婦関係を見せてくるなら良いんだよ。



「うん、そうだね。他にも一緒に寝る時、頭を撫でられると寝やすいとか、抱きしめる時は肩に手を置いた方が力を抜いてくれるとか……」



「そういうことは言うんじゃないわよ!」



「へぶっ!?」



調子に乗りすぎたな。

口元を押さえる勢いのついた平手がユウガの口を完全に塞いだ。



ミカナはもがもがと何か言いたげなユウガを必死に止め、早く行けと目で訴えかけてくる。

ここは指示に従っておこう。

俺たちはそっと二人から離れた。



「ユウガはやっぱり勇者だな」



「その言葉に私はどういう反応をすれば良いのでしょうか」



「肯定すれば良いんじゃない」



「そうですね……」



仲良くしているのがわかったし良いかな。

あと会ってないのは誰だろう。

周りを見渡して知人の姿を探すとシークとフィオーラちゃん、クインくんを発見。



早速、挨拶を……と思ったんだけど。

何がもめてるように見えるな。



「シークくん。師匠の弟子として僕は君を許せません」



「クイン、怒ってるの」



「フィオーラは知らないのかい。シークくんはティールさんとフィオーラだけでも手一杯だというのにね。さらに女の子友達を作って追いかけ回されてるらしいんだ。もう逃げ回ることはせずに予定を立てるか一人に絞るか決めないと」



「シークくんどうするの。決めないとクインは止まらないの」



「ううー」



俺の描いた絵が真実になったらしい。

シークは最近、新しいガールフレンドを作り追われていると。

三人に増えたか、さすがシークだな。



「やはり二人では止まらないのがシークだったな」



「ヨウキさんの描いた絵が現実に……ということは」



「いやいや、偶然でしょ」



というか新しく増えたガールフレンドって誰だよ。

直接聞いてみるか。



「おーい、シーク」



「あっ、ヨウキさんとセシリアさん。ご結婚おめでとうございます」



「おめでとうなの」



「いや、まだしていないんだけど祝福ありがとう。実は話が聞こえてきたんだけどシークの新しい女の子の友達ってどんな子?」



「劇団の女の子みたいです」



ウェルディさんか。

まだ繋がりがあったんだな。

デュークとシークと三人で行ったけど、それっきりじゃなかったのかよ。



「シーク、どういうことだ」



「遊んでいたら偶々街で会ってねー。歳の近い僕の動きを参考にしたいって話になってこうなったんだー」



偶然の再会で仲良くなったと。

ウェルディさんもやる気を出し始めて、同年代の動けるシークを見て改めて思うことがあったのかもしれないな。



「僕はシークくんに罪深い男になってほしくないんです。愛を均等に配るのは難しいんですよ」



「クイン、言ってることがよくわからないの」



「わかんなーい」



「くっ、まだ僕の経験値が足りないようです。すみません、師匠……」



何だこのやり取り。

クインくんだけ何歩か大人になり過ぎた。

フィオーラちゃんとシークが追いつけていない。



「頑張れ……」



ふわっとした応援をするくらいしか俺にはできなかった。



「この辺で今日一番の催しが始まるっすよー」



デュークの声が会場内に響く。

何だどうしたデューク 。

声のした方向を向くとイレーネさんの腕をがっしり離さないデュークの姿があった。



先程、飲み物ひっくり返しがあったからか近くに置くことにしたようだ。

その判断は正しいぞ、デューク 。



そわそわしているところが気になるけど、あれなら何にも起こらないだろうな。



「ハピネスとレイヴンによる新曲が披露されるっす。できれば静かにして聞いて欲しいっすよー」



「なんだと……」



ハピネスはわかるけどレイヴンもって本当かよ。

二人で歌うってことなのか。



「レイヴンが歌うのか」



「私も驚いてます。ハピネスちゃんと一緒とはいえレイヴンさんは……」



自分の声にコンプレックスを持っていたレイヴンが歌を披露なんて。

あの筆談で周りと相談していたレイヴンが……。



「泣きそうだ……」



「母目線は止めませんか」



「何か感極まっちゃって」



「今日、一番で感動しているように見えるのですが」



全員、色々な言葉をくれてるからその度に感動はしているけどね。

セシリアと会話している内に準備が整ったらしい。



ステージに衣装を着たハピネスとレイヴンが現れた。

ハピネスは薄い水色のドレスっぽい衣装でレイヴンは黒を基調とした衣装……あれ?



「レイヴンの衣装が黒雷の魔剣士の装備に似ているような気がする」



「ハピネスちゃんの衣装も私が着ているドレスに似ているんですけど」



これはどういうことだ。

二人で首を傾げていると歌の紹介が始まった。



「……今回、俺とハピネスで歌う曲はある知り合いから提供されたものだ。ヨウキとセシリアの結婚式を出来る限り最高の式にできるように……二人のために歌う」



「……奮闘」



そういう前置きから始まった曲名は、波際で二人休み、というもの。

一緒になる前に思い出を作ろう、誰もいない無人島、人魚の歌と贈り物を胸に……っておい!



「これ完全にこの前の旅行の……」



「今は静かに聴きましょう」



セシリアによってツッコミが封印された。

俺が魔族だということをほのめかす歌詞はなく、結婚前のカップルが二人だけで夜の無人島を楽しむという感じの歌だった。



……絶対これミサキちゃんからシケちゃんに情報が行ってるだろ。

歌の内容はそれとしてだ。



ハピネスとレイヴンのデュエットは大成功と言って良いぐらいの完成度。

女性ユニットって言われても顔を見なかったら通用しそうだ。



かなり練習したんだろうな、二人の声のバランスも考えて歌っているし。

二人が歌い終えると拍手喝采、もちろん俺とセシリアもした。



二人は頭を下げてステージから降り、俺たちのところへ来た。



「……どうだった、かな」



「どうだったかって。この拍手でわかるだろ。良かったよ」



「……そうか。俺はハピネスの横に立てる男になれていたかな」



ここまでやってまだ心配しているのか。



「レイヴンさん。ハピネスちゃんは歌っている時、とても安心した顔をしていましたよ。隣にいたレイヴンさんの存在がかなり大きかったのではないでしょうか」



「そうそう。普段、感情を表に出さないハピネスがそれはもう良い顔をしていたからな。部下の成長を感じることができて俺は感動したよ」



「……挑発?」



「してねーよ。本気で思ったから言ったんだ」



いつものふざけたノリじゃなくて真面目な話だよ。

ハピネスが言い出しっぺということにも驚いたのにさ。

今日は驚かされっぱなしだよ。



「……ヨウキ、これから大変だろうが俺も微力ながら協力するからな。何でも言ってくれ」



「いや、何でもは言い過ぎじゃあないか」



「……それくらいの覚悟を持ってやるということだ。セシリアも何かあれば相談に来てくれ」



「わかりました、レイヴンさん。協力に感謝します」



「……二人とも」



レイヴンの決意を聞いたところでハピネスが俺とセシリアの服を軽く引っ張った。



「どうした、ハピネス」



「どうかしましたか、ハピネスちゃん」



「……記念」



ハピネスが渡してきたのは小箱だった。

よく見たら蓋の部分にミサキちゃんから貰ったブルーパールが付いてる。



セシリアがセリアさんに渡していたのかな。

蓋を開けると中に入っていたのは金属でできたプレートだ。

文字が彫ってあるな、えっと……。



「これ、さっきの歌の歌詞じゃねーか!」



「ヨウキさん、私が持っているプレートには夜空で愛を誓うの歌詞が書かれていますよ」



「ええっ!?」



金属のプレートとか本当に残るもんじゃん。

これが記念なのか。



「……ハピネスの予定だと増えていく予定らしいぞ」



「……量産」



「ははは……」



もう渇いた笑みしか浮かべられないよ。

しかし、セシリアは気に入ったのか箱を抱きしめて笑みをこぼしている。

そんなにこの贈り物が気に入ったのか。



「ヨウキさん。この箱にどんどん思い出を増やしていきましょうね」



「そんな言い方ずるいって。……いいよとしか返せないから」



セシリアに完全敗北。

一方、レイヴンとハピネスは今回のパーティーが上手くいったと手を合わせていた。



「……贈り物は成功だな、ハピネス」



「……安心」



本当に大成功だよ、全く。



「思い出って言うなら今日も良い一日になったけどな」



この俺の一言を聞き逃さなかったハピネス。

目が光った気がしたのは気のせいではない。



「……報告」



「待て、誰に報告する気だ。シケちゃんか、シケちゃんだろ」



「これは早くもこの箱にプレートが増えそうですね」



「セシリア、さすがに早すぎるって!」



「……楽しそうだな、ハピネス」



「レイヴン、お前もそっち側か!」



「……第三弾、決定」



「決まっちゃったよぉぉぉぉ」



周りに俺たちの会話が聞こえて全て聞こえていたわけではない。

それでも俺が頭を抱えて叫び声を出した時点で……全員が笑っていた。

結局、こんなオチなのか……いや、そうはさせるか。



「これから俺の家で二次会だぁぁぁぁぁ!」



そんなこんなで俺の家に移動。

近所迷惑にならない程度に騒いでいると、シークのやつが俺の描いた絵を持ってきやがった。



これが良い反応が多かった。

レイヴンはハピネスに誘惑されてしどろもどろになっていたな。



俺の描いた絵を目指すかどうか聞かれていたっぽい。

返答に困り、俺に助けを求める視線が向けられたが、敢えてスルーした。

そこは自分の意見を言おう。



セリアさんやソフィアさんはまだまだ頑張れるかもしれないと言っていた。



どうする気なんだろうか、聞かないでおこう。

クレイマンはめちゃくちゃ気にしているみたいだったけどな。



ティールちゃんは守り神様は何処かと聞いてきたので、擬態させて絵の中に入り込んでいると伝えておいた。

何処かにはいるんだ、探してみてくれ。



ユウガはこれが僕の新たなる力なんだ……と謎の発言をしていた。

ミカナが後で聖剣に語りかける必要がありそうね、と呟いていたな。



多分だけど、絶対にここまではやるなと言うんだろう。

シークはクインくんと話し合いだ。

フィオーラちゃんも付き添いで。

この絵を見て唯一、文句を言ってきたのは……。



「隊長、これはやばいっすよ!」



「何でだよ。デュークはあまり変わってないだろうが」

 


「こんな抱きつき方のヒントになる絵を見せられたら……」



俺とデュークはセシリアと話しているイレーネさんを見る。

目を輝かせて熱弁していた内容は。



「すごいです。これなら周りにばれずにデュークさんに抱きついていられます」



「あの、イレーネさん。横から見たら普通にばれてしまいますよ」



「はっ、そうでした。でもでも、マントを羽織ればいけると思うんです。今度試してみます」



「た、試すんですね……頑張って、ください」



セシリアが申し訳なさそうにデュークを見てきた。

説得に失敗したからかな。

今度試すのか、そっかー……。



「まあ、一回くらいならさ」



「良くないっすよぉぉぉぉぉ!」



「だろうな」



一番、手を加えなかったデュークがちょっとだけ不憫な目にあったとさ。

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