さらにパーティーを楽しんでみた
「色々な人たちが俺たちを支えてくれるみたいで頼りになるっていう言葉では表しきれないくらいの事態になっているような」
クレイマン、ソフィアさん夫妻と別れた俺たちは壁際に来て一旦休憩中。
会場を見回して思うことがあったので、セシリアはどう思っているのか質問してみた。
「確かに……ヨウキさんと一緒に頑張らねばならないと思っていました。もちろん、周りに協力をお願いすることも考えていましたよ。ですが、これは……」
セシリアが言い淀むのもわかる。
多方面に影響力がある面子が揃っていてみんな協力的だからな。
ここまで大々的にパーティーまで開くとか。
どうしてそこまでしてくれるんだ……。
「ふむ、ここにいたか」
「その声はガイか」
近づいてきたのはいつもの冒険者姿のガイだ。
正装は無理だよな、着てきたら正体がばれるし。
目立たないように壁際にいたのか。
しかし、一人なのは妙だな。
「ティールちゃんはどうしたんだ。永遠に離れないと誓った仲だろうに」
「そんな誓いはしていない。というかそういうことを言うな。何処でティールが聞いているのかわからんのだぞ」
冗談を言っただけで焦るなよ。
いや、ティールちゃんなら俺の案を採用してしまうかもしれない。
近くにいないかと二人で見回してティールちゃんの姿を探す。
そんな俺たちを見てセシリアはというと。
「こういう場でも相変わらずのやり取りをするんですね……」
ちょっと呆れていたのだった。
それで結局、ティールちゃんは何処にいるんだろう。
「まさか、ティールちゃんと喧嘩をしたとか」
「していないぞ。遠出する依頼があってティールと一悶着あったが」
「その話詳しく頼む」
めちゃくちゃ気になる話題じゃねぇか。
ガイにべったりなティールちゃんがどういう説得をされて遠出することに納得したのだろう。
俺の中のティールちゃんは光の溜まっていない目でガイを問い詰めているんだがな。
「屋敷で仕事をしている時は特に変化はなかったですよ」
「そうなのか。本当に納得しての結果だったと」
「まあ……そうだ」
思い出したくないことでも思い出してしまったのか。
ガイが目を逸らしてしまった。
何かあったのか掘り下げて良いものか迷うな。
微妙な空気になったまま、沈黙の時間が続く。
この状況を打開したのは……。
「守り神様、やっと見つけました」
ティールちゃんだった。
藍色のドレスを着て笑顔でガイの腕に寄りかかっている。
ここで来ちゃったか、タイミング良すぎだろ。
「一緒に来たのに私が飲み物を取りに行ってる間に離れるなんて酷いです。……いえ、守り神様はこの会場の食事や飲み物が口に合わないのでした。私の落ち度ですね、ごめんなさい。守り神様は悪くありません。私が気を利かせることができなかったのが悪いんです。飲み物は帰って飲めば良かったのですから。守り神様の側を離れるなんて、私はなんていうことをしてしまったのでしょう。ああ、せっかくのパーティーで初めてドレスを着たんです。私のような村娘が着飾れる機会なんて数少ないのだから、少しでも長く守り神様の隣にいたかったのに……」
「お、落ち着けティール。我輩はこの格好だから目立たないように壁際にいようと考えた。何も言わずにいなくなった我輩が良くなかったのであって」
「とんでもありません。守り神様に落ち度は全くないです。私が、私がいけないのです。守り神様、私に喉が渇かなくなる魔法を掛けて下さい!」
「そんな魔法はない!」
何やってんだろう、この二人。
ティールちゃんはいつも通り、ガイ一筋というか何というか……重いね。
「今日のティールちゃんは気合が入っていますね」
「格好もガイへの愛もな」
「ガイさんは大変そうですが……」
「大丈夫、大丈夫。ガイも満更でもない顔をしているって」
「顔が見えていないのに良くわかりますね」
「それはガイがロリ……」
「おい!」
ティールちゃんと二人でイチャイチャしていたと思っていたのに、そこは反応するのな。
しかし、俺のこの軽率な発言に反応したのはガイだけではなかったようで。
「せっかく……せっかく守り神様と話していたのに。私から守り神様を奪おうとするなんて……」
ティールちゃんの声に怒気がこもっているのがわかる。
藍色のドレスが毒々しい色に見えてきたぞ。
このままでは不味いぞ、どうにかしないと。
焦った俺はセシリアの肩を抱き寄せた。
セシリアとの仲を見せれば大丈夫だろう。
普通にアピールすれば良かったのに。
焦りや会場のムードもあったのか、かっこ良さげなことを言おうとして。
「悪いなティールちゃん。俺にはセシリアがいるんだ。ガイを奪ったりはしないさ。俺は二人の腕を取るなんて器用な真似はできないからな」
めちゃくちゃ似合わないこと言ったぁぁぁぁぁ。
セシリアがどんな顔しているか、怖くて見れない。
いつもの厨二じゃないぞ、これはなんか間違ってるやつだ。
これで回避できるわけないと思っていたのに。
「う、羨ましい……」
どうにかなったらしい。
ガイからこういうことを言われてみたいと。
まあ、ガイから積極的に絡むことがないんだろう。
そのせいで羨ましがってしまったんだな。
「ガイ、ティールちゃんを満足させてあげような」
「優しく語りかけてくるな。全く、今日の主役は我輩たちではないだろう。そう周りを気にせずに祝福を受けてきてはどうだ。残念だが、我輩では結婚式とやらの協力はあまりできんからな」
立場的に自分ができることはないと。
俺としてはこのパーティーに顔を出してくれただけでも充分、嬉しいんだけどな。
気持ちだけでも受け取っておこう……。
「ガイ、俺はな」
「守り神様も私と協力しますよ!」
俺の声はティールちゃんの声に遮られた。
二人で協力ってなんだ。
「おい、ティール。我輩は何も聞いてないぞ。いくらティールの頼みとはいえ、目立つこの身でできることは」
「ありますよ、守り神様。良いですか、私と守り神様は悪いことをしようとした人のお話係です」
「お話係だと?」
「はい。私の、シークくんとハピネス先輩に教えてもらった薬草知識と魔法、守り神様の特殊な魔法があればですね」
「あれば……どうなるんだ」
「どんなに口が堅い人からでも情報を聞き出せます」
やっぱり怖いよティールちゃん。
これにはセシリアも額を押さえている。
もうこれはツッコミ放棄だよな。
ガイも唖然としているし……うん。
俺がどうこう言うよりも効果的なのはあれだな。
俺はガイの肩に優しく手を置き、小声で一言。
「ガイの役目はティールちゃんと平和に過ごすこと、以上」
「……心得た」
幸せそうなティールちゃんとしゃがみ込んで頭を抱えているガイと別れる。
ガイ、頼んだからな。
「二人は変わりませんね」
「あの二人はあのままだろうね」
「そうですね。それで先程の急に抱き寄せてきた件ですが」
「あっ……」
もしかして嫌だったとか。
「その場をしのぐためが理由で抱き寄せたわけではないですよね」
「それは当然!」
ちょっとくっつきたいというやましい気持ちもありました。
あれ、これって余計に質が悪いのではないか。
言ってしまって良いものか迷う。
いや、その場しのぎのためだけに抱き寄せたと思われる方が良くないって。
「セシリア、俺は」
「やあ、ヨウキくん」
「悪い、今じゃないんだ」
勇者登場キャンセルで頼む。
何で今挨拶に来たんだ、ユウガよ。
青と白が基調のスーツが似合いすぎてる。
隣に並んだら俺という存在が霞んでしまいそうだ。
何よりもセシリアからの誤解を解こうとしていたところで現れるなよ。
「僕の扱い酷くない!?」
ユウガが何か喚いている。
頼むからほんのちょっとだけで良いから出直して来てくれるかって言ったら怒るかな。
「勇者様。申し訳ありませんが、少しだけ挨拶を遅らせてもらえると」
「セシリアまで……」
こんなパーティーを計画して開いてくれたのは感謝してる。
だけど、本当に良くないタイミングの登場だったからさ。
悪いけども……このまま続けさせてもらうぞ。
「セシリア、俺は確かにあの場でどうしようかって考えてとっさに抱き寄せたっていう部分はある」
「やはりそうでしたか」
「えっ、僕を挟んで何の話?」
ユウガ、少しだけ待っていてくれ。
俺はセシリアに伝えないといけないことがある。
「いつものノリで話してさ。こういう場に合った行動しないといけないのに」
「いえ、ここは特に私たちに関係の深い方々が集まったパーティーですから。変に畏まる必要はないかと」
「それでももっと気を遣うべきだった、ごめん」
「ヨウキさん。私はヨウキさんに謝って欲しくてさっきの質問をしたわけではないのですよ」
さっきの質問、その場しのぎのためだけに抱き寄せたか。
そんなことはない。
「俺はこういう場だからこそ、少しくっつきたいなっていうやましい気持ちもあったよ。こんなこと言っていいのかわかんないけど」
「良いと思いますよ。言葉にしないとわからないものもあると言います。まあ、今回のことは言葉にしなくてもわかることでしたね」
どうやら俺はからかわれたようだ。
少しだけ口元を緩ませて笑っている。
このままやられっぱなしで終われないぞ。
良し、ぎりぎり嫌われない程度のアプローチをだな……。
「いやいやいや、もうそろそろ僕の話を聞いてよ!」
ユウガの我慢が限界を迎えた。
うん、これは仕方ないな。
挨拶に来たらシリアス展開かと思いきや二人の世界に入りかけるという。
ユウガが陥った状況はこんな感じか。
「僕だって二人を祝いたいんだよ。ヨウキくん、セシリア、おめでとう」
姿勢を正して俺とセシリアを真っ直ぐ見つめて祝福してきた。
誠意の伝わる挨拶、こちらも応えなければならないな。
「ありがとうな、ユウガ」
「勇者様、ありがとうございます」
「二人にはかなりお世話になったし、これからもなるだろうからね。祝福するのは当然だよ」
その言い方だとこれからも世話になる予定なのか。
些細なことでツッコミを入れるのは止めておこう。
「僕は二人のために協力を惜しまないから、何かあったらどんどん言ってね」
「あ、ああ。わかったよ」
気のせいか、ユウガがぐいぐい来るな。
直線的で行動力があるのはいつものことだが、どうにも様子がおかしいような。
「勇者様、もしかして何かあったんですか」
セシリアも違和感に気づいたらしい。
俺よりも付き合いが長いセシリアの目は誤魔化せなかったらしいな。
「気づかれちゃったか……二人には申し訳なくてさ。こんなこと言えなくて」
「何があったんだよ」
聖剣、ミカナ関係のことではないな。
俺かセシリア、または両方に関係することだろう。
申し訳なさそうな表情をしているので、何かやらかしたのか。
ユウガは重い口をようやく開けた。
「僕、このパーティーのこと今日知ったんだよね」
だから、準備に全く関わっていないんだと続けて話してきた。
俺もセシリアも何となく察してしまったよ。
今までのことを考えたら英断だったと俺は思う。
ただ、ユウガの寂しそうな表情がどうにも見ていられなかったので。
「ありがとうな、ユウガ」
「ありがとうございます、勇者様」
セシリアと一緒に二回目のお礼を言ったのであった。




